音楽の好みは生物学的な要因か

ステファン・チン氏:音楽のレッスンを受けたことがなくても、歌や和音がただのの音よりもきれいに聞こえるかもしれません。研究によると、音の振動数が単純な整数比に近い協和音が「オクターブ」(注:音の高さの異なる同名の音階までの音程)や、「完全5度」(注:音楽における音程のひとつ)のような不協和音より心地よく聞こえるそうです。乳幼児やサルでさえ好反応を示します。

しかし、ハーモニーを人間がなぜ好むのか、はっきりとはわかっていません。どれだけ音楽に慣れ親しんできたか、どれだけ音楽のもとで育ってきたか、あるいはその両方が影響しているかもしれません。

当初、科学者たちはある和音を好む傾向には、人間には関係がなく、空気中で織りなす音波が影響をもたらしていると考えていました。2つの音波が不協和音の場合には、ときに「Beats」という不快な音を醸し出します。

しかし、なぜそれらの音が不快に感じる音なのかは十分な説明はまだなされていません。

2011年、身体を研究した学術誌は異なる説明をしています。音の好き嫌いは人間の脳で決まるそうです。

研究者は人間がどのように音を聴くのか、数学的モデルを簡略化し、解説しています。疑似的に、2本の感覚神経を作り、異なるトーンをそれぞれが感知したときに3番目の神経にシグナルを出すようにしました。この現象は耳の中の有毛細胞(注:内耳器官を持つ全動物種の感覚受容器)が異なる音の高さを聞き取り、脳にシグナルを送るのと似ています。

その研究チームは2つの感覚細胞がわれわれが「可愛らしい」とふだん感じる音を聴くと同時に3番目の神経に到着し、組み合わされた音に一度反応することを発見しました。和音を聴いているとき、神経は再充電して一定の波動を送るのに時間を要します。

しかし不協和音をきいているときには2つの感覚細胞からのシグナルは、それぞれ異なる時間で届き、不安定な波動を送ります。それため、協和音と感じる音は、ただ音が一定の神経パターンを出しているだけに過ぎないと主張しています。

数学的な意思伝達情報に関する理論によると、この類の一定のシグナルは、不安定なシグナルよりもさらなる意思伝達能力があるといいます。以上の理由から、われわれの脳がそれらのシグナルを見わけて記憶できるとき、われわれは音を快適に感じるといえます。

しかし、この考えが道理にかなっていたとしても、研究者は人の神経を使って、この実験を試していません。最新の実証によると、音の好みは、文化的影響により強く左右されるとされています。

2016年、アマゾンに住む64人のチマネ族を対象に研究が行なわれました。彼らは西洋の音楽を聴かず、単独演奏の音楽を好みます。チマネ族の音楽は協和音を含みません。彼らの音や協和音に対する知覚と、ボリビアやアメリカ出身者の知覚を比較すると、共通の好みが双方に見て取れました。

例えば、息を切らした音よりは、笑い声のほうを好みました。しかし、チマネ族が協和音と不協和音を聞き分けている間、どれを好むのかの区別をしませんでした。彼らにとって、すべての音は等しく良い音なのです。

この実験が示唆することは、2011年の脳モデル研究が誤っているだけでなく、人間の知覚が複雑であることです。生物学的な要因、幼少期からの音楽の好み。この2つが人間の音の好みに影響しているといえそうです。