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『下流予備軍』刊行記念トーク・セッション(全7記事)

極貧生活→高校中退→公認会計士 異色のキャリアを歩む、森井じゅん氏の波乱万丈な人生

2017年9月19日、文禄堂高円寺店にて、書籍『下流予備軍』刊行記念のトークセッションが開催されました。登場したのは、著者で公認会計士の森井じゅん氏と、フリーアナウンサーの天明麻衣子氏。そして後半からは、商社からタレントへ転向した堀口ミイナ氏もゲストに迎えて、格差や女性の社会進出など、日本が抱える社会問題について、熱いトークを繰り広げました。単なる貧困とは異なる「下流予備軍」とは一体なにか? かつての一億総中流社会から変わりつつある、日本の「今」を読み解きます。

波乱万丈の人生

天明麻衣子氏(以下、天明):本日は『下流予備軍』刊行記念イベントにお越しいただき誠にありがとうございます。

下流予備軍 (イースト新書)

本日司会進行を務めます天明麻衣子です。どうぞ最後までよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

本日のイベントは2部構成となっています。第1部では本の著者である森井さんにじっくりと本の内容をうかがってまいります。2部からはタレントの堀口ミイナさんをお呼びしてのトークセッションを予定しております。みなさま飲み物をお持ちですかね。飲み物を片手にどうぞ最後までお付き合いください。

ではさっそくですが著者の森井じゅんさんをお呼びします。みなさま拍手でお迎えください。

(会場拍手)

森井さんどうぞー! よろしくお願いします。

森井じゅん氏(以下、森井):みなさんこんにちは。森井じゅんです。どうぞよろしくお願いします。失礼します。

(会場拍手)

天明:それではさっそくですが私から森井じゅんさんのプロフィールをご紹介いたします。森井じゅんさんは公認会計士、税理士、そしてファイナンシャルプランナーでいらっしゃいます。1980年東京生まれ、貧しい家庭に育ち15歳からさまざまなアルバイトを掛け持って家計を支えます。

高校を中退してからは二人の妹と母親を養う一家の大黒柱となりますが、19歳の時にそんな生活を捨ててアメリカに留学。現地ではカジノの経理などさまざまな経験をし、一児をもうけて帰国。その後はシングルマザーとして生きるために公認会計士を志し、猛勉強の末合格。

現在は森井会計事務所の代表として会計士業務を行うかたわら、メディアで経済情報を発信してらっしゃいます。いやー、ちょっと読んだだけでもかなり、ねぇ。

森井:はい(笑)。

天明:波乱万丈な人生。

森井:はい(笑)。

お金がないから、誰もいない学校へ

天明:ですが。あの、貧しい家庭にお育ちになったということなんですが、そういうエピソードとか、なにかおありですか?

森井:貧乏エピソードはたくさんあるんですけれども。私は家庭環境がとても複雑で、父が離婚する母が再婚するとかぐちゃぐちゃしていて、東京と埼玉を行ったり来たりしてたんですね。その中で、トイレがない家だったり。状況としてはあんまりよくない状況にいました。例えばうちには電話がなかったんです。

それで、通常「学校休みます」とか「学校が休校になります」といった場合に、連絡網がね。

天明:ありますね、はい。

森井:来ないんですよね。電話がないから。

天明:あっ。

森井:ふふ(笑)。それで学校に行って、誰もいない。「あ、休校か」ということがあって。

天明:なるほど。

森井:そういうことも多くて、体力はついたかなあと(笑)思っています。それから、貧乏話としては草を食べたり。今話すとちょっと楽しい話なんですけど、当時ちょっとひもじくって、まあ食べ物がないときに、病院のそばで草を食べてたんですね。なんでかわかりますか?

天明:どうしてですか?

森井:病院って食事を作ってるんですね。そばに行くと排気口からすごく、食べ物のいい匂いがするんです。そこで草を食べると、ちょっと食事をした気になるっていう(笑)。

天明:うわあ(笑)。

森井:ミニレストランを1人でやったりとかしてましたね。

天明:サバイバルですね、やっぱり。

森井:そうなんです。

「勉強をしてはいけない」家庭

天明:本を読んで印象に残ったのが、森井さんのおうちでは勉強するのがある意味悪だったという。それがどうしてかというと、家事とかしなきゃいけないのに自分のためだけに時間を使うというのが、悪いことだったっていうのが。私の家ではそういうことがなかったので、すごく衝撃的だったんです。

森井:そうですね。いろんな家庭があると思うんですけど、多くの家庭では子どもに「勉強しろ勉強しろ」っていうと思うんですけど。うちの場合は子どもが、私の他に妹が二人いたんですね。そちらを育てていくことを優先しろという家族の考えがあり、とくに母の考えがあって、私が勉強をすることは家族をないがしろにすること、という考え方があったんですね。

その中でやはり私にとっては勉強というのは、悪。いけないこと、やっちゃいけないこと。むしろ隠れてやるべきこと。のような感覚がすごくありましたね。

天明:その中で19歳で突然アメリカに留学されるって、ちょっと唐突な感じもしますが。これはどういうきっかけだったんでしょう。

森井:やはり、私、貧しく育っていまして。15歳の時から仕事をしてるんですね。いろんな仕事を掛け持ちでやって、なんとか家庭を支えるようにやってきたんですけれども。まあそれがやはり限界が来る時があるんですね。

若いながら周りを見ずに、過剰にがんばっている時間っていうのは人間長く続かない。その中で、私は家族というものを一度捨てて、まとまったお金を全部渡して、「ごめんなさい。私、家族から離脱します。家族をちょっと捨てさせてください」と言って、私は別の道を歩むことになるんですね。

その中で初めていけないと言われていた勉強をしてみたり、もう「死んだと思ってください」って言ってるので、自分でやってみたいと思っていることをやってみようという中で、日本での責任から逃れたいという一心もあり、アメリカに行くことにしました。

日本にいるか、家族を捨てるか

天明:やっぱりそこまで思い切った行動をとらないと、家族というしがらみから離れられない、っていう気持ちもあったんでしょうか?

森井:そうですね。日本では自己責任という言葉が大きくて、その自己責任という言葉が家族に及んでいるんですね。だから家族内のことは家族で解決しろっていう風潮があって。

小さいときから、例えばお金がなくて役所に相談に行く。窓口で相談していると「お子さん何歳なの?」私、その時中学校2年生だったんですけども「あ、じゃああと1年じゃないの。あと1年でお子さん働けるんだからもう安泰じゃないの」って役所の人にも言われる。

そうやってみんなから「15になったら私は働くんだ。中学卒業したらもう働かなきゃいけないんだ。他の道はないんだ」っていう、そういったもう、日本にいることがすごく辛くなってしまった時期なんですね。

そこで、家族を捨てるというのは、捨てるというか家族を捨てて自分のやりたいことをやるっていうのは、社会からの目がすごく怖くて。被害妄想もたぶんあるとは思うんですけども、なかなか日本で自分の好きなことをやっていくっていうのがすごく難しかった。っていうのはありますね。

天明:ただ先ほど森井さん家族を捨てるとおっしゃってましたけど、それでアメリカに行って勉強をして、それがキャリアのきっかけになれば、遠回りではあるけれども最終的にはそれで収入を得ることができたら、家族を助けることができるかもしれないので。長い目で見れば、捨ててない、ともいえますよね。

森井:そうなんですね。実際私の場合は点と点がつながった感じで、逃げるようにしてやってきたことが最終的につながったってのもあるんですけども。やはり、人間っていうのは溺れているときに人を助けてあげられないんですね。

自分が苦しいときに家族を引っ張っていくことってやはりできなくて、みんなで溺れてしまうんですね。その中で自分が一歩抜け出して、それが捨てるかたちであっても、抜け出して自分が岸に上がった時に、人を助けてあげること、家族を助けてあげることっていうのはできると思うんです。

その中で実際私がアメリカに行って逃げてしまいましたが、最終的には日本に帰ってきてこのようにきちんとした納税者になり、仕事をしながら家族を支えながら自分の子どもをもってやっていけることができているのは、一度自分で自分の選択をしたからだとは思ってます。

変わり続ける自分のポジション

天明:このタイトル『下流予備軍』ってなかなかセンセーショナルではありますけど、やっぱり自分が貧しい環境から抜け出したからこそのタイトルなのかもしれない。

森井:そうですね。やはり日本で育ってきて、アメリカに渡ってアメリカの文化を知って、また日本に戻ってきて、私の中ではいろいろポジションがいっぱい変わってるんですね。

最初草を食べてた時期からアメリカでは大学生だった時期もあって、仕事をしたり、日本に帰ってきて会計士になり、このいろいろな流れの中で見えてくるものがやはりたくさんあって。下流ってなんだろう、中流ってなんだろう上流ってなんだろう?

中流って思ってる人がすごく日本にはたくさんいて、50年もの間9割以上の人が自分は中流だと思ってる。でも中流ってなんだろうって考えたときに、いろんな疑問がたくさん湧いてきて、その中で私ができることを書きたいなと思って。

下流、みんながならないようにしてる下流。そこに落ちそうな人って実際はたくさんいる。そこに落ちないようにしていくためにはどうしたらいいんだろう、という本を書きたくて、この本を書かせていただきました。

お金がないだけの状況と「下流」の違い

天明:はい。その『下流予備軍』ってタイトルですけども、一億総中流って言葉があるのでなんとなくみんな「自分は中流だー」っていうような認識でいらっしゃると思うんですけども。下流予備軍っていうのは、どういった方々なんでしょう。

森井:まず下流とはなにか、ということなんですけれども。下流っていうのは貧困と少し違うと私は思っているんです。貧困っていうのは貧しくて困っていること。ただ貧乏なだけだったら貧困ではないんですね。

経済的に貧しくなると困難、困ることがたくさん出てくるんですよね。その中で選択肢がどんどんなくなっていったり、その中でそういった状況があって、生きづらくなってしまうこと。私が選べる選択肢がなくなってしまうこと。それが下流なんですよね。

外から見ていて、貧乏でがんばってない人っていると思うんですよ。よくテレビとかでも叩かれたりしてしまうんですけども、「なんでがんばらないの」「なんで諦めちゃうの」って指をさされている人たちって、すごい苦しい中で選択肢がなくなって、どうしようもない状況にいることが多いんですね。なにか希望を失っていることが多くて。そういった状況が下流になってくると思います。

じゃあ下流予備軍ってなにかといったら、実際なにかのきっかけでその諦めの境地に落ち込んでしまうこと、だと思ってるんですね。なのでそういった落ち込まない、落ち込む予備軍をやはり減らしていくことが一番大事で、自分が予備軍にならない、下流に落ちないための予備軍にならない、そういった趣旨で書かせていただいたんですが、予備軍の人が正直たくさんいる。

私がファイナンシャルプランナー、公認会計士で、いろんな人から相談を受ける中で、どういった話が多いかっていうと、自分が思いがけずにこんな状況になっちゃった。だいたい自分が想像していないことなんですよね。

想像していることっていうのは想像の範囲内なので、対応できるんですけども。想定外のことが起きると人間って対応できない。そういった想定外を少しでも考えなければいけない。想定外を考えないで現状維持をしていることが、下流予備軍、だと私は思っています。

下流予備軍 (イースト新書)

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