お金との付き合い方をどう学んできたか

スタッフ:どうやって、お金に縛られるような感覚から解き放たれる境地に達したのですか?

佐藤航陽氏(以下、佐藤):うーん……。それは経営をしていく中でほとんど学びましたね。経営でとことん売上と利益のみを追求する場合もありますし、一方で、世の中的な価値とかみんなが望んでることを追う場合もありますし。結果がいろいろ違うんですよね

亀山敬司氏(以下、亀山):とことん稼ぐぜーっていうときもあったの?

佐藤:あります、あります。22、23(歳)の時はとことんまでやってみましたね。とことんまで収益を追うと。自分の年収もアッパーまで上げるっていうのやってみて、「なるほどな、こんな感じなんだな」と。「でも、そんなに面白くはないな」と。それで、真逆に振ってみたりとかしましたね。

亀山:自分としてはお金の捉え方が変わったきっかけは何なの?

佐藤:きっかけですか。一番大きかったのは、やっぱり海外行ったことがきっかけというか、インパクトが大きかったですね。中国とかアメリカとかに、23、24(歳)ぐらいのときにいろいろ回ってみた中で、やっぱりお金に対する捉え方って人によってぜんぜん違うんだなって感じました。

あと当時、Facebookとかああいうものに対して、お金を何千億とか何百億とか張る人たちがどういう感覚を持っているのかっていうのを、直で聞けたっていうのもおもしろかったですね。それはもう、日本の中小企業の方が言うアドバイスとはまったく逆なんですよね。まるで逆のことを言うんですよね。これ不思議だなと思って。

亀山:日本の人はどう言うの?

佐藤:基本は黒字とPL(損益計算書)。いかにずっと利益を出し続けるかが大事だと。長く続くことが大事なんだと。でも、海外の彼らは「短くてもいいんだ」と。一気にその瞬間に花火のように広めて世界中に使ってもらえるかどうかが重要なので、PLとかじゃないんだという話をしていて。真逆なんですよね、理論が。

亀山:おれもそうかもしれないけど、佐藤も資本主義をちょっと冷めて見ているんだよね。俺もやっぱり稼ごうとは思ったけど、何かが欲しいとかそういう話でもなかったし。

佐藤:あと、別に一番になりたいわけでもないし、頂点に立ちたいわけでもないじゃないですか。

亀山:うん。頂点がどこなのかもよくわかんないみたいな(笑)。俺なんか稼いで金持ちになればなるほど「魂が汚れる」と思ってたからさ。なんかこう、金持ちって悪そうな顔のイメージあるじゃない。あんな顔になりたくないなとか思ったけど、かといって、お金なくて苦労するのも、羨ましいと思うのも嫌だなと思ったから、「とりあえず稼いでおくか」みたいな。

とりあえずなるべく上がってみようというのはあったんだけど、上がってみていくうちに、上も汚れてないんだけど金持ちだから大した人だということもなく、今まで付き合ってた友達とあんまり本質変わんないなみたいな感じだと、お金への好奇心がだんだん薄れてくるのはあるかもしれない。

佐藤:お金の高と幸福度は比例しないですもんね。途中で止まりますもんね。

亀山:うん、でも最低限はお金がないとやっぱり辛いんだよね、食っていけないから。でもある程度稼いだあとはそこから先は比例もしないし反比例するし、微妙な問題だね。「消費からスポイルされる」っていう感じ。分け合う喜びとか、2人でアンパン分けようぜっていう感動的なシーンがないじゃない。

佐藤:たまに良いもの食うときの感覚とかね。

亀山:「ああ、やっと食えた」っていうのがね。それでいうと、幸せって難しいもんで結婚とかも、例えば自由に結婚していなくていろんな恋愛しているのと、結婚しているのでいうと、結婚しているほうがある程度、規制が入るじゃん。その中でざわざわとしたほうが感動的なとこがあったりするよね。

佐藤:それ、上場するみたいなものですよね。

亀山:ああ、そういうことね。上場しているとざわざわ感があると。

佐藤:毎回あるじゃないですか、四半期ごとにあるじゃないですか。

亀山:ああ、そうかそうか。四半期ごとにね。じゃあ上場したなら結婚してみたいとか思わないの?

佐藤:そしたら、がんじがらめじゃないですか! どんだけ縛るんですか(笑)。

亀山:じゃあ、俺は結婚を選んで上場を選ばないし、佐藤は上場を選んだけど結婚を選ばない。

佐藤:同じようなものですね。市場が違うだけですよ(笑)。制約は同じだと思うんですよ。

亀山:ある程度の制約の中で楽しいとこもあるよね。

佐藤:そうですね。逆にこれがないとあまりにも暇すぎて何していいかわからなくなると思うんで、適度に制約があるって大事ですよね。

現在の「異様」は未来の「当たり前」

スタッフ:Face to Faceのコミュニケーションがなくなるのはいつ頃だと佐藤さんは考えられていますか?

佐藤:何かを食べたとか恋愛をしているとか、触ったという感覚がちゃんと私たちが錯覚できるレベルに至る瞬間なので、たぶん30年 20年ぐらいで到達するんじゃないかな。今私たちは変に感じますけど30年後には普通になっていると思いますね。

亀山:ロボット研究の石黒さんだっけな、「AI自体には心がなくっても人は感動させられる」って言ってたんだよね。心のないAIが人を感動させる歌を作れるかって話になるんだけども、よく考えたら、俺の知り合いにバンドマンがいるんだ。そいつはすっげー愛の歌を歌うんだけど無茶苦茶最低なやつなんだよね(笑)。

そいつのことを知ってる俺は、「お前言ってることと書いてることまったく違うだろ!」って思うわけだよ。だけど、その歌はとても感動的だった。それを考えると、確かに心に刺さる言葉っていうのを組み合わせたら、AIでも人を感動させられるものはでき上がると思ったよね。

佐藤:普通にできますよね。

亀山:でもクリエイティブ系の人からすると「コンピューターに人を泣かせられるかよ」みたいなのはあるね。

佐藤:たぶんbeforeを知っているからですよね。その人たちがその前を知っているからで、自分たちが今まで蓄積してきた大切なものが失われてしまう恐怖が、否定をさせるので、普及するのはその世代がいなくなった後の話ですよね。ビットコインも今の世代がいなくなった後は本当に普及する可能性が高いですし、気持ち悪いと思う人がいなくなったときがタイミングですね。

亀山:そうだね。気持ち悪いって俺らはまだ思ってるよね。今のお年寄りで例えれば、みんなが自由恋愛しているとか、戦争を知らない人間とか、今の若いやつは情けないよねとか、やっぱり思うところはあるわけよ。スマホとか持ってるやつを見ていると「なんで人の顔を見ないでスマホを見ているんだ?」と。

電車に乗ってスマホをみんなが見てる世界っていうのは、お年寄からしたら異様に見えるんだよね。若者からだと何の違和感もないのに。

佐藤:当たり前の話ですよね。それも(『お金2.0』に)書いておきました。

亀山:それも書いたんだ!(笑)。

亀山:だから、自分たち(スタッフ)が今異様に見えてるものは、未来においては当たり前になってるかも。もう人類自体が変わってるっていうのはあるかな。

佐藤:だから逆に言うと、みなさんが気持ち悪いって思うことが次のパラダイムですかね。「何それちょっとドン引きなんだけど」って思うところが次のポイントなので、それを探せるかどうか。

亀山:今のうちからドン引きに備えたお年寄になるように頑張んなきゃいけないね(笑)。仕事柄いろんな新しいことをやってるから、家族に「LINEみんなでやらない?」とか、俺から言い出したりするわけよ。だから、家族の会話も通じるんだけど。その辺が逆になっていくと、段々世代が断絶するよね。

佐藤:そうっすね。5年単位で使っているサービスが違いますもんね。若者を見てると、メッセンジャーとかぜんぜん違いますもんね。

亀山:今だったら「LINE使わないわ、インスタ行くわ」っていう。どんどん変わっていくから。トレンドが早すぎるよね。

佐藤:逆に言うと、上の世代がわからないところが一番チャンスなので。10年、20年離れているとわからなくなるじゃないですか。そのわからないっていうのがある種時間稼ぎになりますよね。彼ら(上の世代)がキャッチアップするまで。

亀山:確かに。それでいうと、若いやつにもチャンスが昔よりも出たのは間違いないよね。

佐藤:しかも それを守るのもけっこう大変になってきている1回うまくいっても、また 2、3年で変わっちゃうので。

亀山:確かに5年でできたサービスは5年で終わるからね。

佐藤:そうなんですよね。