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人工知能の研究開発と人文・社会科学への期待(全2記事)

2018.04.10

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2019年にデジタル技術が社会変革を起こす? 情報科学の研究者が説く「半世紀の法則」

提供:国立開発研究法人科学技術振興機構

2018年3月14日、東京大学 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホールにて、科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)が推進する「人と情報のエコシステム」 研究開発領域シンポジウムが開催されました。ビッグデータを活用した人工知能、IoT、ロボットなどの技術と社会の共進化を目指す取り組みの一環として特別講演が催され、人工知能技術戦略会議議長の安西氏が登壇。本パートでは、世界的に見た日本のIT技術の現状や、情報技術と人文・社会科学との関わりについて解説しました。

人工知能技術戦略会議議長の安西氏が登壇

司会者:それではこれより特別講演を行います。日本学術振興会理事長、人工知能技術戦略会議議長、安西祐一郎様どうぞよろしくお願いいたします。

安西祐一郎氏(以下、安西):ご紹介いただきました安西でございます。本当にお招きいただきましてありがとうございます。

私の最大の関心テーマの1つでもありますが、難しくて私自身もなかなか答えが出ない。とくに2行目ですね。人文・社会科学への期待というのが事務局からのテーマでありますが。

本日は人工知能の研究開発についてということで、今、原参事官が言われましたように人工知能技術戦略会議のまとめ役をやっております。

そういうことから話をいたしますが、やはり人文学・社会科学とどういうふうに一緒にやっていくのかはとても大事なことなので、できるだけそちらに時間を使いたいと思います。

と言いながら、今チラシを見てると次がパネル(ディスカッション)で「AIは人を幸せにするか?」ということなのだそうですが、実は明日高齢者のための街づくりというところで講演をやることになっておりまして、そのスライドを1枚だけ持って来ております。

これはIT・AIという言葉は入っておりませんが、明日は、人が中心になるような考え方をしていかない限り、幸せになることはないんだという話をやることになります。

前置きが長くて宣伝で申し訳ございませんが、今週土曜日にはだいたい3~4歳から小学校2年生にかけ子どもの情動と社会性。それから知的なスキルの発達、言語も含めて。そういう発達の過程についての講演をやることになっております。

技術革新から半世紀経つと社会が変わる

科学技術革新と社会変革の関係は、古くから見るとだいたい半世紀ごとに変わってくる。“半世紀の法則”という名前を付けたのは私でありますが。

最近は短くなっていますが、こうやってご覧になればわかりますように、技術革新が出発してからだいたい半世紀経つと、大昔でも社会が変わっている。それは今とほとんど似ている。

ご存知の通り、ARPANET(Advanced Research Projects Agency NETwork)のパケット通信の新しい技術が入りましたのは1969年のことでありますから、そこから数えて来年が半世紀であります。

途中にいろいろなことがありましたが、インターネットをはじめとする情報通信のデジタル化が挙げられます。これがやはり人間、それから社会を変えるようになってきているということです。

下に赤で書いてありますように、これもさきほどのパンフレットを見るともうすでにいろいろご研究をおやりになっているのとほとんど一致します。「物質・心・社会・環境」の境界をなくすような技術の研究開発競争、それから、それがガバナンスの問題に及んでいるということです。

国家資本主義の問題。そういう問題まで含めて、デジタル技術が世界的な社会変革の起爆剤になってきていることは申し上げるまでもありません。 それからもう1つは、国内国外について。これもご存知の通りで、国内については、1990年代のはじめから若年人口の急減ということが起こってきているわけです。

もっと昔から数えると、いわゆる団塊の世代、18歳人口で1966年がピークでありますがそのときは18歳人口が245万人いましたが、今は120万人。今後100万人を割るという予測になっているわけですね。そういう中でのいろいろな問題がある。

国外においては、さきほどの話に続けて1990年代に日本ではバブルが破裂しましたが、世界ではソビエトがなくなったり東西ドイツが統合されたり、あるいはデジタル携帯電話が出てきたりインターネットが出てきたり。いろいろなことが起こりました。

1990年代の初頭から半ばが分岐点だったと考えられます。このときから今まで、すでに20年くらい経っているわけですが、この20年の間、何をしてきたのかということは我々の世代には問われることだと思います。

日米のIT領域の研究開発力

一方で、IT関連企業の国際競争力について。この中に関係企業がおられたら申し訳ありませんが。少し古いのですが、この間も日経の1面トップに日経の調査による研究開発力の調査が出ておりました。

日本のとくにIT関係の企業の国際性は、いくつかの本当に数えるほどのところを除き、もちろん国際的な企業もあるのですが、それも問われる時代になっている。

これは、ご存知の通りのデータで、アメリカの6大ITメガ企業の年間の研究開発投資額を合わせますとだいたい5兆6000億くらいというデータになります。

日本が国として科学技術の基本計画に沿って出している年額は、だいたい4兆円台です。日本の政府が出している科学技術の投資額よりも、アメリカの6大IT企業の研究開発投資のほうが大きいということであります。

ご存知の通り、これはIoTだけではありません。もちろんバーチャルな部分も含めてIoAgentsから、Ioなんとか、Ioなんとかっていろんなものが重なりまして、その中にブレイン・マシン・インターフェースもあります。いろいろな技術が重なって、例えば人間だかロボットだかわからないような両方の人格が入っているような、そういうことが起こり得る時代になってきているということであります。

これはもういいと思いますが、と言いながらやってるんですけど(笑)。AI関連のマーケットの伸び方。だいたい日本円にして、100万米ドルと書いてありますが、2024年でアメリカでもってだいたい4兆円以上という予測があります。

それぞれの分野はここにブルーで書いてありますが、こういう通り。その中でとくにスタートアップ企業です。この力がアメリカでは大きいことも、よくご存知の通りです。

さきほど申し上げましたアメリカのITの大企業と先端的な技術を開発している小さなスタートアップ企業が一緒になって、買収もいろいろありますが。そういう活力でもってやっているわけです。これをオープンイノベーションと呼ぶわけです。

いわゆる死の谷とかそういうこともあまり関係ない。必要な技術は世界中を探してそこから持って来ればいい。それをアセンブルして、それでマーケットに出すというのは当たり前の世界になっている。

多様性と柔軟性が必要な時代

一方でそれぞれの個別の技術開発はしっかりやっていかなければいけないので、そこのところへきちんと投資していくことが必要です。大企業というよりはスタートアップ企業の技術力をこれから伸ばそうというところに投資をしていくことが大事だと考えられます。

これも産業構造が若干変わると、経済産業省の2030年に日本の産業構造がどう変わるか。その中で昨年度2016年の4月から第5期科学技術基本計画が始まっている。これは答申から持ってきたものであります。

その1番上にある、第1章の1番最初に「多種性と柔軟性、国際的に開かれたイノベーションシステム、各主体の持つ力を最大限発揮」と書いてあります。これは、日本の文化と真逆なわけです。

日本の文化はシニアに従う。若者はきちんと言うことを聞いて、学校ではお勉強をして言われた通りに覚えて、それでやっていくのが当たり前だと。

そういう文化があったというか、あるわけですが、それによって、日本は誠実さとか労働への勤勉さとか、あるいは街にゴミを捨てないとか、そういういろいろないいことがあるのです。そういう習慣が身についているわけです。一方で多様性とか柔軟性ということはほとんど考えにくいということです。

日曜日に横浜のみなとみらいで、ノーベル財団と私ども日本学術振興会の共催で「ノーベル・プライズ・ダイアログ2018」というのをやっておりまして。これは丸1日の一般向けのフォーラムで1,000人以上のお客様がみえました。

これのスタイルは、こういう1時間ごとの講演というのはまったくやらない。全部20分以内に切る。それから主体は対話になります。そういうのでどんどん、どんどん回すことによって、経験するとおわかりいただけると思いますけど、会場におられる方も頭を使わざるを得ない。

むしろ惹きこまれて「次は誰が出てくるんだろう」「彼らが言っていることは自分にとっては何なんだろう」と考えていくようになります。これもそうですけど(笑)、1時間しゃべりまくられると「ふーん」っていう感じ、「ああ、そうですね」という感じになります。そういう違いは多様性と柔軟性の違いだと思います。

日本の人工知能技術戦略の現状と目的

日本の人工知能技術戦略は、今までお話したようなバックグラウンドがある、というのが私の認識です。2つございます。本当は3つ目もそろそろ走るのですが。

1番目は、さきほど原さんも言われた人工知能技術戦略会議です。これは第5期科学技術基本計画が始まったのと同じ昨年の4月に出発いたしました。

その後いろいろと変わったのですが、今は内閣府が事務局をやっていて、そこにありますように総務省、文部科学省、経済産業省が研究開発の基盤を作っていくような、そういう官庁と位置付けられています。

それから出口官庁とよく言われるのですけど、農林水産省・厚生労働省・国土交通省の3省は、本当によく関わっていただいております。よく「省庁は縦割りで絶対一緒に仲良くはしない」「省庁連携のプロジェクトは必ず失敗する」と言われているのですが、今のところ非常に連携をもってこれを進めていただいている状況があります。

この戦略会議の大きな目的というのが、もちろん私はAIは民間が主体になって進めていく横串の技術ですから、そういう技術だと思います。

その一方で、日本の現状とアメリカとの乖離、あるいはドイツとかイギリスとかそういうところを見ておりますと、やはり政府がある程度の道筋を付けないといけないのではないか。そういう役割を持っているというふうにご覧いただいていいのではないかと思います。それで研究開発目標と、とくに産業化ロードマップを一応提示するということをやってまいりました。

また産学官の一体的な研究開発をしていこうと。総務省はNICT(National Institute of Information and Communications Technology)、情報通信研究機構。文部科学省は、理研に革新知能統合研究センターができまして、それから経産省は産総研の人工知能研究センターです。

この3つの研究センターがいわば基盤技術の開発を担うかたちになっております。農水・厚労・国交、もちろん経産・総務・文科も含めてです。

やはり社会を変える、あるいは経済を変えていく起爆剤にならなければならないということを相当強く念頭においておりますし、大学の先生方にもそういう意味で付き合っていただいているということであります。

もう1つは、官民研究開発投資拡大プログラムで、俗称PRISM(Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM)と申します。これはすでにいろいろな省庁がAI、あるいはIoT等々の開発や投資をしております。

そういう方々にさらに内閣府がアドオンして、これからの、むしろ連携をもってある方向に技術開発を進めたい。その技術開発を見ながら民間が投資を誘発されていくような、そういう魅力のあるテーマを出していきたい。これがPRISMの目的でございます。

3番のその他は、4月以降走るものがあるはずですが、これからのお楽しみということです。人工知能技術戦略会議はこういうことで始まっておりまして、目標は今申し上げた通りでございます。

人工知能技術と3つのロードマップ

このロードマップは全部NEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization)のホームページに載っておりますので、そちらをご覧いただければと思います。

とくに3つの分野です。1番目は、広いですけど、生産性とサービスの分野。2番目は健康・医療・介護。3番目はモビリティです。自動走行車とかそういうものも含めて。走行車も開発すればよいというものではありませんので。

モビリティ社会をどうやって作っていったらいいか。例えばそれこそエルダリー、お年寄りが本当に住みやすい街づくり、これも含めてモビリティと呼んでいます。

細かくてほとんど見えないと思いますが、これは生産性・サービスの分野のロードマップです。やはり、ものづくりから価値創造は当たり前のことなのですが、そういうふうに銘打っております。

これは健康・医療・介護ですが、健康長寿をサポートしたいということです。おそらくこちらで考えておられることのかなりの部分は技術的には重なるかと思います。

人工知能技術戦略会議においては、人文学・社会科学をどうしたらいいの? と。もちろんある程度の議論はしておりますが、「本当に法制度について具体的にこれをやるんだ」という議論は少しまた別のところになるわけです。

これは3番目のモビリティです。本当に自由な移動が誰でも可能になる環境とはどういうものか。このロードマップは豆粒みたいで、ロードマップだなと思っていただければいいのですが、1番右のほうが2030年くらい、真ん中あたりが2020年から25年ということになっています。

これを作るのに相当苦労しています。理由は、2030年に社会がどうなっているかほとんど見通しがきかないからなのです。

例えば、在宅医療をはじめとした健康・医療の問題にしましても、厚労省等々でもそうですが、医療費がどんどんうなぎのぼりの状態の中で、医療や介護の人材の問題もあります。医療・介護も在宅でできなければいけない。

これが進んでいったときに、健康・医療・介護も変わってくるし、モビリティの部分も変わってくるわけです。それから保険制度もそうです。そういうことがどういうふうに変わっていくかはなかなか見通しがつきにくいわけなのです。そういうことは一応背景として申し上げておければと思います。

そういう中でのロードマップであります。ほかの政府のいろいろな会議がありますが、この人工知能技術戦略会議は、ここにあるような未来投資会議とも連動しております。

とくに政府の人工知能技術を中心にした、いわゆるサイバーフィジカルの技術を推進していくには、セキュリティ・IoT・ビッグデータの技術が入ってまいります。そういう方向でいろいろと進めております。

AIを社会に普及させる際の課題

PRISMは申し上げた通りで、PRISMの様相はまだまだ出てきておりません。今議論中で、4月以降いろいろ出てくると思います。例えば農林水産省でしたら、農業の分野でIT・AIをどうやって活かすことができるか? 

例えばフードサプライのチェーンです。農家から生産部分から在庫、流通など。流通といっても、一次流通、二次流通といろいろありますから。そういうことを全部含めて、AI・ITでトータルにサポートできるか?

これは実は、技術の問題はほんの一部なわけです。やはり規制ですね。規制とどう向き合うかが、今申し上げたような課題だと思います。健康の問題もそうです。介護の問題もそうです。AIを社会に浸透させようと思ったときには、むしろ社会を変えるということはどういうことなのか。それはどのくらい大変なのかということが最大の課題になってまいります。

PRISMは3つの領域が走っており、1番目はサイバースペース、2番目はフィジカルスペース、3番目はインフラです。

赤で囲ったサイバー空間の領域統括は私がやっております。今そこでいろいろな話をしているのでありますが、むしろ、ほとんどは規制の問題なのです。

これはおそらく社会科学と本当に密着した話になります。ただ学問というよりは現場の問題になってまいります。そこを突破しないと新しい時代はなかなか開けないということだと考えています。

これは私のサイバー空間基盤技術における5つのテーマでございます。これをご覧いただければ、ほとんどいわゆるITすべてをカバーしているような、あるいは制御技術まで含んでおりますが、そういうことだとご覧いただけるかと思います。

結局AIというのは、いわばトッピングみたいなもので、その下にあるハードウェア、あるいはネットワークの技術、あるいはクラウドからエッジコンピューティングからいろいろな技術が一緒になって総合化されたうえで、初めてAIというのは動くものであります。

AIのプロジェクトを進めようと思うと、結局のところこういうことをやらなければならなくなります。この下に規制の問題、社会の問題がある。こういうことになります。

ご存知の通り、AIはディープラーニングをしてもしないにしても、現実には最大の課題は、私の見るところハードウェアのスピードだと思います。これをどう見るかということも関係があります。

これはフィジカル空間の基盤技術というところで進めることになっておりまして。AI用のハードウェアアーキテクチャですね。これは大事なところになっていくと思います。

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