粘液の思わぬ効果

オリビア・ゴードン氏:自分の鼻に大きな鼻水がぶら下がっていたら、かなり気持ち悪いですよね。そんな鼻水ですが、ほこりや花粉、ウィルスなどの鼻に入った不快な成分を取り除いてくれます。動物の世界では、粘液がさまざまな形に変わり、とても便利です。

粘液の明確な科学的定義はありませんが、多くの場合、基本的な化学的成分は同じです。タンパク質、炭水化物、大量の水分が入っています。そして、粘液には伸縮する化合物「ムチン」が入っています。

ムチンは糖分が排出された糖タンパク質と結びついています。グリコサミノグリカンやGAGと呼ばれる、水を好む性質の糖化合物です。こうした理由により、粘液はとてもねばねばしています。

通常、分子が固形の状態の際、整頓されていて密着しています。液体の時には、分子はもっと乱雑に散らばり、よく動きます。

粘液はその中間のような状態です。粘液の化合物は整列していますが、お互いを通り抜けることができます。粘液の化合物は非ニュートン流体であり、そのため伸びたり、押したり、潰したりすることで粘着性や流動性が変化します。

ネバネバのヌタウナギの生態とは

この地球上で最も粘着性の高いものはなんでしょうか? それはおそらく、ヌタウナギでしょう。

学術的名称は「Myxine glutinosa」で、ギリシャ語やラテン語の粘液や糊という言葉が由来です。ヌタウナギはアゴがない海の生物で、長い胴体と平らな尻尾、凶暴そうな口とズラっと並んだ歯を持っています。

ヌタウナギの歯は象牙質やエナメル質など、一般的な歯とは違い、ヒトの髪と同じでケラチンでできています。ヌタウナギは海の底をウロウロし、虫を漁ったり、死んだ魚を食べたりします。魚などの捕食者がヌタウナギを美味しい麺のようにすすろうとしたら、戦うこともあります。

ヌタウナギは体長に沿った100以上の穴から凝縮された混合物を排出することで、敵のエラを詰まらせる粘液の塊を吐き出します。

この半粘液の混合物は周りの海水の中で破裂するムチン小胞を含んでいます。これは浸透作用と呼ばれるプロセスによるものです。小胞の中の凝縮された塩分は海水に比べると濃度が低いので、水は膜を勢いよく通るのです。

しかも、その混合物は、ヌタウナギ特有のねじれたタンパク質「スケイン」を持っています。そのおかげで粘液は強度を持ち、互いにくっつきあい、大量の海水を取り込めるのです。実際、あるグループの計測によると、約99.996%のヌタウナギの粘液は海水でした。

そのため、少量のタンパク質で長持ちします。捕食者が暴れるほど、ヌタウナギの粘液は粘着性を増し、捕食者の息を詰まらせ、退けることができます。それでも捕食者が攻撃を続けるなら、窒息して死ぬことになるでしょう。

ネバネバから抜け出すために、ヌタウナギは自分の身体を縛って結び目を作り、粘液を洗い落とすのです。

ナメクジ、粘液を使った性交スタイル

地上の話に移ると、マダラコウラナメクジは身を守るために粘液は使いません。

木の枝から吊られている間に、別の方に巻きつきます。

最初に、ナメクジは粘液の糸にフェロモンを分泌することで仲間を呼び寄せます。仲間を見つけると、筋収縮によって粘度を変化させることで近くの木に登ります。最終的には、粘液に含まれるムチン分子が固体のように整列することで、ナメクジの身体は木の表面に固定されます。

ナメクジは筋肉が収縮すると、粘液を押し出します。それがムチン分子を再び始動させるので、粘液はより液体のようになり、ナメクジがノロノロと動きます。

ナメクジは選んだ木の枝に到着すると、長い粘液の糸を絞り出します。その分子は強度がある粘液のロープを作るために再編成をします。ナメクジたちはシルク・ドゥ・ソレイユのような交配を行います。

努力を要するものですが、マダラコウラナメクジはペニスを自分の体よりも大きく膨らますために重力の助けが必要だと考える研究者もいます。

そして彼らには交配のための性器があります。マダラコウラナメクジを含む多くのナメクジは、体内に精子と卵子の両方を持っており、2匹が交わることで受精させることができます。

そのため、この泥まみれの儀式では、2匹のマダラコウラナメクジがお互いに交尾すると、多くの接触を持ち、精子を交換することができるので、両方の卵子が受精することができるのです。

粘液で作った海に浮かぶボート

同じような種である、海洋生物のアサガオガイは足に粘液を持っています。「Violet sea snail」の名前のごとく、「海面に漂っている」ことが由来です。アサガオガイはナメクジのようなアクロバティックな交配のためではなく、海に浮かぶために粘液を使います。

画像の通り、泡のボートから逆さまになって漂っています。泡はアサガオガイがバタ足することにより生成され、硬い粘液に空気を取り込みます。泡のラッピングとも表現されるテクニックです。

科学者は、アサガオガイの泡のボートはベトベトした糸によってくっついている卵のうが進化したものだと考えています。空っぽの泡は浮力があるので、粘液に覆われた空気を与えることで、浮力が高くなります。

頑丈なボートに乗って、アサガオガイは柔らかい体で、「カツオノエボシ」のようなトゲを持つヒドロ虫たちをエサとして探しに行くことができます。

アサガオガイはトゲ部分を避けながら、トゲ細胞を無力化させながら、斜め移動を繰り返し、毒殺されることもなく、ヒドロ虫を食べてしまいます。アサガオガイは粘液のおかげでエサを獲ることができるのです。