トークセッションの鍵を握るのはモデレーター
川原崎晋裕氏(以下、川原崎):基本的にトークセッションやパネルディスカッションよりも、スピーチの方が質が高いですね。これは一人でずっと喋り続けるから、ちゃんと起承転結のある原稿を用意してくるんです。だからめちゃめちゃ完成度が高くて、ログミーでもめっちゃ読まれるんですよ。
でも、有名な人を二人呼んできて「あとは自由に喋ってください」みたいなパネルディスカッションって、モデレーターがよっぽど腕が良くないと、ほぼただの雑談になっちゃいます。
これがイベントレポートを作るのが難しい理由で、こうやって喋ってるからなんか雰囲気が楽しげに聞こえるんですけど、文字になった瞬間に中身がないのがバレちゃうんですよ。イベントレポートって編集なので、情報としての要素をギュッと凝縮しちゃうわけですよね。その結果、実はすっからかんだったというのがバレてしまう。
あと、起承転結がゆるやかだったりするので、メリハリがつきづらい。イベントレポートは編集者の腕がめちゃくちゃ問われるコンテンツだと思っています。だからそういったものは書き起こしの方が適しているというのが、やってきて思ったことですね。
菅原弘暁氏(以下、菅原):これも、さっき事前にお話を聞いて、めちゃくちゃ意外だったんですけど、コンテンツを用意する側からすると、良かれと思って対談にしてるんですよ。
川原崎:そうなんですか?
菅原:例えば自社の人間が、一人でベラベラ喋っててもおもしろくないだろうとか、自分たちの押しつけみたいになって良くないだろうとか。あえて違う意見の人を挟んで対談にして、その方がメディアさん的に喜ぶんじゃないか、みたいな。それがけっこう数字でも、一人の方が読まれるというのは意外でしたね。僕いろいろ気をまわしちゃう方なんで(笑)。
スピーカーよりもモデレーターの選出が重要
川原崎:そうですね、なんかイベントって、情報が知りたいだけだったら別にログミーで良いと思うんですよ。会場に集まって、その熱気だったりとかネットワーキングだったりとかがあるから、イベントってすごく価値が高いと思っていまして。ただそのネットワーキングだったり、すごく有名な人を呼んで集客に成功しました、みたいなところにフォーカスし過ぎちゃうと、実はコンテンツが手抜きになりがちだなと思っていまして。
イベントコンテンツは先ほども言ったように、こうやってライブで作っていくので、コンテンツの制作難易度としてはめっちゃ高いんですよね。インタビューとかの方がよっぽど簡単だと思っています。なのでモデレーターがとにかくおもしろくないと、成り立たないケースが非常に多いので、そこの選別を、ただその会社の広報だからその人にやらせてみるとかは良くない。僕はスピーカーよりもむしろモデレーターの選出の方が、よっぽど重要だと思っています。
菅原:モデレーターの選出。
川原崎:そうですね、こういった(菅原さんのような)ちょっと毒舌な人とかが絶対いいですね(笑)。要は突っ込み力なんで。編集者の方や記者の方が、インタビューや謝罪会見でめっちゃ突っ込むじゃないですか。ああいう心ないことができる人を、モデレーターに選んだ方がうまくいきます(笑)。
菅原:こういうのをうまくログミーさんで会場の雰囲気を伝えてくれないと、僕がただ悪口言われてるみたいな。
(会場笑)
川原崎:そこはちゃんと再現します(笑)。
予測不可能なイベントこそ、事前準備が大切
菅原:モデレーターって難しいですよね。本当に難しいなと思って今もやっております(笑)。 今日は広報の方、たくさんいらっしゃるので、ちょっとそっちの話もいろいろお聞きしたいと思うんですけど。
(書き起こしって)良くも悪くも喋ったことがそのまま出る、というところだと思うんですよね。マイナスが入らないで外に出せるというのも然りなんですが、メッセージの持たせ方をミスったら、もうそこに付け足せないというのが、やっぱりあると思うんですね。
そういった時に広報側が事前に準備できることとか、良いアウトプットを出すために登壇者に持たせなきゃいけないこととか。そういうのがコンテンツを用意する側としてやらなきゃいけないことだと思うんですけど。川原崎さんの視点から見て、どういうところをもっと持たせれば良いのになとか、お感じになる部分はありますか?
川原崎:たとえばプログラミングって、基本的に正しくコードを書かないと動かないじゃないですか。だからエンジニアしか作れない、ってみなさん思いますよね。
あとデザインも下手な絵なら描けるけど、やっぱりプロのデザイナーじゃないとちゃんとしたものはできないという感覚ってすごくあると思うんですけど。文章に関しては、文字書けば作れるというふうにけっこう思われがちだと思っています。
イベントもそうですね。1時間誰かが喋れば成り立つと心のどこかで思っている人がいるのかなと思っています。先ほど申し上げたように、イベントこそコンテンツを作る難易度がめちゃくちゃ高いので。集客だったり場所押さえたり、めちゃめちゃ大変だと思うんですけど、その時間の3倍くらいコンテンツの作り方にも時間をかける。
事前打ち合わせもそうですし、ちゃんとプロットを作って、「こういうことを喋ってください」みたいな前打ち合わせをベースでやった上で、当日のライブでのおもしろさを付け加えるという順番で考えないと、失敗するケースが多いかなと思っていて。イベントにおいてはそういうところかなと思いますね。
著名人ではなく、読まれるのは“面白い人”の記事
川原崎:ログミーをやってておもしろかったのは、名言って何を言ったかより、誰が言ったかが重要みたいな話よくあるじゃないですか。それはログミーでも同じなんですよ。肩書きのある人が言うとすごくたくさん読まれますよ、というのは一つあるんですけど、一方で内容さえおもしろければ無名の人のログでもすごく読まれるというのが、非常におもしろかったですね。
ぜんぜん有名じゃない人でも、話し方とか内容がおもしろければたくさん読まれたりするので。なんかUFJ銀行頭取みたいな人が、ポジショントークをずっと延々喋ってるよりも、社内のけっこう毒舌な人を登壇させて、その人に喋らせるみたいなことをした方が、ユーザー満足度は高いかなと思います。
菅原:喋り方がおもしろいって、どういう喋り方をすれば良いんですか?
川原崎:またモデレーターの話になっていいですか? 元ピクシブで、今はDMMで社長やってる片桐くんをインタビューしたときに、後で彼が僕のことをすごい褒めてくれて。「インタビューが上手い」と彼は言ってくれたんですね。なんでかと言うと「お前の質問はムカつくからだ」って言ったんですよ(笑)。
ムカつく質問をされると、人は答えてしまうという。ムキになっちゃうから。やっぱり突っ込み力がすごくないとダメだし、相手が喋りたくないことを引き出さなきゃいけないので、そういう意味でモデレーターは性格が悪い人が良いかなと思います。
(会場笑)
菅原:ノーコメントで(笑)。なるほどね。そういう意味では、コンテンツの準備の時に広報側ができることとして、モデレーターの選定というのはあるかもしれないですね。
川原崎:そうですね。
菅原:タイトルとか小見出しって難しいだろうなと思うのが、編集をしない、バイアスをかけないというポリシーでやられてるけど、例え小見出しでも、やっぱりわかりやすく伝えなきゃいけないわけじゃないですか。どういうふうに選定されてるんですか?
川原崎:これも方針はいろいろありますね。僕、タイトルが一番意図が出ちゃうので、タイトルは付けたくないなと思っていて。ただ、インターネットのコンテンツはタイトルタグで流通するので、付けざるを得ないんですよね。だからできるだけ、台詞を引用するとか、要はファクトに集中するというのをやっています。意図を入れるなというのを編集者にはすごく強く言っていますね。
面白い台詞を小見出しに
菅原:台詞を抜き出すにしても、それをピックアップする人が「これいい台詞だな」って思ってピックアップするわけじゃないですか。そこに主観が入ったらまた難しいですよね。
川原崎:まあもう編集してる時点で主観は絶対的に入るんですよね。小見出しの付け方の方針というのもいろんなパターンがあるんですけど。ログミーで言うと、例えば目次的に付けるか、続きを読みたくなるように付けるか、ですね。
編集メディアのタイトルって、クリックレートを上げるために付けるじゃないですか。押させるために付けると。そういう小見出しの付け方をするんだったら、おもしろい台詞をとにかく抜いて小見出しにするんですよ。そうするとその内容が読みたいから、みんな次に読み進むじゃないですか。なのでメインタイトルと同じように付けるってことですね。おもしろそうな話を抜き出す。
もう一つの目次的に付けるというのは、コンテンツを順番に読んでいった時に、次にどういう内容が書いてあるのかがわかるという。ログって記録なので、初めは後者で付けてたんですけど、さっきから言ったように途中で「あ、みんな書き起こしが読みたいわけじゃなくって、良いコンテンツを見たいからログミーを見てるんだな」と思うようになってからは、わりと感情に触れるような小見出しにするようになってきました。
菅原:僕も、メディアの編集者の方から「タイトルの冒頭にエモいものをもってこい」ってアドバイスしていただいていたんですよね。それがけっこう「時代がそういう時代になってるから」って言われて。『すごすぎるなんとかのこと10選』とか、何選とかも「そういうのイケてないよ」って言われて。それよりも、人が喋ったエモいことが実はタイトルとしては一番イケてるみたいなことを言われて。
川原崎:それはやっぱりその方が読まれるなとか伝えたいことが伝わるなという。うちはうちが伝えたいことじゃなくて、お客さんが伝えたいことを伝えていくんですけど、読者側クライアント側の両方にとっても、その方がやっぱり満足度は高いですね。