新しい制度をどのように実行したか

濱地健史氏(以下、濱地):では、また加嶋さまと本地さまのお二人に、その新しい制度をどのようになさったのかと、古い既存の制度からどういうチャレンジを盛り込まれて、どういうところをどんな仮説に基づいて、既存の制度を変えて今運用なさっているのか。

成果が出る・出てないはもちろんあるわけですけれども、制度を変えて運用なさっているかを、今度は本地さまからお聞かせいただけますでしょうか?

本地史明氏(以下、本地):まず一番大きいのは、新事業提案制度に限らない話なんですけれども、弊社は今年から新しい中期経営計画を発表しまして、その中でビジネスモデルの革新を全社的に謳っております。

「既存事業のブラッシュアップと新規事業というものをこれからは生み出していくんです」ということを、社内外に向けて発信したり、新規事業用の予算を新たに確保していきました。その追い風を受けての新事業提案制度のスタートということで、まず背景が1つ大きく変わってきたのがあったと思います。

その中で、新事業提案制度が出発する中で、これまでは社内的な広報活動が、そこまで十分にはできていなかった部分もあったかもしれないんですけれども、まずゼロワンさんという外部の方にサポートに入っていただきました。

ただ単に募集するんじゃなくて、まずは「新規事業ってなに?」「なぜ新規事業に取り組むのか?」というセミナーを、ゼロワンさんにやっていただいて、それを社員が聞きにいく。そういう外部の方の知見や刺激をまず取り込んでいく機会を何回か設けました。

そういうところで、まず社員の「新規事業をやるんだよ」という会社からのメッセージと、それに向けた注意喚起といいますか、ハンズアップさせるような取り組みを盛り込んであるのが、今年の一番大きい変更点だったと思います。

濱地:ありがとうございます。

消費者の「おいしい記憶のために」

濱地:加嶋さまはいかがでしょうか?

加嶋雄一郎氏(以下、加嶋):まずは、今の社長の堀切(功章)が2013年に就任したわけなんですけれども、就任の際に、「お客さまのおいしい記憶のために、いつも社員同士が切磋琢磨している挑戦的な企業になる」というビジョンを打ち出しました。それ以降、消費者本位と挑戦をことあるごとに継続的にメッセージを発信しているのが、まず大きいと思います。

そして、第3回K-VIPをやるにあたっては、第1回・2回のK-VIPをやることで、社員の中でK-VIPに対する意識が高まっていて下地ができてきたところがあります。そのおかげでアレンジも思い切ってできました。

大きく前の2回と違うところは、今まで社内だけで実施していたところを、01Boosterさんの支援を受けて、いわゆる外部の目を入れた。外部のプロの目を入れて実施したというのが、一番大きなところ。いわゆるベンチャー支援のプロのノウハウを学ぶというだけでなくて、社内だとどうしても甘えが出てしまって、途中でうやむやになってしまう。それをなくしたいという、この2つの狙いで支援をお願いしたところです。

具体的な話をすると、応募するにあたってはいわゆる詳細な事業計画ではなく、応募者の熱い思いと消費者の課題をどのように捉えて解決するかと、それをA4用紙1枚で簡潔に出してもらいました。それで書類審査に通った方のアイデアをブラッシュアップしていきます。

この提案者は他の提案者とか、ゼロワンさんの支援を受けて、外部のベンチャーにぶつけて意見をもらったりという、いわゆる壁打ちをやったり、外に出てフィールドワークをやるということで、要はユーザーペインをちゃんと捉えて、「あなたのやりたいことは本当に消費者本位なんですか?」ということを、とことんまで突き詰めて考えてもらいました。

さらに社内の審査もプレゼンではなくピッチで、形式ではなく提案者の思いを重視したところも大きいと思います。

社内で揉むだけではなくて、ゼロワンさんの「01Dojo」にも参加させまして、社外の起業家人材とも触れあって刺激を与えました。いろいろな今までやってない仕掛けをたくさん入れまして、今にいたってます。とりあえず、こういうことを続けて、提案者の提案を最後までローンチできるようにサポートしていきたいと思っています。

濱地:はい、ありがとうございます。先ほどの渡邉さんのお話も危機感というのがありましたし、本地さんもやはり、「経営計画としても変革をしていくんだ」「挑戦していくんだ」というお話があったかと思います。

追い風という表現を本地さんはなさってましたけれども、会社トップの方向性として「新しいことをやっていくんだ」というものがまずないと、おそらく笛吹けども踊らずということになります。

では、トップがメッセージを出したらうまくいくのかというと、たぶんそれだけでもない。外部の目、外部の力、それから外部の存在を、社内新規事業なんだけれども外部の力を取り込んで、外部をうまく活用することによって、自社内で新しい事業をドライブしていく。

内外隔絶型ではなく内部から生むために外部の力を上手にご活用になっていると、聞かせていただいて感じました。ありがとうございます。

明確に成果がでてきた1つの区切りは

濱地:加嶋さまと本地さまへのご質問ですが、早計かもしれないんですけれども、そういったチャレンジをなさって明確に成果が出た、1つの区切りがあればご紹介いただきたいです。チャレンジした結果、もう少し変えたほうがいいなという手応えもあると思います。今、この瞬間の感触や成果をご共有いただいてもよろしいですか? 本地さまからお願いいたします。

本地:今年からゼロワンさんに入っていただいたばかりということもありまして、またちょうど最終審査の真っ最中という状況ですので、事業化という意味でなにか成果があったかというと、まだわからないです。

ただ、各種の取り組みを一緒にやらせていただいたおかげもありまして、まず提案件数自体は、今回は30件弱ぐらいの提案が出まして、一定数の増加が見られたなと思います。

今後の課題と言うには少し早いんですけれども、ただ案件数が増えればいいのかというと、それもまた少し違ったところではございます。今年から私どもも、応募フォーマットをA4用紙1枚レベルのものにして、詳細な数字の計画やリスク分析などは少なくとも1次の応募の段階ではなくしたんですね。

言い方は難しいんですけど、そうすると応募の内容自体がクオリティの面でも差がかなり出てくることにはなりますので、審査員も判断に迷うというか、何を基準に判断していくべきかという課題があります。

濱地:ありがとうございます。

「1人1件、魂込めて事業を提案してください」

濱地:加嶋さま、いかがでしょうか?

加嶋:まず、やってみて思ったのは、キッコーマングループに個性的で優秀な人材がまだこんなにいるんだということに気付いた、というのが私は一番うれしかったです。そういう人と一緒にこれからもやっていきたい、という思いが芽生えました。

第3回K-VIPを実施するにあたって、「とりあえず、1件でも、2件でもまず絶対事業化しよう」ということを目的にやりましたので、1人1件の応募に絞りました。

前の第2回K-VIPだと商品提案もあったので、1人何件も応募していたことがあって、アイデアコンテストみたいになったきらいもあったので、「それはもうやめましょう」となりました。「1人1件、魂込めて事業を提案してください」ということで、前みたいに100件や200件などではなくて、40件になったんですが応募がありました。

結局、社長をはじめとした役員の最終審査に残ったのは5件です。そのうち2件が事業化案件として認められまして、残り3件につきましてもダメというわけではなくて、「継続検討しなさい」ということで、今まだ継続してチャンスをうかがっているところです。

事業化案件のうちの1件につきましては、提案者を経営企画部に異動させまして、「もうその案件に専念しなさい」ということで、今やってもらっています。この事業はたぶん来春にローンチする予定であります。

残りの1件は、効果を検証する実験が必要なテーマなので、多少時間はかかりますが、できるだけ早くローンチしたいと思っています。

この2件はともかく、残りの3件をどうするか。これはなぜ継続検討になったか。私の推測ですが、要は非連続の事業であったということで、まったく当社の今までの資源や資産などを使わずに、新たな事業にいっているところもあったため、判断しづらいものだったのかなと思います。そこをどうやって「やってみろ」と持っていくかが、これからの私の課題だと思っています。

濱地:ありがとうございます。01Boosterはそもそも創業時に起業家・スタートアップの方々のご支援というものをやらせていただいていました。今ももちろん重点的にやっているんですけれども、その知見からよくお伝えさせていただくのが、「新規事業をつくりたいんですか? それとも、新規事業をつくれる人材を育てたいんですか? どっちなんですか?」「遠いゴールとしては1つに重なるんですけれども、まったく異なる道を歩む2つのプロセスですよ」と。

「プログラム運営者やプログラムを『やっていいぞ』とおっしゃる経営者の方々が、その理解と覚悟がない中でやると、途中で『あれ? なんでこっちに進んでるんだっけ?』となって、『やめなさい』という合理的な判断が出てきますよ」と。

「『この制度は意味がないじゃないか』という判断が出てきますよ」「どちらなんですか?」ということを、生意気にも問わせていただきます。

「カオス」に陥らないためには

濱地:そうした状況を我々はよく「カオス」と表現します。運営をされている本地さまや加嶋さまのような方にとっても、もちろんカオスなんですが、まさにプレイヤーとしてカオスの中を切り拓いている渡邉さんにとっても、当初「カオス」と言われた時に、「単語はわかるけど、何のことだろう?」となったと思うんですけれども、今はその表現しづらい「カオス」を実感なさっていると思います。

社内新規事業の取り組みとして、事業を立ち上げるために、自分が育つよりも事業を立ち上げるんだということで、アクションをしている本人として、今振り返っていただいて、新規事業創出の取り組みをなさる前のご自分と今のご自分とで、どのように変わったか。

この営みのどんなものがご自分にとって作用したからかと、今お考えかというところを、ちょっと聞かせていただけますでしょうか?

渡邉裕大氏(以下、渡邉):まさに本当、「カオス」の中にいます。その中でも耐えられているのは、やはりマインドセットが大きく変わったと思っています。そのマインドセット、2つお話させていただくと、1つが不確実とリスクは異なることが大きいかなと思っています。

以前、漁師と一緒に仕事をさせていただく機会があったんですね。漁師の人とお話させていただいて、わかったんですけど。漁師は漁に出るのが仕事なんですけど、その日、漁で魚が獲れるかはわからないじゃないですか。非常に不確実なんですね。

合理的な判断をすると、「漁に出ない」ということが合理的な判断になると思うんですけど、彼らは出るんですよね。なのでその時に「不確実とリスクって違うんだな」と思って。

大手企業の一般的なオペレーションの事業は、なるべくその不確実性をなくして、確実性の中で効率的に物事を動かしていくことと思うと、もしかしたら「カオス」の中で事業を行っていくことには、非常に向いていない考えなのかなと思って。

不確実とリスクは違っていて、社内の人を説得するところでも、2つを分けるようなマインドセットを持てたのが、非常に大きいかなと思っています。

もう1つが、ゼロワンさんがやっているアクセラレータープログラム「01Dojo」に私は去年出させていただきました。Day1、初日に「なぜあなたが事業やりたいんですか?」と、1日問い続けさせられる。ずっとピッチをさせられることがありました。社内起業家は得てしてそうなんですけど、「会社に言われたから」。これは絶対言ってはダメなんですね。

そうなった時に、私は今、アプリをやっているんですけれども、もともとは高齢者向けの事業ということでスタートしています。正直、私も高齢者向けとうことを(会社から)言われたもので、自分でやりたいものではなかったんです。

ただ、なんとかそれを「自分事化」させる、当事者意識を持たせることを、1日死にものぐるいでやったら腑に落ちる機会がありました。そこから、自分がアクセルを踏めたと思いました。その2つですね。

それ以降は、やはり自分で当事者意識を持って何事にも決断をすることが、けっこう身になったといいますか、それがすんなりできるようになってきたかなと思います。大きくこの2つのマインドセットが変わって、これは非常に新規事業を創出するうえで活かされているかなと今思っています。

濱地:ありがとうございます。ともすれば、得られるものや人材育成というと、スキルや経験などにも目が行きがちかと思うんですけれども、本人としては、むしろ物の考え方やマインドセット、立ち向かうスタンスなどが一番今役に立っていると思っているんですね。ありがとうございます。