銭湯に救われた1人のデザイナー

平松佑介氏(以下、平松):続いて、「銭湯ぐらし」でデザイナーをやってくれている菅谷真央にプレゼンテーションしていただきます。

銭湯ぐらしのロゴだったりWeb全体のデザインだったりとか、ブランディングみたいなことをやってくれています。では、よろしくお願いします。

菅谷真央氏:はじめまして。銭湯ぐらしでデザインをやらせてもらっています。菅谷真央と申します。

タイトル『銭湯を活用したプロジェクトのデザイン計画』です。ちょっと堅苦しいタイトルではあるんですけど、銭湯とデザインを掛け合わせたときに、デザイナーとしてなにができるかというところを実験してきた過程と結果を、プレゼンテーション出来ればなと思っています。

自己紹介させていただくと、僕の名前は、菅谷真央と申します。デザイナーをやっています。1992年生まれの25歳です。武蔵野美術大学出身で、そこで在学中に起業したり、映像系の会社を先輩と作ったり。

そのあとはデザイン系の事務所に入って、ブランディングの事業部の立ち上げに参加したりいろいろしていく中で、今はウォンテッドリーというIT企業の海外事業部でメインのデザイナーをしています。

こんな人がなんで銭湯ぐらしに参加したのか、みなさん気になっているかもしれないですね。「銭湯に救われた1人のデザイナー」と。すごく大げさなかっこつけたタイトルですね(笑)。

でも決して大げさではなくて、この高円寺の小杉湯という銭湯に、まさに僕は救われたんです。今はちょっと違うところに住んでいるんですけど、プロジェクトが立ち上がった当初、僕は高円寺に住んでいました。

高円寺に住んでいた頃は仕事で新規事業の立ち上げの日々で、僕がデザイナーとして1番チャレンジのときでした。すごく忙しくて考えることが多くて、「頭がパンパンだよ」みたいな毎日で。これ以上デザインのことを考えられない、アイディアが出ない、ときには涙が出てくるんじゃないかと思うこともあるみたいな(笑)。

そんな中、仕事に詰まったりしていたときに、ふと「広いお風呂に入りたいな」と思って。もともと、お風呂とか温泉がすごく好きだったんですね。それで頭を抱えながら小杉湯に行って。余談ですが当時の彼女とも別れたばかりだったりもしました(笑)。

そんなこんなで銭湯に救いを求めに行ったんですね。すると小杉湯の広いお風呂に入っているとき、頭がどんどん整理されていくのが感じられました。今までパンパンになっていた頭のなかに、ちょっとだけ隙間が生まれたような気がしたんです。

さらに、生まれた隙間にアイデアがポンと浮かぶような感覚が僕の中にあって。銭湯は素晴らしいなと思いましたね。お湯って素晴らしい、小杉湯って素晴らしいってなって(笑)。そのあと通うようになったんです。

通い詰めるうちに三代目の平松佑介さんに出会って、こういうプロジェクトがあるんだよということを聞かされて、デザイナーとしてこういうアイデアの余白を増やすことができる、銭湯の価値を高めるプロジェクトに参加していきたいなと思ったのがプロジェクト参加の経緯です。

「魅せる銭湯」とは、想いを見えるかたちにして伝えること

ずっと今までのみんなも余白余白と言っていたと思うんですけど、余白というのはまさに僕たちのキーワードになっています。僕で言うところの、「頭の余白を作ることでアイデアを生む場所をもっと増やす」のがこれにあたります。

「魅せる銭湯」ということで僕はやらせていただいているんですが、「魅せる銭湯とはなんなのか?」というところをお話ししておくと、先ほどのタイトルでデザイン計画ってありましたよね。計画とは、単なるデザイン一つひとつのものではなくて、全体としてどう魅せていくかというところ、とくに銭湯絡みのプロジェクトをどう魅せていくかが大事だと僕は考えています。

つまるところ、想いを見えるかたちにすることなんですね。僕が銭湯ぐらしに入った当初、ちょうどみんなでロゴを決めているところでした。しかしぜんぜん決まらない状況だったんですね、ロゴが(笑)。

全員が意見を言っちゃうみたいな。それで僕が入って、僕がそのときに出ていたロゴを見て、これじゃダメだと思って(笑)、僕がロゴを作ったんです。それで今のロゴに落ち着いたんですね。

今までプロジェクトにいた人たちの想いとかってめちゃくちゃあると思うんです。みんなすごくいろいろ考えているし、いろいろアイデアを出して、どういうプロジェクトにしたい、ということをみんな思っていて。

想いを聞いて見えるかたちに落とし込み、人に伝える

それを可視化するというのは、少し難しいことですよね。でもみんなの想いを聞いて見えるかたちに落とし込んで、人に伝えるかたちにできるのが魅せる銭湯だったり、そもそもデザイナーの役割だと思っています。それを僕はいちデザイナーとして、銭湯ぐらしで実践しました。

具体的にどう可視化していったのかというプロセスを説明しますね。まず、ロゴを決めました。

一口に「ロゴを決める」といってもいろいろあるんですけど、とりあえず……色を決めたり。KAWARA BlueとMOKUME Brawnと書いていますね。

KAWARA Blueというのは小杉湯の瓦をイメージしたブルーです。MOKUME Brawnは、小杉湯の中の床が木材なんですけど、その木目をイメージしたカラーです。ロゴと、今後の銭湯ぐらしのブランドとして使っていくカラーはこの2色にしていこうということを策定しました。

可視化というのは絵を起こすビジュアライズだけではなくて、明文化という側面もあります。メンバー一人ひとりがいろんな意見を言っている中で、それをまとめあげてワーディングしていくというところも、デザインできることの1つかなと思っています。

そこでこの3つを、クリエイティブ指針として掲げさせてもらっていました。

これは外部に言うものではなくて、内内で言っていたんです。これを中の人がちゃんと守ってやっていかないと、外部の人にぜんぜん伝わらないですよね。

例えばすごい高級料亭があったとして、ちゃんとスタッフ一人ひとりを教育するみたいな話なんですけど。安居酒屋みたいな対応をされたら高級料亭としての質が落ちるし、高級料亭だと思ってもらえないですよね。

そういうことで、末端までクリエイティブの思想を浸透させたくて文字起こしみたいなこともしていました。

コネクション。繋げるというのは、このプロジェクト自体人のつながりというのを大事にしているので。記事とか、今投稿されているものがいっぱいあるんですけど、それもどんどん人と人とがつながっていけるような構成を目指そうという考え方ですね。

あと人ありき。ピープルというものなんですけど、これは人の顔がどんどん見えるようにしようと。Webサイトをご覧になった方はおわかりかと思うんですが、僕らも今こうやって顔を出しているように、中の人がどんどん顔を出してアピールしていくことで、ちゃんと人がいて成り立つプロジェクトなんだよということを伝えていこうという考え方ですね。

厳しすぎず、ゆるすぎず

最後、サスティナビリティ。訳はちょっと違うんですが、要は「ぬるま湯」でいこうと(笑)。がんばりすぎると疲れちゃうし、みんなちゃんと本業がある中のサイドプロジェクトだから。

気合いを入れすぎて途中でプロジェクトが破綻してしまったら結局意味がないから、ぬるま湯で続けていこうよということで。厳しすぎず、ゆるすぎずというところを突いていこうというワーディングです。

ここまでのロゴだったりカラー設定だったり、コンセプトワードというところを決めてからは、もうちょっと具体的なものに落とし込んでいく作業を始めました。

例えば、まず大きいのはWebメディアですね。

みなさんも見ていただいているかもしれないですが、今のWebメディアを僕が1回デザインして、先ほど話があったガワちゃんというYahoo!のデザイナーと協力してデザインやて構築をやってもらってできました。

あとは例えば、Webメディアに使われている写真とかも最初は僕が撮っていて。その後写真を撮ってくれそうなメンバーに写真の撮り方とか、こういうトーンにしてくださいというのを伝えて実践してもらいました。

というのも、さっきのサスティナビリティにつながるんですけど、僕しか撮れないみたいな状態だとよくないなと思ったんです。写真はこういう雰囲気でというのを共有するときに、ちゃんと明文化して共有して、誰でも写真を撮ってメディアに載せられるような体制を作っていきました。

あとは名刺ですね。

今日、たくさん配られますよ(笑)。今日あがってきて、みんなすごくテンションが上がっていたから。他にはアニュアルレポートも制作済みです。

こうして、魅せる銭湯は具体的な制作物を生み出すことで、プロジェクトの可視化をしていきました。

好きなことをしてちゃんと活躍できている人を増やしたい

さっきの余白という概念があったと思うんですけど、僕の人生の目標みたいなものがちょっとあって。「好きなことをして活躍できている人を増やしたい」と、僕は思っています。

そうするためには人の価値観だったり、アイデアだったりというのがもっと増える場所を増やすことで、その実現につながるんじゃないかと僕は思っています。その1つが自分の体験の中で銭湯だなって、これからこういう土壌を増やしていきたいと思っています。

もうこれ以上言うことはないな。

(会場笑)

終わりです。

(会場拍手)

平松:真央との出会いは、今でもすごく覚えていて。最初にこの銭湯ぐらしでキックオフをして、本当に多彩な仲間が集まってきて。すごくこれに想いを懸けていて、みんなでロゴを考えて、Webを作りたいみたいな想いもあったんですけど、唯一デザイナーだけがいなくて。

デザイナーだけいないからどうしようみたいな話をしていたときに、小杉湯が起点で出会っているから、きっと小杉湯に僕らが求めるデザイナーがいるはずだということで、手紙と「出会いたいです」っていうポスターを作って小杉湯に貼ったんですよ(笑)。

そうしたら僕が番台をやっているときに真央がひょこって現れて。手紙に「Webデザイナーの方へ」というので、こういう想いでやっていてこういう人を求めていますという想いだけ書いてあったんですけど、真央が「僕のことですか?」って言って来てくれて(笑)。

(会場笑)

それがきっかけで出会って。さっきの来た状況のときに、みんな本当にロゴに迷って、デザインに迷っているときに彼が現れて、みんなの意見を整理してくれて、かたちにしてくれて。

格好も魔法使いみたいなんですけど、本当にみんな「魔法使いが現れた!」みたいな雰囲気で(笑)。救世主として登場してくれて。

こうやってみなさんが来てくださっているのは、彼のデザインがすごく大きいなぁといつも思っています。ありがとうございました。