押し付けの雰囲気づくりではダメ

小林せかい氏(以下、小林):ちゃんと自己紹介になってますかね? われわれだけで話をしていてもあんまり楽しくないと思うので、今日いただいている、質問表をベースに話していきたいと思います。もし書いていなくても、質問があればライブでどんどん手をあげてもらうかたちで進めれば、と思います。

足りないところは、お互い補強し合うという感じでいきましょうか。

武藤北斗氏(以下、武藤):わかりました。

小林:第1問目いっていいですか? 

武藤:はい、お願いします。

小林:今日はニックネームと質問を書いてもらってます。これは本当に、ランダムに今置いてもらってるので、そのまま。

もしこれから質問を読んだときに、自分の質問だとわかってもいい場合は手をあげていただいて。なんでこういうことを書いたかというところも、自由に話していただいて大丈夫です。ただ、自分が書いたっていうのがわかると恥ずかしいっていう方は、手をあげないでそのまま黙って聞いていただければと思います。

ではこちらの質問から。「スーパーマーケットで働いています」……ちなみに、質問者の方いらっしゃいますか?

(質問者挙手)

ありがとうございます。男性の方だったんですね。なんとなくスーパーマーケットで働いているって女性のイメージがあって。

武藤:あれ? って思いましたね(笑)。

小林:ありがとうございます、質問いただいて。「土地柄なのか、狭くて寒い作業スペースだからなのか、職場はあまりよい雰囲気とはいえません」……作業スペースがあまり心地よくないっていうのは、エビ工場にちょっと通じますね。

武藤:そうですね。めちゃくちゃ寒いです。そこに関しては、人よりエビを優先してるので。ちょっとブラックかもしれないです(笑)。

小林:(笑)。「両氏が実践される新しい働き方は、スタッフの人数の多少を問わず実施できるものでしょうか? また、両氏から見るスーパーマーケットの問題点なども併せて教えていただきたいです。私の働いているスーパーでは、お客様からのクレームが多く、スタッフとお客様の関係性に問題があると考えています」……大変じゃないですか!?

武藤:なんかやばそうな雰囲気が(笑)。

小林:1問目から(笑)。

武藤:けっこう深刻な。

小林:けっこう深刻ですね。何気なくあけちゃったんですけど(笑)。

武藤:働き方……そうですね。もし小林さんから先にあったら。

小林:いやいや、これはけっこう温度的にもエビ工場が近いですよね。

武藤:そうですね。まず雰囲気なんですけど、うちも雰囲気はよくない。よくないっていうか、悪くないことを目指している。いいものを目指そうとすると変な方向にいっちゃうと思うんです。だから、ただひたすら普通の状態を目指せば、それがたぶん、従業員にとって心地のいい場所なんじゃないかな、と僕は思っています。

もしかしたら、そこを目指すといいのかなと思います。本でもちょっと書きましたが「朝礼でハイタッチをする」とか「お互い意識して褒め合う」とか、僕からするとそういうのは会社の押し付けでしかないような気がするんです。

そうではなくて、僕は淡々とみんなが普通に来て普通に帰れるような。そういう職場さえ目指せば、会社であろうとスーパーマーケットであろうと工場であろうと、どこでも一緒なんじゃないかなと思ってます。

小林:ちなみに、工場から見るスーパーマーケットのお客様。その問題点って何か感じたことはありますか?

武藤:いや……まあ今、日本中のスーパーマーケットがうちのエビを扱ってくれてないので。

小林:(笑)。

武藤:問題だらけのような気がしていますけど(笑)。

小林:なるほど。

武藤:いいものをしっかりと見極めてほしい、というのは本当に思っています。値段だけではなくて、どうしてその会社がそういうものを作っているのかという理念だったり、これから何を日本に残してくのかっていうことを、消費者にダイレクトに伝えられるのはやっぱりスーパーマーケットなので。そこをがんばってくれたらうれしいなと。ふだんは言えないので、こういうところで言っておきます。

未来食堂では「お茶を配る」

小林:スーパーマーケットっていろんな部署に分かれて、たくさんの方が働いていらっしゃると思うのであんまり参考にならないかもしれないんですけど。未来食堂ですごく大事にしてるルールが1個だけあるんですね。

先ほど申し上げたように、私は毎日いるんですが、なかで働いてる人っていうのは、ぽっと来た人たちなので、お互いがお互いを知りません。あんまりあいさつもなしに、「うわぁ皿洗いだ」「うわぁレジまわりやんなきゃ」とか、いろんなことに巻き込まれちゃうんです。

そんな感じなので、先ほど言ったハイタッチする余裕すらもなく。名前は余裕があったら言い合えるかな、ぐらいなんです。そんな未来食堂の人たちって、あんまり褒め合うとかも正直ない。「あの人はなんだったんだろう?」って思いながらその人は帰る。

みなさん50分間、いろんな軸で来るので。ある人が来たときにある人が帰っていく。同じところからはじまるわけじゃないんですね。ではどうやってみんなが何かを繋いでるかっていうと。すごく具体的な話なんですが、お茶があるんです。「未来食堂、お茶が飲めます」と。ボトルにお茶があって飲めるんですね。あとお冷が出ます。

働いてるとのどが渇くじゃないですか。「いらっしゃいませ」とか、いろんなことをやって。そのうえ暑いし、のどが渇きます。そのとき「飲んじゃいけません」「この時間に飲んでください」ということは一切言わないんです。それって体調ですから、飲みたい人が飲めばいいと。

「まかない」のAさんに「いつでも飲んでいいよ」って言う。ただ同時に「Aさん、あなたが飲みたいときは、ほかの人にも一緒にあげると喜ばれるよ」って。それだけはぜったい言うようにしてるんです。だからAさんとBさん、Cさん、3人いるとするじゃないですか。Aさんは飲めるかもしれないけど、BさんとCさんはコップが遠くて飲めないかもしれないですよね。

作業のルールではない、心配りのルール

小林:自分が飲みたいときっていうのはほかの人も飲みたいときだから、一緒に持っていってあげてねっていうのを、いつも言うんです。これってすごく大事だと、私は思うんです。飲んじゃだめ、30分後に飲んでくださいとかじゃなくて。いつでも飲んでいいけど、そのときはまわりの人にも心を配ってあげてくださいっていうことが。

ほかにもルールはあるんです。物は丁寧に扱いましょうとか。でも、お茶を飲むときはほかの人にも入れてあげましょうっていうのは、そういう作業のルールとはまったく違う。1番、理念が具象化されたルールかなって個人的には思ってます。

これ何かに使えるんじゃないですかね。どうでしょうか。

質問者1:ありがとうございます。働き方に関して、作業のルールの視点しかなかったので、お茶を配るっていう具体的な方法、すごく参考になりました。

小林:現実問題、スーパーで働いてる人みんなには提供できないかもしれないんですけど、ただなにかしらね。

武藤:その気持ちですよね。実際にお茶を入れるっていうこともそうなんですけど、そういう気配りをしているということ自体がたぶん、プラスの効果になってるんじゃないかな、と僕は思います。

とくに未来食堂の場合は、はじめての人ばっかりのパターンが多いと思うので。

小林:「思いやりましょう」って言っても、ふわっとしすぎていて。たぶんお互い思いやってるとは思うんです。ぱっと会った人に対して敵対心はそんなにないですよね。でも、敵対心は育ちやすいけど、思いやりはあまり表面に出てこない。

だから、お茶っていうわかりやすいものをBさんやCさんに振る舞う。Bさん、Cさんはやっぱり、すごくうれしがるんですよね。自分も気にかけてくれてるんだなと。Aさんも「ありがとうございます」って言われると、うれしくなっちゃう。たぶんそういうかたちで育っていくのかな、と思いました。

質問者1:ありがとうございます。

なぜ、未来食堂はまわっているのか

武藤:僕からすると未来食堂の在り方って、けっこう疑問に思うところがいっぱいあるんですよ。僕がフリーにやったり、好きな日に来て働くという取り組みは、基本的に従業員全員が長く続けるっていうところが根本にあるんです。

そのなかで、お互いを働きやすいようにしていくんですけど。「まかない」の場合って、本当にはじめての人ばっかりじゃないですか。

小林:そうですよ。

武藤:そのなかで、助け合ってるっていうイメージが、僕には正直あんまりできないんです。人間って、そんなにはじめて会った人と助け合うのかなっていう疑問があるんですが、やっぱり助け合ってるんですか? お茶や、そういうことが原因になって助け合うような場を小林さんが作り出してるんですかね?

小林:ちなみにこのなかで、「まかない」をしたことがあるよっていう方はいらっしゃいますか? 

(会場挙手)

お、いらっしゃいますね。せっかくなので聞いてみましょうか。今、手をあげた方。では「まかない」代表として、よければ。「まかない」に来てくださったことが?

参加者:はい。

小林:今日はお集まりいただいてありがとうございます。

参加者:1年半ぐらい前だったと思うんですが、未来食堂の小林さんの番組を見て。その前に小林さんとお話をさせていただいたことがあって。

とってもおもしろい方だと思い、興味を持って未来食堂にご飯を食べに行って。申し込んで、「まかない」をさせていただきました。通常の営業中ではなくて、下ごしらえに行ったんですが。実は私、料理はぜんぜんできません。

なので、冷や汁のきゅうりを薄く切らなければいけなかったんですけど、けっこう厚めに……(笑)。申し訳ないっていう感じで。

小林:20本ぐらい切ってますよね、それで(笑)。

参加者:そうですね、けっこうな数を切らせていただいたんですけど(笑)。おもしろかったし、そこに集まってくる人たちは、やっぱりそういう人たちなんですよね。ご飯を食べに行ったときも「『まかない』はしたことありますか?」という感じで。あまり敵対したりすることはないのかと。

ランチピークの未来食堂

参加者:ただ……どうなんでしょう。「まかない」をすることに対して疑問はおありですか? どういうことが起こるんだろう、人間関係はどうなるんだろう? みたいな。

武藤:ちなみに、「まかない」って時間帯によってじゃないですか。「まかない」の人同士、最大何人まで一緒になるんですか?

小林:最大で3人ですかね。ランチピーク時に3人です。

武藤:ランチピーク時に、ですよね。僕が1番心配する時間帯なんですよ。

小林:いや、あらゆる人が心配してると思います。

武藤:ですよね。

小林:いったいどうやってまわしてるんだ? みたいな。

武藤:そこではじめての人が即戦力になれるイメージが湧かないんですよ。長く働くことによって、いろんな経験が足されていって、ということだったらわかるんですけど。

僕が不思議に思ってるだけで、実際まわってるからいいんですけど(笑)。食材の原価率などで考えたときのお金と、時給換算をしたりといったところで対比させて考えれば……。そんなに多くのものを求めちゃいけないのかもしれないんですけど。それがあるからっていう考え方は、ちょっといじわるな言い方ですか?

小林:相当、武藤さん不思議がってる感じですね(笑)。ランチピークに未来食堂に行ったことがあるよっていう人は?

(会場挙手)

小林:それでは、ランチピーク中にまわってるのかどうかっていうのを。「まわってませんでした」とかね。

武藤:「まわってません」って、正直に(笑)。

小林:正直に(笑)。

参加者2:そうですね、ランチピーク。ランチの時間にたまたま行ったんですけど。並んでいまして。おもにサラリーマンのおじさま方がいっぱい並んでまして。

ちょっと待って入って、みなさん食べるの早かったです。そしてすぐ入れて。入ると、もう本当にすぐにお通しじゃないですけど、おぼんにおかずが出てきて。あとから温かいメインが出てきて。ご飯はおひつに入っていて、そこから自分で入れるかたちで。

せかいさんもすごく緊張した面持ちでというか、テキパキ働かれていて。「まかない」の方は、カウンターに1人いらっしゃって、あと洗い場のほうに1人男性の方がいらっしゃったと思うんですけど。サラリーマン風の方がお皿洗いをしていて、女性の方がカウンターでお手伝いをしていて、料理を出してくさたり、何かを整理したりしていました。そして、そのうしろで、メインをせかいさんがお作りになってる感じでした。

事前の用意がちゃんと生きているか

参加者2:まわっているというか、早いです。出てくるのもすごく早くて、みなさんも察して、ゆっくりされる方はあんまりいませんでした。さっと食べて出て行かれるっていう感じで。おぼんにメイン以外のおかずがぜんぶできてるのか、積んである感じで。さっと出す効率がよかったです。

武藤:本読んだ感じだと、その前の用意がすごいなと思ったんですよ。早くまわすためであったり、「まかない」さんが未来食堂に行くまでに読んでおかなきゃいけないものがあるじゃないですか。

小林:あります。「まかない」を申し込んだ方は、「まかないガイド」に目を通してもらうことを条件にしてます。

武藤:そういうものがちゃんと生きてるんでしょうね。そういうものって、かたちだけあって守られてないことが、普通の会社だったらけっこう多いと思うんです。もしかしたら未来食堂の場合は、「まかない」のシステムだからこそ、逆にきちんと守られていて。だからこそはじめての人でもできるのかな? って勝手に解釈しました。

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