資本主義経済の気持ち悪さ

夏野剛氏(以下、夏野):いま佐藤さんの最も気持ち悪いものはなんですか?

佐藤夏生氏(以下、佐藤):僕が気持ち悪いのは……資本主義です。資本主義というか経済というか、株価ファーストの経済が気持ち悪いなと感じます。

夏野:ではそこに可能性があるということですね。

佐藤:そうですね。

夏野:トランプキャラが使える感じですね。

佐藤:そうですね。クリエイティブ資本主義と僕はよく言っております。別に経済の仕組みのなかにどのようにクリエイティブが入っていくか、というのにはとても興味がありますね。

夏野:しかし、現在日本のGDPのなかでサービス環境が占める割合が8割近くありますが、そのなかではもうほぼクリエイティブが価値を作っているように感じます。GDPの考え方というのは、物を仕入れて、売った値段との差額が付加価値になるという計算をしますから。そうすると、現代都市で組み立てることにはあんまり価値はないと思います。クリエイティブが価値を持っていると思うんですよ。

佐藤:そうですね。わかりやすい例で言うと、コンビニエンスストアでは売れ筋が逐一チェックされているので、売れ筋のものしか置いていません。売れているものを売っている状態ですね。

夏野:繰り返している。

佐藤:繰り返して、効率化しているんですね。

一方で、ドンキホーテはよくわからなくなりますよね。でも外国人は、東京でドンキホーテに行こうとします。多様性はまさにダイバーシティが魅力を持つということで、おそらくドンキホーテが最初にできたときに、百貨店の人やコンビニエンスストアの幹部は「わけわかんねえよ」「気持ち悪い」と感じたはずなんですね。いま魅力となっているのは、そういった無作為性。

夏野:おそらく、利益率はドンキホーテの方が高いと思います。

佐藤:高いですよね。

夏野:それがクリエイティブの差です。

佐藤:ああいう状態をクリエイションとして作り出せるところに興味があります。無作為という部分にパワーがあるなと思い、惹かれます。

テレビにりゅうちぇるが出てくることのクリエイション

夏野:テレビ番組としては、りゅうちぇるが出ている番組はその最先端ではないですか?

りゅうちぇる氏(以下、りゅうちぇる):いや、どうなんだろう。この「気持ち悪いの可能性」って、自分の立場や今までの経験に置き換えて考えたら、すごいわかるなって思いました。僕がバラエティ番組に出させていただいたときは、みんなから「何者だ?」って感じの反応をたくさんいただきましたので。

こういうかわいい喋り方を自分で研究しているんだけど、女の子が好きで、自分の着てるファッションは原宿で最先端で人気って言われてるのに、80年代から90年代の古着を着てる。

すべてのことに、みんなの思っている「普通」とは違うような感じの出方でした。だけど、それをずっと「これが自分だから」と続けていたら、「気持ち悪い」が「普通」になる瞬間を自分で感じたんですよね。

僕がテレビに出ることによって、僕みたいに「可愛いものが好きだけど女の子が好きな子」たちが、「あ、りゅうちぇるといっしょね!」って言われて生きやすくなることもあるかなって。その気持ち悪いっていうことが、誰か1人がメディアに出て、1人が自分らしさを貫くだけで本当に世の中で変わっていくのを感じました。

夏野:確かにりゅうちぇるが出てきて変わりましたよね。その前にも違うかたちで「気持ち悪い」を変えてきた人はたくさんいましたが、りゅうちぇるはすごいと思います。若い年代にとって、男の子にとって、非常にシンフォニックな存在になっていますよね。

りゅうちぇる:そうですね。僕が、それこそ学生時代に悩んでいたこととか、自分らしさを出したらほかの人にからかわれないか、とか。みんなからしたら気持ち悪いところを僕1人が表現することで、同じ悩みを持った子が自分らしく活躍できる。そういう意見をいただいてはじめて、ようやくこの仕事を好きだなって本当に思いました。

同じ世代の人が若い人を変えていく

夏野:それはいつから出ようと思いましたか? 『徹子の部屋』みたいな。

りゅうちぇる:そうですね、でも最初は本当に「自分らしくいよう」と思いました。

夏野:それはいつ頃……何歳くらいのときですか?

りゅうちぇる:そうですね……高校生くらい。

夏野:高校生ですか?

りゅうちぇる:はい。

夏野:いやあ、この話をなぜするのかというと、僕らはおじさん組じゃないですか。

りゅうちぇる:はい。

夏野:おじさんになると、「いいじゃん、そういうの!」「ぜんぜんいいじゃん!」「変わってていいんだよ!」と言っていますが、よくよく考えると中学・高校時代に「あいつ変わってるね」と言われるのは相当つらいことでしたよね。

水口哲也(以下、水口):それは確かにありますね。

夏野:ですから、無責任におじさんたちがそういったことをたくさん言うのではなく、りゅうちぇるがいつ、どのようにそこを克服したのか、というのが今の中学生とか高校生、あるいは小学生にとって最も力になると思います。『徹子の部屋』やっているんですけど。

りゅうちぇる:あはは(笑)。

夏野:どうして、どういうときに克服するの?

りゅうちぇる:そうですね、それは僕のテーマのなかにもあるんですが。

夏野:じゃあいっちゃう? でもまだ時間や早いので。では、そのときにしましょうか?

りゅうちぇる:そのときでお願いします。

パーソナリティのなかのダイバージェンス

夏野:では、もう少し佐藤さんの「気持ち悪い」を掘っていきましょう。

水口:佐藤さんが作られたCMありますよね。その許容性といいますか、平野啓一郎さんも『私とは何か――「個人」から「分人」』という本で書いていましたが、人間は社会的に1つのパーソナリティで接していますが、実はみんないろいろなものを持っています。夏野さんも大学で教授をしながら、こんなこともあんなこともたくさんなさっているんです。

例えば「私の肩書きはこれです」とあって、それが非常にストレスになると思います。実はこれほどダイバーシティの人なんだと。

夏野:1人の人格のなかにもダイバーシティがたくさんある。

水口:そうですね。

夏野:それにも関わらず、社会的存在としてそれはあまり認知されない、といったことでしょうか?

水口:そうですね、または表に出す機会がないなども考えられます。例えば会社員として仕事をしながら、実はボランティアもやっていて、こういったことも挑戦したいけれど会社が許さないということです。

夏野:だから静かにユーチューバーでお金を稼いでいるんですね。

水口:でも今、これがぜんぶ取り払われていくのが世の中の流れですよね。

夏野:そうですね。

水口:そうするといろいろなパーソナリティを持てるようになります。あのCMを見て、そんなことを思いました。

佐藤:それなら今日は持ってきております。

夏野:はい、ぜひ。

佐藤:その前に少し説明させてください。自分のなかのダイバーシティです。客観ではなくて「自分のなかにもダイバーシティがある」という今ちょうどオンエアしているCMです。

夏野:はい。お願いします。

(動画が流れる)

佐藤:少しだけ説明しますと、社会には多様性、つまり、いろんな価値観があるということを理解するために、気持ち悪いものと付き合うために、自分のなかにも多様性があるというのを強く意識できたらと思い制作しました。

リアルタイムで出ていた人、リアルなキャラクターなんです。医者としては上から目線に思っていても、医者だってあるときは患者になります。付き合ってる部分でなにかが見えても、その裏では母親かもしれないこともあります。自分だけ見ても自分のなかに多様性がある。

many to manyというか、自分のなかの多様性を知ると人のなかの多様性も発見しやすいのです。同時に、それが多様な付き合い方を生むのではないかと思い、これを作ってみました。

夏野:これが「気持ち悪い」ってことですか?

佐藤:そのような意味では、今ちょうどオンエアしているので言われるのは、さっきみたいにCMの世界は全員リアルなんですね。17年の今もですよ。全員本物の人というか、リアルな人にインタビューしたときに。

でもこの映像見たときに、例えばあの中に父親なんて、みなさん「え!?」と思いませんか。だから、そこが社会のリアルでも進んでいるんです。僕らがダイバーシティに対して持っているパーセクションや実際に知っている情報よりも、もはや社会のほうがよりダイバーシティが進んでいます。

このギャップが「気持ち悪い」というように、僕らが1番学ぶべきというか。アップデートすべき自分のなかの考え方だと思うんですよね。

夏野:確かに。

佐藤:これはリアルなので、もう今の社会そのものですよね。

水口:例えば、最近ヘッドホンをして電話で会話している人、いますよね。少し前に見たときは「気持ち悪い」と思っていましたが、最近は1人でなにかペラペラ喋っている人が向こう側から歩いてきても「電話しているのね」くらいで「気持ち悪い」と思わないですね。自分たちの、人を見る感覚が変わってきていますよね。

夏野:でも一人ひとりのなかにいろいろなものがあって、それを出す機会もできてきたことが新しい社会ですよね。それが気持ち悪くなくなってきつつあるというのが、今ですよね。

演じることに慣れてしまった自分の「色」を取り戻す

夏野:りゅうちぇるさんのキーワードいきましょうかね。

りゅうちぇる:はい。お願いします。

夏野:「自分の色を取り戻す」。繋がっていますよね?

りゅうちぇる:(笑)。

夏野:台本もないんですよ? たまたまやっているんですけど。

(会場笑)

夏野:自分の色ってなんですか?

りゅうちぇる:そうですね……みなさんが先ほどおっしゃったみたいに、学生時代って自分の色をしっかり持つのが大変なんですよ。学生時代を終わって卒業しちゃえば、「なんで学生時代にあんなに悩んでたんだろう」って思うこともあります。

でも学生時代のときは目に見えてる社会がすべてだから、社会のことや将来のことなんてゆっくり考える時間もない。どんなことがあっても学校に行かないといけない。明日も同じクラスメイトと一緒に学校に行かないといけない。

見えてる世界が学校でぜんぶになっちゃうのが学生時代なんですね。それで僕は、ずっとちっちゃいころからかわいいものが大好きで、ピンクだったりパープルだったり女の子が大好きな色合いも大好きだし。お人形でよく遊んでたし、おままごとも本当は大好きだったんですけど。

人と違うっていうことを、幼稚園とか幼いながらわかって、自分を隠すのに慣れちゃってて、親にも家族にも兄弟にも、自分にも隠すことが慣れてしまいました。違う色で自分のことを塗りつぶして、違う自分を表現してたんです。

でも僕にとって違う自分は、みんなの普通の男の子だったんですけど、違う自分をずっと表現してきたんです。

中学生のとき、50メートル走になってバーッて走ったとき砂ぼこりで「前髪くずれるからちょっと待って」って立ち止まるとか、給食で牛乳を飲むときにパッて飲んで無意識に小指立ってるとか、人と違うところが違う自分を演じていても、たまにはみ出ちゃうの(笑)。

そんなときに人にからかわれるわけですよ。「なんで小指立ってんの?」とか「立ち止まんないで走れよ、比嘉!」みたいな(笑)。「やばいばれるばれる」と思って違う自分で接していました。

そんな学生生活を中学校3年生まで続けていたら、頭のなかに違う自分を作るようになったんですね。「ちぇるちぇるランドの王子様りゅうちぇる」という違う自分を妄想で作るようになっちゃったんです。それが今に繋がってるんです。

偽りの自分でいることで、自分を表現できないから偽りの仲間ができちゃうんですよ。本当の自分をさらけ出したらどっかに行ってしまうようなオトモダチ、偽りのオトモダチができちゃったんです。そんな人たちが話している会話、誰かの文句も、その状況で思っていることがまったく噛み合わないし、ぜんぜん楽しくないんです。

それでもその場に合わせるんですけど、そういうときにちぇるちぇるランドの王子様のりゅうちぇるだったら「今どういうこと言ってるんだろう」「今この場をとめてるのにな」「みんな違うよ」ってちぇるちぇるランドの王子様のりゅうちぇるなら言えてるのにって思ってました。違う自分を作って、違う自分の妄想というか、かっこいい自分のなりたい本当の自分を頭のなか心のなかに描くようになったんですね。

高校に入る時に危機感から自分の色を表現するようになった

りゅうちぇる:中学校で自分が友達と思える人はできず、ただみんなにからかわれないために固めた友達しかいなくて、本当につまらなかったんですよ、中学校3年生までの今までの人生がつまらなかったんです。親にも自分を表現できませんでした。心配かけたくないですから、普通の子じゃないって思われたくなかったんです。

親はほかの同級生の男の子と比べると思うし、だからずっと隠していました。でも「このままじゃだめだ」と思って、高校に入る前、Twitterが流行りはじめたんですね。僕が高校に入る前です。そこで今までの人生を変えてやろうと思って、はじめてTwitterのプロフィール文に「ちぇるちぇるランドの王子様りゅうちぇるです」って書いたんです。

すごく勇気が要ったし、地元の友達がこんなの見つけたらなにを言われるんだろうと思いました。地元の学校の裏サイトに貼られたら超叩かれるだろうなとか妄想しちゃいました。怖かったですけど、それよりもこれまでのぜんぶ自分のせいで偽ることを選んできた自分の人生を、つまらないっていう気持ちのほうが勝ったんです。

「もう変えてやる」「キラキラした自分になりたい」「りゅうちぇるでいたい」と思ってSNSをはじめました。僕がいきたい高校が北高(注:沖縄県立北中城高等学校)っていう高校なんですけど、「北高に入学します。4月から入学します」って書いてたんですね。自撮りとかを載せて。

自分の地元以外の都道府県の方から「かわいい」「めっちゃオシャレ!」「個性的だね」とコメントがきて、自分の見えてる世界以外の人たちから、こうやって褒めてもらえると自信になってきて、それで入学式を迎えたんです。

入学式を迎えたときもなんかけっこうみんなの間では既に「やばいよ、僕たちの同級生めっちゃやばい、カラフルな子が来るやしいよ」とTwitterのおかげでちょっと噂になっていました。だけど変な話、入学式にめっちゃカラフルな格好で行ったんですよ、自分らしく。

個性的なまま入学式に行って、Twitterもなにも見てない人たちが、普通にパッて見てしまったら「あいつ誰?」ってなっちゃうんです。Twitterでちょっと有名になっちゃったんで、「え、あいつ知らないの? Twitterでもう人気だよ?」みたいなカリスマ性(笑)。そういう感じで、めっちゃいいブランディングを作って入学できたんです。

夏野:素晴らしいね!

りゅうちぇる:いやいや(笑)。そのときはなにも考えていなかったんですけど、Twitterに本当に助けられました。SNSが今の自分に合って、居場所になったんですよね。

高校生活は自分らしく表現できて、外見だけじゃなく中身も自分らしくいれるようになって、それでも高校生活のなかでは1つの社会ですから、そこでは堂々と生きていけるけど、1歩外に出たら、土日で外に出たら、またからかわれるんですよね。

「ぺこりん」との出会い

りゅうちぇる:どうしようかと思っていたときに、またTwitterとかSNSで「原宿」を見つけて、原宿では個性的な人たちが系統は違くても、好きなものが違くても、自分の個性をしっかり表現できて、そういう人たちが集まっているんです。

興味がない人でも、原宿でパッとそういう人たちとすれ違ったら「わあ、すごい個性的な人がいるな。でもここは原宿だもんな」と思われるような町が日本にある、なんて素敵なんだろう、と思って原宿に上京したんです。

それで原宿はいろんなところから、いろんな自分らしさを表現したい子たちが自然と集まってきていて、僕は運命の人にも出会えました。その人「ぺこりん」は大阪、たこ焼きランドから来たんです。たこ焼きランドって言ったらまたぺこりんに怒られるんですけど(笑)。

(会場笑)

ぺこりんは大阪のほうから来ていて、パッと見たときから、この子はずっと原宿で生きてきたんじゃなくて、ぜったいに大阪とかそういう自分を表現できない、できづらいところでも自分をしっかり貫いてきた子だ、ってすぐわかったんですよね。

そういう人たちが原宿には集まるし、それで好きになって付き合って。付き合っているときにこういうふうにテレビに出させていただけるようになったんですね。それは自分たちが好きな格好をしてるだけの夫婦だったんですけど、みんなから見たらカラフルな夫婦に見えたみたいで。

テレビって1番のメディアだし、今までの自分の経験と比べられるものではないと思っていました。はじめテレビの収録のとき、今までは自分自身の問題だから、なにか文句言われても自分の文句だけでした。でも「ぺこりんの彼氏がおかまだ」ってぺこりんの彼氏の文句を言われるっていうことに罪悪感で、愛してるから守りたいっていう気持ちがやっぱりあって、1番最初の収録のときに、声を低くしてちょっと男の子っぽい髪形をして挑んだんですよ。

そしたらすべてカットされたんです。きっと自分らしくなくて、普通の子になったからカットされちゃったんです。SNSで「テレビに出るよ、みんな見てね」って告知したのに、ぜんぶカットされてすごい悔しくて、もう超泣いて、鼻セレブ3箱ぐらい使って超泣きました。

自分らしくいようと決意

それでぺこりんが、「なんでカットされたかわかる?」て言ってくれて。その言葉が今でもずっと大切にしてるんです。「私が好きになったりゅうちぇるは、そのりゅうちぇるじゃないからだよ」「私が好きになったりゅうちぇるは自分らしく、キラキラしてるりゅうちぇるなのに、どうしてそれをみんなにも表現しないの?」って言ってくれたんです。やっぱり、いざとなると人って弱くなっちゃうじゃないですか。

そういうときに、僕は大事なことを忘れてたなと思いました。「これからずっと自分らしくいよう」と決意して、またテレビに出たら、テレビのお仕事が増えて、今まではからかわれることだったんですけど、それをこのお仕事では個性と捉えてくれました。

せっかくしっかり表現する立場に立たせてもらえたんだから、こういう人がいるんだよって、1人でも多くの人に存在をアピールしたいです。お仕事をもらえているから、自分が自分であり続ける。こういう存在がずっとこの世にあり続けるっていうことを大切にしたいな、と本当に思っています。

今まではバラエティ番組で自分を表現していたんですけど、もっともっと違うかたち、討論番組とかにも出させていただけるようになって、討論をさせていただいて、自分の世界観や歌、いろんな表現の仕方でこれから自分を表現していけたらな、とは思ってます。

「自分の色」が問われる時代

夏野:いやあ、素晴らしいお話ですね。これは分析しがいがあるお話を、今日いただいたんだけど。まず前半部分です。

りゅうちぇる:はい。

夏野:この中学までのお話、おもしろいなと僕は思います。いろいろなものを装ってしまうところ、今で言う東芝の社員、といったところでしょうか

りゅうちぇる:そうなんだ。

夏野: 本当の自分がそこにいないかもしれないのに、「まあこの会社にいるから」「この仕事なんだから」「ここにいないといけないから」と言って、大企業で働いているおじさんやおばさんはみんな仮面を被っていますよね。そういうところに限らずあらゆる大人たちは今、中学生のときのりゅうちぇると同じくらいのレベルだと思いました。

だから世の中のルールが逆にわからなくなっていくっていう。前半部分のようなことがなぜ起こるのかというのを議論したいと思います。

佐藤:前半部分で僕が1番「うわ!」と思ったのは、走っているときの砂ぼこりで前髪を直すと言っていたところ。本人はまじなんですか?

りゅうちぇる:まじ。

佐藤:僕がもの作るときに、その視点を持てないんですよね。やっぱり想像しても出てこないじゃないですか。

夏野:それは自然なんだ。

佐藤:すごいドキッとしましたね。そういうのがいいなっていうか。

夏野:もう気持ち悪いのさらに先ですね。

佐藤:そうなんです。そこでそういうアイデアが出ないんですよね。

水口:もう本能の問題ね。

佐藤:そういう次元がないですよね。

夏野:でもね、その本能でしか出てこないところ、今の社会が問われている多様性がなぜ重要かというのは、シミュレーションや他人の気持ちになること、こういうことがあり得るよねということを、どんなにロジカルに考えても出ないものが、自分の色として心の底から出てくることです。

これが出てきたときに、我々はさらにクリエイティブになれたり、あるいはその需要に対して商品を作ったりできるんです。

りゅうちぇる:だからきっと、たぶん佐藤さんがパッてする行動とか、パッと喋る言葉は、僕にはぜったいに思いもつかないし、考えてもわかることじゃない。やっぱりそういう自分らしさ、個性はぜったいにかたちになる。そのときにいろんな人に、新しいって思ってもらえてそれが流行ったり、その繰り返しだと思うので、だからそれは、やっぱり僕は自分らしくずっとい続けたいなって思う1つの理由です。

表現することで「らしさ」は進化する

夏野:それともう1つは、表現することで、それがもっと進化するということはありませんか? 例えば、頭のなかの王子様の発言よりも今の自分のほうがもっとすごい、なんかすごいことをしている、というような。どう言うべきか、そっちのほうが自分らしいということはありませんか?

りゅうちぇる:はい。本当に自分らしくいられるようになって、自分が大好きになってきたので。そのときぐらいから若干、「ちぇるちぇるランドの王子様のりゅうちぇる、超えた感じする」みたいな(笑)。ちぇるちぇるランドの王子様りゅうちぇるの素敵さがどんどんレベルアップしていくんですよね。

夏野:自分らしさを出すことによってね。

りゅうちぇる:そうです。そこがあるので、より楽しいですよね。

夏野:ゲーム作りもそうですよね。ゲームを作っていくなかで、製作チームがのってくれると、「え? あ、そこそうする!?」みたいなことがどんどんでてくる。1人が完全に設計するよりもチームでやったほうが、よりおもしろくなる。想像がつかないものがいっぱい入ってきて、すごくいいものができるみたいなことはありませんか?

水口:ありますね。自分がイメージしたものよりも超えてくるときがあります。その超えてくる自分のイメージに自信を持っていたいとしても、そういうものが入ってきて、超えてできあがった瞬間にスイッチが入って意識が変わりはじめる。1人の人間だと限界はここまでだけど、これが繋がっていくと非常にカラフルになる。それはもちろん自分から生まれることもあるし、みんながそれに関わったけど新しいものになっていく感覚がいいですよね。

佐藤:僕がすごいなと思ったのは、走っていて止まったわけじゃないですか。

夏野:止まっちゃうんかい、と。

佐藤:止まったということは、常識に勝ったということなんですよね。やっぱり社会常識からすると無理をしてでも走りぬかないと。それ以上に自分の閾値や本能に勝った、個性が勝った瞬間、そこがまさにりゅうちぇるのスタート、起点ですよね。個性が社会に勝った。

本能が表現をパワフルにする

夏野:ちなみに、なんで小指は立つの?

りゅうちぇる:小指立っちゃうの、僕みたいな人種っていうか(笑)。

夏野:なぜ立つの? 止まるのは分かるよね。前髪が崩れたから止まるというのはまだシミュレーションで理解できる。

水口:無意識にやってるわけでしょ?

りゅうちぇる:無意識なんです。だって小指もこんな感じになって、もう宇宙に向いてんだもん。こんな感じだから、「なんでそんな小指立ってんだ?」みたいになって、やばいって思って、こうやってすぐ下にする。本当に無意識にやってることだから。

夏野:癖じゃないんだ。

りゅうちぇる:癖はいろいろ、髪の毛ないのにこうやってしちゃったりとか(笑)。するんですけど。でもこれは無意識です。

佐藤:本能が出てるっていう瞬間なんですか? 隠してもなければなにも制御してないから出ちゃうんじゃないですか? 仮説ですよ。

夏野:はは(笑)。でも、好きなように、思うように生きられるのが1番、やっぱり幸せだよね。

りゅうちぇる:そうです、幸せなんです、そのほうが。

夏野:そこから生まれてくるクリエイティブ。

水口:本能が入っているとパワフルですよね。作品として、表現としてパワフルですし、自分でエナジーが入る。それでまわりの人が動く。「自分の色」を取り戻すということなら、りゅうちぇるはもう取り戻してるんじゃないかなと思います。

りゅうちぇる:そうですね。自分の色を取り戻すっていう作業を続けていかないといけなくて、自分の色ってわかってるんですけど、僕は違う色で塗りつぶしてようやく自分の色を出せた。でも、出せたときにまた違う色が見えてくるんですよ。自分のなりたい、違う色が。

それをずっと続けていくことが、やっぱり大切だなって思う。それをし続けたからこそ仕事にも繋がったり、自分らしくいられたり、運命の人とも出会えたり、出会いに恵まれたりしました。自分を好きでいられる環境が作れるんですね、それだけで。

自分の色がわかると、次が見えてくる

夏野:この後半の話がまさにそうです。自分の色を隠すのをやめたら次が見える。それが原宿だった。次へ次へと、もっとあの色になりたいという部分が見えてくるんだろうね。

りゅうちぇる:そうなんです。だから最初の自分からしたら、想像できないような人間になってるわけです。中学生時代からしても、ぜったい今のこの状況は考えられないと思います。

夏野:例えば中学2年生で4段の将棋をやっている藤井(聡太)くんや卓球の張本(智和)くんも、自分の色で将棋や卓球をやっていて自分の色を見つけている。それをやればやるほど、ますます次にいきたいところが見えてくる。大人顔負けどころか世界のトップレベルにどんどんなっていくんですね。これが多様性ですよね。だから早いうちはいいかもしれません。

りゅうちぇる:はい。僕はテレビに出させていただくようになって、いろんな大人と出会って、いい人も悪い人も。

夏野:悪いのもいた?

りゅうちぇる:いた(笑)。

夏野:いたんだ(笑)。

りゅうちぇる:いろんな人を見てきて、余計に自分らしくいようって思えました。

夏野:なるほど。

りゅうちぇる:いろんな人と出会えても、やっぱりそう思いましたね。

自分の色を見つけるのではなく「取り戻す」

佐藤:自分の色を取り戻すというのがポイントですよね。見つけようじゃなくて、放っておくとこの社会では自分の色が出づらくなるなかで、放っとかないぞという格闘の末に個性を出すという。色を取り戻すというのが、こもっているんですよ。

水口:この言葉でドキッとする人たちは多いと思いますよね。ほとんどの人がそうだと思う。

夏野:若いときはいいのですが、でも何歳になってもそうですよね。60になっても70になっても、80になっても自分の色を取り戻したら勝ちですよね。

水口:うん。逆に、そうなればなるほど、歳を取れば取るほどそうなりたくなりませんか? なれるようになるし、そう思えるようになりたくありませんか。

夏野:ただサラリーマンをやり続けて諦めたまま何十年も生きてきちゃうと、自分の色を取り戻すという発想がなくなっちゃう人が多いと思うので、りゅうちぇるがどんどん言ったほうがいい。

りゅうちぇる:自分の色を見つけようとすることと取り戻すことではぜんぜん違います。見つけようじゃなくて、自分の色はぜったいあるんですよね。この世の中で生きていくことで隠した知らず識らずの自分の色を違う色で塗りつぶしたりしてるだけ。見つけるどころか見つかっているから、環境に負けずに出そうよっていうことを、僕は言いたいです。

夏野:人の多様性を認めるということは、自分の色はなんだ? という問いとイコールです。人の多様性がわかるからこそ、自分の色もどんどん出していける。そういう締めでよろしいでしょうか?

ということで、ちょうど時間になりました。素晴らしいパネリストの方にお話をいただきました。みなさんの参考になる情報がたくさんあると思います。ぜひ持ち帰ってこれから役立ててください。本当に、今日はどうもありがとうございました。

りゅうちぇる:ありがとうございました!

(会場拍手)