「ちがいをちからに変える街」を実現する7つのカテゴリー

長谷部健氏(以下、長谷部):やっぱりここに上がると緊張しますね(笑)。

浜田敬子氏(以下、浜田):緊張しますね。

長谷部:超満員の会場で(笑)。そういう冗談ですけれども。

浜田:みなさんありがとうございます。

長谷部:ありがとうございます。最初に「前フリ」ということで、渋谷区のお話を少しだけさせていただければと思います。

(スライドを指して)今ここに出ている「ちがいをちからに変える街、渋谷」が、渋谷区にとって今一番政策の最上位概念にあるステートメントになっています。

これは基本構想というものなんですけれども。「基本構想」という言葉を初めて耳にする方も多いと思いますが、地方自治体がそれぞれオリジナルで持っているもので、実際には基本計画とも言い、政策の最上位概念に来るものでございます。これをもとに、僕らは10カ年の計画や3カ年の単年度など、すべての政策がここに紐付いています。

この「ちがいをちからに変える街」を実現するために、7つのカテゴリーがあります。教育や福祉、健康スポーツなどいくつかあり、そこにまた文章があり、非常に読みやすいものとして作っています。

というのは、いろんな自治体を見比べていただければわかるんですけど、けっこう堅苦しく書いてあるものが多いんですね。そして、最大公約数をとっていくので、わりとそんなに変わり映えがしない……。「自然を大切にしよう」とか、そういうことになってくるんです。

そんな中で、渋谷はもう一歩、少し前へ進んで、ダイバーシティ、多様性、インクルージョンみたいなものを含めた意識を、基本構想として持っています。

先ほど言ったように政策に紐づくものですから、多くの人に知っていただければ基本構想に関連しているご提案を、渋谷区というか行政としては非常に受けやすいんです。それをもっと広めていきたい。その掛け声を「You make SHIBUYA」と打ち出して、みなさんと一緒に渋谷区を作っていくんだということを掲げております。

今日はこのもとに、これからいろいろお話ができれば考えております。「渋谷未来デザイン」については最後にもう1回説明しますけれども、外部で社団法人を作って、もっとアクティブにいろんなアイデアをそこで創発したり、集めたりといったことをやっていこうとしています。

実は小泉先生と浜田さんはそのメンバーとして、一緒に準備していただいている関係です。今日はこうして3人でお話しすることになりました。

渋谷区のまちづくり条例1.0をつくる

浜田:よろしくお願いします。小泉さんは渋谷にはどういう関わりが?

小泉秀樹氏(以下、小泉):もう30数年前に、高校時代に実は渋谷でよく走っておりまして。

浜田:そうなんですか?

小泉:そうですね、部活でですね。そのころよく帰りがけに原宿・渋谷あたりで遊んでいたんですが、最近はちゃんと渋谷区のまちづくり審議会というところで。

長谷部:そうですね(笑)。ちゃんと、というか。

小泉:そういうところで渋谷区の街づくりの1.0を作るのに、まちづくり条例とかですね。そういうものを作るのに協力したという感じですかね。

浜田:私は実は3月までは築地の会社に勤めていまして、渋谷は通勤で通るだけだったんですよ。もちろん渋谷の近くに住んでいたので、時々買い物に来たりなどするんですけど。4月から渋谷の会社に転職しまして、今は渋谷で働く1人なんです。

私が今作っている「BUSINESS INSIDER」というメディアは、新しい価値などを発信するビジネスメディアなんですが、いわゆるスタートアップやベンチャー企業を取材することも多いのです。そうすると、渋谷にものすごく「取材したいなあ」と思う会社や人が多いことに気づきました。私たちも渋谷にあるメディアということが1つの価値なんじゃないかなと思っています。

そんな感じで、長谷部さんや副区長の澤田(伸)さんといろいろなことをやらせていただいて。メディアとして報じるだけじゃなくて、その自治体や行政と一緒になにかを作っていくなど、新しいことができないかなと思っていたところにお声かけをいただきました。本当にこれからすごく楽しみにしております。

ということで、モデレーターを務めさせていただきます。今日、長谷部さんが先ほどおっしゃった渋谷の未来、それに関わる基本構想。つまり、どんなことを今、渋谷区は考えていているのか。そういったことを中心に、お2人にお話をうかがえればと思っております。よろしくお願いします。

長谷部:よろしくお願いします。

渋谷カルチャーは「人が混ざり合って生まれたもの」

浜田:はい。キーワードを前もっていただいています。

長谷部:そうですね。いくつかご用意しました。

浜田:1つはですね……私は仕事が多くて、(スライドを進めながら)これもやらなきゃいけないんですよね。はい。「都市の未来をデザインする、Creative City Shibuya」を、キーワードとして出していただきました。

「Creative City」。長谷部さんが「クリエイティブである」ということは、価値としてすごくおっしゃっています。その「クリエイティブである」のためには、どんなことが必要かを、少しお話をうかがいたいなと思っています。

私は、渋谷に来て驚いたのが、なんと言いますか、いい意味でのわい雑さというか雑多な感じ。今日はダイバーシティがテーマですけども、もともとダイバーシティがあることを、すごく感じました。

長谷部:そうですね。

浜田:今、なぜダイバーシティが必要かという話になった時に、「ダイバーシティがないとイノベーションが生まれない」という文脈で使われることが多いと思うんです。ということで、そのクリエイティブのためのイノベーションみたいなところから、少しお話をうかがってもよろしいでしょうか?

長谷部:当然いくつかのアイデアはもう持ってはいるんですけども。思い返してみると、僕はこの街で生まれ育ってきているんですが、ずっと人が混ざり合って生まれてきたストリートカルチャーの中で生まれ育ってきたんだなという思いがあります。

小学校の時は竹の子族、ロカビリー族、中学校の時はDCブランド、高校の時はアメカジ、渋カジ。その後はギャルやコギャル、音楽も渋谷系などありました。歩行者天国だったり、街の洋服屋さんだったりも含めて、いろんなものがストリートで交わって生まれて、カルチャーに揉まれて育ってきたんです。

だから、先ほど言った多様性ももともとあった中で言うと、もうそれが普通というか、自分の原体験を通してでも、普通に僕を育ててきたんですね。

その長所をこれから活かしていく、さらに伸ばしていくべきだと考えています。今まではどちらかと言えば一区民として、この街に生まれ育った人間として、そこに関わってました。しかし、今度は区長という立場になりましたので、今度それをどうやってリードしていくか。それを行政が主導で全部やろうとすると、少し寒いものになってしまう気もするので(笑)。

この渋谷には、先ほど「取材したい企業がたくさんある」とおっしゃっていただいたように、おもしろい企業もたくさんあるし、学んでいる学生もいる。あとは好きで遊びにくる人など、それぞれ思いを持ってる人たちがいっぱいいるんです。

渋谷にシティプライドを持ってくれる人たちと一緒になって、街をつくっていく。その時のキーワードとしては、クリエイティビティやイノベーションなど、今言われる創発系のものが1つ大きくなってくるんじゃないかな、と思っています。

「行政はイノベーションから一番遠い組織」

浜田:でも、イノベーションって黙っていてもなかなか生まれないと思っています。

長谷部:そうですね。

浜田:行政ができることは、ある種のサポートであったり支援だったりすると思うんです。そういったイノベーションに関わるような……というか、新しい価値を目指したいと思うような人に、どんな価値を行政としては提供できると思っているのか。そして一方で、提供したいと思っていらっしゃるんでしょうか?

長谷部:そうするとね、まずは行政がもう少し、イノベーションについて学ばなきゃいけないと言いますか(笑)。どちらかというと区役所は、僕がこんなことを言ったら怒られちゃいますけど、イノベーションという言葉から一番遠いところにいそうな組織だと思うんです。

しかし渋谷区の場合は、そこで発揮できることやチャンスはいっぱいあるはずなんです。そして民間企業、とくにベンチャーの人など、どんどんやっていますよね。そういうものを見て、まずは触発されてほしいという思いがあります。

行政で「イノベーションを起こしていきましょう」と言うと、先ほどお話ししたように寒くなる可能性があります。そのため、どちらかと言うと背中を押させていただいたり、その場を一緒になってつくったり、行政が持っているリソースをうまくご提供したい。規制を緩和することで変わってくることがあるとも思っています。

浜田:一定の条件を満たしたら、スタートアップ企業のオフィスの家賃が安くなるなどがあるといいですね。

「制度や仕組みを変える」は行政だからできる仕掛け

浜田:スタートアップするなら、今だと渋谷は家賃が高いというので、五反田にスタートアップが逃げちゃったりしていますよね。

長谷部:はい。

浜田:もう少しああいった人たちを呼び戻すことも必要かな、と思ったりするんですね。

長谷部:そうですね。五反田は五反田で(イノベーションが)起きるといいなと思っているんですけど。これから特区を中心にビルができてきたり、いろいろオフィスもまたできていきます。そうすると、またスタートアップする人たちが集まってくるかなという思いはあるんです。ただ、家賃の問題があるので。

浜田:新しいビルは家賃が高いですからね。

長谷部:そうですね。だから、シェアアパートメントみたいなものはもっと考えたいです。今、特区の構想を持ってまして、これは渋谷デザイン会議で揉んでいこうと思ってるんです。

例えば、エンタメやクリエイティビティ、イノベーションを起こすものをもっと渋谷区周辺に集めたい。しかし「集めたいでーす」と行政が言っても、当然集まらない。そのため、少し規制を緩和することを考えています。

もっと大中小のホール、あとはクラブスペースなど、そういうインキュベーションセンターみたいなものを、新しくビルをつくる時に敷設してくれれば、その面積に応じて容積の緩和を上(東京都)にしようと思っています。

さらに条件があるんで。そこで緩和した部分については、人に住んでもらうというもの。そこはサービスアパートでもいいです。24時間、駅の周辺にそういう人が住むという息吹が必要ですので。そういったことを考えています。

これは東京都と今話し始めたところですが、うまくいけばそういったホールや場所が、渋谷区周辺にどんどんできてくる。これはやはり、行政だからできる仕掛けじゃないかなと思います。

浜田:そうですね。制度、仕組みを変えるというのは、なかなか民間では難しいですもんね。

長谷部:そうですね、はい。