障がい者スポーツは感動物語ではない
元NHK_PR1号・浅生鴨氏が新著『伴走者』に込めた思い

第2部 #4/5

2017年11月16日、講談社新刊書籍説明会で著者や編集者らが新刊を発表しました。本パートでは『伴走者』の著者・浅生鴨氏が登場。新刊の内容や、執筆にいたった経緯などを語りました。

NHK広報局Twitterの元「中の人」

司会者:では本日最後のプレゼンです。作家の浅生鴨さんです。担当の文芸第一単行本編集チーム須田美音がまず説明いたします。

須田美音氏(以下、須田):文芸第一出版部の須田です。よろしくお願いいたします。文芸第一出版部の目玉は、来年2月27日刊行予定の浅生鴨さん新作小説『伴走者』です。

伴走者

著者の浅生鴨さんは異色の経歴を持つ作家です。NHK広報局Twitterの、元「中の人」とご紹介するのが一番わかりやすいかもしれません。

NHKに勤めていらっしゃった2009年に広報局Twitterを開設し、公式アカウントらしからぬゆるーいツイートで人気を博しました。

当時としては驚異的な48万人フォロワーを達成しまして、「中の人」の先駆け的存在と言っていいと思います。NHK_PR1号さんというお名前で、新潮社から『中の人などいない』というエッセイを刊行されています。

その後2014年にNHKを退職されて、現在は執筆活動を中心に、広告やテレビ番組の企画演出を手がけられています。今NHKで放送されている『チョイ住み』という番組があるんですけど、そちらの制作をされているのも浅生さんです。

それでは浅生さん、どうぞご登壇ください。

(会場拍手)

須田:浅生さん、ちょっと照れ屋なのであまり素顔は出していらっしゃらないんですけども、浅生鴨ということで鴨の被り物で(笑)。ちょっと話しづらい……。

浅生鴨(以下、浅生):そうですね。

須田:呼吸が苦しいのですみません、最初だけ……鴨で(笑)。

(会場笑)

浅生:よろしくお願いします。

まさか自分が小説を書けるとは

須田:お願いします。私が浅生さんに初めてお会いしたのは、この『中の人などいない』という本を読んだのがきっかけでした。

中の人などいない@NHK広報のツイートはなぜユルい?

当時私は『群像』編集部におりまして、群像編集部Twitterの「中の人」として方向性に悩んでたんですけれども、書店でこの本に出会ってすごく励まされまして、それでご連絡してお会いしたのが初めてのきっかけです。

当時NHK_PR1号さんだったんですけれども、群像に『エビくん』という小説を浅生鴨の名義で初めてお書きいただいたのが2013年。初めて小説を頼まれた時はどんなお気持ちでしたか?

浅生:最初、本当はまさか自分が小説を書けるとも思ってなかったんで、どう断ろうかと思ってたんですね。ただ、よい断り方が思いつかなくて、断るぐらいだったら書いて渡してボツになった方がいいやと思って書いたんです。実は。

須田:そうだったんですね。今初めて聞いたんですけど(笑)。でも『エビくん』という小説はすごくいい作品で、ちょっとまだ書籍には入ってないんですけれど。

このプロフィールに書いてありますけど、日本文藝家協会の『文学2014』に収録されていますので、ご興味ある方はそちらでご覧ください。浅生鴨というペンネームはちなみに何から?

浅生:口癖が「あ、そうかも」ということでそのまま口癖をダジャレにしました(笑)。

須田:ダジャレから決まったという。

パラスポーツの「伴走者」の存在に衝撃

須田:それで、『エビくん』のあとに次どんな作品を書いていただこうかなと思いまして、ご相談して浅生さんから出てきたテーマが「伴走者」だったんです。

それから4年の歳月をかけて取材、執筆していただいたのが、今日ご紹介する『伴走者』なんです。そもそも「伴走者」を小説の題材にしようと思われたきっかけって何ですか?

浅生:そうですね、僕がNHKにいた頃から、いわゆるパラリンピックだったり、障がい者スポーツの取材をしたり番組を作ったりということを度々やっていて、その時に一番僕がびっくりした存在が「伴走者」ということで。

選手のようで選手でない、でもやっぱりアスリートであるという。伴走者って視覚障害のスポーツにしかいないんですけど、視覚障がい者とそれを見る僕たちとの間をなにかつなぐ、間にいる存在としておもしろい存在だなと思ったんです。

須田:(スライドを指して)こちらに写真がちょっと出てるんですけど、これはマラソンの伴走者?

浅生:そうですね。陸上競技。伴走者は陸上競技だとマラソンから、またそれこそ100メートルから短距離、中距離、長距離とあるんですけど、ロープを持って走るという特徴がありますね。

フォームが、とくに短距離なんかは、横から見てるとまったく同じフォームで走るので、1人で走ってるようにしか見えないんです。それぐらいピッタリ、影みたいになっちゃうという。おもしろいですね。

須田:伴走者ってマラソンだけでなくて他の競技でもいるんですよね。

浅生:高飛びとか幅跳びは、伴走はいないんですけど、走る競技とあと冬の競技と、それぞれ伴走者がいるというかたちです。

アスリートたちの目の代わりをする役割

須田:マラソンでは伴走者が選手の横を走っているというのはこの写真でおわかりかと思うんですけれども、スキーの伴走者が何をしているのかはちょっとわからないと思うので、浅生さんが2014年のソチパラリンピックのために制作したCMをご覧ください。

(CM動画が流れる)

今、Gというゼッケンをつけてたのが伴走者?

浅生:ガイドというGですね。あれをみんなつけることになっています。腰にウエストポーチを巻いてるんですが、あそこにスピーカーが入っていて、そこから指示を出すマイクの声が出ます。

選手は目が見えませんから、その音で位置だったり距離だったり、あるいは指示を聞きながら滑っていく。

須田:マラソンでもスキーでも選手の目の代わりをするが伴走者ということですか?

浅生:そうですね、目になるということですね。

障がい者スポーツは感動物語ではない

須田:今回の単行本には、同じ『伴走者』というタイトルなんですけど、「夏・マラソン編」と「冬・スキー編」の2つの小説が収録されています。まず、「夏・マラソン編」の内容をご紹介します。「早いが勝てない」と言われ続けてきた淡島という人物が伴走者として世界を目指す物語です。

選手の方は、元プロサッカー選手の内田という、こちらも男性です。内田はすごく傲慢な性格なんですけど、勝利に貪欲なんですね。その内田という視覚障害があるランナーと、淡島という伴走者が出会うことで2人が徐々に変わっていく。

この2人がパラリンピック出場を懸けて、南国のマラソン大会に出場しまして、そのコース、その競技のスタートからゴールまでを描いた作品です。この作品は浅生さん、実際に取材したことが活きた点ってありますか?

浅生:凄まじい駆け引きが、実は視覚障害マラソンの中にありまして、それは伴走者同士の駆け引きだったり、伴走者がライバルの選手に対して仕掛ける駆け引きだったり、あと自分が一緒に走っているパートナーのメンタルを、逆に向こうが仕掛けてきたときにそれを支えなきゃいけない、という。

視覚の妙を、実際現役の伴走者の方にお話を聞いて。僕がお話を聞いた人がまたズルい人で、とにかく勝つためには何でもするというタイプの人だったものですから、この話がおもしろかったんで、それは極力活かしたいなと思って、作品の中に入れました。

須田:なんとなく障がい者スポーツというと、すごく努力するとか感動するとか、きれいなイメージのある方も多いと思うんですけど、けっこう勝つためにはなんでもやるという。

浅生:実際僕が付き合いのある、このパラスポーツの選手というのは、やっぱり「勝ちたい」という強い意思があるので、トップクラスになればなるほど、ひどい人が多いというか(笑)。

言葉を選ぶのが難しいですが、ともすればこの障がい者を扱う番組などでは、かわいそうな人たちががんばって何かを乗り越えて達成していくという、なんていうか、ちょっと感動させようとする物語を作りがちなんですけど、実際はそうでもなくて。

ズルい人もいれば、ひどい人もいるし、怠け者もいるし、という。そのへんも多少知ってもらえればいいなと思ってそういうキャラクターにしています。

須田:そのレースの行方がどうなるのかというのは、「夏・マラソン編」だけ試し読み版をご用意しましたので、読んでみていただきたいです。このあとの懇親会の会場で無料配布しています。このグリーンの冊子が目印ですので、みなさんぜひ一部手に取ってお帰りください。

スピード競技が舞台の「冬・スキー編」

須田:もう1作品の「冬・スキー編」なんですけど、こちらは優秀な営業マンだった涼介という男性が、会社の方針で障がい者スキーの伴走者をするように命じられます。

彼は1位にこだわるあまり、ピーク時に選手は引退していたんですが、彼が全盲天才スキーヤーの女子高生の晴(はる)と出会うことでだんだん変わっていくという作品です。こちらは何か取材が活きたところってありますか?

浅生:これは先ほどご覧いただいたあのCMがきっかけで、僕はスキーの伴走を知るんですけど、とにかく「こんなとこ滑るの!?」というところを滑るんですね。

あの撮影も実際に試合で使うコースで撮影しているんですけど、上まで僕は当然撮影なので行かなきゃならないんですけど、下りるのに2時間近くかかる。

要するに1メートル滑ったら転んじゃうくらいで、もうとてもじゃないけどまともに下りてこれないような急斜面を滑る人たちが、しかも目が見えない状態で滑る人たちがいるという。

その驚きと、彼らを誘導する伴走者の技術のすごさですよね。そこがやっぱり取材して一番驚いたところで、実際僕も全盲の選手と一緒に滑ったりしてるんですけど、何度か。

とてもじゃないけど自分が滑るので精一杯なので、さらに他人の命を預かって滑るってなんていうのは、本当になかなかたいへんなことだなという。その感覚はどこかに上手く活かせたんじゃないかなと思ってます。

須田:トップ選手だと100キロを超える速さ?

浅生:そうですね、時速100キロで、しかも伴走者の後ろ何メートルかの距離で。時速100キロってことは、1秒で25メートルくらい進んじゃうのかな。

ということは、「はい右」とか言うきっかけが1秒遅れたら、もうぜんぜん違うところに行ってしまうし、その瞬間瞬間で状況が刻々と変化するという。スピードはマラソンの比ではないという感じですね。

何も言わなくても気持ちが通じ合う

須田:実際取材と執筆をされてみて、浅生さんは選手にとって伴走者ってどんな存在だと思いますか?

浅生:とくにトップレベルになると、単純に試合を一緒に作るというだけではなくて、日常もわりと一緒に過ごすことが多くなるので。恋人とまではいかないですけど、もしかすると僕とうちの妻よりも意思疎通が上手なんじゃないかな(笑)。

何も言わなくても気持ちが通じ合ってたりするので。選手は目が見えないのに、伴走者とならグラスをちゃんとピタッと同じところに当てて乾杯ができるんですよ。

つまりどこにどれぐらいの間隔でこの人は何を持ってくるが向こうもわかっているしこっちもわかっている。そこはなんか見てておもしろいなという。

須田:今回の作品はどんな方に読んで欲しいと思われますか?

浅生:できるだけ多くの方と言ってしまうとなんなんですけど、単純に障害を全面に出しているわけでもなくて、あくまでもテーマとして伴走者という人間を書いてるつもりではいるので、物語が好きならまずは楽しめるかなと思っているんですね。

それと障害というものに対して、どう接していいかわからないなと思っている人たちにも読んでいただきたいです。

「障害のある人たちと、こんなかたちでやり取りしていいんだ」というのがなんとなくわかるのかなと、そんな気ではいます。

浅生氏は平昌パラリンピックに行く

須田:「夏・マラソン編」はすでに「群像」に掲載されたんですけど、その時に評論家の田中和生さんが毎日新聞で「素晴らしかった。パラリンピック出場権をかけたマラソン当日のドラマが圧巻だ」と評して下さっています。

「冬・スキー編」は完全に書き下ろしで、単行本に初めて収録されます。それでは最後に浅生さんから一言お願いします。

浅生:すごくドラマとしておもしろいものを書いていると自分では思っています。単純にフィクションができることはいろいろあるんでしょうが、たぶんフィクションだからこそ、これは上手く取り上げられるテーマなんだろうと。ぜひみなさんのお力をフィクションに与えていただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

須田:来年の3月に平昌パラリンピックというのがありまして、これは東京パラリンピックの前に行われる最後のパラリンピックなんですけれども、浅生さんも現地に行かれる予定があるということで、その直前の2月27日にこの『伴走者』は発売予定です。本日はありがとうございました。

浅生:ありがとうございます。

司会者:はい、浅生さんありがとうございました。

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