三木谷社長に呼び出され、神戸へ

仲山進也氏(以下、仲山):10年ぐらい前、店舗さんたちと「どうやったら会社がよくなるか」みたいな話を毎日のようにしているなかで、すごく違和感があったのが「なんでみんなは中小企業の社長ばかりなのに、自分だけサラリーマンなんだろう?」と。それがちょっと気持ち悪くなりまして、自分でも経営者をやってみたいという思いにつながっていきました。

「視座は、座ってみないとわからない」と思っているんです。というのも、楽天大学立ち上げ当初、講座のアンケートに「言ってることはわかったけど、君ら小売の経験ないんでしょ?」って書かれたりすることがたびたびあったんですよ。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):なるほど。向こうからね。

仲山:ちょっと意地悪な? 店長さんから。

伊藤:ショップの。

仲山:はい。それで、「まぁいろんな店長さんの話を聞いているから、やったことないけど、だいたいわかるわ」とか思ってやってたんですけど。

2004年にテレビを見てたら「三木谷浩史さんがヴィッセル神戸のオーナーになりました」というニュースを見て、サッカー好きな僕は衝撃を受けました。

そのニュースを見た直後に社内で合宿があったんですね。晩ごはんのときに、目の前に三木谷さんが座ったので、「はい、サッカー好きです、神戸、神戸」って片言でアピールしてみたんですけど、あれは三木谷さんが個人でやってる会社でオーナーになったものなので、楽天とはなにも関係なかったんです。社長が同じ人というだけで。

なので「楽天からは誰もやらないよ」って言われたので「ザンネン」と思ってたんですけど。

2週間後ぐらいに秘書から内線がかかってきて「三木谷さんがお呼びです」と言うから行ったら、めっちゃニヤニヤしながら「君の願いを叶えてあげよう」って言われて。

(会場笑)

「明日から神戸、行ってきて。忙しそうだから手伝ってきて。1、2ヶ月ぐらいかな? 以上」って言われて、そこで荷物をまとめて神戸に行きまして「お手伝いに来ました」という。グループ会社でもないので人事発令もなく、「非公式お手伝い」として行きました。

店舗運営を体験してわかった店長の視座

仲山:机を用意してもらえていましたが、「開幕準備、あと1ヶ月!」みたいな感じでみんな忙しそうだし、なにかできることないかなと思ってまわりを見回すとグッズがあったので、「売れるものがあるんだったら、ネットで売れるところを知ってる」と思って、楽天市場の資料請求ページでふつうに入力をしてポチッと押して。

送られてきた申込書を書いて、「クリムゾンフットボールクラブ 代表取締役 三木谷浩史」という判子を借りて押して、FAXで「楽天 三木谷浩史様」宛に、「三木谷 to 三木谷の書類!」とか思いながら申込書を送り。

(会場笑)

結局1年ぐらい、ネットショップ運営をやりました。グッズ担当の人に店長をやってもらって一緒に店舗運営をやってみて思ったのが、「店長業ってこんなにやることいろいろあるんだな」って。

梱包とか発送とか、バックオフィスのことぐらいは想像できるんですけど、例えば繁忙期に合わせてバイトを手配するのに手を取られるとか、こっち側からは見えていなかったいろんな業務があって。

「売上を上げる企画とか、もっといろいろやっていきましょうよ」と言っても忙しそうだった理由というのがすごく腹落ちをして、だから「お前、こっちのことわかってないだろ」って思われてたんだろうなと理解した経験があります。

だから「視座は座ってみないとわからない」と。

伊藤:おっしゃるとおりですね。

仲山:話を戻すと、「やっぱり経営者というのもやってみないとわからないんだろうな」と思って、「でも、この会社だと社長はやれないよな」と思って(笑)。

伊藤:楽天ではね。

兼業自由、勤怠自由の「フェロー風正社員」に

仲山:「これはやっぱり自分でやるしか味わえないな」と思ったから、「そういうことを考えています」と言ったら、会社のほうで「辞めなくてもいい方法を考えてやろう」ということになって、「兼業フリーで勤怠フリーだけど正社員というのでどう?」という提案をいただきました。

伊藤:それ何年ぐらいですか?

仲山:それが2007年。

伊藤:2007年。

仲山:はい。だから10年前。

伊藤:「フェロー風正社員」というタイトルなんですよね。「仲山進也」ってYahoo!で検索しますとですね。

仲山:Yahoo!で(笑)。

伊藤:フェロー風正社員って言葉が出てくるんですよね。「このフェロー風、なに」っていうと、兼業自由?

仲山:はい。兼業自由。

伊藤:兼業自由って楽天ではOKなんですか?

仲山:いや、NGです。

伊藤:そうなんですか。じゃあ1人だけ?

仲山:1人だけ。制度もない、イレギュラーです。

伊藤:加えて、勤怠自由というのはやっぱりうらやましいですよね、フリーマン。

仲山:ちなみに、最近会社に行ったのは1ヵ月以上前のことのような気がします。

伊藤:(笑)。へぇ、すごい。

仲山:店舗さんと遊ぶ係なので、二子玉川のオフィスに行っても誰も遊び相手がいないというだけなんですけど。

伊藤:なるほど。

新しいことをやるために別の会社を立ち上げる

仲山:そんな働き方をしていて、会社をとりあえず作ってみて、1人で細々とやっています。楽天と、自分の会社と、個人事業主の立場があるわけですが、やりたいことがあったときに「やりやすい立場」を使うことで、動きやすくなっています。

会社が大きくなってくると、新しいことをやろうと思っても、根回し的にやっていかないと、あとで「聞いてない」みたいな感じになりますよね。

しかも、僕らがやってるような研修って、「こんなことやりたい」って言ったときに「それって、やったら売上はいくら上がるの?」みたいな質問とかしてくる人がいるじゃないですか?

伊藤:あぁ、いるんですね。

仲山:もうそうなったら「ごめんなさい」しか言えないですよね。

伊藤:言えない、言えない。うん。

仲山:これだと新しいことやりにくいな、店舗さんと遊びにくいなと思って。なので、新しいことを立ち上げるときは社外で、自分で立ち上げて、盛り上がって楽天の中の人が興味を持ってくれて「それ楽天としてやろうよ」と言われたら「じゃあやりましょうか」って。

伊藤:そういう意味では、完全な公私混同ですよね、それ。

仲山:まぁ、そうですね。1人インキュベーションシステムみたいな。

伊藤:そうそう。それ僕も完全にそうで、Yahoo!アカデミアでやってることをこっちでやってみて、こっちで新しいことやってみて「うまくいきそうだ」って言ってYahoo!アカデミアでやるって、ぜんぜん普通にありますね。

仲山:本当そういう感じです。

伊藤:そういう感じなんですね。

仲山:はい。ちなみに会社作ってみてしみじみと思ったのが、すごく当たり前なんですけど、「会社というか、社長って自分で決めないとなんの仕事もないんだな」って思って(笑)。

伊藤:そうですよね(笑)。

仲山:当たり前だったんですけど。サラリーマンって「これをやれ」って言われるじゃないですか。社長だと言われない。それが一番新鮮だったことですね。

伊藤:なるほど。あと、横浜F・マリノスの仕事というのは?

仲山:これもいろんなご縁がありまして。2016年に、Jリーグの横浜F・マリノスで、「なにかおもしろそうなことできそうだったらやって」と、やることを決めずに入れてもらえて。

小学生向けのサッカースクールがあるんですけど、コーチが何十人かいて、そのスクールコーチ向けにチームビルディングというか、コーチングというか、コミュニケーションやものの見方・考え方の研修をやったり。あとは、今日もこれからこのあと行くんですけど、ジュニアユース、中3のチームの選手に向けて同じようなことをやったりしています。

伊藤:なるほど。コーチのコーチであったり、選手のコーチであったりということですね。

「ジャイキリ本」出版までの経緯

伊藤:ちなみに2人の著書のところをみると、「ジャイキリ本ほか」と「キングダム本」とありますが。

今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――『ジャイアントキリング』の流儀

キングダム 最強のチームと自分をつくる (神ビジ)

仲山:これは羊一さんとの、2人の馴れ初めに関わる話ですよね。

伊藤:そうそう。馴れ初め。5年前の。

仲山:馴れ初めをみなさんに共有しておいたら、なんとなく働き方のヒントにもつながるかなと思うんですけど。あと、僕が2012年にジャイキリ本を出した経緯もまたちょっとネタ的に共有したいですね。

伊藤:ちなみにジャイキリ本って正式名称はなんていうんですか?

仲山:『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』です。

サッカー用語としてよく使われる「ジャイアントキリング」の意味がわからない人が多いだろうということで、「大金星」って、相撲用語に置き換えられてしまったんですけど(笑)。

(会場笑)

仲山:チームビルディングの講座を楽天大学でやっていて、それに参加してくれた店舗さんがある日突然、ダンボール箱をうちにアポなしで送ってきてくれて。中を見たら『GIANT KILLING』の1巻から17巻までと『ONE PIECE』が入ってたんです。

それで手書きのメモで「チームビルディングを語るなら、これ必読でしょ」って書いてあったのでとりあえず読み始めたら、『GIANT KILLING』のストーリーの展開が僕らがやっているチームの作り方にまさにぴったりなストーリーで。めちゃくちゃハマって「ジャイキリすごいなぁ」と思ってた矢先に、たまたま知り合いのパーティーへ行ったら講談社の編集者さんがいて。

その人もサッカー好きで、「講談社さんと言えば、僕、ジャイキリはまってるんです」という話をしたら、「ジャイキリの担当編集、僕の同期なんですよ。今度、昼飯でも行きます?」って言われて、「マジですか!?」と。

ジャイキリの編集者さんとお昼ごはんを食べながら、いかにジャイキリのストーリーがチームビルディング的な理論に則ってるかということをずっとしゃべって、そのあとパワポも何十枚か「このシーンがこういうことです」みたいな解説をつくって送ってみたんです。

その担当編集の人が、ご飯を食べながら、「作者がいろいろ考えながらつくってきたストーリーが、そうやって理論的に裏付けされるとすごくおもしろいですね」とは言ってくれていて。

でもパワポを送ったあとはなんの音沙汰もありませんでした。それが1年経ったときに急にメールが来て、「仲山さん、あれ、作者のツジトモさんOKが出たんですけど」って。

伊藤:1年かかったんだ?

仲山:はい。たぶん忙しくてそんな僕のスライドとか目を通してる余裕がなかったと思うんですけど。それで「『自由に絵も使っていい』という破格のOKが出たんですよ」と言われて、それで喜んで作ったのがあの本で。

伊藤羊一と仲山進也の馴れ初め

仲山:それで、ジャイキリ本を出しました。そしたら講談社の僕の担当編集者さんが、「僕の同期でグロービスに通ってるやつがいて、そのグロービスに伊藤羊一さんというめちゃくちゃサッカー好きな人がいるらしい、って聞いたんだけど」と。「なので、引き合わせたいんです」ということでご飯を食べに行った、というのがちょうど5年前ですよね?

伊藤:そうそう。そうなんですよ。ジャイキリの話をやおら、しまくったりね。その頃、僕はまだグロービスの講師にもなってなくて、ましてヤフーにもいないしって、そんな感じだったんですけどね。

仲山:羊一さんがそのときに「なに学長って? なにマンガで本出すって?」と面白がってくれて。

伊藤:そうそう、そうなんですよ。だから、僕が学長と名乗っているのは、仲山さんが名乗っていて、5年前に会ったのがきっかけです。それからマンガで本を書くというのも、「『GIANT KILLING』かぁ」と思って、そういうことがあってからの、僕の「キングダム本」になっていて。僕のロールモデルみたいなものですね。

あとフェロー風正社員というのもやっぱりちょっと憧れがあって。僕も最初「フェローと呼んでくれ」と言ってたんですけれども、却下されて。「フェローはダメだ。辞めた人っぽいから」って。

仲山:フェローって、もともとリクルートにいた藤原和博さんが、1回辞められて、契約して社内で働くという働き方を「フェロー」って呼んだんですよね。

伊藤:そうなんですよ。だからフェローというのはダメで、僕は名刺に「コーポレートエバンジェリスト」って書いてあるんです。そのコーポレートエバンジェリストというのは、「フェローはダメだけどエバンジェリストだったらいい」という、「ぜんぜん違うじゃないか」って感じなんですけれども、そんなことがあったので、もうロールモデルです。

仲山:ちなみに僕のフェロー風正社員というのは、制度ではないイレギュラーなので、自称です。

伊藤:自称なんですね。なるほどね。それで僕も、なんとなくそういう憧れもあってみたいなところで、キングダムのセリフから学ぶリーダーシップについての本を出しましたということです。