産業医の参加者と意見交換

参加者1:(産業医の参加者2に対して)産業医の先生ということで、せっかくなので、もしよろしかったら、たぶんいろんな企業さんに携わられていらっしゃって、「こういった取り組みはいいな」「参考になるな」というところがあればおうかがいしたいと思います。すいません。まさか質問を受けるとは思っていなかったかもしれませんが。

参加者2:あまり明確な取り組みをされている企業は意外と少ないですよね。

参加者1:あ、そうなんですね。

参加者2:だから今日のお話はおもしろいなと思いまして。要は、新しいことや、おもしろいことをどんどん取り入れていけるような風習がある企業さんは本当におもしろいなと思って聞いていたんですが。

しかし、産業医をやっていて明確にわかるのは、トップ、決裁権を持った人間がどういう考え方を持っているかでまったく変わってくるんですよ。

とあるA社で、A社の事業所がたくさんあるなかで、ここのトップとここのトップは真逆の考え方をしていました。すごく一生懸命健康に取り組む、労災防止にも取り組んでいるところは、1年ぐらい労災も0です。労災が多い業者なんですが、すごいなと思います。

しかし、もう一方のところは、まったく真逆で、まったく健康管理や衛生管理に興味がない。もうむしろやりたくないという人で、そこは毎月2件ぐらい労災がありますよね。

ですから、産業医として入るときは、基本的には決裁権がある方、事業所長の方や代表取締役の方などに、できるかぎり委員会などに参加してもらうように促していることはあります。そのほうが絶対に早いですよね。

しっかり委員会の中で予算組みを話し合って、こういうことをやって、ここのタイミングでフィードバックして、ダメだったらもっと安いプランにしましょうというような、そういったことをやっていますね。

経営者を説得するためにできること

参加者1:委員会への参加を促すというお話がありましたが、なにか産業医の立場からアドバイスとや助言をしたときに、どういったカウンターパートの人だと進めやすい、あるいはこういう会社の人だと進めやすいといったものはあるのでしょうか?

参加者2:でも、やはり興味関心を持たれている会社様のほうが早いですよね。本当におそろしくない会社様もいるんですが、逆にそういった会社のほうが「どうやって行動変容を起こそうか」ということがひとつのテーマにはなっていますね。

例えば、ちょっと脅してみたりします(笑)。例えば「健康、いや、知りませんよ」と言えばいいんです。

例えば「こうなったらこうなるじゃないですか」「いや、それは本人の自由じゃないですか?」「でも、それは、あなたのこの選択で本人の寿命が半年ほど短くなると知っていたら、同じことをやりますか?」と言ってみる。

そうすると「やりません」「じゃあどうしますか?」と、(会社の経営陣が)言ったりなどします。

あとは、自分たちが考えさせるようにはしています。全部先取りして「どうですか? どうですか?」ではなくて「いや、あなた方はどうしたんですか?」という感じでは、聞いていますね。「こうしたいんです」「では、それにはどうすればいいですか?」と役員会のほうから呼ばれたりします。

参加者1:そうなんですね。さっき女性の方から決裁権を持つ方がなかなかというお話があったと思います。でも一方で、(フルラの村上氏やラクスルの忽那氏の)お二方のようなかたちで、けっこうスッと始められる会社もあるんですね。例えば実際にデータが必要な会社もありますが。

そうしたときに、産業医の方に、そういったデータがピンポイントであるのかどうかはわかりませんが、傾向など、そういったデータのご相談をすると、そういったものもいただけたり、あるいは専門家の観点で意見書をいただけたりもしますから。

利益を可視化すれば予算をしっかり組める

参加者2:実際のところ、意見書というのはみんな出せるんですが、ただ、なかなか産業医もいろんな方がいらっしゃって、そうした明確なデータを持ってきたり、ではこうするとこれぐらいの赤字が出るだろうなど、そこまでやっておられる先生はかなり少ないんです。

たぶん依頼されても、「う~んと、こういうガイドラインにこういうことを書いていたよ」ぐらいの感じで終わってしまうケースが多い。

参加者1:ちなみに、(意見書を)やっておられる先生ですか?

参加者2:私は一応ある企業でメンタルプログラムを1,000人ぐらいで始めるところなんですが。確かに年間を通して、どれぐらい利益が出たかというと、退職率だけではなく、いろんな項目があると思うんですが、そういうことを今すごくやり始めているところですね。

参加者1:はい。ありがとうございました。

司会者:なにかそれを可視化していただいたら。

参加者3:だけど、可視化してやれば結局予算をしっかり組めるじゃないですか。その1回のデータを作っているぐらいですが。

司会者:そんなデータが委員会にあったら。

参加者3:いやいや(笑)。

司会者:ありがとうございます。

経営者の腰を上げさせる方法

司会者:ほかはいかがですかね。いろんな話が出てきましたが。まだご質問されていない方はどうですか?

参加者4:今、飲食業を営んでおりまして、どちらかというと産業医の先生がおっしゃっていた会社に近い状況で、経営者のマインドなどはあまり従業員のほうに目が向かない状態です。長い間いろいろと労働環境の悪い状態が続いていて、やっと脱却できたところで、こうしたセミナーというか、ディスカッションの場を知って参加しました。どうそれを変えていくのかということが聞きたいです。経営者が。

司会者:それは経営者のマインドを変えていくかということですか?

参加者4:そうですね。

司会者:忽那さんのところはたぶん経営者の方がかなりマインドが高いんですよね。前職もそうでした?

忽那幸希氏(以下、忽那):そうです。でも私は前職では、ぜんぜんバックオフィスにいなかったので、そのへんはちょっとわからないのですが。

司会者:なるほど。

忽那:はい。

司会者:産業医の方にちょっとアドバイスをいただいてもよろしいですか。

参加者2:そうした経営者の方にですよね。そういう方にはやっぱりいろんな判例を持っていって「こういうことがありますよというような。要はいろいろとあったと思うんですが。

司会者:悪い事例を出す感じですか? それともいい事例を出す感じですか?

参加者2:両方出しますね。

司会者:両方出す?

参加者2:はい。でも、パッと腰を上げさせるというときに、やっぱりいい事例だけだと、どうしても事例というよりはこういうふうに……。私は、そうですね、そうした腰が上がらない経営者にはけっこうズバッと言いますね。

司会者:その「ズバッと」を教えていただいてもいいですか?

参加者2:そうですか。例えばこうなったときに、こうした民事訴訟になって、そうなったときにあなたが困りますよと。

司会者:最悪なケースを持ち出して説得する。

参加者2:最悪のケースをまず伝えて、そうじゃない場、ではその「今こういう健康管理状況にしてると、10年後に従業員の方は何割ぐらいの確率で亡くなりますよ」など「そうなったときの損失はわかりますよね」と言って。けっこうあるんですよ。

(その項目に)該当されている方は、10年以内に寝たきりになるか亡くなられるかが20パーセントいる。それを5人合わせたら、その5人の中の1人は損失になってしまうじゃないですか。「じゃあなにをするんですか?」と聞いたり、けっこうそういうことはやりますね。

1回動き出せば、プラスのことをどんどん言っていいですし。ただまぁ動き出したら、本当に仕事はかなり難しいですね。

司会者:そうした伝え方。

参加者2:でもそれは、産業医だからこそ伝えられることなんですよね。

司会者:なるほど。確かに。立場的にそうですよね。

参加者2:健康管理は安全配慮義務。経営者の安全配慮義務であり、経営者の義務なので、それを怠っているとこうなりますよなど、もうそこから囲っていく感じが多いですかね。すいません、私は性格悪いやつじゃないですよ(笑)。

司会者:(笑)。

参加者2:悪いやつじゃないですが、実際それぐらいやらないと腰を上げないというのが現状ですね。やる気のある経営者の方はぜんぜん違うんですが。

辞める覚悟で物申す

司会者:村上さんにも聞きたいんですが、今の質問で、上の方が健康経営にまったく意識が向かず腰も上がらないといったときに、どのように説得すればいいのかというところで、今、産業医の方からは良いことも言うけど、最悪なシナリオも言いつつ、腰を上げてもらうということでしたが、村上さん視点でなにかアドバイスがありますか? 難しいですか?

村上儀明氏(以下、村上):すごく究極な話になっちゃいますけどね。

司会者:そういう話が聞きたいです。

村上:そうですね。やっぱり「いや、死んでもいいんだったら、いいんじゃないですか?」というぐらいの話をするというのはもちろんいいんですが。「死んだらあなたの、社長にもちろん責任がいきますが」という話をズケっとするというところ。

それでも、とくにオーナー社長さんだと、もう確固たるポリシーがありますから、言ったところで動かないじゃないですか。

だから、こんなことを言うのはすごくあれなんですが、僕は今まで転職の回数もすごく多いんです。それというのは「いや、ちょっとそれマズいんじゃないですか」という話が通じなければ、もう「こいつとは無理だな」と思って辞めてきたという経緯があります。だから身も蓋もない話なんですが。

でも、そのぐらい「マズいんじゃないですか?」というのは、やっぱり最後として辞める覚悟ぐらいで言ってみる価値はあると思います。そのなかにはやっぱり「そうだな」と言って、それがきっかけでえらく信頼感が増して、言うことを聞いてくれるようになる人もたまにいたりします。

ただ、やっぱり逆のリスクもありますよね。「じゃあ、お前なんかいらないよ」と言われたらそれまでなので、そこは大人の事情もありつつ、どこまで自分の主張を通すかというところは、その方次第の考えなので、無理強いはできませんが。

でも、本当になにか従業員の人がみんなヒィヒィ言っていて、「いや、これ本当に、そのうち死人が出るよ」ということだったら、自分が楯なのでそこは言って、それで切られてもしょうがないところまでやるのかは、その方次第だと思います。

ここに参加してくださる方は、本当に会社のため、従業員のためにと思ってくださる方が本当に多いですから。今日もたぶんそれでいらしてくださっていると思うんですが。いや、なかなか健康経営となると、後回しにされちゃうのが心苦しいですが、もし本当にもう改革を起こすぐらいの感じでやっぱり進んでいくしかありませんね。

酒の力を借りてみる

村上:僕、1回、お酒を飲みにいきましたが。「酒の力に」というように装って「社長、こんなんじゃダメですよ」といった感じで、「ちょっと話があるので飲みに来てください」と言って、その勢いでとりあえず言ってみる。

司会者:「一緒にやりましょう」。

村上:(笑)。

参加者4:そうですね……。

司会者:そういうのもちょっと?

参加者4:飲食業なので、自社でもよくお酒を飲むんですが、なかなか。

司会者:なかなか難しい?

参加者4:将来的には共感はしてくれるものの、先ほどのあの予算という大きな壁がありまして、なかなかアイデアが通らないという点は、いつまでも残ると思います。

司会者:忽那さんがおっしゃっていた、有給を取りやすくするなど、無料のところを手がかりにいろんなものを(やってみる)。部活動など、いろんなことからつなげて、なにか従業員がハッピーさを醸し出しつつ、予算を少しずつというのも、もしかしたら手かもしれませんね。健康経営は難しいですね。

参加者4:そのヒントをいただきに今日は参加しました。

司会者:ありがとうございます。ほかに今ので大丈夫ですかね。ちょっとまだモヤモヤ感はあるかもしれませんが。

参加者4:今の話の延長になってしまうので、もうやめたほうがいいです。

司会者:ありがとうございます。