コラボレーションスペースの意義

則武里恵氏(以下、則武):岩佐さんもパナソニックにいらっしゃるときに、そういう(100BANCHのような)コラボレーションスペースを作ったことがあると言ってらしたような気がするんですけど?

岩佐琢磨氏(以下、岩佐):やってましたね(笑)。2006年かな?

則武:どういう目的で作ったんですか?

岩佐:もう名前も失念しましたけども、オフィスの1階のエリアがけっこう広いスペースが空いたので、そこを部署の中の誰でも使えるような場所にして最新のゲーム機とか他社製品とかいっぱい置いて。酒も飲んでいいという仕組みにしてもらって。

則武:なんで作ろうと思ったんですか?

岩佐:なんて言うんでしょうね。背広を着て、白いデスクに座って発想できることって非常に少ないというのが1つと。リラックスして仕事したいみたいなところがけっこうあって(笑)。

当時、僕がすごく問題意識に思っていたのが、今はそういう方は減ったのかもしれないですけど、パナソニックの人はパナソニックの製品のことしか知らなかったんですよ。

例えばiPhoneが2007年に発売されたって言っても、触ったことがある人はいないとか。あるいはソニーのXboxの新しいやつが出ても、誰もそれを触ってないみたいな環境だったので。一定の予算をいただいてとにかくおもしろいものをいっぱい買ってきて置こうみたいなことをして。

部署内のコラボレーションみたいな。普段一緒に仕事をしない、まぁそうは言っても僕のいた部署だけでも400人くらいいたので、その中で話したこともない人もいっぱいいるわけで。

そういう人たちと最新のゲーム機だったりガジェットだったりを使いながらディスカッションをする。しかもソファがあって間接照明付いててちょっとゆっくりできるみたいな場所を作って、なにかできないかなみたいなことをちょっとやりましたね。

則武:ちょっと聞いていいですか? その予算は誰が出してくれたんですか?

岩佐:その予算はeネット事業本部の本部長が出してくれました。

則武:なるほど。岩佐さんの部署とかじゃなくて?

岩佐:最後どこの管轄で費用になったのかですけど。予算単位は本部の予算単位かなんか言ってましたけど。

則武:すみません、会社の中の話してる(笑)。

20パーセントルールとは

岩佐:でも、言うほどお金使ってないですよ。たぶん100万か200万円くらいですよ。それでいいアイデアが出てくれば、それはぜんぜん違うとなって許可をいただいた覚えがあります。

則武:なるほど。そういう場所があって良かったなと思われたことがあったら教えてほしいんですけど。

岩佐:その場所とセットで当時流行ってた「20パーセントルール」(注:社員に本来の業務以外の取り組みを認める手段)もやったんですよ。パナソニックさんは今、20パーセントルールみたいなものってあるんですか?

村瀬恭通氏(以下、村瀬):ごく一部ではありますけど。

岩佐:当時どこもなかったので、20パーセントルールのようなものを作って。「好きなもの作っていいよ」というかたちにして、私のいた部署の400人の中で好きな人を集めてやっていいよというので、結局サービスのローンチまでやったんですよ。

則武:そうなんですね!

岩佐:またそこが複雑で、パナさんのブランドを付けてやるといろんなところからいろいろボールが飛んでくるので、いろんな方法でグループ会社さんの制作会社さんかなんかの名前でローンチさせていただいたか、そんな感じだったと思うんですけど。

そういうものをやったりとかというので、すごく勉強になって。やっぱり普段一緒のチームじゃない人と一緒に物を作ることもできたし、普段の業務とは違う発想でやって。事業なんて簡単に作れないので意外と難しいんです。失敗もするし打ちひしがれたりもするし、すごくいい経験になったなというのを覚えていますね。

「次の時代に残したいこと」は

則武:ありがとうございます。100BANCHは「次の100年に向けて」という施設なので、『次の時代に残したいこと、また次代のために変えていくこと』というところでお2人がどういうふうに考えているかお聞かせください。岩佐さん。

岩佐:難しい質問ですね。この場所として残すという話なんですかね?

則武:いえ、岩佐さん個人としてという感じかもしれないです。自分がなにを残したいか、こういうところはいいところだから次の100年もあるといいなとか。

岩佐:それは100BANCHの話とはぜんぜん別のところで?

則武:そうですね。

岩佐:僕はずっと会社のメンバーにも言ってるんですけれども、今この瞬間この事業をやってるわけじゃないんですけれども、次の時代に向けてなにか残したいなと思っているのは、人間の性能向上をしたいなというのはずっとテーマの1つで。

則武:人間の性能向上ですか。

岩佐:ぶっ飛んでいくと、それって最後は頭にチップ埋め込むみたいな話とかにいっちゃうんですけれども。僕はそこまでぶっ飛ばなくても人間の能力を劇的にあげるということはできると思ってて。

自転車ってそうじゃないですか。人間が本来、時速30キロで1時間走りつづけることなんて、ほぼ無理なわけなんですけれども、自転車というものがあって、できるようになりましたと。それは新幹線ももちろんそうですし、飛行機もそうなんですけれども。

そういったもので人間の性能を上げたいなというのはずっとあって。当然それはチップを埋め込んで記憶力を10倍にするみたいな話もあるかもしれないし。最近よく言ってるのは、「3本目の手と4本目の手を生やしましょう」みたいな。

いや、笑ってらっしゃいますけどわかんないですよ? 100年後、みんなに3本目の手が付いてるのはもう当たり前になってて、「お前付いてないの?」みたいなふうになる。

則武:(笑)。

岩佐:笑ってらっしゃるけど絶対そういうことってあると思うんですよ。

則武:まぁそうかもしれない。杖がめっちゃ進化したら3本目の脚になるかもしれませんよね。

岩佐:たぶん100年前の人は国にもよるんですけど、例えば、スカート履いてるって「なんじゃそれは!」みたいな話なわけですよ。たぶん100年前の人がみたら。「一体何だ!?」と。

則武:今私たちがふんどしを見るみたいな感じかもしれないですね。

すべての人が同じような生活をするというのを変えたい

岩佐:そうそう。今ふんどしを言いかけて、それは100年前はもうなかったなと思って(笑)。数百年前の話になるんでしょうけど。

よく目の話をするんですね。みなさんメガネかけてる方たくさんいらっしゃると思うんですけど、視力が0.1切ってる方もけっこういらっしゃると思います。時代が時代だったらこれってある種の重大な障害じゃないですか。0.1切ってると、目の前が見えません、歩けませんというレベル。

でも、たかだかこんな1枚のプラスチックのレンズをかけるだけで視力が100倍になるって! しかも最近それを目の中に入れるっていうじゃないですか! コンタクトレンズっていうね。完全にサイボーグですから。

そういうものって意外と作れると思うし。ちょうど今年のSIGGRAPH(注:CGがテーマのカンファレンス)で東大の稲見先生の研究室が3本目の手と4本目の手を脚の筋肉を使って操作するもので賞を取られましたけれども。ああいったコンセプトもどんどん出てきているし、まったく夢物語ではないかなと思っているので。僕が残したいことは人体拡張、性能向上みたいなところですね。

則武:なるほど。なにか変えていきたいこととかありますか?

岩佐:山のようにあって、これはと言うの難しいですねぇ。ただ実はこれはずっと個人のライフワークでもあるんですけれども、すべての人が同じような生活をするというのを変えたいなと思っていて。日本人はとくにこの傾向が強いので、「みんなとぜんぜん違ってもいいね」と。

使ってる物も、先ほど「三種の神器」という話がありましたけれども冷蔵庫持ってないやつもいるし、車を持ってないやつもいるしというような。ここにいらっしゃる100人、200人の方がまったく違う形状の服を着ていたり、形状のものを持っていたり。そんな時代に触れるような製品をなにか僕らの会社から出せたらなというのはちょっと思ってますね。

則武:ありがとうございます。

「生きていく」という社会課題をいかに解決するか

則武:村瀬さんはいかがお考えですか?

村瀬:そうですね、100年というとかなり変わってる。さっき言った人体改造もあると思うんですけど。僕らは30年から40年後くらいのことも考えながら、次の100年を考えていかなあかんなと。

100年はさっき言ってたようにぶっ飛んでるんだろうなという感じなんですけど(笑)。その前に日本として見たときに一番シリアスな問題は生きることだと思うんですよ。

ご存知のように高齢化が進んでいて二極化している中で、ちょっとやらしい話、お金持ってたらなんでもできるわけですよね。例えば今だって別荘だって持ってるし、フェラーリに乗ろうと思ったら、お金持ってたら乗れるわけですよね。

でもその分、価値が違うと。先ほど言ったようにそれぞれの価値観が満たされる、どういう世界かと言うと、例えば田舎にいながら農業やりながらうちの会社に勤めてることもあり得るんだろうなと。お金持ちはなんでもできるけど、お金持ちじゃない人たち、お金持ちじゃないと言ったら変ですけど、普通の人たちが本当に幸せに生きていけるのかと。

これは都市に住んでいる人たちは、ここは過密で本当にインフラが保つのかと、橋だってボンボン落ちていくし道路だってダメになるんだろうなと。ローカルというかちょっと田舎に住んでらっしゃる方を考えると、スポンジ現象になっていると。

コンパクトタウンと言うけれど、そんなの簡単に引っ越せるものではないですよね。キュッと集められるかというと集められないですよね。そうしたら病院は逃げていく、それからスーパーマーケットは逃げていくという。そういうことを本当に考えたときにどうやってみんなが生きていけるんだと。

お金持ちに対してはプレミアムブランドを売ればいいんですけど、普通の人たちがどうやって生きていくか。これがやっぱり僕は社会課題だと思うんですよ。生きていくということ。

変なこと言えば、どうやってインフラをつないでいくか。非常にここが難しい問題になってきて、またそれが解けたらやらしい話ですけど商売になるわけですよね。

コミュニティ力で助け合う社会に

村瀬:たぶん政府の力もだんだん弱まってきて、コミュニティで昔のように助け合うと。NPOじゃ絶対儲からないし、ガバメントの補助でやると絶対ビジネスにもならない。

本当にどうやってここを解いていくかということが、ちょっとホラーストーリーでみんなガーっと暗くなってるけど(笑)。たぶんみなさん寿命が100歳くらいになってますからね。もうこれは真剣に考えておかないとあかんと思います。

そういうところで、次のために変えていくことということで。もう少し僕らよりも若い人たちも一緒にそういう問題を考えて、もちろん100年後や30年後にこんな世の中があると。

今、なにを変えておかないとあかんのか。今のミッシングパーツは何か。ということをみんなで変えていくと。今を変えていかんと将来は絶対に変わらないので、これがやっぱり次世代のために変えていくことなんかなぁと思ってます。

ちょっとみんな真剣になってしまいました。たぶん大丈夫ですよ(笑)。日本人はいい人が多いので(笑)。隣のおじいちゃんが助けてくれると思いますわ。

則武:そういうところも信じて生きていきたいですよね(笑)。

村瀬:さっき言うた信じて生きていくことが大事ですからね。信じて商売してます。

則武:ありがとうございました。以上で対談は終わりたいと思います。