リオで一番の失敗

司会者:ありがとうございます。では、みなさんからの質問あるいは感想でもけっこうです。ありませんでしょうか?

(会場挙手)

質問者1:貴重なお話、ありがとうございました。梅村さんのお話はよかったものが多いということでしたけれども、その逆で一番の失敗とか。

梅村直承氏(以下、梅村):そうですね、話したくはなかったですけども(笑)。わかりました!

質問者1:申し訳ないです(笑)。

梅村:さっき泣いていた(マイケル・)フェルプス選手が今回最後ということで、僕も競泳を北京でもサブで入ってずっと撮っていたので、フェルプス選手が今回リレー種目では金を取るだろうと。だけど個人種目の200メートルバタフライでは取らないんじゃないかという予想の中で、目の前ですごい泳ぎを見せたんですね。

思わずフェルプス選手をずっと追いまして、フェルプス選手のガッツボーズしか撮りたくないというアドレナリン状態になったレースで、坂井(聖人)選手が銀だったんですね。それが一番の失敗で。とにかくフェルプス選手を追ってしまったっていうのが大きな失敗ですね。

思い込みとかじゃなく、ただ純粋にフェルプス選手を撮りたかったという。これはやってはいけないミスなんですけれども、今回一番大きなミスです。ただフェルプス選手のガッツボーズは、日本のどこの新聞社よりもいいガッツポーズでした(笑)。

(会場笑)

「いいもの」は5分以内に日本に届ける

司会者:ほかにいかがでしょうか?

(会場挙手)

質問者2:ありがとうございました。去年中継を昼間の何時くらい、夜の何時くらいに観てたなというのを思い出しながらお話をうかがいました。テレビのdボタンとか録画を駆使しながら拝見したのを覚えています。

参考までに、何時くらいに日本にデータを送信するのか、その現地時間ですとか。タイムスケジュールを簡単に教えていただけますか?

梅村:社外秘なことではあるんですけども。基本的には競技が終わったら5分以内にはいいものを送るっていうことが大事。例えば競技が現地時間22時半か22時45分くらいに終わります。ごめんなさい、正式な時間は忘れましたけど、そうすると夕刊に間に合わすためにはできるだけ早めに、5分以内には送りたいというようなことが、いろんなところで続きます。

現場の感覚としては撮り終わったら、とにかく5分以内に一番いい写真、喜びの写真とプレーですね。動いているプレー中の写真を2枚入れなきゃいけないというのがみんなの共通認識で、そういうふうに現場のカメラマンは動いていると考えてもらうといいと思います。

質問者2:朝刊と夕刊で2回あるんですよね?

梅村:そうです。基本、午前10時台11時台とかに競技がありますので、それが終わるとすぐ送るという感じですね。だから夕刊がない日はとってもうれしいです(笑)。

(会場笑)

卒業後18年の模索

司会者:ほかにいかがでしょうか? 恩師の先生はどなたでしょうか? ちょっとコメントをいただけませんか?

梅村:先生、すみません! ありがとうございます。

質問者3:困りましたね、突然で。実は御社に私の息子の嫁がおりまして、彼女から……。

梅村:中村かさね記者。

質問者3:「梅村君が講演するんだけれど、来ませんか?」と言われて。晴れ舞台なのかどうなのかわかりませんが、行こうかなと思って。勤め始めて何年ですか?

梅村:18年目になります。

質問者3:あ~。相当年季が入って、たいしたもんだなと。

梅村:ありがとうございます。

質問者3:実は彼は卒業論文のテーマに写真を取り上げて。私は読んだんですけれど、これと共通して、自分で写真を切り取る。先ほど言いましたけれど、動画もいいんですけど、切り取るということの重要さというのが今日の彼の言葉の端々に出てきて、私はけっこう感動しながら聞きました。

十数年やっていて自分の仕事に打ち込んでいることの意味合いを、今日実感してうれしかったです。本当にいい話を聞けました。突然のことで、なにを言っていいか(笑)。

司会者:いえいえ、素晴らしいコメントありがとうございます。

梅村:ありがとうございます。

(会場拍手)

卒論がひどくてですね。先生に「これから君は働きながら答えを見つけるんだよ」と言ってもらったのが18年前で、今もまだ模索なんですが。ありがとうございます。うれしいです!

司会者:では、質問を続けます。

開幕前から報道は始まる

質問者4:お話ありがとうございます。自分も今大学4年生でメディアについて学んでいるんですけど。リオで80日間事前取材をされていたことについて。けっこう現地の治安も悪くないということで、子どもたちの表情だったり、現地の方の取材をしたと思うんですけど。

具体的にどういった事前取材をやっていたのかなと。オリンピック会場だけではなく、現地の人たちがどういう期待を持っているかとか、どのくらいの幅まで取材されていたのかなというのが気になりまして。

梅村:ありがとうございます。難しい質問ですが。幅という意味では、まずこの日が1ヶ月前にあたるというようなことを知らせるための取材が1つありますね。

毎日新聞には、夕刊にeyeという写真を5、6枚使って1面を作る連載がありまして。その編集をしてくれる岩野さんと相談して、現地の人の素の姿を載せたいという話をしまして。そういう試みですかね。現地の人たちを取材したというのはそのためで。

もう1つは、事前にオリンピックが始まるよという連載があって、そこに写真でいろんなものを載せたい。例えば金メダルを作っている場面に行ってみたり。

さっきのファベーラの中でどうやって治安が守られているのかとか、あとインフラがどうなのかということも取材しました。それも先ほど話したデスクと相談しながら、「ここがいいんじゃないか」とか言っていました。

もちろん記者のみなさんと連携しながら行う取材もありますし、その記事に関してはカメラマンが撮って自分で記事を書くということもありました。基本的にうちの会社のいいところは、現場の記者の興味を最大限に聞いてくれる媒体というところで。メディアを学んでいるならぜひ、うちに来てください(笑)。

質問者4:ありがとうございます。

ボルトの写真がバズったエピソード

司会者:私からも1つ。あの写真がSNSで爆発的に拡散したということですが、そのことも含めて後日談とか、この写真の反響について聞かせてください。

梅村:うちの写真映像報道グループというのはSNSの展開をすごく大事にしていまして、このときも送ったらすぐ森田さんという担当の方が受けてくれて、それをすぐSNSに載せました。我々には動画の編集ルートもあるので、写真をたくさんまとめてスライドショーで見られるようにして、それもSNSで公開しました。

だから、いろんな写真が今回の五輪では拡散されていたんですね。ただ日本に帰ったのがだいぶ後だったので、どういう反応があったのかというのはあまり聞かなかったというかわかってはないんですが。そういう取り組みも今回は毎日新聞が一番展開できたので、たくさんの人に見られたのではないかなぁと思います。

もう1つおもしろいなと思ったのが、この写真のまとめみたいのができていて、友達の高校生の娘さんに、「これにセリフを入れるのが流行ったんだよね、直さん」みたいなことを言われて。それも公開から半年くらい経ったときに言われて、そういう伝播の仕方というか、人の興味の結びつき方があるんだなというのは感じました。答えになっているかわからないですけど、そういうイメージですね。

司会者:動画と写真との棲み分けと言いますか、違いというのはどこにあるとお考えになりますか?

梅村:そうですね。まったくそれぞれの良さが違うので、棲み分けというのはこれからどんどんしていかなきゃいけないと思っています。動画を見ていて感じる温度と感動と、まさに切り取るというか、そのときにカメラマンの見せたいという想いで定着したイメージが伝えるものは、まったく違うんだなというふうに今回感じまして。

先ほどのSNSのリアクションの中には、「動画と違う世界が見れた」とか、「まったく気づかなかった」っていうのがあったんです。そういうことを提供していけるのが写真の力だし、写真だからできることだと思っています。

動画の良さも当然あって、動画の展開も大事だし、写真を撮るにはより写真に力があるということを信じてそういう写真を目指したほうがいいと今感じています。

司会者:ありがとうございます。ほかにどうでしょうか?

(会場挙手)

振り落とされる恐怖と戦いながら撮影

質問者5:女子のマラソンのときにバイクの後ろに乗っかって代表で撮影なさっていましたけど、あれはかなりのスピードが出ると思うんですけど。どんな感じなのでしょうか? 振り落とされるんじゃないですか?

梅村:そうですね。今まで車でマラソンをずっと撮ったことはあったんですけど。今回、後ろを振り返った状態で撮り続けるという。

質問者5:なんか恐ろしいですね(笑)。

梅村:そうなんですよ(笑)。まず体が痛いっていうのが第一なんですけど。こういう状況なんであんまり視野が広がらないんですね。スピードも出てるんですけど、ドライバーさんがすごくて。「直承、向こうにコーチが走ってるぞ」とか言うんですよ。

「なんで知ってるんだ?」と思ったら、日本人が走ってるから感じてくれて、そういうことを言ってくださって。怖さよりも体の辛さとドライバーの方のすごさみたいなのを感じながらずっと2時間やってましたね。

質問者5:そのときも3台カメラを?

梅村:そのときは、デカイのは無理なので、この2つなんですね。この2つで、少し長いものを撮れるようにちょっと工夫したりしながら、組み合わせて。落とすと大変なので、たすき掛けにしてやるもんですから、さらに厳しい状況が続くんですが。

質問者5:体をバイクに縛ったりとかするんですか? くくりつけたりとか?

梅村:くくり付けはしてくれなかったですね。だから怖かったです。

質問者5:すごいですよねぇ。

梅村:時速何キロくらいですか? マラソンって。20キロくらいですか?

司会者:スピード? 女子だと20キロか、18キロくらいじゃないですか?

梅村:なのでたぶん僕が感じてた恐怖より、みなさんが見るとゆっくり走ってたように見えたかもしれないです(笑)。

質問者5:バイクに乗っていたこともあるので、これはさぞすごいんだろうなと。

梅村:そうですね。でも本当にその体勢が一番辛かったです(笑)。

質問者5:どうもお疲れ様です。ありがとうございます。

多くの記者との場所取り争奪戦

平田明浩氏(以下、平田):じゃあ僕から1個質問いいですか? 記者の場合カメラ席って、プレミアリーグとかだとまずカテゴリーがあって、さらに順番というかくじ引きで場所が決まるっていうのがあるんですけど。

オリンピックって、カテゴリーは何個かあったと思うんですけど、そのほかにくじ引きで順番決めるとかはあるんですか?

梅村:基本的にカテゴリーです。あとは来た者順になります。だから僕らみたいに5人で回していると各会場を回らなければいけないので、どうしてもあとから入るといいところに入れなかったりします。だから多い会社の人はずっとその場所にいるので、いいところで撮れるということになります。カテゴリー以外はすべて来た者順ですね。

平田:ありがとうございます。

質問者6:ほかに会場に記者がどのくらいいるかわからないんですが、毎日新聞さんだと5人というのはけっこう多いという感じでしょうか?

梅村:カメラマンですよね。読売、朝日、毎日が6人、6人、5人ですかね。あと例えばスポーツ紙さんとかは1人みたいな。だから日本の新聞としては多いほうになります。というのはずっと長い間オリンピックの取材をしていたので、信頼関係がJOCの場合はあるというのがあります。

共同通信さんは確か今回15人ですかね。東京五輪のオフィシャルの通信社になるので、今回もプレ対応ということでたくさん入りました。時事通信のみなさんも我々より1人多いくらいでしょうか。そういう感じですね。

質問者6:そうなんですね。ありがとうございます。バトンを落としたときのフォローとかけっこう充実しているようで、でもめまぐるしく走り回らなきゃいけないというのがけっこう厳しい環境なのかなと思って。

梅村:そうですね。5人が多いかと言われると、決して多くはないと思います。取材するうえでは。5人というのはやっぱり厳しい数になります。

司会者:もう1つ私から、東京五輪に向けての話ですが。東京五輪もぜひ取材したいとお考えだと思いますが、リオの経験を踏まえて、今度はこういう工夫をしたいというのはありますか?

梅村:今聞きおよぶところだと、会場を作っている段階でも、非常にカメラマン席が狭いのではないかということも聞こえてきています。なので、おそらく遠くから撮ることが多くなるのかなというふうに想像します。

だからより遠くが撮れるレンズを駆使したり、あとは我々しかできないような切り口みたいなものをカメラマンがそれぞれ考えながらやっていくのがいいのかなぁと考えています。

司会者:ありがとうございます。ほかにありませんでしょうか? では、ないようでしたらこれで終了したいと思います。梅村記者、どうもありがとうございます。

梅村:みなさん、ありがとうございました。

(会場拍手)