資本主義の両側面

井上高志氏(以下、井上):よろしくお願いします。

影山知明氏(以下、影山):よろしくお願いします。

井上:第1部がたいへん重い人類への大きな宿題をいただいたようで、すごく気が滅入ってるんですけれども(笑)。

影山:すごいやりづらいですね。この流れで。

井上:やりづらいですね。さっき影山さん、こういうふうにおっしゃってたんですよね。「この1部を受けてどうやって流れを作る?」って。「いや、この財団は作らなくていいんです」って。なぜならば……この財団、はじめてこのイベントに参加したという方どのぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

ありがとうございます。

影山:すごい、すごい。

井上:今日は帰りの道で、頭がもやもやして、ぐるぐるして、「どういうことだろう?」となることを保証します。ここは答えを出す場じゃないんです。いろいろ考えるきっかけをもらう場所なので、それがまさに叡智につながっていくなと思います。

今現在僕も頭がぐるぐる回ってるんですが、ちょうど今日はお金の話なのでぐるぐる回ったほうがいいぞということをインプットしたのと、お酒もぐるぐる回したほうがいいぞということで、みなさんどうぞ立ち上がってどんどん飲んでください。余らせてもしょうがないので。

という感じで、第2部のほうにいきたいと思います。影山さん、最初「自己紹介5分」と言っていたんですが、先ほど急に「井上さん、ちょっと10分もらっていい?」と言われたのでぜんぜんOKです。ということで、まずはクエスチョンなどに入る前に影山さんの自己紹介をお願いします。僕も、今日、はじめましてです。「どうして経済の話で喫茶店の店主の方にお願いするんだろう?」って。

影山:そうですよね。

井上:すみません、ぜんぜん勉強不足で。そしたら、マッキンゼーとかベンチャーキャピタルとか、もうバリバリ資本主義の世界にいた方がちょっと違うほうへ、という価値観で。だから両方わかっていらっしゃる方で、すごく深い、幅広い話を聞けるんじゃないかと楽しみにしてます。

影山:ありがとうございます。

井上:最後にもし時間があったら、今日の第1部の黒田先生と竹村先生のお話を聞いて、僕なりに「これちょっとつっこんで聞いてみたいな」というのが1個だけ浮かんだんですけど、世の中からどうしたらお金をなくせるか? もし時間があればそこまで立ち入りたいと思っております。

じゃあみなさん、改めまして影山さんにもう一度拍手をお願いします。では、自己紹介をよろしくお願いします。

(会場拍手)

影山:ありがとうございます。影山と申します。

10分ほどお時間いただいてということなんですけれども。お手元のパンフレットにも書いてあるとおり、職歴的には、学校を出て、最初にマッキンゼー・アンド・カンパニーというコンサルティングの会社に勤めました。

それを経て、マッキンゼー自体は3年ぐらいだったんですけれど、次に投資ファンドの仕事をやるようになりまして、これがベンチャーキャピタルという仕事でした。

まさにかつてのネクストさんであったり、今はLIFULLさんですけれども、これから新しく挑戦しようとしているベンチャー企業・新興企業を発掘しては、そこに数千万単位のお金を投資して経営を支援していく。できれば最終的には株式上場なんかも狙っていく。そういう仕事を職歴の中では最も長くやってきました。

そういった経験を経て感じていたことは、僕は個人的には資本主義というのはとてもいい仕組みだと思ってまして。先ほどご指摘もあったように、自然に対する負荷であったり、考えなきゃいけない要素は多々ありながらも、資本主義があることで世の中が革新を生み出していったり利便性を実現していったり、そういったプラスの側面があるということをとても感じていました。

その気持ちは今も変わらずにあるんですけれど、その反面で資本主義というシステムが持っているマイナスの力学もあることも仕事で感じていたんですね。

経営会議から失われる「利他性」

影山:それはどういうことかというと、ベンチャー企業・新興企業なんかの場合、自分が見てきた、おつきあいしてきた起業家のほとんどは、なにかしら理念があって、「自分の技術をもって世の中を便利にしたい」「この商品があれば生活に豊かになる人がきっと生まれてくるだろう」。そういったある種の利他性を含んだ理念を持って創業してる方が大半だと言っていいんじゃないかと思うんです。

そうやって創業したベンチャー企業なんですけど、3年経ち5年経って、その途中で、銀行からお金を借り、我々のようなベンチャーキャピタルから投資を受け、雇う人員も増えていくと、ある時から会社の経営会議の議題の立て方が変わるんですね。

創業の頃は、そういう商品やサービスをいかに実現していくか、理念を達成していくかということが議論されていたはずなのに、5年目くらいの経営会議になると、「今年度、年間10億円の売上を達成するにはどうしたらいいのか?」「1億円の経常利益を実現するにはどうしたらいいか?」というところから問いが始まってしまう。

そういう変化をずっと目の当たりにしてきて、それは必ずしも経営者がそれを望んでいるということでもなくて、つまりは資本主義がお金を増やしていくことを至上命題として、その原理原則をもっているがゆえに、結果的には一つひとつの企業がそういう指向性を持って経営の舵取りを行っていかざるを得なくなる。そういう状況をたくさん見てきました。

お客さん、従業員を手段にしない

影山:そうやって売上や利益の成長を事業の目的にするとなにが起こるかというと、とても単純なことで、お客さんが手段になり、働いている従業員が手段になっていくということがあると思うんですね。その経営上の目的を達成するために、いかにお客さんを利用していくか、スタッフをいかに利用していくか。

そういう局面で利用価値のある人が世の中で尊重され、利用価値がないと判断される人は「使えない」と言われる。そういった社会構造にも実はつながっていってるんじゃないかということは感じていたんです。

なので2008年、9年前に、自分は元々はカフェをやりたかったわけではないんですけれど、たまたま実家を建て替えるという話が国分寺で起こったんです。国分寺の中でも西国分寺というとくに寂れたエリアなんですけれど、もともとあった実家が空き家になって建て替えるという話になった時に、「せっかくだったら、コインパーキングとかワンルームマンションにするよりも、なにか未来に向けてのいい使い方ができないかな?」と思うようになって。

2階から上を、関係を育てながら暮らしていくシェアハウスにして、1階をカフェにすることで、住む人も使うし地域の人も使ってくれるような、街の中の縁側のような場所、お座敷のような場所として作っていけないか。そんなことを考えるようになったんです。

以来、9年経営をしてきているわけなんですけれども、その間に感じていること、考えていることは、さっき言ったように、お客さんにしてもスタッフにしても、人間を手段化するのではなくて、むしろ人が幸せになるような経済だったりお店ってどういうことなんだろうか、ということをずっと自問自答してきた9年間でもありました。

それを考えてきた結果、その原則みたいなものはとってもシンプルなんだということを今は感じています。僕らが日々お店を経営していくなかで大事にしていることは、二言に集約できます。それは、お客さんを手段にしないこと、スタッフを手段にしないことです。だからお店にとってお客さんってどういう存在かってことなんですよね。

NPO、社会的事業が抱えるジレンマ

影山:お店として売上を伸ばしていくことをあまりに強く意識してしまうと、さっき言ったようにお客さんが手段になってしまう。そうではなくて、むしろお客さんこそが目的である。来てくださった方にどれだけいい時間を過ごしてもらえるか、来たときよりも帰り道のほうがどれだけ元気になって帰ってもらえるか。それこそが僕らの存在理由だし働く意味なんじゃないかということをわりと生真面目にやってきた。

そうやって外向けに目の前の人を目的にしてやっていくということに加えて、内部のスタッフについても同じことを考えてやってきました。

これは世の中のNPOとか社会的事業の中で、ともすると、自分もかつてNPOの代表なんかをやっていた時期もあるんですけれど、社会的な事業として理念が強ければ強いほど、内部のスタッフをその理念を実現するための手段にしてしまっていることがあるように思うんです。

内部のスタッフも、掲げている理念が正しいものであればあるほどそれに対して反論しにくいので、どうしてもそれに対して「自分はなぜこんなに利用されるのか?」ということへの矛盾を感じながらも、反論できずに自分をすり減らしていってしまう。

そういうことが、実はNPOや社会的事業でもある部分において起こってるんじゃないかと感じていたので、スタッフも事業目的を達成するための手段ではなくて目的と考えてみたらどうかと。

そうすることで、ヨシマ君、キタムラさん、オキイさんという社員がいるんですけど、それぞれに向けて、自分なり、経営者なり、会社としてどう支援ができるか、どう力になってあげられるかということを考えていく。それで、結果的にはお店の中で一人ひとりの持ってるさまざまな可能性が芽吹いていく。そういうことも実現してこられたのかなと思います。

「take」から「give」の動機へ

影山:こういうふうに、お客さんやスタッフに対してどう力になってあげられるかというのは、先ほど何度も出てきた単語で言うと、交換の原則を変えるということなんだと思うんですね。

交換の原則を変える、それはtakeからgiveに変えるということです。お店として売上や利益を目的にして、そのためにお客さんからどれだけ取れるかを考えるのは、動機がtakeということですよね。事業目的を達成するために、同じ給料でできるだけスタッフに働かせようとする。これも動機がtakeです。これを180度変えてみるということですね。

お互いにgiveし合うことで、お客さんと交換を積み重ね、スタッフとも交換を積み重ねていった先になにが起こるかということを、この間に試してきたという感覚もありまして。幸いなこと、お店を始めて以来、非常に小さな規模ではありますけれども、年率14パーセントで売上を伸ばし続けることもできました。

売上を伸ばすことが目的ではないけれど、そうやって誰かに対して尽くして本当に嘘をつかない仕事をしていくことが、巡り巡ってちゃんと売上にも反映してくるっていうことを、僕らの限られた範囲の中では実現をしてこられたかなと思っていて。たぶんそういう文脈もあって今日お呼びいただいたのかなと思っています。

メッセージを伝える地域通貨「ぶんじ」

影山:最後に今日のお金というキーワードの関連で言うと、そういったお店の姿勢を少しずつ再現可能なものにし、ちょっとずつ地域にも広げていくためのツールとして、地域通貨というのを国分寺でやっています。

「ぶんじ」と呼んでいます。これ、100ぶんじ券なんですけれども。

地域通貨と言いながら、通貨と呼ぶといろいろ怒られるので資金決済法上の通貨ではないんですけれど。換金性もありませんのでそういうものなんですけど。

これは街の中で、例えばゴミ拾いを一緒にやるとか、農家さんの草むしりを一緒にやるとか、あるいはお祭りの受付ボランティアをやるとか、そういうことをすると受け取れて、市内の30箇所ぐらいのお店で使うことができるんです。カフェやラーメン屋さん、美容室、ゴルフの打ちっぱなしとか、いろんなところで使えるんですけれども。

使うときに1つだけルールがあって、この裏面が吹き出しになってまして、そこにメッセージを書くんですね。「コーヒーおいしかった」「いい時間過ごせました」「また来ます」とか。つまり、そのメッセージを書くことを通じて、自分が誰のどういう仕事を受け取ったのかということをちゃんと想像する機会になるわけですね。

コーヒーを飲むにしても、ケーキを食べるにしても、それを淹れてくれた人がいる、作ってくれた人がいる。そのことを思い浮かべてメッセージを書こうとすると、自然と人の仕事への感謝が芽生えてくるように思うんです。

私たちが受け取っているものは誰かの仕事である

今、僕らは、通貨がどんどんバーチャルになることによって「僕らが受け取っているものは誰かの仕事である」ということを自覚しづらくなっていると思うんですね。

かつて駅の改札で切符切りのおじさんがパチンパチンやってくれていれば、電車を運行してくれているのは人なのであるということをよりリアルに想像ができたように思うんです。でも、今はそれがピッということで済んでしまうとなると、もうそこに人がいるっていうことを想像さえしづらくなっていく。

そういうことが電子通貨、通貨の電子化に伴って1つ生まれてきている現象のように感じていて、国分寺ではむしろ逆のことをやりたいと思ったんですね。ある意味ではすごくアナログなやり方をすることで、そこで人の仕事に対しての想像力を働かせていく。その表現としてお金を使っていくということですね。

「ぶんじ」のような感謝の気持ちの表明としてお金を使ってくださる方が増えていくと、さっき僕が申し上げたような「お客さんの力になってあげたい」「お客さんにいい時間を提供したい」と思うような、贈る気持ち、贈る仕事というものの張り合いも出てくるわけですよね。それを喜んでくださる方がいれば、感謝の気持ちを表明してもらえるのであれば、またもっとおいしいコーヒーを淹れようって気持ちになっていく。

そういうgive & givenという交換が繰り返されていったときに見えてくる街や社会というのはきっと違うものになるんじゃないか。そんなことを思いながら日々お店をやっています。

これ、実は70名限定なんですけど、今日お持ち帰りいただけるように受付に置いてあります。興味ある方は帰り際にでもお声がけいただけたらと思います。この1枚は井上さんにぜひ。今日、機会をいただきまして、ありがとうございます。

井上:ありがとうございます。

(会場拍手)

井上:へぇ、いいですね。なんかこれいろいろ書いてあるかのような。あ、本当だ。

影山:はい。受け取った人がまた次に渡すときにメッセージを書き込んでいくので、どんどん連鎖していくんです。

井上:「まわるケイザイ大YEN会、機会をいただき、ありがとうございます」って書いてあります。ありがとうございます。

影山:ありがとうございます。