成果を出すのはがんばる人よりも“凝る人”
楠木建氏の「無努力主義」のすすめ

「好き嫌い」の復権 #3/3

2018年2月21日、株式会社あしたのチームが主催する「あしたの人事クラブ発足記念パーティ」&『あしたの履歴書』出版記念イベントの一環として、特別講演が催されました。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木氏が登壇し、「好き嫌いの復権」をテーマに、これからの組織のあり方や個人の働き方について提言を行いました。本パートでは、仕事で成果を出す働き方について解説します。楠木氏が説く“無努力主義”や“努力の娯楽化”とは?

好きだからこそ「余人をもって代え難い人」になれる

楠木建氏(以下、楠木):そう言いますと、相田みつを系の話に聞こえるらしいですね。オンリーワンで良いんだよといったように。僕はまったくそういうつもりはなくて、けっこう世の中を厳しめに見ております。そんな甘いものじゃないだろう、仕事は。

だいたい、他の人ができることが普通にできるというのは、いろんな代案や他の人もいるわけで。それでは、プロの世界ではゼロと同じだと思います。これができる、あれができると言っているうちはまだまだ素人で、余人をもって代え難いというのが本当の仕事なのです。

今の良し悪しは、インセンティブ。スキルがそうなのですが、こういうことをやると良いんだよという。インセンティブがあると「よし、じゃあ英語を勉強するぞ」と、努力が強制されるのですね。そうすると、英語が上手くなる。プレゼンテーションが上手くなる。

そうすると、昇進や報酬などの良いことがあります。そうすると、ますますよーしと言って努力が強制されて、こうした構図になってくる。担当者の世界ではこれが大切なのですね。スキルですから。

ところが、振り返ってみますと、僕の場合は、努力しなきゃいけないなと思ったことで、これまで本当に上手くいったことはただのひとつもないわけです。まだ53歳なのですが、少なくともこれまではなかった。

こう思った時点で僕は、極論すれば、(努力が必要なことは)もう向いていないということだと思うのです。これは「お前はすでに死んでいる」という面がありまして、結局のところ僕が行き着いた仕事の原則があります。これをぜひご紹介したいのです。

がんばらない「無努力主義」

無努力主義。これ、相田みつをさんも、「がんばらなくてもいいから具体的に動くことだね」というけっこう厳しい人だったということが後で分かったのですが。がんばらないということが大切だと思うのです。

つまり、努力の娯楽化というロジックなのですが、先ほどのドライブ(動因)ですね。起点にそれがすごく好きであるということがある。ここがポイントなのですが、端から見ると、その人はものすごく努力しているように見えるのですよ。ただ、本人には努力という意識がない。好きでやっているので、娯楽に等しい。

例えば、僕で言うと、文章を書くことが大好きなのです。本当に大好きなので、例えば、本当に調子が出てくると、僕は朝早めに仕事場に入るのですが、7時くらいには始めるのですが、よーし書くぞと調子にのって書き始めると、時計を見ると10時なのです。もう3時間もやっていたのかと思って、ふと外を見ると真っ暗なのですよね。夜の10時だったのです。15時間もやっていたの? と。もうトリップしちゃっているのですね。

これ、文章を書くのが嫌いな人から見たら、ずいぶん努力してるねぇ。本人には娯楽に等しいのですね。これを努力の娯楽化と呼んでいます。

端から見ると努力と言えるものが、自然と継続します。これで上手になって、余人をもって代え難いレベルまで行く。そうすると、人の役に立てる。頼りにされる。人間はけっこう単純なもので、そういうことになるとさらに好きになるという。

これを、頭(好き)と尻尾(成果)を取っていうと「好きこそものの上手なれ」という話です。僕は、このロジックでなければ、申し訳ないけどセンスが出てこないのですよ。

企業をブラックとホワイトで分けるべきか

そうした意味では、がんばらない。大切なのは、凝るという感じなのですよね。この瞬間に持ち込めるかどうかということが、今の仕事の成果を大きくするのです。

そうした観点で、昨今の働き方改革について僕の意見なのですが、とにかくブラック企業やらホワイト企業と呼んでいることが大嫌いです。

もちろんブラック企業は良くないですよ。ただ、本当に悪いというのは、普遍的な価値観で悪いわけであって、単純に、僕は犯罪だと思うのですよ。労働基準法違反などは単に犯罪としてしょっぴけばいいわけで、ブラック企業などと言わずに、犯罪者と言えば良いのです。昨今のブラック、ホワイトという話ですね。

でも、仕事がきついなどは、主観的な認知を問題にして言っている面が多いです。それは、働いている一人ひとりの好き嫌いに大きく依存する。そんなに単純に「ブラック」「ホワイト」と当てはめられることではないのではないかと。

例えば、こうした問題(電通の違法残業事件)が起きますよね。これ、たしかにいろんな問題があって、一部は、普遍的に悪いことだと思います。ところが、すぐに棚上げフェスティバルが始まるのですよ。例えばメディアが、電通をガンガン叩きますよね。

つくづく不思議なのは、文春砲を一発ぶっ放すだけで、何人が徹夜しているんだということなのですよ。ところがメディアは棚に上げるのですよね。これはよろしくないと。

電通に捜査に入った、正しさの元締めのような、あそこ。僕が言っているのは、霞ヶ関の、厚労省の、要するに官僚の方達。この人たちの本当の労働時間を、ぜひ公開してくれと。届けられている労働時間は、まったく事実と違いますから。これは公然の秘密ですが、時間だけ見れば超ブラックですよ。

ただ僕は、まったく批判する気にはなれないのですよ。それは、そうした仕事なのですね。そういう仕事が世の中に必要なのです。国会が動いているのでね。なにかいろいろと法律も通さなきゃいけないでしょ? 徹夜も必要なことがある。

例えば、ブラック企業批判をされますよね。柳井さんの方も。なんなんだと言うと、店舗で働いてる人が、もう仕事柄キツいしね? プレッシャーもすごく重いと。人格が破壊されちゃう。これはブラック企業だと言うのですが、じゃあ、こうした仕事はどうかと言いますと。「お前、明日モザンビークに行ってこの10億円絶対に取り返してこい。できるまで帰ってくるな」という仕事ですよ。

これ、ファーストリテイリングで死にそうだと言う人は、ここ(商社など)に行ったら即死ですからね。

(会場笑)

「好き嫌い」に負けはない

それはどうしてかと言うと、そういうことが好きで、分かった上で来ているからですよね。こうした仕事。そういう仕事なのです。好きでやっている、少なくとも嫌いじゃないですよねといういう。人によって違うのですよね。

ですから僕は、ブラックホワイトというのは即時やめて、ピンク企業、ブルー企業と言ってくれと。ピンク企業と言ってもDMMのことじゃないですからね。これは、要するに会社によってカラーが違うというだけなのです。好き嫌いが違うというだけなのですよね。

当然ピンク、ブルーだけじゃなくて、グリーン企業もあればオレンジ企業も、イエロー企業もあって良いのですね。当然ゴールド企業もあります。どこかと言うとGoldman Sachs(注:アメリカ合衆国に本社を置く株式・債券・通過・不動産取引のブローカー)です。みんなでギラギラ金儲けのことばかり考えている。

それで良いのですよね。そういうことが好きな人たちが集まって、ハッピーだというわけですから。これはもちろん言うまでもないことです。

ただ、好きな人は、過程でけっこう報われているのです。さっきの努力の娯楽化じゃありませんが。なにが良いかと言うと、好き嫌いに負けはないのですよ。良し悪しには負けがあるのですよ。

だいたいですね、「もっと英語ができるようになりなさい。TOEICは何点取りなさい」。これは命令できます。ただ、「お前阪神好きになれ」って巨人ファンに命令はできません。お金を出してもなかなか、阪神ファンになりにくいと思うのです。しかし、別に強制しなくても、巨人のことは応援する。

『グッドフェローズ』というヤクザ映画、ギャング映画をご覧になったことがありますか? あれ、モデルになったのが映画の中でロバート・デ・ニーロがやっていた、James “Jimmy the Gent”Burkeというアメリカのすごく悪いギャング役なのですよ。

有名な逸話なのですが、もうこの人は強盗が大好きなのですよ。どのぐらい好きかというと、今ここに、キャッシュで100万ドルがある。こっち側に、100万ドルが金庫に入っているかもしれない家がある。この人に、どっちにする? と言えば、躊躇なく「家に行こう」と言って家に押し入ります。これは、すごく例としては差し障りが悪いことですが、ただ、好きというのはそういうことなのですよね。これ(カネを出しても買えないもの)が最強だと。

もう話は終わりますが、こうした(多様性を高めなければならないという)話一つ取っても、僕は根本的に間違っているのではないかと。つまり、今は多様性がないという前提で、だから多様性をぶち込まなければいけないという話なのですね。ぜんぜんそんなことないのですよ。

その点僕は、サイボウズの青野さんは本当に良いなと思っています。多様性は、今、絶対にここにある。だから、ぶち込むのではなく、もともとある多様性のインクルージョン。これが大切なのだと。

どうしてそれが多様性なのかと言うと、(多様性の最強の源泉は)好き嫌いなのです。当然好きなことを、結果として得意なこと、そうすると組織の中でもぜんぜん違うのですね。これは男女の差よりもずっと大きいと思うのですよ。

僕は、マネジメントでも、一人ひとりがもっと、自分の好き嫌いを表明する。それを受け入れて、なるべく好きな仕事をさせるというのが、これが一番成果が出るに決まっていると思いませんか?

ただし、会社なので。そこに局所的な価値観があります。この一点では争わないという。これはもう個人の好き嫌いではないです。

例えば、さっきのサイボウズはグループウェア会社なので、世界最高のグループウェアを作る。この一点では絶対に争わない。ただ、あとは好き嫌いなので。もしこの会社の好き嫌い、グループウェアを作る、これが嫌いなやつはそもそも入ってくるなという。こういうことなのですよね。

経営は好き嫌い族の仕事

冒頭の好き嫌い(族)と良し悪し(族)に言いたい。

今、人間には「良し悪し族」と「好き嫌い族」がいると思いますが、良し悪し族は、(氷山に例えると)なるべく水面の上(に出ている部分)を大きくしたいと思っている人なのですよ。とにかくこれは良くてこれが悪いと先に決めて、良いことをやりなさいと言う。好き嫌い族というのは、一人ひとり違うよねと。

だから、「ブラック企業」「ホワイト企業」と言う人はだいたい良し悪し族ですね。そして、どうも良し悪し族がでかい面をし過ぎているのではないかと。このせめぎ合いがあると言って。僕は、そういう意味では、経営というのは好き嫌い族がやることであると思うのです。これは政治とは違うわけで。

好き嫌いインクルージョンができる組織が強い組織じゃないのかと。

結論といたしましては、好きなようにしてくださいということでございます。余計な話で失礼いたしました。ありがとうございました。

(会場拍手)

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