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元マッキンゼー赤羽雄二氏と学ぶ10年後の未来と働き方(全8記事)

これからの時代は「新しい仕事は増えない、生まれない」 AI・ロボットの産業革命がこれまでとは決定的に違う理由

2017年9月14日、ニッポンイノベーター塾が主催のイベント、Premium Innovators Collegeが開催されました。登壇したのは、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて14年間活躍し、現在はブレークスルーパートナーズ株式会社にてマネージングディレクターとして企業の経営を支援している赤羽雄二氏。「10年後の未来と働き方」と題して、AIなどの発展によって急速に変化するビジネス環境や、これからのビジネスパーソンの在り方について、参加者と意見を交えながら語りました。「将来、AIに仕事を奪われる」というのは本当なのか? 技術の進歩によって私たちの生活はどう変わるのか? すべてのビジネスパーソンに贈る、10年後も生き残り続けるために必要なマインドセットを解説します。

新しい仕事はあまり増えない、生まれない

(会場挙手)

赤羽雄二氏(以下、赤羽):はい、どうぞ。

質問者10:ありがとうございます。確かに、お仕事がなくなるというのはそうだなと思います。いろんな発見や発明があって、文明が進化していったと思いますが、例えば携帯電話が発明されたことによって、カメラや電卓などいろいろなものがなくなったと思います。赤羽さんは、AIによって仕事がなくなる代わりに、なにが新しい仕事として出てくると考えていらっしゃいますか。

赤羽:あまり増えないと思います。AIがやる、ロボットがやる、ブロックチェーンがやるというので、人ができる部分が減ります。長らく「AIの時代」ということが言われいました。第5世代コンピュータとかエキスパートシステムなど言われてきましたが、結局どれも使い物になりませんでした。今回は初めて使い物になる時代になったと思います。

さらに、技術の発展が速くなりました。インターネットが普及した結果、今やなにもかもが速い状態になりました。すべてが速くなったので、時間的なリスクが高まったということです。

質問者10:そうですね、なので古いものがなくなる時に新しいものが生まれると思うんですが、アカバネさんはどのように思いますか。

赤羽:あっ、私は「アカバ」です。

(会場笑)

質問者10:すみません(笑)。

赤羽:その「新しいものが生まれると思うのですが」という前提が間違っているということです。今回は「新しい仕事があまり生まれない」になる。人が労働して、お金をいただいて、充実感のある仕事というのが、今回はあまり生まれません。

質問者10:生まれない……。

赤羽:はい、生まれない。その「生まれる」と思っている気持ちを、まず横に置いてください。

質問者10:了解です。

赤羽:「でも今まで生まれていたでしょ?」と思いたくなりますが、今回は変曲点であり、不可逆過程が始まってしまったと思うほうが妥当ですし、安全だと思います。

質問者10:なるほど。

ベーシックインカムという考え方

赤羽:確かに今までは新しい仕事が生まれたんですよ。労働者が金槌で叩いてた作業は、機械でやったらよりうまくでき、産業革命でも機械のオペレーションやメンテナンスの仕事が生まれました。しかし今度は新しい仕事はそこまで生まれそうにありません。AI、ロボット、ブロックチェーン、IoTなどで自己完結してしまいそうだからです。

勉強されている方は、おそらく「ベーシックインカム」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。「AI、ロボットなどで仕事が減る」という見解は、ほぼ世界的に完全に一致しているんですね。その時に、生産性が落ちるわけではありません。なぜならロボットが小麦を作ってくれたり、機械を作ってくれたりするので、モノ自体は生まれます。でもそこに関わる人が少なくなるということです。

仕事がなくなったらその人は生きていけませんが、その代わり「子どもも大人も、お金持ちもお金のない人も全員一律、毎月ある程度払ってあげましょう」「そうしたらその仕事がなくなった人も生きていけるよね」というのがベーシックインカムの考え方です。税金を徴収するコストを下げ、生活保護などの運営コストが高い福祉政策も簡素化して、一律に払ってしまおうというやり方ですね。

この考え方は何十年も前からありますが、それが現実的な意味で言われ始めたのが最近です。ただ私は、ベーシックインカムが意味のある形で実現できるとはあまり思っていません。税金を徴収するコストを下げたり、福祉費用を下げるだけでは足りないので、富裕層への増税が必要になるからです。今でも50パーセント以上の税金を払っている人たちに「もっと払え」というのはもう受け入れがたいのではないでしょうか。

増税をすると、富裕層の国外脱出が増えるだけのことで、現実的ではありません。

私は正確に計算していませんが、調べてみるとベーシックインカムの支給は「できなくはないけど7万円前後」という試算もあります。そうすると、「東京には住めない、地方でルームシェアでもきついかも知れない、外食はできない、吉野家に行くのも贅沢」ということになります。ベーシックインカムにおける「最低生活を保障する」というわけにはいきません。計算が合わないんですね。「ベーシックインカムがあるから大丈夫」というのは、忘れていただいたほうがよいと思います。

国としても、もはや成り立たない

赤羽:他にいかがでしょうか。

(会場挙手)

赤羽:はい、どうぞ。

質問者11:国としても、もはや成り立たないということでしょうか。

赤羽:そうですね。すべての企業が救われることはありません。すべての人が救われることもありません。ここにいらっしゃる方々の3分の1は、10年後に泣いている可能性があると思います。1日1食しか食べられない人も出てくるでしょう。みなさんでなくても、みなさんの親戚がそういう状況になっても救えないという状況になります。

一方、ここにいらっしゃる方の4分の1くらいは、今よりも3倍くらいの給料を取って、好き放題やっておられることでしょう。その格差が拡大します。

(会場挙手)

赤羽:はい。

質問者12:古臭い考えかもしれませんが、これまでの日本の実業家は「雇用の創出」を考えてこられましたよね。

赤羽:そう言っている人もいました。

質問者12:シリコンバレーの進む方向は逆ですよね。雇用を失うために、一生懸命開発している。

赤羽:そういう面もあります。

身勝手でも利己主義なわけでもなく、準備をすること

質問者12:これはもう価値観の問題というか「雇用をなくしていくための開発をして、人間なにが幸せなんだ?」とも考えられます(笑)。

赤羽:そういう哲学的な問題はあると思います。それをもっと大々的にみなさんに訴えることは、1人の個人としては重要なことです。ただ、世の中全体はそちらに動いてない。「一定のお金と一定の価値観」で世の中が動いた結果、シリコンバレーは発展しました。善悪の話をしてもしょうがないんです。

心情的にはよくわかりますが、それでも食べるものがなくなったらつらいですよね。今日のセッションは「こういう危機もあるかもしれないから、100歩譲ってそうかも知れないと思えるとしたら、自分だけは助かるようになってね」という意味があります。

それは身勝手ということではありません。むしろ自分と自分の家族、自分の友人、仲間だけでも助かるように、これから大変な災害が来るから準備しておこうという話ですね。利己主義ではありません。みんなが救われることはもうないんです。

では、次にいきます。ご存知、AI。これは本当に伸びます。ロボットはもう何十年も「ロボット、ロボット」と言われており、例えばコマツなどもロボットでいろいろなことを試していましたが、これからは本格的に増えます。

自動運転は意外にてごわそうです。3年後に全自動運転ということには到底ならない。おそらく10年はかかります。まず高速道路から、そしてトラックが5台つながってコンボイとして走らせるようになる。そうすれば空気抵抗も少ないし、運転手も1人で済むようになります。長時間トラックを運転する大変な仕事もなくなっていきます。その一方で、トラック運転手の仕事がかなり減る、ということをテスラCEOのイーロン・マスクはかなり心配しています。

みなさんがここから渋谷のどこそこの居酒屋まで自動運転で行くということは当分ありません。まだまだ複雑で臨機応変の判断が不可欠だからです。

ただ、自動運転が起きるとなにが起きるかをどこまで推測できるかが大切です。この推測能力が非常に大事です。

自動運転という言葉を聞いた時、どこまで想像できるか

赤羽:まず交通事故がなくなります。交通渋滞がなくなります。「当たり前だよ」と思った人はえらいです。「自動運転」という言葉は誰でも毎日のように聞いているはずです。あるいは自律運転とか自動運転とか、みなさんならきっと数百回以上、どこかで目にしてるはずです。

そこでピンときて「交通事故がなくなるんだ」「交通渋滞がなくなるんだ」と思った人は手を上げてください。……このくらいですよね、ほんの数人です。そういう想像ができるかどうかが、大事なところです。なぜなら、車と車がお互いを認識しながら走ることができるようになるので、交通事故も渋滞もなくなるというコトを想像できるかですね。自動運転と聞いて「あ、そうなんだ。運転中にコーヒー飲んでていいんだ」で止まるのは、思考が表面的です。

車同士で「右に今行きますよ」「あ、来るんだね」とコミュニケーションしたら、交通事故はなくなるじゃないですか。残るのは、車が走っている時におじいさんが右側からバタッと倒れてきました、左からボールを追いかけて子どもが走ってきました、その時「どっちを轢きますか?」という倫理的な問題。

(会場笑)

赤羽:これは「トロッコ問題」という有名な問題です。「こちらに行くと1人を轢いてしまいます、あちらに行くと5人を轢いてしまいます。どっちを選びますか?」というものです。

そういうリーガルな問題、倫理的な問題が残っています。ただ、全員がウェアラブルで情報を発信していて、「このおじいさん、もうすぐ倒れますよ」となれば、車はスピードを落としたり回避したりすることができます。そうなれば、交通事故がほぼゼロになります。

自動運転が増えたら車を買わなくなる?

赤羽:自動運転が普通になり、交通渋滞がゼロになるということは、車を買う必要さえなくなるわけです。無駄な車がなくなるので、車の量が絶対的に減る。「東名高速道路の料金所が混雑で、渋滞30キロです」という状況がETCの導入で減りました。それがもっと極端になって、道路に走る車の数は減ります。所有せず利用すればいい状況で、交通事故や渋滞がなくなります。そこまで想像していたらすごいです。

さらに「駅周辺は土地が高価」という状況も変わることまで読んでいたら、もっとすごいですね。交通渋滞がなくなったら、駅の近くである必要がありません。駅の隣りでも、駅から300メートル離れていても、車としては1分程度なので、利便性から「どこどこに近い」という要素がなくなります。そこまで考えて、不動産価格が変わりビジネスチャンスが生まれるところまで考えていたら、3段階くらい立派です。

自動運転が増えると聞いたとき「ああ、車を買わなくなるんだ」と思った人がいたら、手を挙げてください。

(会場挙手)

それはだいぶ多いですね。これからは、車を買う必要はありません。グアムに行く時にジェット機を買わないですよね。山手線も買わないですよね。それは、買う意味がないからです。もちろん蒸気機関車マニアがデコイチなどを自宅の庭に置いている、ということは稀にありますが。フェラーリも、スピード狂の人がアウトバーンでやればいいだけの話です。日本国内でそもそもフェラーリやマセラティを持っているのは、エゴの問題ですから。

それで、ここで「トヨタの時価総額がもちろんすごく落ちる」というところまで気が付いた人はえらいです。このように、何段階か「え、だったらそんなことが起きるの?」ということまで心配して、夜も眠れないようになった人がすごいんですね。

(会場笑)

都市部だけでなく、地方は劇的に変わる

(会場挙手)

質問者13:すいません、おうかがいしてもいいですか。

赤羽:はい。

質問者13:さっきのお話ですが、東京都とか大都市周辺では確かにそういうことがイメージしやすいですが、地方やもっとど田舎のほう、車がないと生きられない、1人1台みたいな生活をしてるところも、やはり同時に同じような変化が?

赤羽:ありますよ。

質問者13:時間差で訪れるイメージですか?

赤羽:いや、同時に起きると思います。家に帰ったら車はいらないわけで、裏庭に12時間も置いてあることが無駄じゃないですか。会社の工場と自宅まで、10分とか30分ほど乗ったら、その車はどこかに行って他の仕事をすればいいですよね。ヤマト運輸のトラックをいつもキープしてないでしょう。「いつも届けてくれてありがとう、はいさようなら」で終わりです。

自分で使う以外は物流に使えばいいし、ほかの人の移動に使えばいいと思います

質問者13:地方はもっと劇的に変わる。

赤羽:はい、そうですね。

質問者13:わかりました。じゃあ、世界中も一緒だと考えていいんですか?

赤羽:いえ、自動運転車が安くないので、それは差があります。

質問者13:コストがかかるので、インフラコストに対応できる財力があるところから変わっていく?

赤羽:はい。でも、1ヵ所で始まるとほかにも影響します。

質問者13:自動改札機が広まったみたいな感じですか。

赤羽:そうですね。先ほどの話は、仕事がなくなる、車のこういうものがなくなる、不動産価格が変わる、どこに家を買うかということも変わる、そもそも買うという話がなくなる、トヨタの時価総額が下落する、というところまで想像できるようになりましょう、ということです。

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