毎日のルーティーンは?
小林せかい氏(以下、せかい):質問がまだ1人目っていう(笑)。
武藤北斗氏(以下、武藤):そうですね、すみません(笑)。
(会場笑)
小林:2人目いきましょうか。
武藤:はい、ごめんなさい。
小林:「毎日のルーティーン的なものがあったら教えてほしいです」。ルーティーンはありますよね?
武藤:僕自身のってことですよね?
小林:カズさんからの質問なんですけど、どうでしょうか……。 個人の作業としてのってことですよね?
武藤:僕は、基本的に工場に入るのが、ぜったいに必要だと思っています。午前中は工場に入って、僕だけがやる作業もあるんですが、みんなと一緒に同じ作業をする。それを必ずやるようにして、取材などがある場合は午後に入れるようにしています。
午後はもう1人の社員がまわしてくれて、夕方になったらちょっと事務作業をやって。6時ぐらいまでには帰る、というのが僕の流れです。
小林:私もルーティーンありますよ。お茶入れたり、ご飯炊いたり。お茶とかご飯で大丈夫でした?(笑)。
質問者2:大丈夫です。
小林:本当ですか(笑)。ご飯は炊きますよ、毎日ね。今日はご飯ありませんってのはびっくりじゃないですか。定食屋行って「ご飯ないんだ……」みたいな。
武藤:それは「まかない」の人がやったり小林さんがやったり、ばらばらなわけですよね。
小林:ばらばらなこともありますよ。誰がお皿を洗うのかとか。
武藤:逆に小林さんしかやらないことってあるんですか?
小林:あります。
武藤:それはどういうことなんですか?
小林:いろいろあると思うんですけれど。例えば電気をつける、朝来て鍵を開けるとかね。鍵持ってる人しかできない。そういうしょうもない答えもあるし、あと現金以外の会計は私が担当してます。
お客様の気をコントロールする
小林:先ほど、ちらっと言っていた「ただめし」っていう。未来食堂はお店の入口にふせんが貼ってあって、そのふせんを剥がした方は誰でも1食無料になるんですよ。
それを使う方や、もしくは今日ここで本を買った方は、1食無料券を持って帰れるんですけど、その券を使う方とか。そこは私がレジ担当というか、会計をしてます。それは本当に渡した券なのか、貼ってあった券なのか、偽造を見抜くっていうのもあります。
武藤:あ、そういう面ですか!? 想いを受け取りたいとか、そういうことじゃないんですね。偽造を見抜きたい(笑)。
小林:あとは、想いを見抜きたいっていうのとはちょっと違うんですが、お店っていうのは、お客さんとお店をやってる人のパワーゲームみたいなところがあるんですね。ちょっと今日そこまで話ができるかわからないんですけど。
もしあまりにも、何もわかってなさそうな人がその役割を担当していると「あの人だったら使ってもばれなさそう」「気がとがめなさそうだから使っちゃえ」みたいなことが、たぶん無意識下でもあると思うんですよね。
お店は、そういう気のコントロールをしなきゃいけないんです。そういう意味で、気を受け止めるっていうよりも、気をチェックするような感じですかね。ちょっとルーティーンとは違いますが。
武藤:「ただめし」の券を使うところで……。
小林:これ、まだ2問目なんです(笑)。
武藤:すみません。でも、この本に書いてあったように、連日使っちゃう人がいたって。
小林:いますよ、たくさん。
武藤:いたじゃないですか。その葛藤のことが書いてあって。僕も、連日使われたらすごく葛藤するだろうなと思います。でもその部分を読んでいて僕は、小林さんの葛藤がすごく、なんて言うんだろう……遠藤周作さんの本を読んでるような。わかりますかね?(笑)。
キリスト教の方が、ひたすら自分と、心とのいい方向に行こうとしてる葛藤をすごく感じて。今でもやっぱり、毎日使う人はいるわけですよね。
小林:葛藤はやっぱりなくならないです。さっき遠藤周作さん、キリスト教のって言われましたけど。実は私も中高のころキリスト教徒で。自分の考え方のベースにキリスト教の思考っていうのが、洗礼は受けてないんですけど、すごく根深くあるんですね。
そういうことを本のなかにどれだけ書くかっていうのは、本を読んだときに距離感が出ちゃうかもしれないから、担当の方と少し控えめにいきましょうっていうので。1段落ぐらいでまとめていますが。
武藤:僕はそこがめっちゃ、ぐぐっときました。
小林:ちょっと……3問目いきましょうか(笑)。
武藤:ごめんなさい(笑)。
未来食堂、その未来は……
小林:ハットさんです。「未来食堂の、構想中の未来はありますか? 今の環境をどう見ておられるのか」。ハットさんから重いのきましたね。「未来食堂は今後どうなっていくんですか?」っていつも聞かれるんですよね。そういうことを答えてると、映像映えするじゃないですか。
でも、ないですね。「申し訳ないんですけど、ないです」っていうのをいつも言っています。「そこをなんとかお願いしますよ」みたいなに言われて、なにかな? みたいな。そんな感じです。
武藤:ないんですね。
小林:そうですね……未来。たぶん思いついたらやってるのであんまりないです。思うことがなにもないです。明後日かな、火曜日。月曜休みで火曜日はじまりなんですよ。月曜は仕込みの時間で。火曜日にバジルチキンの定食を出すんです。
炊き込みご飯とバジルチキン。チキングリルしたものにバジルソースを絡めてお出しするんですけど。バジルソースを作るのは今回がはじめてなので、それがうまくいくかっていうのが今、1番の未来に向けてのこと。
武藤:めっちゃ近い未来(笑)。
小林:めっちゃ近い。もう本当に1日先のことしか考えてないですから。「まかない」に来るとけっこう、その感じがよくわかりますね。その日をどう生き抜くか、みたいな。そして、「今の環境をどう見ておられるか」という問いかけ。これ深いですね。でもなるようにしかならないかなっていう感じです。
武藤:そういう、さくっとした感じなんですね。
小林:そうですね。またでてきたら、追い追い。
震災とパプアニューギニア海産
小林:次はショウさん。「会社やお店を経営するうえで1番大変だったこと、苦労していることはなんですか?」。
武藤:僕自身は今は経営者ではないんです。社長がパプアニューギニアとの取引を行って、そのエビを日本で加工・販売するのが僕の仕事なんですが、震災のあとに二重債務というかたちになって。そのときに工場長が辞めちゃったんです。
やっぱりそのときが1番大変。体も大変でした。自分が工場長にならなきゃいけないし。せっかくもう1回大阪でやろうとした会社に、唯一来てくれた社員の人も辞めてしまう。そんなうちの会社ってなんなんだろうというところが、けっこうきつかったですかね。
借金したからきついっていうよりは、そういった、心がきついときのほうが印象に残ってます。
小林:本にも書いてあった、突然「辞めます」って言われたっていうくだりですかね?
武藤:そうです、はい。
小林:武藤さんの本って武藤さんらしさが出てるなって、読んでて思ったんですけど。すごく実直な想い。想いを語ることがけっこう多いんでしょうね。
武藤:はい。もう大好きなんです。
小林:大好き(笑)。辞めるって言われたときも、彼の将来をどうこう思うよりも、自分の工場の明日や、工場をどうまわすかばっかりに気が囚われちゃった。そんな自分がちょっと嫌だった、みたいな箇所がありましたよね。
武藤:そうですね、もう正直に。綺麗ごとだけ書いてもしょうがないと思って。やっぱりいろんなことを伝えたいと思ったら、本音で書かないとみんなも本気で読んでくれないだろう、というのがあったので。そのほうが自分も楽だし、楽しいかなと思ってます。
小林:そういうところからフリー、人を縛らないってなんだろう? というところに繋がっていくんですかね。
武藤:いや、そういうわけでもないですね。そんなに綺麗な感じではじめたわけでもないのかな。自分でもあのときの心境って、正直あんまり思い出せないところもあって。本当にすぐ僕はいろんなことを忘れていってしまうので。
今回も本を書くときにも、昔の日記的なものやブログを読み返すなかで、自分はこう考えてたな、とやっと思い出したぐらいでした。こうやって喋るのも、けっこううろ覚えのことは多いです。ただ嘘はついてません。今思ってることは正直に話してます。
障がいを持つ方とどう働くか
小林:2問目。「これから新しくチャレンジしたいと思ってることは何ですか?」。 私はバジルチキン。
(会場笑)
小林:武藤さん、ありますか?
武藤:バジルチキンとか言われると、また「想い」みたいになって、すごく言いにくいんですけど。僕は最近……障がいを持ってる方と、どう働いていくかっていうのをすごく考えてます。小林さんが目指す「誰もがふさわしい場所」や、そういうのに通ずるものがある、と僕は思ってるんですけど。
障がいを持ってる方がこの社会のなかでどう生きていくか、そこに今はぶち当たっている。そこをどうにか、僕なりの答えを出していきたい。それが、これから先やりたいことです。
小林:未来食堂もけっこう、いろんな障がいを持ってる方がいらっしゃって。本にもちょっと書いたけど、耳が聞こえない人や足が曲がらない人が来られたり。曲がらないっていうか、下のほうに手が届かない人。
あとは、方向性難聴って言うんですかね……正面からだと聞こえるけど、後ろからだと聞こえない、だとか。いろんな身体的な障がいや心身的な障がい。自己申告ですけど、「障がいがあるんです」と言われて。
「今日、何月何日かわかりますか?」って言ったら、わかってくれて。今日のメニューの……なんだったかな。「エビチリって知ってますか?」って言ったら「エビチリ知ってます」って言ったので、「ぜんぜん問題ないです」みたいな。エビチリ知らなかったら、お客様に説明できないから大変だなと思ったけど、エビチリ知ってるからまあいいや、と。そんなレベルです。
武藤:自分たちが知ってなきゃいけない、できなきゃいけないと思ってるものが、実はそんなにできなくても大丈夫だったり。そういうところがあるんだな、というのはすごく感じはじめていて。自由な働き方にしているから感じれたのかなと思います。