「北朝鮮もトランプ政権の出方を予測不能と受け止めている」
共同通信の元平壌支局長が語った、金正恩政権の動向

「ピョンチャンオリンピック後の北朝鮮」記者会見 #1/2

2018年2月27日、外国特派員協会にて、「ピョンチャンオリンピック後の北朝鮮」というテーマで記者会見が行われました。会見には、共同通信の平壌支局長を経験した磐村和哉氏が登場し、今後の北朝鮮の動向について私見を述べました。

北朝鮮は情報も入ってこない国

磐村和哉氏(以下、磐村):羽生(結弦)さんが北朝鮮の選手と平昌の練習場で出会ったという話がご紹介されたようですけれども、私も何度が平壌で北朝鮮のフィギュアスケーティングというのは見たことがあります。

そのときに平壌の国際大会に来ていたロシアのスケーターに話を聞きました。そのロシアの選手が語っていたのは、北朝鮮のレベルというのはまだ発展途上であると。そして基本はできているけれどもやはり情報がないせいなのか、いわゆる世界のスケーティングの潮流とはまだ距離があるという話をしていました。

私も何度か別の北朝鮮の競技団体の役員から最新の技術テキストブックを提供してもらえないかと頼まれたことはあります。北朝鮮は情報を公開していない国ですけれども、逆に情報もなかなか入ってこない世界であるということをそのとき実感しました。

その北朝鮮が今年に入って韓国に対する対話攻勢というものを強めています。その狙いについてこれからお話しようと思います。お手元に用意しましたレジュメに沿ってお話を進めます。

北朝鮮の狙い2つ

多くの専門家が指摘していますように北朝鮮の狙いというのは主に2つあります。1つは韓国をアメリカからの軍事的圧力の盾にするということです。北朝鮮は核を開発することによってアメリカが攻撃できないと言っています。ただそれでもやはり不安なのだと思います。

そして2番目は経済制裁に抜け道を作る道具として韓国を利用するということです。ただし今お話した2つはあくまで我々が外から見た分析です。

もう1つ重要な点というのがございます。それは北朝鮮も韓国も今年分断70年を迎えています。その民族の分断という負の遺産、これを解消するということが北朝鮮の指導者、韓国の指導者に共通する想いがあると思います。

これは誰も反対できません。分断の歴史というものを解消する。その政治的な業績というものが金正恩委員長それから文在寅大統領、双方にとって必要であると言えると思います。

ただしその分断の遺産を解消するというプロセスにおいて、やはり非核化を置き去りにしたまますすめることは国際社会との強調という意味で韓国にとっては大きな負担となっています。

韓国は南北対話と米朝対話、これを同時に進めることによって自分たちのポジションを確保しようとしているようです。韓国の外交が今非常に難しい課題を背負っていると言えると思います。

金正恩氏は地政学に関心

では北朝鮮はどういったシナリオを考えているのかというお話をします。レジュメの2番目の部分ですね。

金正恩委員長のキャラクターというのは非常に国際感覚に富んでいると私は見ています。これは私が個人的にそう思っているだけではなくて、さまざまな情報からそういう判断をしています。

例えば金正恩委員長が北朝鮮が最高指導者になってからヨーロッパに若い官僚を派遣しています。そこで彼らはなにをしているかと言うと、さまざまな国際情勢、とくにアメリカ、日本の政治動向に関する情報を集めて分析しています。

例えばアメリカの大統領に最も影響力のある政治家は誰なのか。日本の首相に最も影響力のある政治家は誰なのか。そういった情報も集めているようです。

そしてもっとも特徴的な部分が、金正恩委員長が非常に地政学に関心を持っているということです。その中で最近の動向とまったく一致する動きというものがございます。

それは金正恩委員長が今ランドパワーを作り上げようと動いているということです。核問題について対話での解決を求めている中国、ロシア、これに加えて今韓国を仲間に加えようとしているようです。

そういったランドパワーが対抗しようとしているのがまさにシーパワーであるアメリカと日本ということになります。

こうしたシナリオは去年北朝鮮の公式メディアである労働新聞の記事にも、去年から目立つようになりました。それから金正恩委員長自身の演説の中にもそうした地政学的な発想を伺わせるものがあります。

過去に北朝鮮はさまざまな合意を覆してきた

そうした中で今動いている状況、3月にパラリンピックが終わったあとどうなるのか。北朝鮮の選択肢はなんなのかについて考えてみたいと思います。

いわゆる微笑み攻勢、チャームオフェンシブといったようなものを続けると思います。そのカードとしては韓国が求めている離散家族の再会。それからいろいろな文化的なイベント、交流行事、そういったものを北朝鮮は準備していると思われます。

ではパラリンピックが終わったあとにアメリカと韓国が合同軍事演習をした場合、チャームオフェンシブではない非常にハードな選択肢を切る可能性があるのかどうかについて考えます。

核実験ですとか弾道ミサイルの発射というものが考えられます。ただし私はその可能性は低いとみています。なぜなら北朝鮮が今、最優先課題としているのは、南北首脳会談です。もしそのハードな選択肢を実行した場合、韓国の文在寅大統領が平壌に行くことはできなくなります。

北朝鮮において最も重要なものは最高指導者の言葉、最高指導者の指示です。これは無条件で実行しなければならないという暗黙の了解となっています。

金正恩委員長は自分の妹の金与正さんを韓国に派遣して南北首脳会談へのアプローチを始めました。これはおそらく南北対話を後戻りできないかたちで進めるという意思表示だと思います。

過去に北朝鮮はさまざまな合意を覆してきました。ただしその合意というものは首脳レベルの合意以外です。つまり最高指導者がサインした合意以外はいつでも覆される危険性があるということです。

逆に言うと最高指導者が署名した、発言した内容というものは北朝鮮は必ず実行しなくてはならないアジェンダになっています。

トランプ政権の出方は

その意味で今回韓国との対話で南北首脳会談というものを持ち掛けた金正恩委員長としては核開発やミサイル開発よりも、今は首脳会談に向けて走っていると言っていいと思います。

ただしここに流動的な要素が1つあります。それはやはりトランプ政権の出方です。我々は北朝鮮が予測不能だと言いますが、実は北朝鮮もトランプ政権の出方というものを非常に予測不能と受け止めて苦労しているようです。

もしトランプ政権が南北対話を評価しない、軍事的圧力を強めるという方向に進んだ場合、北朝鮮はアメリカの姿勢を批判することによって、それを口実にして南北関係をまた緊張状態に戻してしまうという可能性はあります。

そして気になるのはもう1つ選択肢があります。それは人工衛星の打ち上げです。過去にも北朝鮮は人工衛星というものは軍事オプションではなくて平和的な目的であると言って発射を続けてきました。

今年の9月9日、北朝鮮は建国70年を迎えます。おそらく9月に向けて人工衛星の発射の準備をしている可能性が私は高いとみています。人工衛星というのは平和的な行為であるので、韓国の大統領が平壌を訪れる障害にはならないと考えている可能性があると思います。

北朝鮮が人工衛星に力を入れる目的というものは、自分たちだけの事情ではありません。いずれはアメリカや日本、中国、ロシアがやっているように発展途上国の衛星を代わりに打ち上げるビジネスとして人工衛星事業というものを育てようとしていると思われます。

韓国に亡命した北朝鮮の外交官曰く…

2010年ですが、北朝鮮が今まで人工衛星を打ち上げた場所は非常に中国に近いところにあります。その発射場所を建設中に中国が北朝鮮に懸念を表明したことがあります。

それに対して北朝鮮が答えた内容は、「心配する必要はない。これは軍事目的ではなくて、商業衛星の打ち上げを計画しているのだ」という説明です。ほぼ8年になりますけれども、北朝鮮は少なくとも2010年からは商業衛星打ち上げによる外貨獲得というものを計画していたとみられます。

今回もし人工衛星を打ち上げるとすれば、おそらくアフリカや東南アジアの国々の代表団を建国記念日の行事に招いてそこで打つと。プレゼンテーションをするという可能性もあると思います。

韓国に亡命した北朝鮮の外交官に以前、北朝鮮の政策決定プロセスというものを聞いたことがあります。彼の話によると、1つの目的を達成するために最もいいプランと最も厳しいプラン、最低この2つを準備して政府内で検討すると言っていました。

もちろんその極端な2つだけではありません。その間によりよいプラン、より悪くないプラン、さまざまな選択肢を準備して最終的に最高指導者が選択するというプロセスです。その目的を達成する過程でほかのプランも同時に試しながら最も成功の確率の高いものを選択するというやり方です。

そのプロセスの一部を我々が外から見て、北朝鮮がいろいろな選択肢というものを見せながら国際社会を翻弄していると見えてしまうわけです。

そのプランに国際社会がどう対応するのかという問題はこの20年間ずっと失敗を繰り返してきました。今もまさにそうした北朝鮮に振り回される状況が続いています。

少なくとも国際社会は北朝鮮の複数のプランに対応して役割を分担するという発想で北朝鮮にアプローチを仕掛けるということが必要ではないかと思います。いわゆるアメリカがバッドコップをやれば、韓国がグッドコップをやるというような役割分担というものが求められているのではないかと思います。

どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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