アメリカの都市部にはなぜ電線が無いのか?

小池百合子氏(以下、小池):こんにちは。無電柱化推進委員会委員長の小池百合子でございます。無電柱化スペシャル対談、今日はドクター(博士)、ロバート・フェルドマンさん。テレビのキャスターと言いましょうか……。

ロバート・フェルドマン氏(以下、ロバート):コメンテーターですね。

小池:コメンテーターとしてもご活躍で、よくご存知の方でございます。現在、モルガンスタンレーMUFG証券の日本担当エコノミストということでございますけれども……今日は蝶ネクタイじゃないのね。

ロバート:そうですね。おかげさまで、クールビズをやっております。

小池:ああ! いいですね(笑)。

ロバート:ありがとうございました。

小池:もともとはテネシー州のご出身ということですね。

ロバート:そうです、山の中ですね。日本でいえば長野県みたいなところですよね。

小池:電柱はどうでした?

ロバート:電柱はありました(笑)。

小池:あったんですか(笑)。

ロバート:あんまりお金のないところで(笑)。

小池:あれってどうなんですかね? アメリカの街って、都市部はほとんど無電柱化ですよね。電柱とか電信柱がないですよね。

ロバート:そうですね。

小池:でも、私も子どもの頃に『ルート66』っていうすごく古いドラマ……だいたい同じような歳? 還暦過ぎた?

ロバート:そうですね。はい。

小池:(笑)。ルート66見てても、あるところは電柱が立ってるのね。

ロバート:いっぱいありましたね。

小池:ありましたよね。だから、アメリカでもまったくないわけではないけれども、でも都市部は……。

ロバート:かなり埋めてますね。そのほうが安全で、たぶん安いだろうということですし。安全のためにやってるのが一番大きいと思いますね。もちろん、きれいにするということもありますけど。ロンドンもきれいじゃないですか。

小池:とってもきれいよ。ロンドン・パリ・ベルリンって、おなじみのフリップになりましたけれども、日本がほとんどしていない……ロンドンオリンピック・パラリンピックのときにマラソンでみんな走ったでしょ? 私は選手も見ておりましたけれども、街の美しさに見とれてましたね。だから、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、少なくとも東京の部分的なところ、それから47都道府県のところで進めていきたいと思います。

ロバート:そうですね。皇居の周りをタクシーに乗って走ってきたんですけど、皇居の周りにはないんですよね。

小池:そうですそうです。

ロバート:本当に美しいんですよね。

読み書きまで出来る、ロバート・フェルドマン氏の日本語力

小池:ええ。……で、なんで日本語がそんなにお上手なんですか?

ロバート:まあ、そんなに上手と自分では思ってないんですけど。やってる年数のわりに、達成してないのも多いです。初めて日本に来ましたのが1970年、昭和45年です。だいぶ前ですけども、交換留学生だったんですよ。16歳、高校生のときです。で、1年間名古屋の家族にお世話していただきまして、南山大学ってありますよね? 付属の南山高校の男子部で1年間勉強させていただきました。

小池:へえ~。

ロバート:で、日本との恋に落ちた、ということですね。

小池:良い表現ですね(笑)。そうすると、きしめん食べてたんですか?

ロバート:食べてましたし、いろいろ食べてましたけども、一番面白かったのはやっぱり日本語です。

小池:ほー。そしたら「だぎゃあ」とか言うの?

ロバート:それもありましたけど、私の生まれ育った家族は言葉遊びが大好きで、日本語ほどおじさんジョーク、ダジャレができる言葉はなかなかないじゃないですか。まあ小池先生はアラビア語がお上手だから、(アラビア語はどうか)わかりませんけれども。

小池:いや、アラビア語も韻を踏むんですよね。それで言葉遊びっていうか、それはできますけどもね。

ロバート:そういうの面白いと思って、今でもやってます。妻は自分のこと「かわいそう」って思ってるんですけど。

小池:なんで?

ロバート:だって、そういうダジャレばっかり言われて「かわいそう、あたし」って言うんですよね。

(スタジオ笑)

小池:(笑)。この前のゲストがデーブ・スペクターさんだったんですけど、「デーブ・スペクターVSロバート・フェルドマン」でダジャレ大会っていうのはどうでしょうか。

ロバート:……ちょっとやめよう。負けます! 絶対負けます!

(スタジオ笑)

小池:(笑)。それで、1年間の高校留学の後は日本語をどうやってキープされたんですか?

ロバート:一回アメリカに戻りまして、大学で勉強しましたけれども「ちょっと危ないな」と思って、1年間休学したんですよ。

小池:イェール?

ロバート:イェール大学ですね。で、1年間日本に戻りまして、野村総合研究所に友達経由で1年間勉強させていただきました。電車に乗って、漢字カードで何回も見ながら覚えて。

小池:へえ~。受験生みたいね(笑)。

ロバート:ですよね。何となくで新聞が読めるようになりました。で、またアメリカに戻って数年間勉強して、大学にも行きましたけれども、やっぱり博士論文書くじゃないですか。

小池:マサチューセッツ工科大学?

ロバート:ですね。そこでまた1年間、フィールドワークという感じで日本で勉強させていただきました。

小池:書くのも全然問題ない?

ロバート:問題ないわけじゃないんですけれども、一応できますね。

小池:すばらしいですね。

美しい日本の風景を台無しにしているものとは?

小池:日本に来られたとき、最初に「えー!」ってびっくりされたものは何ですか?

ロバート:そうですね……。

小池:電柱もそうだと思いますけどね。

ロバート:電柱の話もあるんですけども、びっくりしたのは、混んでるときでもみんな行儀がいいなということですね。最初、すごく混んだエレベーターに乗ったんですね。で、エレベーターの世話してくれる方が、ちょっと横を見て「ウェルカム・トゥ・ジャパン」って言うんですよ(笑)。

小池:(笑)。

ロバート:それでもう、みんな気持ちよく乗ってたんです。電柱で初めて「理解した」と思うのは、小津安二郎の映画でたぶん京都だと思いますけれども、東寺のきれいな夕焼けのシーンで、真ん中に電線があるんですよ。

小池:ほー。

ロバート:そこで監督が何を言おうとしてるかっていうと、こんなに美しい中でこんなの(電線)伸ばしていいのかと。そういうメッセージもあったのかなと思いますね。

小池:アイコンとして使ってるのが、この安藤広重の『赤富士』なんですけど、小津安二郎さんの思いと同じ意味でこういうふうにあしらったもので。これが今、人気なんですね。かっこいいじゃないかって(笑)。

ロバート:(笑)。うーん。あんまりかっこいいと思わない。富士山のほうがきれいですね。

小池:富士山のほうがきれいですよね。だから、電柱に関しての意識がある人とない人のギャップがすごく激しいですね。

ロバート:ですね。慣れてしまって「これが普通だ」と思ってしまってることもありますし、私の考え方に過ぎないかもしれませんけど、一回慣れたら見えなくなっちゃうんですね。

小池:そう、社会資本になるんですね。その上でね。

ロバート:(電柱が)ないところに行くときれいだと思うんですけど、「なぜきれいなのか」にちょっと気がつかないかもしれませんね。

小池:こうすると……ついこないだまで流行ってましたけどね(笑)。関係ないけど。

日本の生産性は19世紀並

小池:で、フェルドマンさんをお招きしておいて経済の話をしないわけにはいきません。私も初代ワールドビジネスサテライトのキャスターでございまして、あの頃は日経平均株価が……25年前? 前世紀の話ですけれども、2万6,000円台。それから覚えてるのが、今円安がどうのこうの言ってますけれども、為替は130円台。もっと驚くのは石油ですね。WTI(原油価格)で……。

ロバート:40ドルとかね。

小池:いやいや、もっと安かったですね。

ロバート:あ、そうですね。石油ショックで40ドルまでいって、その後下がったんですね。

小池:そうそう。十何ドルでしたよ。

ロバート:ありましたね。

小池:ハイエスト、一番これまでに高かったのが147ドルだったと記憶してますからね。25年経って株価が15000円~16000円、まあ16000円行けばいいんですけど、そういうことを考えますとアベノミクスはまだまだ頑張らなくちゃいけないと思うんです。最近ご覧になってていかがですか? 政策は出揃っていますけど。

ロバート:いろんな良いことをやってると思います。金融政策もちゃんとやって、行き過ぎた円高を直してます。これはいいことです。もうひとつは、雇用が増えてます。これは非常にいいことです。消費税を上げるしかないというご判断だったと思いますけども、私は「ちょっと早すぎる」「一発で3%は多いな」と思いました。まあ、財政再建をちゃんと軌道に乗せましょうということは、そのとおりです。

小池:うん。

ロバート:じゃあ残ってる宿題は何かということですけども、いくつかあると思いますね。果敢にいろんな第3の矢のことをやる。この電柱もありますけど、ひとつは労働市場。適材適所が大原則ですけれども、今でも労働力不足といわれて、そうなってます。けれども、上手く使ってない労働力がいっぱいあります。

小池:そうですよ、もったいないです。

ロバート:もったいないですね。女性の力も発揮してない、発揮できない状況があります。高齢者も発揮できない労働市場になってますね。

小池:シニアの力がね。

ロバート:いっぱいあります。あるいは、習慣があって適正が見つかってないのもいっぱいあると思いますね。

小池:意識が「そういうもんだ」と思ってることって日本にはたくさんありますよ。

ロバート:この前、妻が海外の出張に行く前にちょっとお金を交換しようとしたんですね。で、空港の銀行に行きまして、夜遅い時間だったんですけど銀行員は4人いるんですよ。前に2人の女性、後ろに2人の男性が座ってます。

女性に日本のお金を出して交換してもらいましたけれども、交換するときにお金を数える、何かの紙を出してお皿に入れる、後ろの男性に渡す、男性が見て「いいですね」と判子を押して戻す。結果としてお金をもらいますけども、こんな19世紀のプロセス、無いですよね。

(スタジオ笑)

小池:19世紀(笑)。

ロバート:だって、飛行機乗り場でボーディングパスをもらうときに、パスポートを機械に入れて自動的に出てきますよね? これが21世紀ですね。やっぱり、ちょっと労働力の使い方が下手だなということがありますよね。

小池:そうですね。また、ひとりの人材でも、ITがこれだけ進んできてしまったということで、ITディバイドというかその辺が追いついていない人もいる。でも、何とかもっと学んでいきたいって言って学校に通ってる方々も多くいるわけですしね。ここは努力が必要になってきますよね。

ロバート:プラス、使いやすくすればみんな使えますよね。

小池:あと、アベノミクスではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)についての規制緩和がありますけれども、これについてはマーケットも期待をするところです。株価の今後に対しては、「安全性はどうなんだろうか」ということがありますよね。

ロバート:そうですね。私はむしろ、今のやり方はあんまり安全じゃないと思ってます。債券を持ちすぎて債券利回りが上がっていきますと、当然債券の価値が下がっちゃうんですね。なので、今は債券を持ちすぎてるということは逆に危ないと思います。

もうひとつ大きな問題がありますけれども、株価が上がって「じゃあ国内で投資しよう」って効果はこれまでなかったんですね。なので、年金のお金がちゃんと「良い経営をした企業にお金が回るよ」というようなインセンティブを与えるなら、国内の投資が増え、高齢化に耐えられる日本の資本ストックができる。そういうことを今、期待してますね。