ベンチャー企業は大企業を倒せるのか?

川邊健太郎氏(以下、川邊):ヤフーの川邊でございます。今までの登壇者の中で唯一襟付きの服を、ちゃんと着ております。まともです。

(会場笑)

今日はIVSでベンチャー経営者のみなさんに何か話をしてくれ、ということですので、こういったタイトルで話をさせていただきます。「ベンチャー企業は大企業を倒せるのか」。結論から言うと、私は倒せると思います。その話をさせていただきます。「川邊健太郎なんだから、自己紹介なんて必要ないだろう」と思ってたんですけれども。

(会場笑)

IVSの小野さんに事前に資料を見せたところ、「川邊さん、若い経営者がけっこう来るので、自己紹介とかしてくれませんかね?」と、婉曲に知られてないということを教えていただきましたので、一応自己紹介をさせていただきます。

インターネット黎明期の1995年、大学3年生だったんですけれども、「電脳隊」というインターネットベンチャーを創業いたしました。主にモバイルインターネットのソリューションを展開していました。そして、iモードによって、1999年にモバイルインターネットの大爆発がおきたんですね。

「これはサービスが必要になるだろう」ということで、当時渋谷にあったビットバレー系の企業4社とジョイントベンチャーで、ピー・アイ・エムという会社を作りました。懐かしい人たち、いっぱいいますね。WiLの松本(真尚)さんですとか、enishの安徳(孝平)さんですとか。あるいはこの間、LinkedInの日本代表になった村上(臣)ですとか。いろんな人が一緒にベンチャーをやっていました。

伸び盛りのベンチャー4社でジョイントベンチャーをやるとどういうことになるか、みなさんわかりますか? みんなまったくコミットしません。

(会場笑)

困ってしまいました。そこで、電脳隊とピー・アイ・エムを2000年の4月に合併させました。そしてその上で、2000年の8月にその会社がヤフー・ジャパンと合併いたしました。ちなみに、ヤフーはこれが最後の合併でした。

以来17年、ヤフーで働いております。途中でUSENから、大赤字の事業であるGyaOを買い取りました。なぜかこの企業の社長になって、年間ウン十億円の赤字を、いろいろやってターンアラウンドさせました。疲れました、非常に。

疲れているときに、今度は孫さんから言い渡されまして、2012年に「そろそろYahoo! JAPANはPCからスマートフォンに移行しなきゃいけないから、体制全取っ換えするから、お前今から戻って副社長やれ」と言われまして、以降はヤフーで働いています。

リソースを集中特化する

みなさん一度はYahoo! JAPANお使いいただいたことがあると思います。こういった数字を持っている、超大企業だと思います。

どれぐらい大企業かというと、日経ビジネスの今月号で特集されるぐらい、大企業ということです。

(会場笑)

その大企業のCOOの観点から、ベンチャー企業の強さと、それを活かした大企業の倒し方、つまり、他社にやられて嫌だったことを、これから話をしたいと思っております。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

3つ、倒し方を話します。共通しているキーワードは、非対称性です。

1つ目、リソースを局地戦に集中特化するのが、ベンチャーが大企業を倒すときにやるべきことです。みなさん、写真撮りましたか? もういいですか?

(会場笑)

これが、大企業のリソースです。

年間の販促費350億円。先ほど岩瀬さんのプレゼンを聞いてて、すごくいろんな苦労をして二百数十億円を集めたんだと。我々は年間で350億円、販促費を使っています。そしてリソース5,800人、エンジニアは3,000人おります。だから、敵いっこないですよね、これだけで見たら。ベンチャーは絶対敵わないです。

ただし、大企業はいろんなことをやっている。やりすぎている。とくに日本の企業はやりすぎているんです。ヤフーもご多分にもれず、100個サービスがあります。100個サービスがあるとどういうことになるかというと、このように、みなさん平等の思想の中で、だいたい同じようにリソースが分配されてしまうわけです。

そうすると、あの大きなYahoo! JAPANの各サービスですら、年間のプロモーション費用はここに書いてあるようになるわけです。

それに対してベンチャーです。ベンチャーは1つのサービスしかやっていません。それに対してリソースを供給できます。とくにこのお金の面、最近ものすごい変わってきていますよね。大型資金調達というものが出てきています。例えば、スマートニュース。38億円調達して、累積の調達額91億円ですよ。戻ってみます。Yahoo! JAPANの各サービスは3.5億円しかありません。

(会場笑)

これで勝てますか? という話になるわけです。1個1個のサービスで見れば、これぐらい、ベンチャーやエンジェルの大型資金調達は、大企業に対して脅威なんです。そして近年、この多対一極集中の戦いをさらに助長させる仕組みがどんどん充実してきています。1つは、やはり資金の供給源であるVC、エンジェル投資家です。シリアルアントレプレナー、これがたちが悪いです。

(会場笑)

お金を供給する上に、やり口まで知っている。山田進太郎(注:メルカリの代表取締役)なんか、ほとほと困っているわけです。そしてシステム開発。これも昔は、1から作るからリソースが必要なので大企業が有利だったんですが、ご存知のとおりAWSですとか、買い切りにしてもいろんなものが出てきてます。それを前提にしたスピーディな開発。

さらに、何かサービスを流行らせるときに、今はスマホのアプリ時代ですけども、これをグロースハックさせるマーケティングの手法が確立しています。つまりベンチャーのみなさんは、巨人の肩の上に乗って大企業と勝負ができるということですので、もう一度振り返りますと、大企業はこのようにリソースがばらけてますので、一極集中。1つのことに集中すべきだと思います。これが1点目。

情報を隠しながら成長せよ

2点目です。大企業に気づかれず、情報を隠しながら成長することが、ベンチャー企業がやるべきことだと思っています。あるいは我々がそれを嫌がっています。

大企業の新規事業、あるいは事業の拡大のさせ方はどうしてもリアクティブです。なぜならば既存事業は重たいからです。なので、リアクティブに「競合はこういうことやり始めましたよ」という話を聞いて、「それはどういう感じなんだろう?」と。

しかも小さいと「うちの会社だったら、それだと営業利益には足しにならないじゃないかな」という感じで、情報の分析もゆっくりです。そしてある程度大きくなってから対抗策を意思決定します。いずれにしても情報がないと、これに対する分析や意思決定ができません。ということは、ベンチャーはどうやればいいかと言うと、すべて気付かれないようにすることです。

まず、「我々は成長していますよ」なんて言わない方がいいです。そしてさまざまな成長の情報、こういうものも取材は受けない方がいいです。大企業がこれに対抗しようという意思決定まで、なるべくたどり着かせないようにするのが、ベンチャーのやるべきことです。こちらをご覧ください。事例です。

(会場笑)

メルカリの情報です。メルカリは今非上場です。したがって、年にいっぺんこの官報でしか情報は出ないわけです。正直、全然わかりません。

(会場笑)

KGIしか書いてないんです。我々はKPIを見て分析して対抗の仕方を考えなければいけないのに、KGIしか出ていないから「ああ、メルカリもうかっているんだな」というただ感想にしかならないんですよ。

(会場笑)

困ってしまいます。KPI早く出せ! これはIPOするとさまざまなKPIが出てくるので、我々は分析ができるんです。つまりまとめますと、こういうことです。当面の間、その分野でのシェアが7割か8割くらい取れるまでは、非上場すべきだと思うんです。非上場だと(競合の分析は)無理です。なので、非上場にした方がいいですし、メルカリはとっとと上場してほしいですし。

(会場笑)

(スライドを指して)ここに画像ありますけれども、これはたまたま画像検索でIPOと検索したらたまたま(マネーフォワードの)辻(庸介)さんのが最初に出てきただけで。

(会場笑)

ただベンチャーは当面の間、非上場がいいんじゃないかなと、大企業から見ると思います。

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