言ったもん勝ち、やったもん勝ちのカルチャー

​川田涼平​氏(以下、川田):聞いてもいいですか?

杉山秀樹氏(以下、杉山):どうぞ。

川田:さっきおっしゃっていたように、(パナソニックって)イメージとしては保守的というか、安定志向みたいな人がすごく多いイメージなんですけど。けっこうエッジの立った人というか、変態性のある人みたいな(笑)。

(一同笑)

川田:けっこういらっしゃるというか。かなりの人数?

杉山:技術系で言ったら変態が多いんじゃないのかなという気がしますけど。

川田:そうなんですか(笑)。

(一同笑)

杉山:技術者の中では、各領域を極めた人たちが多いので。専門性の深さでいったら、一般的にベンチャーよりも割合は多いように感じます。ドクターも多いですし。スタンフォードとかMITとか留学してる人もいっぱいいるし。

本当におかしい人いっぱいいて。でもそういう人たちでもいわゆる見た目の……見た目の変態って言うと、リアル変態になっちゃう(笑)。

(一同笑)

杉山:そういうんじゃなくて、会社としてすごく実直なんですよ。社員もそれだけ実直な人が多くて、会った感じや見た感じはすごく真面目なんですけど、話を深掘りしていくと「なんだこの人は!?」みたいなことはよくあります。

そういう技術を持った人たちが、ある意味言ったもん勝ち、やったもん勝ちのカルチャーの中でものづくりをしていっているので。

先日も我々は、AIの領域をやっている人たちの話を聞いているんですが、その中でも、勝手に、「その技術を使ったら、こういうプロダクトサービスを世の中に出せるんじゃないか」と案を出して、クラウドファンディングで資金を調達して、それを世に出す動きをしていく(人がいたり)。

勝手にと言っても、周りを巻き込むことは前提にあって、それを実現できちゃう自身の能力もあるし、ソフトウェアだけじゃなくてハードも関わってくるので、まさにメーカーとしてのものづくりのプロセスも内部でできるところはすごくおもしろいというか。そういう人たちにとっての環境があるので、掘るとエピソードはいくらでも出てきます。

企業選択は自分が実現したいことをやるための手段

杉山:一方で、一般的な話ですが、パナソニックはイノベーティブな会社というイメージはあんまりないと思うんですよ。ある?

(一同笑)

佐伯愛理氏(以下、佐伯):イノベーティブじゃないというイメージはないです(笑)。

秋山真氏(以下、秋山):逆に(笑)。

杉山:イノベーティブな会社と言うと、同じ業界で言うとソニーさんの名前が挙がりがちだったり、もうちょっと広い分野ではGoogleとかね。負けず劣らず、パナソニックにも技術はしっかりとあるんですよ。

ブランディングの話につながるんですが、それを世の中に伝えるとか、もっと言えば社内の中でも伝え合う。そこがまだまだ不器用だなと思っていて。そういうことをやっていくと、「パナソニックってこんなこともやってるんだ」って、どんどん知ってもらえるんじゃないかなと思います。

佐伯:ちょっと杉山さんご自身のお話で(お聞きしたいんですが)。1番最初に1年半くらいだけ大企業にいて、そのあとベンチャーに行かれたということで。

端的に言えば、新卒でベンチャーに行くことと大企業に行くことだと、どういうメリットやデメリットがあって、まずは「大企業に行く」と、ご決断されたか。杉山さんご自身の経緯といいますか。最初からベンチャーを選べたかもしれないんですが、なぜ大企業に行ったのかなと。

杉山:恥ずかしながら、当時はベンチャーをあんまりよく知らなくて。10年ちょっと前で、今ほど一般的でもなかった。ITものづくりといったらメーカーみたいな。そこはたぶんすごくシンプルで、何も考えてなかったとも言える(笑)。

「大手がいいか? ベンチャーがいいか?」というメリット・デメリットで言うと、やっぱり自分の目的によります。企業選択は手段だと思うんです。会社組織ってありそうでなくて、そこに自分が入ることによって何を実現できるかという装置だと思うんですよね。

例えば、「何やりたいかわからないから、とりあえずたくさんいろんなことを経験しまくって、その中で自分がやりたいことを見つけたいです」だったらベンチャーのほうがいいかもしれないし、「自分はこういうことをやりたい、それが5年後でも10年後でもいいからやれるようになりたい」だったら、大手でもいいと思うんですよね。

そういうふうに、置かれた状況によってメリット、デメリットが変わっちゃうし、選択の方法も変わるんじゃないかなと。ただたまにいるんですけど、大手は人数は多いから埋没してしまうとか、自分らしさが発揮できないんじゃないかと。なのでベンチャーに行きますと。これはよくないと思っていて、そんなに受け身の姿勢でベンチャーを選択するんだったら、潰れるだけだと思うんですよ。

佐伯:確かに(笑)。

ベンチャー企業はUp or Out

杉山:ベンチャーのほうがやっぱり厳しい。大手のほうがセーフティーネットはしっかりとあるんですよね。多少入口で出遅れたとしても、ちゃんと一定まで持っていくプロセスがあるんですけど。

ベンチャー、とくにそれがよりスタートアップに近づけば近づくほど、そんなものはないので。Up or Outなんですよね。脱落した人に対しては手を回したくても回せない。人情があるので当然助けたい気持ちがあっても、そもそも自分も余裕がなかったりする。

そうしたときに自分でサバイブしていくだけの気概がないと、そこからさらに成長していくのはけっこう大変。なのでベンチャーに行くんだったら、「ここでならがんばれる」という自分なりの理由がある人のほうがやっぱり強いですし、途中でめげない。

ベンチャーのほうが圧倒的に年齢が若いうちから、いろんな困難にさらされます。「できないよ」みたいな話を普通にやらされる。例えば、まだ会社の売り上げが10億円ない時代に、別の会社と10億円の資金調達の話を進めなきゃいけないってなって。

会社自体が苦しい時期で人もいないので、自分も法務の知識がなかったけど、やるしかない。相手は、50歳くらいのちゃんとした会社の法務ですよ(笑)。すごい人なんでしょうけど、(その人と)対話しなきゃいけなくて。

もうプレッシャーじゃないですか。それで失敗したら、会社がダメになっちゃう時だったので、1個でもミスがあったら会社が存続できない。でも、経験がないからって「ノー」とは言えない。

その時に「なんで法務をやらされてるんだろう」って思ったら負けなんですよね。やらされ仕事になった瞬間に仕事の質は落ちちゃうし、気持ちも負けちゃうので。そういう意味で、がんばる理由がある人のほうが絶対にベンチャーでいい。どんなことも前向きにとらえていく気持ちが持てないなら、ベンチャーはあまりおすすめしないかなっていう気がします。

学生と企業がお互いを理解し合うための準備

秋山:なるほど。ありがとうございます。今ちょうど就職活動の話が出たのであれなんですけど。一人ひとりに向き合っていって、そういう多様性とか志という、個ってみんな違うと思うんですよね。

そのストーリーにちゃんと寄り添っていくようなパナソニックの姿勢の中で、学生に向き合っていく。就職活動のときだけが学生に向き合うところじゃないと思うんですけど。学生とかまだ社会人になっていない人たちと向き合っていくときに大事にされているのはなんですか?

杉山:目線を、視野を広げてほしいなと思ってまして。みなさんも今4年生で実際に経験してきたかもしれないんですけど。今までそんなこと考えてなかったのに、就活となった瞬間に、急に「自分の軸を作れ」だの。

(一同笑)

杉山:「自分の強みは何だ」だの、「どの会社行きたいんだ」とか。今まで考えたこともなかった志望動機を考えなきゃいけない。それでたった30分、合計でも1時間とか1時間半の面接の中で「あなた、いいね」と言われて来るって。

やっぱり、お互いに理解し合える準備をするのはすごく大事だと思っています。大学1、2年生とか、まだ就職する前の学生とお会いする機会が多くあります。採用マーケティング室って、組織上は採用という名前がついているだけで、我々は採用には直接関わっていないんですよ。

何をしているかというと、就活前の学生たちと会って、本当にどういうことを考えていかなきゃいけないのか、考えるきっかけとかヒントをできるだけ多くの人に持ってもらいたいなと思って機会づくりをしています。

考える機会を通じて、その結果「パナソニックじゃないな」って思ったら、パナソニックじゃなくていい。その人にとって、きちんと企業選択、キャリア選択ができればいいと思って活動しています。

別の会社に行って、改めて自分みたいにやりたいことの価値観の優先順位が変わったときに、パナソニックという存在がまた出てきてくれれば、それはいいなと思います。そういう意味で、短期的な目線での採用だけではまったく考えていなくて。

採用のミスマッチをなくすことが未来を良くしていく

杉山:どっちかと言うと、将来。さっきの話にもつながるんですけど「A Better Life, A Better World」を実現するためには、日本全体、もうちょっと大きくしちゃうとグローバル全体ですが。パナソニックとして良くするという話はもちろんあるんですけど、未来を作るのは若者なんです。

その人たちがきちんとした仕事選択ができて、いきいきと働けていれば、10年後・20年後の社会に対してのアウトプットは高まると思うんです。でも、ミスマッチみたいな採用して、10年後にみんな転職してグチャグチャになってたら、三歩進みたかったのに一歩しか進めないとか、そういう世界になっちゃうと思います。

そういう意味で、パナソニックとしての「A Better Life, A Better World」もありますが、それを実現するために、もっと広い視野で見たときにも、やっぱり今の活動って未来につながると思っています。

もっと言えば、別に100人集まったら話すよなんて、まったく思ってなくて、1対1でもいろんな場面で話しますし。数人であってもお話することがあります。いろんな場面があるんですが、話をして、当然不安も迷いもいっぱいあると思うので、そういう人たちの支えになっていけばいいなとは思っています。

秋山:なるほど、ありがとうございます。お二人はもう修士か就職になるんですけど。実際に、就職活動を含めた学生時代を通して、企業さんと触れ合う中で、「もっとこういう接点があったらよかった」とか、今の話で言うと、「こういうサポートがあったらもっと良くなるんじゃないか」とか。今はないことでも、何か感じたことってありますか?

川田:大きく2つあって、1つはすごいリアルな職業体験じゃないですけど、働くというのはどういうことなのか、社会に出るってどういうことなのかを知る機会が欲しかったとは思っていて。

自己分析も確かに大切なんですけど、その自分の軸が見つかったところで、この先生きていくフィールドの知識がまったくない。この先の天候がどうなっているのかまったくわからない状態で、ファーストキャリアを考えなきゃいけない。

就活だと焦っている学生が多くて、軸が決まっても結局どこに進むのか決まらない学生がすごい多いと思っています。だから、実際に社会で働くとはどういうことかを、体験やお話を通して知る期間が1~2年生のときからあったらいいなというのが1つです。

あとはやっぱり、単純に自分のキャリア形成というか、1~2年生のときから将来を見据えて、自分のビジョンだったりミッションだったり、人生をどう生きていくのかを考える機会(があるといいのかなと)。いろんな経験を積んでいる社会人の方から、そういうことを考えるきっかけをいただけると、すごいありがたいのかなと思います。

もっとフラットな環境で就職活動をしたかった

秋山:なるほど、ありがとうございます。サエキさんはどうですか?

佐伯:私は、人事の人ということじゃなく、一人の人間としてしゃべりたい。もちろん、学生と社会人という関係性だったり、人事の社員の方という関係性ではあったんですが、面接だとやっぱり面接になってしまって、座談会でもやっぱり座談会というか、社員さんの……。

杉山:なかなか難しい。

秋山:難しいですよね。

佐伯:そうですね。難しいところではあるんですけど。ただ、それが会議室で話すのか、カフェで話すのかというところでも違ってくるとは思いますし。人事の方にいろいろお願いをするかたちにはなってしまうんですけど、できるだけ学生の目線で一緒にお話ししてくださる方だったり、そういう環境があれば、すごく嬉しかったと言いますか。

逆にすごい固さを出されてしまうと、「そういう感じか」と思って。面接とかも、こちらが固くなるというよりは、「そういう会社なんだな」と認識してしまうので。就職先にフランクさを求めるべきなのかはわからないんですけど、私の場合はそういう環境があった方が、もっと会社に対しての愛が深まったかなと思います。

秋山:なるほど。固くなってしまうことで、そこで取られるコミュニケーションが本質じゃなくなってくるということなんですか? 本音というか。

佐伯:そうですね。私自身はけっこう自分から崩していきたいと思うタイプなんですが、自分が女子大に通っていて、とくに女の子ってあんまり自分に自信がない子も多くて。夢があるのに銀行の一般職を受けまくっている子もたくさんいる中で、圧迫面接じゃないですけど、ちょっと固い場に行くと「自分のことをうまく言えなかった」と言って、泣いている友達とかがけっこういて。

もう少しフラットな場を作りたいと思って、自分でも女子だけの就活のイベントを作ったりもしていたんですけど、そういう感じで、できるだけフラットな環境があればよかったかなと思いました。

日本で一番早くインターンを始めた会社

秋山:なるほど。そこはかなり大事ですよね。先ほど杉山さんがおっしゃっていた、1年生のうちからとか、就職活動モードに入っているとき以外も接していくことが大事ということに関して、具体的にパナソニックが取り組んでいるアウトプットって何かあったりするんですか?

杉山:パナソニックとしては、学生に会いに行くとか、会いに来てもらう場作りもしています。去年から「Academia」という活動を実験的にやり始めているんですが、やはりそこは就職、選考とかまったく関係ない場です。

その中で、「自己分析ってそもそも何だっけ」とか、「業界研究って何だっけ」という、言葉は聞くし、いつかやんなきゃいけないんだろうというのを、もっと前倒しで考えたり、気づきが得られるきっかけ作りをする。もっと前になると、私たちが学生と話しに行きます。

そもそも学生には、社会人のキャリアを聞く機会が不足していると感じています。前にも、大学1年生と話していて言われたんですけど、「社会人ってみんなグレーのイメージでした」と。「なんか楽しくなさそう」とか、「就職活動ってなんか怖い」、「社会に出るのなんかやだな」とか。そうしたときに、「いやいや、そんなことないよ」と言ってあげたい。「こんなことを考えて、こう仕事をしているんだよ」と伝えてあげたい。

そんなことはたぶん、本当はないんです。しっかりと自分がやりたいこととか、自分が挑戦したいと思うことが見つかって社会に出れば、めちゃくちゃ楽しい世界。学校よりも本当に楽しいと思うんです。でも、それを知らずにいきなり就職活動を迎えて、闇雲に企業選択をするのではもったいないと思うので、早くそういう機会を提供するというのが、今すでにやっていることです。

あと、今のインターンって、わりと文脈的に採用の一歩手前みたいな感じなんですけど、実は日本で一番早くインターンを始めたのはパナソニックだったんです。

川田:そうなんですか?

杉山:これはリアルに就業体験。なのでアルバイトのようにお給料は出ないです。ただ、ちゃんとお食事の補助とか、遠方の方は宿泊の手配も全部しますし。そこで純粋に仕事を理解してもらうための活動をするという意味で、そういうことを大事にする考え方はパナソニックに脈々とあります。

ミレニアル世代へのアプローチ

秋山:なるほど、ありがとうございます。創業100年を迎えたパナソニックさんが、今後社会を支えていくというお話もありましたが、ミレニアル世代の人たちに感じる課題や、そこに対して今後取り組んでいきたいことを最後にお聞きして、今回の座談会を終わらせていただきたいと思います。いかがでしょうか?

杉山:ミレニアル世代に対して、我々が感じている課題ですか?

秋山:そうですね。若い世代に感じる課題や今後そこに対して取り組んでいきたいことです。

杉山:ミレニアル世代に対して、課題を持つというスタンスはあまりないんですけど。ただ、やっぱり感じているのは、大きな目で見れば世代による価値観の変化はあると思っていて。そのときにちゃんと、会社側が変わっていかなきゃいけない。

それは何かと言ったときに、ミレニアルの世代。1980年からがミレニアルとすれば、自分がギリギリ1982年生まれなので、一番先っちょにいますけど。ぎりぎりミレニアルと思って生きてるんですけど、より大きな目的感とか大きな意義のために働きたいと思っています。それをどういう環境で発揮できるか、自分らしさとか、自分が考えているライフスタイルとマッチするか。

その結果、こういう条件とか、具体的な話が来ると感じているんですが。歴史のある日系の大きな会社って、端的に言うと3割から多ければ4割近くが50歳以上の方なんです。ということは、組織の上の方で意思決定をしている人が是としてきた価値観とこれから入ってくる人との間ではやっぱりギャップがある。

自分自身がミレニアルの先端にいることは、それをつなげる役割をしなきゃいけないのかなと思っています。パナソニックは伝える材料はすごくたくさんある会社だと思うんです。100年前からより良い社会を作っていくことを実直にやり続けている会社で、中ではわりと懐深くて、柔軟にセーフティーネットのある中で挑戦させてくれる。わりといいじゃないですか。

実態とイメージの違いをしっかりと伝えていく

杉山:その中で、「A Better Life, A Better World」は外に向けている言葉なんですが、もう1つ、社内に向けては、「A Better Workstyle」という言葉があります。「A Better Life, A Better World」を実現するためには、一人ひとりにとってのよりベターな働き方、より良い働き方があると思っています。それって何だろうというのを、しっかりと考えていきましょうと言っているんです。

こういう姿勢もすごく合っていると思いますし、会社自体がどんどんそっちに行っているので、我々としてはそれをしっかりと推進していくところもそうだし、外に伝えていく。そうするとパナソニックの見え方が違ってくるはずです。

大きい会社、日系製造業というと、もしかしたら昭和のイメージがあるかもしれないけど、そういうところも違うんだよとどんどん言ってあげるのは、会社として必要性を感じていて、そこをどうやっていけるかなということを日夜考えています。

それができれば自ずと、たぶん良いなと思ってもらえる方、共感してもらえる方はいらっしゃると思うし、共感してくださった方々とより多く出会えればいいなという考え方です。

秋山:なるほど、ありがとうございます。今日の対談を通して僕自身も、たぶん学生さん2人も、対談前に思い描いていたパナソニックのイメージから、けっこう変わった部分もあると思うんです。

たぶん今後は彼らも、学生にとっては社会人の先輩になりますので、自らの体験を後輩に広めていく存在になってくれると思いますし、本日のような、直接社会人の方や企業さんと学生がコラボして、意見交換が出来る機会から、エンゲージメントが生まれたり、理解が進むといいですね。

パナソニックとしても今後、新しい取り組みを通して、若い世代に企業の価値を伝えていかれると思います。本日は、立場の異なるお三方のトークセッションを通して、私自身も新しい気づきを得られました。ありがとうございました。