2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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前田裕二氏(以下、前田):(福武氏の物の見方が変わったときの)例えが秀逸すぎて、ハードルが上がるなと思って(笑)。
森川亮氏(以下、森川):(笑)。でも、ある意味、革命みたいなものですよね。アートの領域を超えて、むしろアートの概念に革命を起こした感じですよね。
福武英明氏(以下、福武):そうですね。さっきの遠山さんの話じゃないですけど、物の見方を変えるとか、なにがかっこいいかとか、なにが美しいかという概念を変えるときに、けっこう大きなパラダイムシフトとして、アートが使えるとは思いますよね。
森川:なるほど。ありがとうございます。じゃあ前田さんは、昔、音楽をやられていて。
前田:そうですね。
森川:モテたかったんですか?
前田:モテたかったというか、僕は、お金が稼ぎたかったってのがありますね。
森川:なるほど。モテることにはあんまり興味がなかった。
前田:モテる……いや、まぁ大学生になってからは、当然バンドとか組んで、僕はビジュアル系バンドを組んでいたので、やっぱり物理的に女性ファンのほうが。
森川:モテちゃったという?
前田:いや、モテて……という……。
森川:すいません(笑)。
前田:いきなりなんかこう、初っ端から答えに窮してしまうような。
森川:あれ、小学生の頃からやってたんですよね?
前田:そうです。小6の時に弾き語りを始めて。そういう意味では、感動させようとしてたかというと、僕はもうむちゃむちゃしてましたね。もうそれしかない。なんでかっていうと、目的はお金を稼ぐことですと。
あ、そうだ。弾き語りしてる人は、2種類いるんですよ。悦に入って、誰も聞いてくれないんだけど、「俺の奏でる音なんて、この現世の人は誰も理解できないんだぜ」みたいな。
森川:例えばアーティストでいうとどういうタイプですか?
前田:いや、それはちょっとなかなか録画されていると言いにくい(笑)。
森川:そうですね。気をつけないと。危ないですよね(笑)。
前田:録画されてると言いにくいんですけれども。でも、そういう人は渋谷の駅とかにいます。目の前に人がいないほうが、むしろ快楽を得られるみたいな。
森川:そんな人いるんですか?(笑)。
前田:いるんですよ。
森川:すごい。
前田:昇華するというか。人がいなくて苦しいという気持ちを、うまく昇華する心理的なあれだと思うんですけれども。
森川:なるほど。1人でツイッターつぶやいてる人みたいな感じですね。
前田:みたいな感じなんですけれども。あとは、本当にそこでCDを売りたいとか、ファンを増やしたいとか、お金を稼ぎたいという、商業的にやっている人に分かれるんです。僕は完全に後者で。
森川:エンターテインメントね。
前田:弾き語りしていて、(自分のところに)止まってくれたお客さんを分類すると、主に3種類いるんですね。聞いたのにお金を置いていかない人。100円とか数百円ぐらい置いていく人。1,000円以上置いていく人。この3つに分かれるんですね。3番目を作りたいじゃないですか。そのために、感動が必要なんですよ。
森川:なるほど、じゃあちょっと集中していくわけですね。
前田:そうです。だから「この人0円っぽいな」と思ったら、もう無視。
森川:なるほど。今日このなかだと、どうですかね。
前田:もうみなさん③ですね(笑)。
森川:うまいですね(笑)。
前田:なので、誰も無視しないでちゃんとインタラクションしていきたいですけど。そういう意味では、浅く広く感動を薄めるんじゃなくて、誰か1人でいいので、もうぶっ刺さるというのをすごい意識して弾き語りしてたんですよ。
それは、誰か1人にすごいぶっ刺さって感動してくれると、多いときは本当に1万円とか置いてくれるから、それが欲しくてやってたので。僕は、感動の先にお金を稼ぐことがあるなと思ってたから、すごい感動は意識してました。
森川:なにかその文脈と、今の事業との間に金融業界にいて学んだことは(つながりが)あるんですか?
前田:金融業界ですか?
森川:はい。
前田:でも、そうですね、本質は変わらないなというか、一緒だと思ったんですけれども。
森川:じゃあ、投資家を感動させるとか。
前田:そういう意味でいくと、僕は今日の全体のテーマだと思ってるんですけど。なにかすごいクオリティの高いものをぶつけて評価してもらって、それでお金をもらうやり方。金融でいうと、僕は株のセールスをしていたので、本質的に株の分析をして、お客さんに的確でハイレベルな株の提案をすることがそれに当たるんですよね。
森川:それは専門的な。
前田:あともう1つは、ぜんぜん完璧な分析じゃなくても、余白があってもいいんですけれども、そのお客さんのためになにかを一生懸命にがんばって、付加価値を提示しようとする姿勢みたいな。その姿勢にすごい感動を覚えて、お金を払ってくれるパターン。
森川:営業マンでもそういう人がいますよね。「お前だから払うよ」と。「どこから買っても一緒だったら、お前から買うよ」みたいなのありますよね。
前田:そうです、そうです。それでいくと、学生の時代の僕は前者しか知らなかったというか。エンターテインメントの文脈では、後者のほうが重要だって理解してたのに、こと仕事、投資銀行に入ったら、基本的にすごい高度で専門的な分析をして、それをぶつけるのが付加価値だと思ってしまってたんですけど、「金融も音楽も一緒だな」と。
基本的には、お客さん一人ひとりと向き合って、深く濃い1対1を何回繰り返せたかのほうがもっと重要だと気づいたということがあります。
森川:そういうのって、スポーツでもあるんですか? スペシャリストじゃなくても成り立つ領域というか。
為末大氏(以下、為末):感動するかどうかですか?
森川:はい。
為末:『ロッキー』という映画はご存じですか? 我々の時は、『ロッキー』がすごい人気で。
森川:あのボクシングの?
為末:そうです。あの時代なので、やっぱりロシアを悪く書くんですけど、ロシアから来るドーピングしまくりの機械的なチャンピオンとロッキーが戦うんですよ。ロッキーは負けるんだけど、なんかこう、ドラゴだったかな、それがあんまり共感できない。ロッキーが人間的にまた原点に戻って勝つみたいなところがあったりするんですけど。
これからの時代、たぶんスポーツで一番わかりやすいのは、「さほど努力せずして勝つ選手が出てくるときに、我々は共感できるのか?」というところじゃないかという気がしますね。「感動の背景に、本人のがんばりはどのぐらい必要なのか?」という。
たぶん、(ウサイン・)ボルトってあんまりがんばらなくてもチャンピオンだったと思うんですよ。「だったら感動できたかな?」とかね。要は、遺伝子ドーピングとかがやってくる世界なので、本当に「競い合うということが今後スポーツの世界って残るのかな?」という気も。
だから、もうドーンと突き抜けた1人だけを……。実際にボルトが出てからは、100メートルってしばらくボルトの完勝だったんですよね。2番の選手は別に誰でもいいと。みんなボルトがどんだけ速いかを観たい。「その世界に、努力ってどのぐらいいるんだろうか?」という観点はあるかも。
さっきおっしゃった観点を陸上でいうと、女子のマラソンで、(ガブリエラ・)アンデルセンが、途中で脱水症状になってふらふらになりながら入ってくるシーン。今は触っていいんですけれど、当時は、(選手に)触ると失格というルールだったんですよ。触れないけれども、命が危ないと。
だけど、アンデルセンが、あと100メートル、転ぶ、立ち上がる、なんか斜めになりながらゴールするというので、最後にみんなが号泣して応援したというのがあるんです。
ああいうのと、まったくさらっと勝っちゃうみたいな選手の世界で、後者のほうが我々の世界は価値があると言われつつ、一方で前者のほうに感じる「なんなんだろう」みたいなことが、今おっしゃってることに近い気がします。
前田:それでいくと、感動の種類をおおまかに2つに分類したいなと思っていて。今の為末さんの話と、僕のそのいわゆる高度なものをぶつける話と、自分がいたらないんだけれど、そこに共感が生まれるという。
これを名づけると、いわゆる高度なものをぶつけるのは、他人の物語を消費するパターンだと思うんですね。例えば、スポーツや映画は、基本的にこっち側の比率が高いと思ってるんですよ。なにか完璧な他人の物語を一方的にぶつけられ、それに対して感動を覚えるというパターン。
森川:商品でいくと、ある意味プロダクトアウトみたいな。
前田:プロダクトアウト。おっしゃるとおり。もう1つは、自分の物語の消費パターンって言ってるんですけれども。その商品自体はとくに価値が高くないんだけれども、一番の価値は、自分自身がその物語の中に介在できると実感できること。
森川:クラウドファンディングみたいな。
前田:みたいなことですよね。スポーツや映画、あるいはテレビみたいなコンテンツは、感動の生み方として前者のほうが合っている。一方で、インターネット的なものは後者のほうが(合う)。
当然ですけど、どんなに感動的なドキュメンタリーをテレビで見せられるより、家族からすごい感動的なLINEが来たときのほうが。テレビで他人の物語を消費する瞬間よりも、お母さんからのすごい感動的なLINEのほうが、自分の物語だから感動しますよね。
森川:価値がもう転換してるってことですよね?
前田:転換してる。そっちのほうが、人がより快感を覚えやすくなって、相対的には、他人の物語側の力がけっこう弱まっている。他人の物語側を作っている人たちにとって、ヒットが生みにくくなっているよなとは思うんですよ。
森川:逆にですね。
前田:逆に。可処分時間とか人のマインドシェアが、自分の物語系に奪われているからだと思ってて。
森川:なるほど。そのあたり……。
遠山正道氏(以下、遠山):私はなんか、両方が同時にあるなって。うちのビジネスって、基本的に前者でね。完全に「自分たちがどうできるか」をやってきていて、マーケティングとかないんです。
この間、GINZA SIXで海苔弁屋さん(海苔弁専門店『刷毛じょうゆ 海苔弁 山登り』)をやったんですね。おかげさまですごい行列なんですけれども、オープンする1週間前に、我々内部で「これ誰が買ってくれるんだっけ?」みたいなことを話したんです。
「東京駅とか品川駅だったらわかる。だけど、銀座のど真ん中のあのLVMH(LVMH Moet Hennessy Louis Vuitton S.A.)の高級なところの地下で、誰がどうやって海苔弁を買うのかな?」と思ったんだけど、実際にはすごく買ってくれるんですね。
要するに、前者のプロダクトアウトを一生懸命やると、買う方が自分の物語で自分なりの見立てで選んでくれるんじゃないかなって。GUCCIの100万円の上着を買って、右手に1,000円の海苔弁みたいな。「その私ってイケてる」みたいな。
森川:どっちかというと、遠山さんのやってる「PASS THE BATON」なんかは、そっちに近いんじゃないですか?
遠山:そうですね。今日のテーマでいうと、要するに、こっちが相手の感動をあらかじめ作っちゃうような不遜な態度じゃなくて。生活者一人ひとりに、ちゃんと個性も感受性もあるわけだから、その人たちが自分なりの思想の下に選んでいくところに、なにかを差し出す感じかな。だから両方。
森川:福武さんなんかでも、投資家として……。
福武:えっ?
森川:投資もやられている投資家として、どうなんですか?
為末:投資家として有名な福武さんから聞きたい。
福武:ぜんぜん違う話を考えてたんで、それをしゃべってもいいですか?
森川:あ、どうぞ。はいはい。
福武:そしたら、今、前田さんが言った後者のほうで。我々も直島という瀬戸内海を中心に美術館(地中美術館)をやっています。あともう1つ、僕らじゃないんですけれども、オーストラリアのタスマニアに、ちょっとキチガイ的な美術館があり、そこがけっこう(我々の美術館と)共通する部分があって。
なにかというと、1つの作品を見る時間を平均すると、我々の美術館は普通の美術館のだいたい6倍ぐらいなんですよ。全米の100の美術館って、だいたい平均で滞在時間が30〜40分ぐらいなんです。我々の美術館とかでも、作品は1個なんですけど、だいたい1時間半とか2時間ぐらいいるケースもけっこうあって。
森川:えっ。すごい。
福武:タスマニアもけっこうそうなんです。今いろいろやってるんですけど、さっきの前田さんのお話で、1つパッと思ったのが、両方で共通するのは、僕らの美術館や作品にキャプションがないんですよね。キャプションって、要は作品を説明する(もの)。
前田:なるほど、定義してないんだ。
福武:そうそう。
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