ガンダムのキャラに類似したウテナ

乙君氏(以下、乙君):ここでフジイさんに聞きたいのは、数あるアニメの中でメガネで褐色のヒロインって俺見たことなかったんだけど、いるの?

アニメ探偵フジイ氏(以下、フジイ):いや~いないでしょう。こんなシンボルティックなヒロイン……。どっちがヒロインかっていうのはだいぶ人によるかもしれないですけどね。

乙君:あ、なるほどね。ウテナがヒロインであると。

フジイ:という見方もできる。

山田玲司氏(以下、山田):あ、そうだよ。そういうふうにできてる。

乙君:あ、そっかそっか。

山田:アンシーのチャクラについては……

乙君:(『機動戦士ガンダム』)のララァ(・スン)か!

久世:あー!

フジイ:コメント出ましたね。

乙君:ララァ眼鏡かけてたっけ?

山田:かけてない、かけてない。

久世:近いので言うとね。

乙君:ララァ、(『ふしぎの海のナディア』の)ナディア、(姫宮)アンシーなんですよ。褐色系譜。

山田:ここだよね。チャクラが開いているのは悟ってるのと、あと献身と神々とかっていうもの……。

『少女革命ウテナ』は主体性のなさが暴かれていく物語

乙君:あと主体性なさすぎるんですよね。

山田:そう、主体性のなさ。でもその主体性のなさがどこから来てるかっていうのがだんだん暴かれていくという歴史なので。俺、この番組で繰り返し繰り返し言ってたけど、なぜウテナがアンシーのことを好きになるかわからないっていうのが。

少女革命ウテナ 絶対進化革命前夜

乙君:そこ。

久世孝臣氏(以下、久世):それわからないね。

山田:それはそうなんだよ。心を閉ざしているからなんだよね。閉ざしているアンシーの心を解放するっていうのが第3ブロックになってくる。最後のブロック、黒薔薇編のあと。

乙君:恋愛感情じゃないと思ったんですよ。だから俺は、単純な正義感というか、別に納得はできたんです。「女の子をいじめるな!」みたいな。最初、西園寺(莢一)じゃないですか。

山田:最初のブロックで王子様ごっこやってるときは、女の子はものじゃないっていうところからスタートしてる。これが一番わかりやすい。

そのあとトラウマ解決バトルになると、本当の敵はお前じゃなくてお前の中にいる過去、これペルソナになってるわけ。黒い心、執着みたいなものだとか言って、それがセックスのメタファーで描かれるから、要するに賢者タイムみたいな感じになるわけよ(笑)。

乙君:(笑)。

久世:みんなすっきりしますもんねぇ。

山田:女の子たちがみんなツヤッツヤになるわけだよ。「人が変わったようだね」みたいになるわけ。これはあの一連のバトルが脳内セックスなんだよ。なにかしら内側のものが仮想セックスによって解放されるということを描いているのが第2ブロック。なかなかパンクだよねぇ。

久世:そう聞くとパンクかもしれない。

山田:こんな知的な遊びをよく少女に見せる媒体で、こいつ暴れてやがったなって悔しいもん(笑)。本当ふざけやがって。なんかある?

フジイ:3クールあったからよかったんですけど、2クールだったら確実に黒薔薇編は全部切られると思う。

山田:そうだね~。

久世:(笑)。

兄と妹の問題が多すぎる

フジイ:あそこの10話、(天上)ウテナとアンシー、まったく絡まないんです。全部切れるくらいに贅沢にあそこで話を作れたのがいいなと思います。

山田:そうそう。各キャラクターの。それで対比として兄弟のメタファー、兄と妹の問題。

乙君:それそれ! 俺ちょっと話したかったのはそこなんですよ。話したいというか玲司さんが答えを知ってるというので、聞きたい。

妹のメタファー多すぎじゃない? メタファーというか、妹フェチなの? っていうくらいさ。3パターンあるじゃない。まず双子じゃん、ミッキー(薫幹)と(薫)梢か。(桐生)七実と(桐生)冬芽じゃん。これも血がつながってない。

久世:最終的につながってるんじゃない? どっちだっけ?

乙君:あれ?

山田:どっちだったっけ?

乙君:ない、じゃない?

山田:まあいいや。それはいいや。

乙君:(鳳)暁生とアンシーじゃん。そんなに兄妹のこと、そんなに必要?

久世:姉出て来ぉへんもんな。

乙君:姉が不在なんです。母親出てくるじゃないですか。

山田:まずはね、「お兄ちゃん」って言ってくれる妹が大好きっていうお兄ちゃんがいっぱいいるわけじゃん(笑)。

一同:(笑)。

山田:それと同時に幼い女の子は素敵なお兄ちゃんが欲しいっていう憧れはやっぱりあるんだよ。だけど、どんなに仲良くなったってお兄ちゃんとは結ばれないっていう、少女の最初の男女の壁なの。

つまり結ばれないものの象徴で、そこにはタブーっていうわかりやすいメタファーを乗っけられるから、それを越えてしまうアンシーと越えらない七実というところで対比が生まれるわけですよ。

だからこそ、最後に七実が成長してるところが泣けるわけ。あんだけウザい七実が最後にウテナに「なんでそんなにおせっかいなの」って言う件、先に言っちゃいますけどあそこがまた泣かせるシーンでね~。

決闘の前で「あんた馬鹿なの?」って、アンシーのために戦うなんて馬鹿なんだ、おせっかいじゃないかって。「君だってそんなこと言うのはさ、おせっかいじゃないか」とか言うわけ。

久世:きた(笑)。えなりメソッド。

山田:くるわけですよ~。

登場キャラクターたちが現実に汚されていく

山田:そこで、冬芽の「友達がいると思ってる奴は馬鹿だ」って件がまた入るわけだよね。みんな病んでるからさ。そしたらウテナは「知らなかったのか? 僕は馬鹿なんだよ」って言うじゃん。

あのセリフはパンクでしょ! ブルーハーツでしょ! あの件で、「あ、仲間!」って思っちゃった(笑)。

久世:(笑)。

山田:「知らなかったのかよ。僕は馬鹿なんだ」って言って、誰かのために戦いに行く話はこいつ(『アガペイズ』)と一緒なんだよ。「あ~いいぞ~!」って思って。「本当に投げたいことを投げろー!」っていう。「幾原(邦彦)いけー!」みたいな感じになるんだよ(笑)。あのくだりにいくとさ。

黒薔薇編で第3ブロックでなにがあるかと言うと、いよいよ本当の敵が見えてくる。なにかと言うと、そこに現れるのは、現実というやつなんだよね。ランドの秘密がわかってきて、生徒は棺の中にいる者たち。

かつて少年少女だった者たち。そして世界は虚構であるんじゃないかということがちょっとずつ、ちょっとずつ見せられていって。

そして謎の車がやって来て、世界の果てに少女を連れていく。なんだこれは(笑)。拉致監禁か、行き先はラブホかみたいな(笑)。

一同:(笑)。

山田:わけがわかんない。ホテル野猿かみたいな感じになるんだけど(笑)。ここでメタファー。一体、車とは何か? っていうね。

乙君:それ聞きたい。

山田:車って何か? もともと馬だったものなんじゃないか? もう馬はないんだ。それが車なんだ。これは大人の象徴だし、大人の武器だし、そして……っていうところにまたつながっていく。もっとあるんじゃねぇかなって思わせていく。

そして大人の世界を見た者がウテナと戦うっていう件になっていく。外を見ちゃった。何か? 少年少女たちがなにかを見て、現実を見て変わってしまった。なにかを失ってしまった。みたいな感じと戦うみたいな展開になってくる。だからここは何ブロックか進んでる。

聖処女さえも現実に引きずり込む大人の物語

山田:でも明らかにわかるのは、この揺れの中で、ウテナってそれまで気高き者じゃん。聖処女なんだよ。マリアなんだよ。これを大人の世界、現実みたいなものに引きずり込んで汚そうとする大人の物語で。

それはどういうことになるかと言うと、女の子になる。「今日の君はなんだか女の子だなぁ」っていうくだりあるじゃない(笑)。

一同:あ~!

山田:この理事長・暁生っていうのがわかってくる。こいつはかつての白馬の王子だっていうことがわかってくる。ディオスだってことがわかってくる。こいつはなにかを失った元王子なんだよ。やさぐれ王子なんだよ。ろくでなしなんだよ、こいつ。クソヤローだということがわかってくる。

乙君:むちゃくちゃ言うなぁ(笑)。

山田:最低男じゃないですか。実はこれ時間ないから言っちゃいますけども。この暁生の正体は。

乙君:ちょっと、いいですよ。有料でいいですよ。出し惜しみしましょうよ。たまには。

山田:敵たるものが現実というものを見せられて、そして誘惑され、大人の男に憧れてしまう。そしてそこには兄妹ではなく、婚約者がいるという壁を作る。ここでいわゆるモラルとの戦いになるんだよ。

それに苦しんでいたのが七実。だけど見てしまうわけだよね。兄妹なのにその壁を越えてしまって肉体関係を持っているアンシーと自分が好きになった男、暁生の関係を見てしまう。

これ、なんでもありじゃんってなっちゃうわけ。イコール、それが大人なんだよってなって。

乙君:あ~! なるほどね! だから、あ~。暁生とアンシーということか。

久世:読み解くなぁ~。