犬の嗅覚、驚きの働き

ハンク・グリーン氏:犬はこちらの恐怖心を臭いで察知でき、攻撃をしかけてくると言われます。見知らぬ犬と鉢合わせした時、「平常心を保たなくてはならない」とテレビや映画ではよく言われていますね。このことは近年まで科学的な研究はなされてきませんでした。

最近では、犬は恐怖心を臭いで察知することはできますが、攻撃をしかけることはなく、犬自身が恐怖することがわかってきました。

犬の鼻は驚異的な性能を誇り、その嗅覚は人間の10万~100万倍です。そのため、犬は人間を助けて、薬品や爆弾、さらには雪に埋まってしまった人でさえも、見つけることができるのです。

これは、3億個にも上る犬の嗅覚受容器のおかげです。対する人間の嗅覚受容器はわずか600万個です。また、体の相対的な割合では、嗅覚を司る犬の脳の部位の容積は、人間の40倍です。

犬が犬同士や人間とコミュニケーションを取るのに使うのは、鼻だけではありません。ボディランゲージや、音声も使います。

人が犬に「よし、いい子だ」と話しかけると、犬は人の声のトーンや単語を、脳のそれぞれ別の部位で処理します。これは、人間がお互いと会話する場合と同じです。つまり、犬は、ある程度は人の言葉を理解しているのです。

また犬が、身体で示す指示をきちんと理解することはよく知られています。さまざまな研究が、人の表情やボディランゲージから、犬が人の感情を読み解いていることを示しています。

犬が嗅覚に頼ることなく、人の姿勢や声色から、人の感情を読み取ることは、研究者や犬の訓練士には、以前からよく知られていました。

さて、犬が人の恐怖心を臭いで察知できるかどうかを直接研究することは、最近までされてきませんでした。人が恐怖すると、汗の中の成分が変化します。うれしい時、悲しい時とは異なる成分で、これは、ホルモンのシグナルの反応により血中成分が変化するためです。

つまり、研究者たちは、人間の脇の下に綿棒を突っ込んで、さまざまな感情を喚起させ、その匂いに対する犬の反応を見てみたわけですね。2016年、実際にこのような実験は行われ、「Behavioural Brain Research」誌に掲載されました。

怖い動画を視聴した人の汗の臭いを嗅ぐと、犬の心拍数が上昇するというのです。つまり犬は、臭いにより恐怖心を察知することは可能なのです。ところが、運動をした人の汗に対しても、犬が取る行動は同じでした。つまり、体が活性化したことを感知しただけである可能性が残ったのです。

犬は人の感情を完治できる

2017年、動物の認知に関する、似たような実験が行われました。怖い動画、もしくは楽しい動画を見た人が身に着けていた、汗のついたパッドと、未使用のパッドの臭いを、犬に嗅がせてみたのです。今回は研究者たちは、犬がその後どのような行動を取るかを観察し、心拍数を計りました。

楽しい感情を抱いた人の汗の臭いを嗅いだ犬たちは、見知らぬ人に対しても人懐こい行動を見せました。この犬たちの心拍数は、平常よりは高めでしたが、恐怖を感じた人たちの汗の臭いを嗅いだ犬たちのそれよりも、低く出ました。

一方で、恐怖を感じた人たちの汗の臭いを嗅いだ犬たちは、ストレスを感じたようで、飼い主に頻繁に安心を求め、見知らぬ人に対しては慎重な様子を見せました。心拍数は、前回の実験と同様に高くなりました。

この結果、研究者たちは、犬は人の感情を感知し、相手と同じような感情の反応を見せると結論付けました。喜びの感情を嗅ぎ取ると犬の機嫌は良くなり、恐怖の感情を嗅ぎ取ると、犬は攻撃的になるのではなく、怯えるのです。

つまり犬は、恐らくは恐怖心を嗅ぎ取ることは可能ですが、相手と同じように、恐怖心を抱くのです。