『少女革命ウテナ』はJパンク?

山田:(『少女革命ウテナ』の幾原邦彦氏の魅力は)あともう1個でっかいのがあるんですよ。この人ですね。

乙君:どの人?

山田:幾原さん。イクニですけど、ブルーハーツと同じ世代ですね。ほぼ。俺のちょい上って。見れば見るほどわかるんだけどね、Jパンクだね。これ。

乙君:Jバンク?

山田:Jパンク。

乙君:Jパンク!?

山田:ブルーハーツです。これ(笑)。

久世:この作品が?

乙君:これブルーハーツなの!?

山田:そう。イクニはヒロトなの。あいつは。だからこの世代、世の中こんななのに「気が狂いそう~」なわけ。

乙君:え~!?

山田:非常にこれはロックロンロールです。ロックですね。むしろパンク! わかるでしょ? このルックだけでわかるでしょ。パンクでしょ! 前衛というよりむしろパンクなんだよ。ぶち壊せ! そして出て行け! 殻を壊せ! お前自身を革命しろ! っていうことを60年代の魂をモロに受け取って90年代絶望のときに現れてるんだよ。

そして商品ではなく作る目的を持って俺はやるぜっつって『ウテナ』を作ってる。これはあとからこうなっていったのかもしれないけども、潜在的にイクニが持ってた資質だと思う。

それはなにもない時代に生まれてしまった平和な俺たちがなにを革命するかというか、どうしてこの世の中いくか、これが後半説明する劇場版につながってくる。

劇場版ではすべてをここで終わりだから全部言うからなって大絶叫するわけでしょ。最後はもう本当に絶叫で終わるんだけど。絶叫に至るまでが本当にツインピークスのように言わない、言わない、言わないっていくの。

乙君:言わないっていうか、言ってねぇ?って思うんですけど。俺。

山田:ちょっと言ってんだよ。実は……

乙君:いや、言ってることが、なんて言えばいいんだろうな、あの感じ。雄弁すぎるんですよ。俺の中では。めちゃめちゃ言ってるんだけどなんにも言ってねぇなみたいな感じというか。

山田:うんうん、そうね。

久世:それ映画の話? 全体的に?

乙君:全体的に。

山田:実を言うとね、脚本家によるんだけど。

乙君:あ~そっか、そっか。

脚本家によってバラつきはある

山田:脚本家の中には、幾原さんがこれを今回伝えたいってたぶん榎戸(洋司)さんが作ってるラインがあると思うんだよね。構造、ブロックが。このブロックでこれを伝えるって箇条書きにして渡してるはずなの。脚本家に。

それを物語の中に落とさなきゃいけないんだけど、決められた枠の中でこれを全部伝えようと思うと、多くの脚本家がやっちゃってるんだけど、セリフで説明しちゃってる。

月村(了衛)さんとかが脚本やるときはなかなかうまい。あと榎戸さん自身が脚本を書くときは、そのバランスが非常に良くてドラマの中に押し込んでいく。そして見せないようにしながら、でもなにかが残るかたちを見せていく。

だから後半、榎戸脚本が入ってくるとなかなかエッジが立ってきておもしろくなってくる。それまでは本当に説明的な回がとても多い。これはしょうがないね。毎週作んなきゃいけなかったから分業にして、本当に気の毒なんだけど。バンクシステムも、これ限界だなってくらいのバンクシステムじゃん。あれ。

乙君:バンクシステム?

山田:要するにこのシーンを毎回使い回しにするっていう。あれをいわゆるバンクシステムっていう。

乙君:そうそう! サボってると思ってた(笑)。「絶対、運命、黙示録~」。

久世:(笑)。

山田:あれは変身もの、仮面ライダーの変身は必ず同じやつが。

乙君:そうそう、あの繰り返しがいいんですよね~。

山田:あれを待ってるわけよ。

乙君:きた! 螺旋階段じゃなくなってるみたいな。

山田:そういういろんな整合性が。歩いて行くんだ、大変そうっていうのがエレベーターに乗ってるっていう。エレベーター斜めだったはずなのになぜか縦になってるとか。ステージと塔が一緒になってるとか。

そういういろんなことがあるんだけど、関係ないんだよ! なぜならばパンクだから。だから前衛でパンクなんだよ! これは(笑)。

乙君:そうか。ようやくわかったわ! わかった、わかった。なるほどね! なんで俺がアジャストできなかったのかわかったー。

山田:そう! お前は細かいことが気になるおじさんじゃん?

乙君:細かいことが気になってしまう。僕の悪い癖。

山田:あなたの癖のせいで『ウテナ』に入れないんだけど、俺とか久世のほうが柔らかいから……。わかったよ! 戻ってこい!(笑)。

久世:『相棒』を反すうすんなよ(笑)。

乙君:相棒を顔で表現しました(笑)。

山田:相棒長いわ(笑)。

乙君:なるほどなーと思って。

山田:そうなんだよ。

アニメ探偵フジイが登場

乙君:ちょっと今、音が聞こえてきませんか?

山田:なにが聞こえたの?

久世:白馬の音が聞こえてきた?

乙君:車の音が。諦めていないなら、ついに到着されたらしいんですけど。

山田:まじで? 世界の果てから来た? 世界の果てのブラック企業から。

乙君:世界の果てからある探偵がついに到着。やる気満々なので今日、無料部分から呼んじゃいましょうかね。

久世:本当だ~。

乙君:そんなこんな玲司さんの触りもありますけど。お呼びしましょう。アニメ探偵フジイちゃんです。

山田:どうぞ!

(拍手)

乙君:「世界の果てから」……。かっこいいな(笑)。

山田:世界の果てから来たよ!

乙君:あれ、散髪してる!

アニメ探偵フジイ氏(以下、フジイ):どうも、どうも。

山田:どうもどうも(笑)。 「1人(肌色)白い」でお馴染みのフジイちゃんですが(笑)。ありがとうございます。

乙君:お久しぶりですねぇ。

フジイ:お久しぶりです。

乙君:ウテナは完走しました?

フジイ:なんとか完走しました(笑)。

山田:すみませんでした! 申し訳ないね。いきなり。

フジイ:月曜の深夜になんとか。

山田:お~さすが。

乙君:意外と見てなかったんですよ。

山田:意外だね。

ウテナの転換点とは

フジイ:90年代のアニメって地方にすごく格差があるんですよ。今みたいにオンデマンド配信がないので、地元でやってないとツタヤで借りるしかないくらい。

乙君:あ、新潟ではやってなかったんだ。

フジイ:まったくやってないです。

乙君:まったくやってなかった(笑)。

フジイ:調べたんですけど、遅れてもやってなかったです。

久世:調べたんだ(笑)。

乙君:あらら、そうなんだ。先ほどの玲司さんの白馬の王子様をぶっ殺してますという話。

フジイ:そうですね。殺されて、そこから王子様がいなくなった女性を男性が取り込むのと、あと女児向けに走ったのかなっていうのが。

山田:やっぱりここが転換点、キーポイントになってるよね。

フジイ:転換点ですね。見ると。

山田:『まどマギ』とか。

フジイ:そうですね。これ見たあとに見ると『まどマギ』がいかに影響を受けてたんじゃないかなというのは思いますね。

山田:なんか『キルラキル』はすごくわかりやすく直系っていう気がするよね。

フジイ:あれはもともと『ウテナ』のオープニングに『キルラキル』の絵を描いてる吉成(曜)さんという人が参加してて。もともとその人は『エヴァ』の人なんですけど、『エヴァ』からオープニングやって、あと20話と21話をやってるんですけど。若葉の話のところとか。あれけっこう『キルラキル』に似てるって思う。

山田:若葉の回が?

フジイ:あれ吉成さんが唯一参加してて。

山田:あ~はいはいはい。そういうことね! それが要するに(『キルキラル』に登場する満艦飾)マコと似てるってこと?

フジイ:たぶん話的にそこがカブってるっていう。

山田:カブるね。キャラものもそうだし。なるほどね。演出なんかも。

フジイ:そこはあるのかなぁと。

乙君:フジイちゃんにはほかの作品との関係も、この後の流れとかもちょいちょい補足していただきつつ。とりあえず玲司さんの熱い『ウテナ』への感謝を。

山田:そうだね。

「女ってどうしたらいいの?」がテーマ

山田:ざっくり言うと、「女ってどうしたらいいの?」っていうことについて正面から男が言ってるの。女が女について、「私たちはどうしたらいいの?」じゃないのよ。男が言ってるところがおもしろいわけ。

庵野(秀明)さんが「俺たちどうしたらいいんだー!」とかって絶叫になるわけだけど。答えを出そうとするわけだよ。男性脳でやってるから。さいとうちほさんは漫画やるんだけど、さいとうさんは漫画担当で一緒にやってる部分もあるんだけど結局脚本として形に落とし込むときに男性脳でやるから非常に理屈っぽい。

乙君:なるほどね。

山田:だから俺たちみたいなのでも楽しめちゃうわけ。それでいながら少女たちはだんだんついてこれなくなる。そしてある段階に来ると絶望してしまうわけだよ。その絶望を見せるためにあえて20話くらい使っている。

乙君:ほ~。

山田:このメソッドというのは実は『デビルマン』メソッドですね。だから世代的に「デビルマンきたか」って感じで。江川(達也)さんがいつもやるやつですよ。要するにこういうふうに話進むんだよってみんなを安心させといてまったく真逆のとんでもない展開をボンって見せて、「現実っていうのはこうなんだよ」と。

夢を見せて現実を見せるっていうこういうやり方によって、ぼんやり夢の中にいる人たちの目を覚まさせようとする社会派の一派なんだよね。それを目的としようとしているというのが『ウテナ』。

最初のコンセプトからそうだったんだろうなと。「女はこういう呪いにかけられている」「女はどんな種類の呪いにかかっているか」ということと、「女の本当の敵は何なのか」ということに関して、段階を追って突っ込んでいくということがおもしろい。

乙君:女の本当の敵?

山田:そう。女の本当の敵とは何かということをどんどん、どんどん階層を追って突っ込んでいくわけ。哲学的に。これがまたおもしろい。