カオナビ代表より開会あいさつ

司会者:ただいまより、株式会社カオナビ主催、東洋経済新報社協力、「次世代人材マネジメントフォーラム 〜HRテクノロジーが実現する生産性革命〜」を開催いたします。

はじめに、主催社を代表いたしまして、株式会社カオナビ代表取締役社長、柳橋仁機よりご挨拶をさせていただきます。

柳橋仁機氏(以下、柳橋):みなさま、本日はご来場、誠にありがとうございます。株式会社カオナビの代表の柳橋と申します。主催会社を代表しまして、私から簡単に一言、開会のご挨拶を申し上げたいと思います。

昨今、私たちが働くビジネスの環境においては、産業構造の変化や労働人口の急激な減少に直面しておりまして、みなさまも日々お悩みのなか、お仕事をされているかと思います。そういった問題を引き起こすところで、働き方改革の推進や人材マネジメントの変革が今強く求められている世の中になっていると認識しております。

また、そういった課題を解決する1つの手段として、今日のシンポジウムのテーマである「HRテクノロジー」が注目を浴びています。

HRテクノロジーは働き方改革などにどう貢献できるか

柳橋:本日は、HRテクノロジーが、今課題となっている働き方改革や人材マネジメントにどういった貢献ができるのかを有識者のみなさまと一緒に考えるイベントです。

まず第1部の基調講演では、HRテクノロジーにおける第一人者である慶應義塾大学 大学院の岩本先生にご登壇いただきまして、HRテクノロジーの進化と企業の未来はどうなるのか、というテーマでお話いただきたいと思っております。

続きまして、パネルディスカッションでは、モデレーターにHRテクノロジーコンソーシアムの北崎様にモデレーターをお願いしまして、パネラーとしまして、リクルートジョブズの仲川様、サイバーエージェントの曽山様、楽天技術研究所の森様。このお三方をお招きして、さらに議論を深めていきたいと考えております。

お三方とも先進企業でご活躍されている方ですので、非常に深い議論ができるのではないかと期待しております。

この基調講演とパネルディスカッションを通して、全プログラムが約2時間の構成になりますけれども、その2時間ほどの中でみなさまとこのテーマについて深く考えていきたいと思っております。

最後になりますが、あらためて、ご多忙のなかご来場いただきまして、誠にありがとうございます。ご来場のお礼を申し上げまして、私からのご挨拶とさせていただきたいと思います。それではよろしくお願いいたします。

HRテクノロジーの専門家、岩本教授が登壇

司会者:ありがとうございました。続きまして、基調講演に移らせていただきます。本日は、「データ連携が実現するこれからの人材マネジメントの世界」と題し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授・岩本隆様よりご講演いただきます。それでは岩本先生、よろしくお願いいたします。みなさま拍手でお迎えください。

(会場拍手)

岩本隆氏(以下、岩本):みなさま、こんにちは。慶應ビジネス・スクールの岩本と申します。本日はこういうテーマ(「データ連携が実現するこれからの人材マネジメントの世界」)でお話をさせていただきます。

昨年の12月、経済団体の会合で、働き方改革やHRテクノロジーなどのテーマで講演することがけっこう続いたんですが、いろいろな大企業の経営陣に一番刺さったのがこのテーマでした。

経営陣のみなさんは、「人事のデータを活用できていない」「実はデータがあるんだけど、社内でバラバラになっていて連携ができていない」ということを話していました。

もしかしたら、社長からのトップダウンで「HRテクノロジーを活用して、データを活用して人事をやれ」と言われている方々もいらっしゃるのかなと思いますけれども、そういったことで今日はこの手の話をさせていただきます。前半、少しマクロの話をさせていただいて、後半、ミクロなほうに入りたいなと思います。

「Society 5.0」と「超スマート社会」

岩本:そもそも、世の中は今どういう状況か。日本では、2つの言葉が踊っております。(1つは)「Society 5.0」ですね。これは社会の変化ということで、内閣府が言い始めた言葉です。

(もう1つは)「超スマート社会」と呼んでいるんですが、日本がSociety 5.0という超スマート社会を作るのに世界をリードしたい。実は日本でしか言われていないんですが、ダボス会議などで「日本はSociety 5.0を引っ張っていく」といったような話をしています。

本当に日本がSociety 5.0を引っ張れるのかという話があるんですけれども、「スマートシティ」という言葉がありますが、日本は意外といろいろな領域でデータが活用されています。

例えば鉄道のインフラにしても、新幹線が3分ごとにきっちり来るといったマネジメントができるといった意味で、スマート社会という観点では、各業界ではいろいろできているかなと思います。これを業界を超えて、さらにスーパースマートにしていく方針です。

そういった意味では、今の日本の社会を見ていると、スーパースマートソサエティは日本もリードしていける可能性はあると思います。

みなさんのビジネスに関わるところでいいますと、産業の視点では、今は「第4次産業革命」と言われています。我々が学生時代に勉強した産業革命ですが、現在では「第1次」と言い直されておりまして、今が第4次産業革命とされています。

これは日本だけの言葉ではなくて、世界中で今言われている言葉です。日本では「Connected Industries」と言っています。モノとモノ、ヒトとモノ、企業と企業など、さまざまなものがコネクトされて、効率化という点もあるんですけれども、さらに新たな付加価値を生み出していきます。

まさにいろいろなものが連携していまして、今日のテーマであるデータ連携は、実は人事の世界だけでは必ずしもなくて、あらゆる産業領域でコネクティッドされていくことが今、現在進行中で起こっています。

世間に浸透しつつある「xTech」とは

岩本:さらに、よくスタートアップで「〇〇Tech」と言われていますけれども、これは「xTech(クロステック)」と言います。「X-Tech(エックステック)」という言い方もありまして、「Xにいろいろな言葉が入る」という意味で使われています。xTechの場合、実はかけ算という意味で「〇〇×Tech」ということですね。xTechの領域をネットで調べますと、「〇〇Tech」ですぐに30ぐらい出てくるんですね。

今日は東洋経済さんがスポンサーで、ちょっとライバルになりますけど、日経BPさんが先日「日経 xTECH」という雑誌を創刊されています。みなさんにメルマガなどが届いていると思いますが、さまざまなxTechがあります。これはABC順に並べただけでも30ぐらい出てきますということですね。

そういった意味でも、あらゆる領域で第4次産業革命ですね。テクノロジーの活用があらゆる領域で進んでいます。みなさんがやられているビジネスでは当然、テクノロジーの活用をされていると思います。

企業でいいますと、直接部門だけではなくて間接部門ですね。今日のHRもある意味、間接部門かと思うんですけれども、HRだけではなくてリーガルやアカウンティング、ファイナンス、リアルエステートなど、総務がやるような仕事もTechになっています。HR Techは、実はその中の“one of them”です。

〇〇Techという中で、実は「HR Tech(HRテクノロジー)」はわりと市場規模だけ見ると、世界的にはものすごく大きな市場規模になっております。そういった意味で直近に盛り上がっている部分もありまして、いろいろなテクノロジーを持った方々がこの領域に参入してきています。ほかにもHealthTechやAutoTech。FinTechは昔から盛り上がっていますけれども、そういったところもかなり大きなマーケットになっています。

最先端のテクノロジーの進化で…

岩本:これらのテクノロジーがさまざまな領域の産業に影響を与えていくんですけれども、それによって人のあり方、産業人材のあり方も変わらないといけないです。人材を変革するためには「産業政策=人材政策」ということで、今取り組んでいるものです。

よく「なくなる仕事」みたいな話が話題に上がりますけれども、多くの仕事が低賃金化する現状のままだと本当にテクノロジーに踊らされることになっていきます。そのために新たな雇用ニーズ創出を目指すということですね。最先端のテクノロジーが進化すればするほど、人間はさらに先を行って、常に最先端のテクノロジーを活用する側にまわることになります。

今、日本は人手不足もありますので、テクノロジーでできるような付加価値の低い仕事、ロボットを含めて、AIやIoTなどのテクノロジーに全部代替していこうということですね。

実は、日本は世界的に見ても生産現場の自動化は昔から進んでいまして、生産現場だけではないホワイトカラーなども含めてテクノロジーで自動化することが目標です。

マスの部分は、テクノロジーを活用できる人材を目指して、第4次産業革命で必要となるようなスキルをすべての人が学べる機会を作るということで、先日補正予算が成立しました。この1月から、来年度の当初予算も含めまして、産業人材政策としてもここにかなりの予算がついています。

「働き方改革第2章」がスタート

岩本:今メディアを騒がせている働き方改革は、時短や有給休暇の消化のような話なんですけれども、これは「働き方改革 第2章」といいます。みなさん、てんやわんやかもしれないんですが、3月末から働き方改革 第2章の動きがあります。

生産性の向上や企業の競争力を高めるための働き方改革をすることが第2章になります。第2章のためにはHRテクノロジーを活用することは必須で、世耕(弘成、経済産業)大臣を始めとして、世の中に今発信しています。

先日、第4次安倍政権が発足しましたけども、看板政策ということで、働き方改革 第2章の延長にはなりますが、2つの政策をあげています。

1つは生産性革命。生産性を改善せず残業が減る「ゆとり労働」になると、日本の産業競争力が失われるだけなので、労働時間を減らすことによって生産性を逆に高めることに取り組むのが生産性革命です。

もう1つは人づくり革命です。実はいろいろな動機があります。今、リンダ・グラットン先生の本(『LIFE SHIFT』)が売れていますが、人生100年時代ですね。医療費の削減といった観点もあるんですけれども、労働力不足という問題があるので、さまざまな要素を解決するために、「人づくり革命」が目玉や看板政策になっています。

簡単にどういうことかを説明します。「生産性を高めるためには?」というテーマで、ものすごく当たり前の話を書いています。「生産性=付加価値/コスト」ということですね。生産性を高めるためには、分母を下げるか、分子を上げるか、あるいは両方やるかということですね。

分母を下げる、コストを下げるという観点では、企業がやっている、さまざまな活動でいらないことを戦略的にやめることですね。

高い生産性の分野にシフトする全体最適

岩本:実は簡単ではないです。私もいろいろな企業さんの中に入っていますが、本当に日本の企業はやめることがなかなかできないんですね。いろいろなことが習慣になっていますが、「論理的に考えたらこれって意味ないでしょ?」みたいなことをいまだに続けている企業さんってものすごく多いです。

自分のことを言うのもあれですけど、大学はその最たるものなんですね(笑)。書類の仕事がすごく多いんですけれども、「意味あるのかな?」みたいな話がものすごくあるんです。 そういったことを戦略的にやめる。

日々の作業や事業のレベルでいっても、本当はやめたほうがいい事業がけっこうあるかと思うんですけれども、意思決定することが重要になります。

簡単ではないとは思いますが、もう1つは分子を上げることですね。これは一人ひとりのスキルを高めること、チームの力などを上げていくこと、イノベーションを起こしていくことです。

もう1つは低生産性分野、生産性が測れますと、低い生産性の分野から高い生産性の分野にシフトする全体最適をすることですね。これも事業の観点でもそうですし、みなさんの働き方ですね。

1日8時間働くとしたときに、生産性の低い仕事をやめて高い生産性のものにシフトしていく。生産性の低いものは、今はテクノロジーがたくさんありますので、それで代替していってもらう。これが生産性を高めるということです。

もう1つ、「人づくり革命」ですけれども、シンプルにいうと、生きることと働くことと学ぶことを密に連携させるのが人づくり革命かなと思います。

カギとなる「ワークライフインテグレーション」

岩本:「ワークライフインテグレーション」。これは私が勝手に考えた言葉です。「ワークライフバランス」という言葉はみなさんお聞きになったことがあるかと思いますが、今、世界的には「ワークライフインテグレーション」という言葉が流行っています。ワークとライフのバランスというと、相反する2つのものがシーソーみたいにバランスをとっているイメージなんですが、相反するものではないですね。

先日なにかで見たのは、「ワーク・イン・ライフ」とかいう言葉も出ているらしいです。要は単純労働から、テクノロジーでできることが今増えていて、単純労働はテクノロジーがやってくれることになると、人間がやる仕事は人でしかできない仕事がけっこう残ります。

そうすると、自分の個性もすごく活かすことができて、仕事が楽しくなるはずなんですよね。労働から解放されると言っていいんですかね。そういった意味ではワークとライフは相反するものではなくて、インテグレーションされたものである考え方です。

そういった意味では、企業としては全社員が楽しく働ける仕事をしっかり作ることが実は企業の経営として重要でもあります。

そのワークライフインテグレーションをやるためには、産業革命が起こっているわけですから、新たな産業に必要なスキルを身につけないといけない。人生100年時代とあるように、60、65歳で定年するのではなくて退職後も死ぬまで学び続けるということです。

経済産業省に言わせると「日本1億総日野原教授」ということです(笑)。日野原(重明)先生は105歳で亡くなる直前まで仕事されていました。これが人づくり革命ということになります。

こういった生産性革命や人づくり革命をするためには、テクノロジーの活用は必須で、今、HRテクノロジーが政策の波に乗ったこともありまして、国内でもマーケットが大きくなっています。

「HRテクノロジー」の可能性

岩本:今日の主催社のカオナビさんも今急成長していますけれども、そういったところが背景にしてマーケットがすごく伸びているということですね。

HRテクノロジーは、日本では私が2015年に言い始めまして言葉が広がったんですけれども、海外では実は1990年代ぐらいからある言葉です。1980年代ぐらいから、テクノロジー、要はITやICTのシステムを活用して人事のマネジメントをするのはHRテクノロジーと言われています。

初期の頃は、給与システムや労務管理のシステムなどがHRテクノロジーになっています。そういった意味では、みなさんの企業も実はすでにHRテクノロジーを使われています。ただこれが、テクノロジー進化によってさまざまな領域が広がってきました。

「Talent Management」と言いまして、人材のいろいろなパラメータをデータ化してマネージする。スポーツでもいろいろな選手のパフォーマンスやスキルなどをデータ化をしてスカウトしていくわけですけれども、そういったことが普通の企業のサラリーマンの世界でも起こっています。

「エンゲージメント」は今直近ものすごく盛り上がっている領域ですね。これはみなさんお聞きになったことがあると思うんですけれども、婚約したときにエンゲージメントって婚約という言葉で使われているんですけれども、婚約に近い意味です。企業と従業員が、ある意味男女の関係というか、対等な関係でお互いがコミットしあう。それをエンゲージメントと言っています。

日本はエンゲージメントスコアを取ると全世界でたぶん下から数えられるぐらい、ものすごい低いんですね。「これどういうことなんだ?」とちょっと思ったんですけれども。

日本企業は「親子の関係」になっている

岩本:日本人はやはり、従業員は企業にコミットしているような気がするんですけど、よく考えると男女の関係ではなくて、親子の関係になっているんじゃないかと思います。要は親の言うことを聞く子どもみたいな感じになっていて、企業の言うことを聞く従業員ですね。なので、実はエンゲージメントという概念とは相容れないコミットメントの仕方をしています。

戦後は、そういう親子の関係で日本の経済は成長してきたんですけれども、さすがに今は日本も先進国の仲間入りをして、そういった関係ではなかなか(成長しない)。要は労働でがんばって売上を上げていくビジネスは、今アジア諸国にほとんど移ってしまいましたので、ある意味、欧米並みの生産性で勝負をするビジネスをやっていく必要があります。

そういった観点でいうと、がんばって働くよりもしっかりした男女の関係性。従業員は従業員で企業の業績にコミットをするというか、企業もそういった意味で従業員がいきいきと働けるような環境を作ってあげる。そういった企業カルチャーを作るのが重要になってくると思います。

今、エンゲージメントのHRテクノロジーのツールというのもかなり出ていまして、今ものすごい急成長をしています。

これから伸びると言われているのが。「System of Productivity」です。生産性を高めるためのHRテクノロジーが今年ぐらいからものすごく盛り上がるだろうと言われています。これは日本だけではなくて世界的にということです。

生産性を高めるとなりますと、さきほどの給与やタレントのデータ、エンゲージメントのデータなど、そういったことに加えて、企業の業績データ、財務会計のシステムとも連携をさせて生産性を数値化していくため、マネージしていくことが必要になってくる。

まさにデータ連携が、人事の領域だけじゃなくてファイナンスとかほかの領域も含めてデータ連携をしていくことが必要になっていまいります。