構図がすばらしい『アメリカン・ビューティー』

山田玲司氏(以下、山田):(映画『アメリカン・ビューティー』冒頭シーンの)そのあとですよ。構図の問題が出てきます。

アメリカン・ビューティー DVD

サム・メンデス、この人おそらく、(スタンリー・)キューブリック(映画監督)の影響強いよね。だから絵画的な構図が多いんだけど、シンメトリーが多いというね。

このあと食卓のシーンになっていくんだけど、この構図。

完全にシンメトリーなんだけど(笑)。薄暗い食卓、4本並んでるロウソク。もうほとんどイスラム教のモスクみたいになってんの。ここで娘が奥にいて額が飾ってあって、色は差し色のように赤がここに毒々しく。これは冒頭で奥さんが摘んでいたバラなんだけど。

ここで死んだような状態でご飯を食べているシーンになるんだけど、ここでかかる音楽が40年代、50年代のあまーい、ゆっくりした。ジャズっていうかムードっていうか、ムード歌謡じゃないんだけど。みたいなものがたらーっと流れてる。ここがまたうまくて。

この作品の強烈な魅力の1つに、音楽の使い方が最高なんだけど。50年代はアメリカが1番夢を見れた時代なんだよ。だから好景気で。それでオールディーズ、ジャズみたいなものが華やかで、アメリカの夢を心の底から信じてたころの曲を、この人(キャロライン)はかけるわけ。

要するにどういうことかと言うと、そのころの夢にとりつかれてる女です。そのころの夢とは何かって言うと、成長なんだよ。サクセスなんだよ。精巧なんだよ。この人は成功しなければ幸せになれない人なんだよ。それが音楽でわかる。

一方、こいつ(レスター)が大暴れをはじめるんですけど、そのときかかる音楽は、60年代・70年代のヒッピー文化のときの、ロックなザ・フーとかザ・ドアーズとか、ああいうやつがかかる。ここにはもう大きな断絶があって。

乙君氏(以下、乙君):なるほど。音楽の趣味で、ぜんぜん。

山田:見てる方向が違いますって。(娘が)「そのたるい曲やめてくれない?」って言ったら、「いいわよ。あなたが私の代わりに毎日美味しいご飯を作ってくれるならね」って。この人は口を開いたら嫌味しか言わない。もう不快感しか与えない。

乙君:不機嫌ばらまいてますね。

家族のギクシャクがおもしろい

山田:それでお父さんが「最近学校はどうなんだ?」って言ったら、「なついてこないで。1か月も何も言わなかったくせに気持ち悪いのよ」って。「ジェーンどうしたんだ」ってこのあとジェーンに向かって謝りに行くんだけど。

「君だって、僕の話しかけてくれたっていいだろ?」って、謝ってないんだよ。「悪いの私ってことなわけ?」って、このギクシャク関係がとりあえずおもしろいんだよ。おもしろいしリアル。なんでおもしろいかって言うと、あるあるの極みなんだよ。

乙君:なるほどね。こういう家庭があるし、そういう、ここまで徹底的じゃないですけど、そういう時期がみんなにもある、と。そういう自分の体験。

山田:そうそう。それでアメリカ、表面は完璧。ものすごい広い庭があってバラがあって、完璧に見えるんだけど、「めちゃめちゃ苦しそうだな、この人たち」って思うわけ。

これをアメリカだぜ? アメリカのビューティだぜ? っていきなりぶち込んでるから、知的レベルがどんだけ高いんだとかわかるわけだ。「さぁメンデスついていくぜ」「誰だこの脚本」ってなるわけで。

そこでグッと上がったときに、これだけじゃ終わらないんだよ。

隣人の引っ越しで転調

山田:このあと出てくるのが、そのお隣さんがいなくなる。お隣さんがいなくなる原因がまたすごい。お隣さんが猫に餌をあげるから、猫が寄ってくるのをキャロラインは嫌がって。猫がくるから嫌だって言ってんだよ(笑)。

お隣の庭の木を勝手に切っちゃう。お隣がいなくなって(笑)、代わりに引っ越してくるのがこのリッキーと大佐どの。この親子です。

この親子がキャロリンの、木を切ったせいで入ってくるのがこの親子。だけどこのリッキー、そうとうやばい目をしながらムービーを持ってるわけですよ。

そしてムービー越しに何をしてるかって言うと、ジェーンを撮ってるわけですよ。いよいよやばいぞ、と。「隣を覗いているサイコ野郎っぽいやつが現れた」っていって。これが、最初の第1ブロック。だから、やっぱり殺されるのかな? っていうのと、共感されるっていう状況っていうのを、ものすごい端的に第1ブロックでボーンっとぶち込んでくる。

乙君:「誰に殺されるのかな?」とか、いろんな。

山田:そうそう。それでこのあと、いろんな人が、もしかしたらレスターを殺すんじゃないだろうかとか。レスターは死ぬのはわかってる。でもレスターを殺すのは本当にこいつ(リッキー)なのか? もしかしたら、みたいな感じでいろんなやばいやつが現れてくるっていう展開になってくるっていう。

(経過時間が)58分、どうします? 奥野さん(笑)。

乙君:大丈夫ですよ。

山田:これ、無料部分どうすんだって話。延ばす?

乙君:半分ぐらい、いきますか?

山田:もうちょっと延ばす? 延ばそっか。そうだよね(笑)。できるとこまでやるか。

自己啓発のキャロリン問題

山田:どういう感じのおもしろさなのか。ここからさらに、キャロリン問題。キャロリンは、とにかく不動産をやってて自己啓発系の人なんだよね。

家を売ってなお上げたいわけだよね。サクセスしたいわけ。だからこの人は、いつも自分に向かって喋ってます。私は今日この家を売ってみせるって言って、不動産の自分が売ろうとしてる家をピッカピカにするんだけど、誰も見向きもしないっていう。地獄の状態になっていく。

そして負けるんだよね。そしたら、近くにでっかい看板があって。バディ不動産っていうのがあって。このおっさんの顔がバーッて出てくる。

こいつは地元の不動産王。憧れてんだよね。こういうふうになりたいと思っているこの関係があってっていうことろが、これが始まっていって。それがうまくいかなくって旦那にぶつかっていく、という。うまくいかないことを旦那にぶつけてるという状態になってくる、と。

ここから第1ブロックのもう1つのポイントなんですけど。レスター、家にいたいんです。今日は『007』(注:メンデスは『007 スペクター』の映画監督)の、テレビで放送があるから。

乙君:はっはっは(笑)。

久世孝臣氏(以下、久世):そうだそうだ(笑)。

山田:でも、この2人、娘との溝を埋めたいと言って、この娘が何をやってるかって言うと、チアリーディングをやってる。バスケの試合のハーフタイムショーで出てくる、と。

レスターの人生が一転する

山田:「娘が出てくるんだから応援にいきましょう」って言って、キャロリンに連れられて無理やり外に出されるレスターは、高校の体育館で自分の娘の踊りを見に行くことになってしまうんだけど、ここで人生が一転してしまうという。あのシーンはもう、とにかく信じられないくらいの名シーンだと思わない?

久世:すばらしいですね。

山田:最高だよね。音楽もまたダサいんだよね。ハーフタイムショーで高校のブラスバンドっぽい感じの、ダサい音楽が。

久世:フリもダサいしね。

山田:フリもダサくて、途中でロボットダンスみたいな(笑)。

久世:そうそう(笑)。

山田:すごいんだよ(笑)、わざとやって。「これが終わったら帰っていいんだろ?」とかって言ってるんだけど、踊り出したらなぜかキラッキラしてる女の子、アンジェラが目に入ります。これがジェーンの友達。これがポイントですね。アンジェラが踊っているのに目が釘付けになっているレスター・バーナムのまわりは……。

サム・メンデスが、めちゃめちゃうまいベテランの職人肌の凄腕のカメラマンをわざわざ呼んだらしいんだけど。その人が「ここはスローで撮ろう」って言ったらしい。

だからスローでこの人だけが。途中でピンスポットが当たって、アンジェラだけが踊ってる状態になって。そしてその他が全員いなくなって、レスターは観客席にいるんだけど、観客席のほかの人間がまったくいなくなって。ピンスポが当たってるレスター、観客席。アンジェラは1人だけ舞台に立ってると。コードの真ん中にいる、と。

この2人の対立なんだけど、音楽が入れ替わるんだよね。ブラスバンドの音楽がなくなって、不穏な音楽にぶわーっと変わっていって、そしてアンジェラはなぜかレスター目線になって。そして胸をはだけるんだけど、このはだける瞬間本当にやってるのか、もしくはレスターの妄想なのかっていうのがわからない。

これが3回繰り返すの法則をやるんだよ。1回ストップ。2回、ストップ。3回でCGの花びらがぶわーっと散る。これは有名なシーンだけど、このためにCGってあるんじゃないかっていうぐらい。

乙君:はっはっは(笑)。

山田:最高なの。

久世:美しかったですね。

山田:美しい。