自動運転技術を用いたサービスを自社展開することを決定

アマテラス藤岡清高氏(以下、藤岡):前回のインタビューは2014年春でしたが、あれから約3年間経過しました。その後の変化について教えていただけますか。

谷口恒氏(以下、谷口):当時の社員数は34人でしたが、今は90名まで増えました。事業範囲が拡張し、2017年末までにさらに社員数を増やす予定です。

主力事業である自動運転の技術開発は以前から変わらず進めており、BtoBの自動車産業向けのビジネスとして自動車メーカーや部品サプライ向けに研究開発用として販売しています。

そして、現在は自動運転技術を「交通弱者」と呼ばれる方々に届けるサービスを自社で運営していくことを構想しています。この決定は3年前との大きな違いです。自動運転技術を用いた自動運転タクシーというサービスを提供するところまで、他人任せにせずしっかりコミットしなければ、自分がやりたい信念を実現することができないとわかったのです。

自動運転タクシーと有人タクシーのコンビネーションでより便利な社会を

谷口:2017年6月に、タクシー配車サービスの構想を発表しました。まずは一般の有人のタクシーの配車から始めますが、その後需要を見ながら2020年東京オリンピックの頃までを目標に自動運転タクシーを整備していく予定です。

許認可や投資によって自動運転のカバーエリアが変わりますが、お客様の利便性を考えたサービスを提供したいと考えています。

例えば羽田空港から東京駅までタクシーで行きたい時に、自動運転タクシーのサービスは羽田—お台場間しか展開していないとします。お台場までは自動運転で行き、そこから東京駅までは有人タクシーに乗り換えないといけません。

そういったコンビネーションの問題に対して、乗り換えの待ち時間を少なくする配車サービスや、最初から有人タクシーを使用する場合と乗り換えをする場合の、所要時間や値段を比較する乗り換え案内を提供しようと思っています。

日本中を自動運転タクシーが走るにはまだ時間がかかりますし、実現するのかもわかりません。車椅子を利用する方にとっては有人タクシーの方が便利ですし、仕事などを車内で進めたい人にとっては自動運転タクシーの方が喜ばれます。

そうすると有人タクシーの把握も必要になるので、自動運転タクシーと並行して自社でサービス全てを提供しようと考えています。そこで、大手タクシー会社と提携しました。

人でないとできないこともあり、有人タクシーはこれからも絶対に必要なので、提携会社とは共存共栄します。メンテナンスや整備士は継続して必要なので、自動運転は雇用を突然奪うものではありませんし、何よりタクシー会社の収益の改善に貢献できます。

谷口:タクシー業界は売上の6割がドライバーの取り分なので固定費が高く、利益がほとんど出ない状況です。自動走行タクシーを導入することで固定費がグンと下がり、収益構造を改善できます。

人でないとできないものはその付加価値から値段を高く設定し、ユーザーが選択できるようにします。そういう形で発展できる産業だと考えています。

香港はタクシーの利便性がよく、大体6万台あります。他方、日本のタクシーは、東京を例にするとどんどん減っていて今は5万台を切っています。東京では2009年から2014年の5年間でタクシードライバー数が2割減り、今度も増える見込みがなくオリンピックまでにさらに5000台減ることが想定されています。

人でないと提供できないサービスは維持しつつ、自動運転タクシーを参入させて日本も香港並みに便利で安くなると、お客様も乗るようになる。そうすると、減少し続けるタクシーの数も増加に向かいます。

藤岡:タクシー業界が抱えるタクシードライバーの確保という課題を、ロボットタクシーの技術で解決できるのですね。

谷口:はい。ドライバーが儲からない仕事もあって、例えば大きな施設と公共機関との間のピストン輸送は収益があまり良くありません。そういった単純な輸送を自動運転タクシーで代替すると、ドライバーは長距離などの稼げる仕事に専念できます。

ロボット技術でタクシー業界の「おもてなし」品質を守る

谷口:ウーバーなどの海外で流行っているサービスをそのまま日本に導入しても、上手くいかないのは目に見えています。日本のタクシーは海外と比べても質が高く、資格も必要です。

アメリカだとドライバーが目的地を知らなかったら降ろされてしまうのですが、日本のドライバーなら一緒になって地図を見ながら探してくれます。

日本のタクシーは世界的にも評判がとてもよく、おもてなしの品質を守ることも必要ですが、ウーバーではそれが担保できません。

ですので、日本は得意なロボット技術を取り入れてタクシー業界を発展させて行くべきだと考えています。この考えに共感する方が多く、サービスを実行することまでが弊社の使命だと思っています。ウーバーに勝つ日本版のソフトやスマホアプリを開発するために、サーバーエンジニアのような人材も募集を始めました。

自動運転技術を宅配サービスにも活用

藤岡:3年前から社員の数を60名近く増やされましたが、エンジニア人材を中心に増やされたのですか。

谷口:エンジニアが多いです。事業推進担当も増えました。それから、物流支援ロボット キャリロの量産が2016年8月から始まり生産管理や生産技術、品質保証といった生産周りの人材も増やしました。

キャリロは現在大手50社以上で利用していただいており、実際使ってみたレビューからお客様と一緒に機能を高めているところです。

工場や倉庫での利用が一段落しましたので、次からもともとの狙いであった一般道路向けのサービスです。例えばお年寄りの方がコンビニのカット野菜やパンなどを、スマホで注文すると宅配ボックスを載せたキャリロデリバリーが届けてくれます。

ロボット自体は既に完成していて、スマホとの連携も大よそできています。機能実験を終え、実証実験を行っている段階です。

藤岡:このサービスはオフィス向けでもニーズがありそうですね。人手不足のクロネコヤマトなどの宅配業者にも応用できますし。

谷口:自動走行宅配ロボット キャリロデリバリーは歩道を走行しますが、歩行者や自転車との衝突回避や夜間の走行を想定して、ブレーキランプやウィンカーを付けています。実験では時速4キロほどで走らせていますが、360°見渡せるセンサーがあり、人が来るとちゃんと止まります。

今後は3次元地図の作成機能を考えています。一度手動で動かすと自動運転のマップを作り、その範囲内ならどこへでも自動で行けます。

谷口:フードデリバリー関連企業にも利用を呼び掛けています。フードデリバリーは年々2%ほどの成長を続けています。しかし、配達員の不足から成長が頭打ちになっています。配達をロボットで代替すれば、数百億円規模のものすごい規模の市場に参入することになります。

藤岡:開発された自動運転の技術をロボットとして売るのではなく、サービスとして提供するのですね。それがZMPの考え方だと伺っています。

谷口:お客様はサービスを求めています。1回食べ物を運んでくれることを求めて、ロボットを買う人はいません。配達員が不足しているなら、ZMPがロボットを活用して配達するサービスをすればいいのです。

外国籍社員の割合が60%超。多様性あふれる社内

藤岡:外国籍社員の比率が3年前は50%ほどだったと思いますが、現在はどうなっていますか。

谷口:以前は50%ほどの比率で、その国籍は11カ国でしたが、現在は60%を超え、国籍は18カ国に及びます。当初は外国人率50%という制限を設けていましたが、この制限は廃止しました。

今は外国籍の人たちの方が多く応募してきますし、優秀な方も多数います。営業職などは言葉の問題から採用しておらず、主にエンジニアとして採用しています。世界にも日本にも優秀なエンジニアはたくさんいますが、日本は大企業志向が強く、外国籍の人よりは応募者が少ないです。

藤岡:もともと日本にいる留学生や日本に滞在している外国の方が、ZMPに就職するのですか?

谷口:もちろんそのパターンもありますが、初来日の人もけっこういます。ロボット/エンジニアで検索すると、日本だと多分ZMPが最初に出てきます。

また、「外国人が多くて働きやすい」ということも、コミュニティ内で知られているようです。外国籍率6割だと、もはや日本の会社ではなく、マジョリティは向こうにありますからね(笑)。