脂肪細胞の意外な役割

ハンク・グリーン氏:人体の細胞の中で、脂肪細胞は最も嫌われているものかもしれません。その主な機能は脂肪分子を貯蔵することです。重要な任務である一方、多くの人は脂肪細胞をたくさん持ちたくないと願っているでしょう。

しかし科学者たちが想像していたよりも、脂肪細胞はあなたの体に大きな役割を果たしていることがわかりました。最近、3人のイギリスの生物学者が初めて脂肪細胞は動くことを発表したからです。そしてそれは傷を癒すのに役立つことも判明しました。

『Developmental Cells』という機関誌で今週発表された研究はショウジョウバエを使って行われました。人間においても、脂肪細胞は似たような効果があるかもしれないとそのチームは考えました。研究者たちは、ショウジョウバエがどのように傷を治すのか関心があり、また脂肪細胞が関与している兆候がありました。

この実験では、ハエのサナギの側面に小さな傷をつけるためレーザーを使用しました。サナギはハエが完全に成長する直前の段階です。そしてどの細胞が脂肪細胞で、どれが他の種類なのか追跡するために、異なる色付けをし、顕微鏡の観察下で次に起こることを記録しました。

直後に、大きな脂肪細胞は傷をふさぐため、傷ついた部分に移動し始め、たどり着くのに約1時間かかりました。それらは基本的にバンドエイドの太った版のようなものに変化し、細菌を締め出すように傷を密封しました。

死んだ細胞や散らばった他の破片を排除するため、脂肪細胞はハエの免疫システムと協働もします。研究者たちが意図的に傷を感染させると、脂肪細胞は傷に対抗するため抗菌ペプチドや小さな防御タンパク質を排出します。

もっとも奇妙なことはその細胞が動いていた事実でした。研究者たちは、脂肪細胞はただ居座るものだと常々考えてきました。しかし危機を乗り切るために飛びかかる細胞があったのです。

人間にも脂肪細胞の恩恵?

さらに奇妙なことに、脂肪細胞は多くの細胞や生命体が行う方法である、他の細胞や組織に引っ張ってもらう方法で動いてはいませんでした。ハエの液状の内部を進めるように形を変えながら、完全に自身で動いているようです。

基本的に、脂肪細胞は泳いでいます。問題は、怪我をしたときに動員されるマイケル・フェルプスのような脂肪細胞を、なぜ我々が体内にたくさん持っているかということです。

明らかに、ハエの内部では人類とは異なることがたくさん起こっています。我々はより複雑な凝固システムを持っているため、脂肪細胞がハエの体内と同じような意図で我々の中で活動していることはなさそうです。

たくさんの人がレーザーの傷で苦しんでいないことを祈りますが、ネズミの中の脂肪細胞もこれらの抗菌防御タンパク質を吐き出しているという根拠があります。それは我々にとって良い兆候です。

脂肪細胞が動いているかどうか、世間的な関心は薄いです。ただ飛んでいる物体かもしれないし、そうでないかもしれません。あなた自身の脂肪細胞が少ないことを祈るより、感謝をした方がいいかもしれません。

「ツパンウイルス」とは

大きさといえば、今週発行された他の機関誌『Nature Communications』が、フランスとブラジルのウイルス学者のグループが2つの新しい巨大なウイルスを発見したことを報告しました。

巨大なウイルスといってもごく小さいものですが、地球上の他のウイルスと比較すると、これらは巨大です。それらはバクテリアの大きさほどもあります。

その新しいウイルスはどちらもブラジルで発見されたため、研究者たちはそれらを「ツパンウイルス」と名付けました。グアラニ族特有の雷神である「Tupa」に敬意を表しての命名です。

このウイルスはソーダ湖の泥が起源です。その湖は非常に塩気が強く、高いPHを持っています。ソーダといえば美味しそうですが、漂白するほど塩分が強いので飲まないほうがいいでしょう。

もう1つのウイルスは、リオデジャネイロ沿岸の海底にある沈殿物からロボットによって発見されました。顕微鏡で見ると、そのウイルスはネジに似ており、ギザギザした軽い球体のように見えます。それらは100万分の1メートル以上に成長し、記録上最も長いウイルス分子の1つです。

通常、ウイルスは遺伝子を一握りしか持っていません。なぜなら他のものはすべて宿主にねだるからです。例えばインフルエンザA型は8つの遺伝子しか持っておらず、エイズウイルスに関しては9つだけです。

そうしたウイルスのゲノム(遺伝情報)は1,5000以下の塩基成分からなっています。しかしツパンウイルスは100倍の大きなゲノムを持っており、それらの成分を約150万含んでいました。

いまだに残る多くの謎

より印象的なのは、その遺伝子の中身です。ツパンウイルスは、約200の巨大なウイルスを他にも含んでいて、我々が今まで発見したどのウイルスよりも、タンパク質の合成・集結に特化した遺伝子を持っています。驚くべきことです。

重要なポイントが欠けているため、ツパンウイルスは自身でタンパク質をつなぎ合わせることがいまだにできません。しかし、ほとんどすべてのピースがそろっています。

問題は、この奇妙な遺伝子一式はどこから来たのかということです。可能性としては、巨大なウイルスが何らかの細胞として動き始め、それから時間の経過とともにウイルスとなるため、いくらかの遺伝子が失われたということです。それらがより小さなウイルスとして発生し、さまざまな宿主から遺伝子をもらうことにより大きくなっていった可能性もあります。

科学者たちは、このゲノムを他のウイルスや他の生命体と比較することにより、巨大なウイルスがどのように進化してきたかを解明したいと望んでいます。

ツパンウイルスは多くの新しい追加のデータを我々に与えてくれましたが、それ自身で答えを出すには不十分です。我々は何が実際に起こったのか解明するため、もっとたくさん巨大なウイルスを発見する必要があるでしょう。