「前例がないということは、価値があるということ」
夏野剛氏が語る、イノベーションが生まれる条件

イノベーションを生み出す多様性社会 #2/2

Dive Diversity Summit Shibuya 2017
に開催

新しい社会のスタンダードと向き合う都市型サミット「DDSS(DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA) 2017」の中で、セッション「イノベーションを生み出す多様性社会」が行われました。登壇したのは、株式会社ABBALab代表の小笠原治氏、株式会社ALE代表の岡島礼奈氏、慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏。「サイエンス×エンタテインメント」「アート×テクノロジー」というテーマを軸に、岡島氏が手掛ける宇宙ビジネスの話などさまざまなトークが繰り広げられました。

提供:DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA実行委員会

アートとテクノロジーの語源は一緒

夏野剛氏(以下、夏野):ダイバーシティという観点から人間のダイバーシティの話をしましたが、人間がダイバーシティを欲しているということは、逆に人間が作ったシステムもダイバーシティを欲していて。それがサイエンス×エンタテインメント。

今までタコツボのように分野がバラバラになっていた分野にまたがることで新しい付加価値を作るというなかで一番バカげたでかいことをやっているのが岡島さんの話だったんですけど。

次は小笠原さんのキーワードをもらいましょうか。小笠原さんからは、今度は「アート×テクノロジー」ときましたね。

小笠原治氏(以下、小笠原):はい。

夏野:アートとテクノロジー、アートとエンタテインメント、アートとサイエンス、全部違うんですよね。ということでアート&テクノロジー。これ事前にお互い知らずにこのキーワードを出してきているので。予定調和ではありません。

小笠原:そうです(笑)。

夏野:じゃあ、小笠原さんの真意を聞きたいと思います。

小笠原:もともとアートとテクノロジーの語源は一緒。「ars」とか「techne」とか、そういう言葉があって、要するに美しい技術までいくとアートと呼ばれていていたり。なので、本来同じなんですね。

夏野:これは日本のものづくりをやっている人たちが学習しなきゃいけないね。質素でボロいところですごいものを作るのが一番すごいというのは、NHKが作った価値観なんですよ。なんか歌が流れてくる感じの。

小笠原:(笑)。それをしてくれると経営者としてはいいですよね。

夏野:安いからね。

小笠原:コストが安いですから(笑)。

夏野:コストが安いし、ユニフォームもダサいのでいいからね。

小笠原:日本って自国の力だけで伸びたわけではなくて、戦後の人口ボーナスと周辺国の戦争という特需がベースで、民転するしか使いみちがなかった軍事技術があったからたまたま伸びたというだけのところを、なんとなくゼロイチで伸びた国だと少し勘違いしているところがあって。

その時に急激なコモディティ化を守るために勤勉に勤めることがよしとされた流れから、こういうアートや先ほどのエンタテインメントを排除していく流れがあって、わざと多様性を殺していったという歴史があると思っています。

エンタテインメントになってやっと社会に実装される

小笠原:僕の中では夏野さんは、この部分でおもしろいエポックメイキングというか。だって、今だったらみんなドコモはドコモだと思ってますけど、たぶん当時はまだNTT色が強かったですよね。

夏野:あまり言っちゃいけないんだよ。(会場を指差して)あそこで「言うな」って言ってる。今のほうが強いんじゃない。

小笠原:そうですか、やっぱりそれもあるかな。あの時のiモードは、既存技術を組み合わせて日本人ほとんどみんなが使うようなプラットフォームを作ったじゃないですか。あれは僕の中ではけっこうアート的というか。

こういう現象としてのアートもあるなと思っていて、そこはテクノロジーで作り上げられるし、結果的にテクノロジーで「すばらしいね」となった時点で、それはアートなんだと思っているんですね。

そういうことを10代から徹底的に教えていくために京都造形芸術大学に新しいコース作らせてもらって。1年目って……あ、僕ちなみに高卒なんですよ。高卒でも大学の教授ってなれるんだなって今年やっとわかったんですけど。

夏野:さっきビデオにあったJoi Ito(注:MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏)がそうですね。彼も高卒。

小笠原:そうですね。結果的にその時々に学ぶことに集中すればいいんですけど、集中したものを表現しないと社会に受け入れてもらえない。その表現方法がエンタテインメントでもいいと思いますし、アート的なものであってもいいんですけど。

これを言うと怒られるんですけど、アートよりも進化した状態がエンタテインメントだと思っていて。アートはどちらかというと積極的に関わっていかないと理解できない。でも、エンタテインメントは受動的でも受け入れられるので。

サイエンスがあって、テクノロジーがあって、アートになって、エンタテインメントになって、やっと社会に実装されるみたいなイメージでいるので、ちょうどやられていることにすごく興味があるというか。

(流れ星は)宇宙がディスプレイの代わりになるわけじゃないですか。今までみんな、ディスプレイで見たりしていて、やっと今8Kまで来ている。8Kから16Kぐらいが人間の目の解像度なので、だったらもうVRでもなんでもなくなってくる。シャープさんの8Kをこの間見てきたんですけど、もうそれだけで奥行きを感じるんですよ。ちょうど8Kぐらいから脳が錯覚をし始める。

宇宙がディスプレイ化していくと、人間は普通に見ているので、ヘッドマウントディスプレイとかそういうことじゃない。だからVR、AR、MRみたいな定義の必要もなくなるかなと思ってすごく期待しているんですけどね。

岡島礼奈氏(以下、岡島):ありがとうございます。

アートとテクノロジーの融合

夏野:アート×テクノロジーというのはけっこうおもしろい観点で、実は日本のいわゆる第2次産業の歴史の中にこの考え方はなかったんですけど、実は日本の工場ではじめてこのアーティスティックな美しさというのを工場の現場に取り入れた工場があって、それがPS2の工場だったんです。

日本のメーカーさんの工場に行くと、だいたい入った瞬間に「安全第一」とか書いてあって、ものすごくかっこ悪いんですよ。僕、ある自動車メーカーに、「工場がかっこ悪ければかっこいい車なんか作れるわけないじゃないですか」と言ったら、出入り禁止になったんですけど。

小笠原:(笑)。

夏野:ただ、1つだけすごい工場があって。長崎にあるプレイステーション2の工場。当時プレイステーションを作った久夛良木健という人が、「美しくない製造ラインはむだが多い」って。

のちに工学的に証明できるんですけど、彼は直感的にそう言ったんですね。「むだがあるから美しくない。だから美しくラインを作れ」って。初めて言われたと工場長が言っていました。

ものすごくモダンなすごく美しい工場だったんですね。ここが世界で一番ゲーム機のハードウェアを作った工場になったんですけど、「ああ、これはアート&テクノロジーだな」とすごく感じたんです。

小笠原:すごくよくわかります。最近、僕、投資先のハードウェアのスタートアップにも学生にも同じことを言っていて。ハードウェアのスタートアップには完成した状態、学生にはアートという文脈なので、ぜんぜん違うんですけど、例えば、完成した状態というのは、足すものがなくなる状態じゃなくて、引くものがなくなる状態という言い方をしています。

アートも同じです。1回ざっとやりたいことを積み上げて、本人にとっては引くものがもうない状態ぐらいまで、どこまで削れるか削る。これがたぶん美しい状態だと思っていて。久夛良木さんの美しいというのと、むだがないというのはまさにそれだなと思いました。

夏野:英語の表現の中に「state of the art」という言い方がありますよね。これは芸術的にすごいという言い方なんですけど、単に「きれい」とか「すごい」ではなくて、仕掛けが入っているすごさ。パッとは真似できないようなすごさを「state of the art」という言い方をするんですけど。それってテクノロジーがあるからこそ可能なわけだから、この2つがくっつかない理由はないんだなと、すごく感じます。

小笠原:本当に一緒だと思っています。そういう考え方をしてもいいんだというのが、僕にとっての多様性のベースだったりしますね。

今伸びている企業はテクノロジーとアートの組み合わせが得意

夏野:なるほど。しかし、テクノロジーの中心にいるはずのGoogleは、なんであんなにアーティスティックじゃないオフィスなんだろうかなと。おしゃれな人が誰もいないんですよね。創業者も含めて。Appleはstate of the artなんだけど。

小笠原:Googleに行くと、あそこだけ共産国じゃないですか(笑)。

夏野:まあ共産国というよりchaosでしょ。

小笠原:chaosですかね。(Googleは)ご飯が無料だとみなさんよく聞くと思うんですけど、僕はあそこに行って並んでいる時に、配給にしか見えなかったです(笑)。

すごい技術者がコモディティを守ってる会社ですよね。そこに外部のイノベーションを持ってきて伸ばせる。だからYouTubeやAndroidみたいなものを爆発的に伸ばせるんだと思うんですけど、Googleはすばらしい技術者が集まってコモディティを守るという会社かな、と思います。

夏野:Appleあるいはダイソンとかバング&オルフセンとか、今伸びている会社というのは、みんなテクノロジーにアーティスティックな美しさとかアーティスティックな価値観を組み合わせるのが得意です。日本のメーカーにはまだ出てきていない。だからバミューダとか、新しい家電メーカーはこれから期待したいところですね。

小笠原:そうですね。

夏野:そのためにはやっぱり多様性だな。

小笠原:多様性がいるんですよ。

僕の投資先で「tsumug(ツムグ)」という会社があって、「スマートロック」という言い方をやめようといって、先週「コネクティッド・ロック」というものを出したんですけど、その筐体デザインをやっている金沢の「secca」というデザイン集団がいるんです。彼らは3Dプリンタとかを使いつつも、最終的にはそれを漆塗りしたり伝統工芸と混ぜてやっていて。

デザイン兼アーティストみたいな人たちがスタートアップのデザインをやっていたり、やっと、ちょこちょこ始まってきたかなと。

『2001年宇宙の旅』の宇宙船のかっこよさ

夏野:そしたら衛星もアーティスティックにデザインしてください。だって流れ星を排出する衛星がかっこ悪かったらしょうがないじゃん。

岡島:そうですね。一緒に衛星を作ってくださっている先生は本当にものづくりの美しさ、デザインに非常にこだわられています。むだがない、機能を追求したものが美しいんだというスタンスでやられていて、ゴツゴツしていたり無骨だったり、そういうところがすごくかっこいいんだというふうに。

小笠原:燃える方向が違うんですよね。僕が思うのは、エンジニアだけがやってしまうと、引きすぎた状態になっちゃうことがけっこうある。

岡島:なるほど。

小笠原:造形を受け入れたくなる人というのが、理屈をわかっている一部の人になる。エンタテインメントというところでいうと、もっと一般対象の人が受け入れられるデザインというのが、引くものがない状態だと思っていて。

夏野:だから僕ね、スタンリー・キューブリックの『2001: A Space Odyssey(2001年宇宙の旅)』の中に出てくる宇宙船のかっこよさ。

岡島:ああ。

夏野:あれは工学的に見たときに、原子炉エンジンを居住区と離すとか、一番少ない材料で体積を一番大きくできる球の形を取り入れるとか、すごく理に適ってるんだけど美しい。そこを目指してほしいと思います。

岡島:そうですね。

小笠原:そのまま映画の中に出てくるぐらいのものになるといいなぁ。

日本のGDPの停滞を打破するために

夏野:このアート&テクノロジーと、さっきのサイエンス&エンタテインメントが全部一緒になると、日本の将来はちょっと明るいね。

小笠原:僕はそこでやっと戦後が終わるんじゃないか、ぐらいに思っていて。1995年から日本のGDPは、日本のレートで見るとガチャガチャなってるんですけど、ドルレートで見たら本当にほぼ真横なんですよ。要するに止まっているんですよね。

夏野:96年と2016年のGDPは、2パーセントしか成長してないです。

小笠原:実質もう本当に横ばいで、みんな停止しているんですよ。成長も堕落もないと思考が停止するので、そこを変えたいですね。やっていいんだということ、それを伝えるために「多様性」というキーワードが使いたいだけだったりします。

夏野:それを日本でやるには、なにかでかい仕組みを壊すか、「こんなことができるんだ」というものを見せてあげるのが一番いい。そういう意味では流れ星はインパクトがありそうだね。

岡島:そうですね。本当に日本のものづくりの結晶なので。流れ星を流すのは実は簡単ではなくて、地球の周り3分の1周、6分の1周するので非常に高い精度で粒を放出しないといけないんです。その精度を作れるのは、やはり日本だからだなと。

流れ星で流すことによって、そこをみんなでわかってほしいというか、日本の技術で「こんなすばらしいことができますよ」ということを見てほしいというのもあるし。

今、アートとテクノロジーのお話をしていただいたんですけれども、アーティストの方々も一緒にコラボしたいとすごく言ってくれていて。アーティストと、流れ星で完成するアートみたいなものができるとおもしろいんじゃないかなと思います。

夏野:アーティストがスポンサーした流れ星とかあるといいよね。その日は日本全国でアーティストがみんなでライブやるから、その日に流れ星を流して。

岡島:そういうこともやりたいです。すごくいいですね。

夏野:なんか主体がアーティストになっちゃったほうが。YOSHIKIとか絶対乗りそうな感じがする。

小笠原:確かに。

岡島:そうですか? お好きですかね?

夏野:絶対好き。なんですけど、テクノロジーを身近にするためにも、テクノロジーを持っている人にアートを身近にするためにも、なにかバリアを壊さないとダメかなという感じはします。

現代の日本にある“バリア”

岡島:日本って今、けっこうバリアがあるような感じですか?

夏野:めちゃくちゃでしょ。だって宇宙政策委員に入ったら「非宇宙人」っていじめられるぐらいだからね。

岡島:宇宙村はなんとなくわかるんですけど。

夏野:いや、ほかはもっとすごいです。とくに日本の場合、やはり終身雇用・年功序列・新卒一括採用というものが最大のバリアになりつつありますね。やはり30年間同じ会社の中で生きてきている人を前提とした開発体制なので、そうすると「流れ星作ろう」というアイデアが会社の中から絶対出てこないよね。

岡島:会社として「リスク取れないよね」みたいな話になりそうですよね。

夏野:それよりさらにひどいかもしれない。つまり「そんなバカなこと言ったら俺の人生が影響あるからやーめよ」みたいな。さっき、りゅうちぇるも言っていた(注:直前のパネルディスカッション「表現の多様性・創造の多様性」にパネリストとして登壇)「周りの色に合わせる」みたいな、同調性圧力というやつですよ。

小笠原:たぶん停滞しているから、同調性が強まるとも思っているので。

夏野:ただ、伸びている時はもっとだったんです。

小笠原:ああ、そうか。伸びているときは気づかないというか、心地良いままいけるからいいだけで。

夏野:そうすると、美しい工場ラインを作ったところも、ボロボロの工場ラインを作ったところも差が出ないんです。だから今、一部がリスクを取って……本当はぜんぜんリスクじゃないんだけど、リスクを取ってそれを証明することがすごく大事。

日本と海外のリスクの捉え方の違い

小笠原:そうですね。リスクの話でいうと、日本ってスタートアップのことをベンチャー企業とか言うじゃないですか。アメリカでは基本的にベンチャー企業とは言わないですよね。venture capitalはあっても。

夏野:確かに。「venture business」という言い方はありますけど。

小笠原:そうですね。ビジネス自体はありますけど。

夏野:ベンチャービジネスという言い方をしているのは創業して3年以内ですね。だから日本みたいに一部上場企業になっているような会社を「うちはベンチャーですから」と言うアホな経営者はいません。

小笠原:リスクというものの考え方もぜんぜん違いますよね。

夏野:リスクじゃないんですね。もはや日本もリスクじゃないんでしょうけどね。

小笠原:リスクじゃないことをリスクだと言われている会議に出ているときが一番つらいですね。「それリスクですっけ?」というところから始めると会議が終わらないので。あれはすごく不思議というか。

例えば、大学でもこのアート&テクノロジーみたいなところをクロステックというかたちでやるんですけど、最初、文科省のほうから「芸大で名前にテックって使うな」と(笑)。

夏野:えっ、そんなこと言われるの?

岡島:文科省がですか?

夏野:いけないの?

小笠原:みたいですよ。「工学部にデザインはわかる」と。今、けっこうあるじゃないですか。なんですけど、「芸大にテクノロジーは、それは学部として違う」と。「いやいや」って思いながら(笑)。

夏野:ちなみに建築学科を工学部に入れているのは、先進国では日本だけなんです。

小笠原:ぐらいでしょうね。

夏野:普通は「fine arts」の領域なので美術と建築は一緒なんですけど、日本だけは工学部に入れていて、その時点で間違ってるんだけどね。

小笠原:うん。「そういうものを認めるのも多様性」みたいな言い方もなくはないと思うんですけど、できればもう少し楽しいほうの多様性にいきたいなというのがあるので。

岡島:あとは、前例がないとなんか……いろいろな方々にお話しして「でも、それ前例ないですよね」みたいなことで終わるのが日本では多い気がして。前例がないって、おもしろいことじゃないですか?

夏野:前例がないということは価値があるということです。

岡島:ですよね。それでやはり「前例がないからできません」という対応がけっこう多い。

連続性のイノベーションと非連続のイノベーション

小笠原:めちゃめちゃありますね。ものすごく不機嫌な顔して聞いてますけどね。僕、その会話のときはもう、「は?」みたいな(笑)。

それはイノベーションにも関係があると思っていて。イノベーションにはきっと2つあって、連続性の中で突き詰めることで起こるイノベーションと、非連続のイノベーションがある。前例がないというのはたぶん非連続。これは多様性によって担保されるイノベーションの起き方で。

連続性でいうと、さっきの8Kじゃないですけど、液晶を突き詰めていくことで人間の眼の解像度を超えて、急に本物っぽくなって立体テレビもいらなくなるような世界観って、1つのイノベーションなんですけど、これは連続性。これには同調圧力だったり、いろいろなことを含めて積み上げで大事なんですけど。

そこまで突き詰めてるのはすばらしいんですが、「突き詰めもせず連続性の中だけで働かされてる人に急に非連続のイノベーションを理解しろと言っても、なかなか価値観的に難しいんだろうな」と自分をなんとか収めている感じですね。

夏野:だから、そっちに向いてる人はそっちをやればいいし、そっちじゃない人はそっちじゃないことをやるという、役割分担な感じはしますね。

小笠原:そうですね。

夏野:テスラの車がおもしろいなと思うのは、テスラの工場もすごくアートなんですよ。きれいにお化粧していてすごいんですよ。なぜお化粧と言うかというと、それは元トヨタとGMの合弁の工場を、合弁が解消されたのでものすごく安い値段で買っただけなんですよ。

小笠原:そうそう。

夏野:そこの工場はなにかというと、日米貿易摩擦の時に「トヨタ、日本の自動車メーカーが勝ちすぎているから、その生産方法を少しアメリカの会社にも伝授してくれ」ということで作ったNUMMIという会社。サターンという車を作っていたんですけど。

つまり、トヨタ方式で作った工場がGMの調子が悪くなって合弁が解消されて売りに出たので、それをイーロン・マスクが買っちゃったんです。買った瞬間に、かっこ悪いからすごくかっこよくラインを作り変えた。その工場が今テスラという車を作っているんです。

だから要素技術は持っているんだけど、もったいないなというのはすごく感じます。

岡島:それでいうと、SpaceXもイーロン・マスクの会社だと思うんですけど、SpaceXの工場もかっこよかったです。ついでに、ご飯もおいしかったです。けっこうちゃんとした料理人を連れてきていると聞いて。

小笠原:SpaceXも実は連続性ですよね。アポロの時のエンジニアがいるからこそできる。

岡島:そうですね。

宇宙のことをやっている会社を1つにまとめたらいい

夏野:ただ、異業種間交流がものすごくて。つまり、NASAが自分でロケットを作ることをやめたんですね。でも国際宇宙ステーションまで物資を届けなきゃいけなので、「それは全部民間に委託します」という宣言をしたことから、アメリカの宇宙ビジネスが、どかーんと立ち上がった。

その時にNASAの宇宙技術者をみんな解雇しちゃったんですよ。「その人たちを雇って俺がロケットを打ち上げる」と言って作られた会社の1つがSpaceXという構図。

小笠原:ですね。

夏野:だから今、アメリカの宇宙ロケットは100パーセント民間が上げていて、民間が受注しているという姿に生まれ変わっちゃったんだけど。ドラスティックだけど、それで美しいことができたり、工場のクオリティが上がったり、そういうことが起きているのは事実ですね。

岡島:そうですね。そこで働いている人たちがすごい楽しそうに見えました。

夏野:だから僕は宇宙なんちゃら委員会で、「三菱電機とNECと三菱重工と石川島播磨と宇宙のことをやっている会社が4社もあるのがおかしいので、1つにまとめたらどうですか?」と発言したんですけど、議事録に載らなかったんですね。

小笠原:それは載らないですね(笑)。

夏野:いや、でも1個にまとめたほうがいいじゃん。だって畳産業は1個しかないんだからさ。

小笠原:しかも、わかりやすいことに特許を集めればいいだけですからね。

夏野:そう。あと技術者がすごく分散してるんだよ。それで、それぞれの会社で売上が10パーセント以下なので、それぞれの会社ではたいしたビジネスじゃないんですよ。だから「1個にまとめてジャパンスペースにしたら」と言ったんですよ。議事録に残りませんでした。

小笠原:(笑)。そうですね、でも……。

「真似されるものを作れ」から「真似されないものを作れ」に変わった結果

夏野:じゃあ、ちょっと話を戻すと、多様性がジャンルと人に導入されるということは、変化を受け入れるというか、変化を前提にした仕組みなんですかね。

小笠原:そう思いますよ。尊敬というか敬意みたいなものがないかぎり多様性は生まれにくいというか、しょうがないから認めるんじゃなくて、良いこととして認め合わないとなかなか難しいので、どっちかというと気持ちとか心持ちのほうが先にこないとまずいとは思っているんですけど。

夏野:それは難しいんじゃないかなぁ。

小笠原:かなり難しいです。

夏野:自己否定になっちゃうからね。

小笠原:でも、自己否定できるほうが思考って飛躍しやすいじゃないですか。

夏野:いや、もちろんですけど、その思考を停止して社長になった人とかだからね。

小笠原:なかなかね。

夏野:東芝とかシャープとかね。

小笠原:(笑)。

夏野:NECとか富士通とかも。

小笠原:そうだ。僕の投資ファンドって鴻海からも入っているので、シャープさんとお話しすることがけっこうあるんですけど、シャープって、もともと創業者の言葉の1つだった「真似されるものを作れ」というのが急に「真似されないものを作れ」に変わって、そこから落ちていったと現場の人たちは感じているらしいですね。

簡単にいうと「真似されても儲かるものを作れ」なんです。そこが知財などいろいろなものになるんですけど、同じものを作るにしても、真似されてもいい、真似されても自分たちにメリットがあるところまで作り込むというときは、やはりほかの人の力も必要だから、お互いにわりとコミュニケーションを取ってあーだこーだ言いながら、そのなかで尊敬も生まれていたという話から、それを思い始めたんですけど。

「真似されない」といった瞬間、会社の中のコミュニケーションが減ったらしいんですよ。

岡島:コミュニケーションなんですね。

夏野:情報漏えいが怖いとかになっちゃう。

小笠原:怖いとかになっちゃうんですよ。そういう意味じゃないよねっていう話なんですけど。その時ぐらいからなんとなく「多様性を認め合うということが先にいるな」ということを思い始めて。それはやっぱり、街の雰囲気だったり、会社の雰囲気みたいなところから来るな、とか。定性的な話ではあるんですけど、今はそれを重視している感じですね。

宇宙以外のバックグラウンドを持った人とコラボレーションを

夏野:さあ、岡島さんの会社はこれを証明していく、それからエリアやジャンルを切らない多様性を包含したジャンルとして勝負をかけていくわけなんですが、今一番ほしい応援はなんですか?

岡島:応援ですか……。

夏野:応援とか、あるいは今足りない才能とか、会社として足りないケイパビリティってなんですかね。

岡島:それでいうと、もういろいろなところが足りていない状況なんですけれども、やはり一緒に盛り上がってくれる人々をどんどん募集したいと思っています。

夏野:人の力?

岡島:人の力もですし、会社の力であったり。流れ星を楽しむためにどんなことができるかなということを自分ごととして考えてもらって、「こういうコラボの仕方あるよね」というアイデアが出てくるとおもしろいなと思います。

多様性というところでいうと、1人で考えたものではここまで大きくならなくて、宇宙以外のいろいろなバックグラウンドを持っていろいろな経歴の人が参加してくれたことによって広がってきているというのがあるので、そういったところでさまざまなコラボレーションを生み出していきたいと考えています。

夏野:でもね、ちょろっと投資してくれている大企業は、自分ごととして考えていないよ。

岡島:そうですかね(笑)。

夏野:絶対そう。だから突き詰めて考える人のネットワークを作るのは、たぶん「はい、コラボしてくれます。こんな会社がお金出してくれました」みたいなものとは少し違うんじゃないかなと思うんですよね。

岡島:そうですね。突き詰めて考えてくださる方々も非常にウェルカム。

夏野:そりゃそうだよ。だからみんなリソースを費やしている。

岡島:そうですよね。

夏野:だから、そういう仕掛けがないと、たぶんなかなか来ないと思う。

岡島:そうですね、なにか仕掛けていきたいですね。なにかアイデアがあったらぜひ教えてください。

夏野:(笑)。

小笠原:今巻き込むというのも手ですよね。

岡島:では、ぜひよろしくお願いします。

従業員ゼロの会社

夏野:ということで、やっぱり今までの考え方にとらわれないために多様性を入れるということなのかな。

小笠原:そう思いますね。今までの考え方にとらわれると、すぐに相手のことを評価してしまうという。

夏野:さっきのセッション(注:パネルディスカッション「表現の多様性・創造の多様性」)では、個人がどうやって多様性を受け入れるかとか、個人が自分の色を出していくという、個人を主体とした話でした。

組織としての多様性をどういうふうに担保し、それをどういうふうにマネージし、どういうふうに力として発揮していくかという。ここは定性的にはわかるんだけど、定量的に……企業価値に表せば、もちろん多様性のある会社のほうが強いという国際比較はできるんですけど。

小笠原:さっきのtsumug(ツムグ)という会社で試しているのが、従業員ゼロなんですよ。

岡島:へぇ。

小笠原:デザイナー、エンジニア、僕のようないわゆるビジネスパーソンが今60人近くいるんですけど、全員、業務委託プラス権限委任。「この人にはこういうことをいくらのギャラで頼みたくて、どんな権限を託していて」ということを明確にして、それを全員が見られる状態にしているんですね。

ただの実験としてやっているんですけど、少なくとも僕のように何社かで働いている人間は、それが一番楽なんですね。そうすると「この人はどんなことする人で」とか不透明な壁で思考停止することは減るので、そういう仕組みにチャレンジしたりしていますね。

夏野:それは働き方としては相当おもしろいですよね。これからはそっちのほうがいいのかもしれないなという。生活の糧として組織に属する人がいなくなったときにはじめて、能力を生かしてそれぞれのプロジェクトに貢献するという考え方が出てくる。生活の安定のために能力と関係なくそこに所属しているというのが、今、社会的に見ると一番の非効率なので。

小笠原:あとは今さくらインターネットでも検討しているのが、4時間の労働で給与の3分の2を保証するというのを何人か試してみようと思っていて。7時間労働とか絶対にごまかすじゃないですか。1時間ぐらい(笑)。

岡島:そうですかね(笑)。

夏野:1日4時間でいいんだ。それはまとめてもいいの?

小笠原:まとめてもいいですけど、基本4時間ぐらいで3分の2が保証されるので、当然時短とかにも使えるんですけど。子どもを朝や午前中に、保育園へ行かせて、家のことをやって、午後から出勤して4時間仕事をして、家に帰ってきても別にいいわけですよ。僕らは能力がほしいので。

かつ、これを今8社ぐらいで検討していて、まだどことは言えないんですけど、ワークシェアできるように。

夏野:「さっきあっちの会社にいたじゃねえか」というやつが、午後はこっちの会社にいる、みたいな。

小笠原:はい。例えば、さくらでサーバサイドエンジニアやりつつDMMでもサーバサイドをやるというと、3分の2、3分の2で1.5倍になるかもしれません。もしくは、さくらでサーバサイドエンジニアやりながら、あるスタートアップでデザイナーとして3分の1ぐらいの給与で働くとか。

いろいろな働き方、1人がパラレルのキャリアを持てるようにすると少し多様性というのに近づくかなと思いながら、そういう実験をしようとしていますね。

フルコミットを時間で縛るのは間違っている?

夏野:それはALEさんなんかはもう、すぐに導入しちゃったほうがいいんじゃないですか?

岡島:そうですね。うちもでも週に1回とか2回とかの人がいたりします。

夏野:正社員?

岡島:でも、正社員という仕組みではないですね。

夏野:雇用契約があって。

岡島:そうですね。

夏野:宇宙開発ってすごく足が長いので、そういう仕組みのほうが、フルタイムでべったりドカーンと人がいなくてもいいはずなんですよね。

岡島:そういう時期もあると思います。

夏野:それでいろいろな才能を入れられるといいよね。人件費と関係ないところで多様性をキープできるみたいな。

小笠原:フルコミットというのを時間だけで縛っているのがちょっと気持ち悪くて。フルコミットってそういうことじゃないよねと。

夏野:本当だね。

小笠原:なにかを達成するというコミットなだけなので、時間というよりは、その人が自由に動ける幅として持たせたり。だってサーバサイドやってる人間がもしデザインのことわかり始めたら、絶対にプラスにはなるし。

夏野:絶対にプラス。

小笠原:そういうことにずっと今取り組んでいる感じですね。

夏野:さあ、そういうお話でなにか1つ、方向性としては将来こんな感じになっていくのかなと、今の小笠原さんの話でイメージできた方もいらっしゃると思うんですが。なにより今日ここにせっかく来ていただいたみなさんには、このバカげたように見える流れ星計画がきちんと成功するように、ぜひこの岡島さんのALEという会社を応援してほしいなと思います。

意見や「こんなふうにしたらいいんじゃないの?」というアイデアがあったらどうすればいいんですか?

岡島:そうですね、ホームページに問い合わせ先が載っているので、メールをいただけるとうれしいです。

夏野:そこでちゃんとお返しをしてあげる。これが大事です。なんかさっきから人からもらうことばっかり言ってるから、お返しをする。

岡島:でも、ちゃんと流れ星が……。

夏野:1個の衛星、流れ星を好きなようにするとかさ、そういう特権があるかもしれないよということを餌として釣ってくるんですよ。

岡島:なるほど。

夏野:というように、今日は多様性というところからかなりいろいろなものが出てきました。産業構造の多様性とか人の多様性、組織の中の多様性のマネジメント、そしてこれからの働き方、いろいろな観点で多様性という言葉を噛みしめるセッションができたと思います。

お二人のすばらしいパネリストに今日はいらしていただきました。今日は本当にありがとうございました。

小笠原:ありがとうございました。

岡島:ありがとうございました。

(会場拍手)

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