「あしたのチーム」で行っている社内研修

枡田絵理奈氏(以下、枡田):それでは、特別ゲストとしてお呼びしております、一橋大学大学院教授の楠木建先生。そして、株式会社あしたのチームの赤羽博行取締役経営企画本部長。このお二人による対談を始めたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

枡田:まず赤羽さんにおうかがいしたいのですが、今回楠木先生に登壇を依頼したきっかけを教えていただけますでしょうか。

赤羽博行氏(以下、赤羽):弊社は、社内の教育研修制度として「あしたの大学」という社内大学を行っています。そのなかで、全社員に同じ本を読んでもらうという取り組みを毎月行っております。理念やビジョンをしっかりと社員と共有していくための取り組みなのですが、そこで『GIVE & TAKE』という本を取り上げました。

GIVE-TAKE-「与える人」こそ成功する時代

弊社の行動指針「あしたの5バリュー」にもあるのですが、我々はギブアンドテイク精神を非常に大事にしております。たまたま『GIVE & TAKE』というそのままのタイトルの本を監訳してくださっていたのが楠木先生でした。全社員がその本を読んで、「なるほどな」と納得した際に、ぜひお会いしていろいろお話をお聞きしたいなと思って、オファーをしました。

枡田:社員が全部で150人いらっしゃるということで、会社で150冊購入されたということでしょうか?

赤羽:そうですね。150冊買って全員に届けて、全員に感想文を書いてもらっています。感想文は書いた後に出しっぱなしになってしまうとあまり意味がないので、今日は欠席しておりますけど、代表の高橋が全員分の感想を読んで、一人ひとりにコメントを返すということをやっています。

枡田:150人分の感想を読んでフィードバックするというのは、作業としてはかなり大変だと思うのですが……。

赤羽:そうですね。実際に『GIVE & TAKE』は12月に読んだので、たしか「年末年始の休み中にずっと読書感想文を読んでいた」って言っていました(笑)。

いつ執筆しているのか

枡田:そうなんですね。もう社内バイブルといっても過言ではない状態になっているということなんですけど、楠木先生、それをお聞きになっていかがですか?

楠木建氏(以下、楠木):大変ありがたいことですが、ただ、難点を申し上げると、あれは僕の本ではなくて、僕が訳しただけなんです。いい本だと思ったので訳したのですが。ぜひ同じ150冊買うんだったら、『ストーリーとしての競争戦略』を。これからのオススメということで。

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)

枡田:そうですね、次回の課題図書ということで(笑)。

楠木:ありがとうございます(笑)。

赤羽:あとは先ほどあった『「好き嫌い」と経営』の……。

「好き嫌い」と経営
 

楠木:なんでも結構ですよ、僕は(笑)。

枡田:150冊一気にね……!

赤羽:社員も増えてきたので、多分もっと……(笑)。

楠木:ありがとうございます(笑)。

枡田:楠木先生も、あしたのチームも、多くの執筆活動をしていらっしゃると思いますので、最近の執筆活動についてもお聞きしたいのですが、まずは楠木先生はいかがでしょうか?

楠木:僕は先ほど申し上げたように、書くのが異様に好きなので。注文があるない、メディアがあるないに関わらず、常時書いてます。 

枡田:へえー! 準備は常にできているという状態ですか?

楠木:「どうぞ好きな時に取っていってください」みたいな。例えば、パッと読んでいただけるやつだと、週刊文春のオンライン版の『文春オンライン』で連載をしています。それは僕の「好き」と「嫌い」について書くという。あとは常時、次の本のプランを立てて書いています。

枡田:そうなんですね。そして、あしたのチームとしてもいろいろな本の活動をしていると思うのですが。

赤羽:今、会社として8冊出しています。今年も3冊企画をしていて、先ほども少し触れましたが、スポーツに関する書籍も含めてやっています。主にうちの高橋が移動中にひたすらiPhoneに打ちまくって書きおこして、実際の本はほぼほぼ高橋のiPhoneでつくっているんじゃないかというくらい書いています。

枡田:私も高橋社長とラジオ番組をご一緒させていただいていると、本当にお忙しくて。「今日はラジオの収録を何時までに絶対に終わらせて、このあと飛行機に乗ってどこどこに行かないといけないんだ」と毎月おっしゃっていたので。そのなかで、あのハイペースで本を出していらっしゃるのはどういう段取りなのかなと思っていたのですが、iPhoneだったのですね(笑)。

赤羽:移動中に物事を考えるのが一番好きで、それが趣味みたいな。

経営においても「好き嫌い」は大事

枡田:というわけで、楠木先生とあしたのチームの意外な接点をうかがうことができましたが、この後は赤羽さんにぜひおうかがいしたいのですが。先ほどの楠木先生の登壇のテーマは「『好き嫌い』の復権」でしたが、「経営における『好き嫌い』」というキーワードについて、赤羽さんはどのようにお考えでしょうか?

赤羽:はい、先ほどは「好き嫌い」の話、ありがとうございました。

楠木:いえいえ、こちらこそありがとうございました。

赤羽:ゲストでお呼びしておいて、私が一番楽しんでいて、ついつい笑ってしまう場面もあったんですけど、非常にわかりやすかったです。

私自身は「経営における『好き嫌い』」というのは、企業としてのスタンスを明確にすること、そして優先順位を決めることなのではないかと思っております。我々のサービスで言うと、目標を定めて「これをみんなでやっていこう」とするときって、やっぱり好きなものに取り組んでもらうのが一番いい。まさに今日のお話の通りだなと思っています。

目標管理、目標の仕組みに落としていくことが、一番生産性が高く機能するなと思います。今まで「好き嫌い」という言葉を出してはいけないと思いながら、それを仕組み化していろんな企業様に導入していただいておりました。改めて「あっ、『好き嫌い』っていう表現でもいいんだな」と、腹を決められた次第でした。

枡田:目標の大切さですとか、好き嫌いについての根底の考えが楠木先生と共通する点がたくさんあるということですね。楠木先生、この点はいかがでしょうか?

楠木:まったくおっしゃる通りで、僕は「『好き嫌い』の復権」と言っていますけど、なにも人間性の回復とか、人にやさしい組織ということを言いたいのではなくて。単純に商売の成果を極大化するために最も有効な方法だからだということなんです。

それは個人の幸せとまったく矛盾しない。ただ、従来の目標の設定の中に、もともと好き嫌いの要素って入れにくかったんだと思うんです。ですから、申し訳程度の好き嫌いインクルージョンを促進しようという動きが人事とかマネジメントのなかでできたら、単純にビジネスとして、ものすごく成果をもたらすのではないかと思います。

多くの人事的な手法が、スキルや良し悪しにとどまっていて、なかなか好き嫌いに踏み込めていないのではないかと思います。大きなビジネスチャンスはそこにあると思います。

赤羽:ありがとうございます。先ほどのお話と通じるところだと思うのですが、私どもも、今までやってきた集団管理というのが良し悪し族の最たるもので。これからは個別管理というか、個人個人の持ち場を守って、適材適所でしっかりとマネジメントできる仕組みがあれば最強の集団がつくれるのではないかと……。

楠木:そうですよね!

枡田絵理奈アナはどのような努力をしてきたのか

赤羽:ありがとうございます。ちょっと興味本位というところもあるのですが(笑)、目標管理をして努力していくことに関して、ぜひ、枡田さんにおうかがいしたいです。今まで、TBSのトップアナウンサーとしてやってこられて、どんな目標をもって努力されてきたのか、ぜひ教えていただきたいのですが。

枡田:恐れ多いのですけれども、私はTBSという企業に勤めていたんですけど。局アナというのは少し特殊で、依頼がなければ仕事がないという状態なんですね。

例えば、「何月何日にこの番組をやります」となった時に、第1希望は○○アナウンサー、その人がダメなら第2希望は○○アナウンサー、第3希望は○○アナウンサーでお願いしますというふうに番組から依頼が来てしまって。そこに名前が上がらなければ、ずっとテレビに出ることはできないという、かなり厳しい世界におります。

なので、一度もらったチャンスを手放してはいけないという思いのなか、必死にやっておりました。

とくに、私はスポーツの仕事をしたいなという思いを持って入社してきて、「ワールドカップとかオリンピックなどの中継の舞台に立てたらいいな」という気持ちがあったので。スポーツの仕事をもらった時は、みんなと同じことをしているだけではダメだなと思って。

例えば、休みの日にJリーグの選手たちの練習場まで行って、ゆっくり選手たちの話を聞ける環境をつくって、ほかの人が知らないようなエピソードを私だけが知っているという状況をつくったり。

100個勉強しても生放送で1個出せたらいいという、なかなか報われない現場ではあったのですが。一度、サッカーのヨーロッパの試合の中継の時に、雷で停電して試合が中断してしまって、「1時間トークでつないでください」と言われたことがありました。そういったときに、はじめて100個勉強したうちの今まで出せなかった99個が役に立ったことがありました。

そういう一つひとつの信頼を積み重ねて、次の仕事に繋げていけたらいいなと思いながらやってきました。