野生動物の死骸を目にしない理由

オリビア・ゴードン氏:私たちのうちほとんどは、どこに住んでいるかに関わらず、野生動物に囲まれて暮らしています。都市部においても、鳩の大群、リス、そしてアライグマが生息しています。

しかし、これらの野生動物はみな時が来れば死にますよね? では、なぜ日常生活で我々が小動物の死骸につまずくというようなことが起きないで済んでいるのでしょう?

実は自然というものは、人間が大量の死骸を処理するのに苦労するケースがまれに生じたりはするものの、ほとんどの場合において証拠隠滅をする能力に長けているのです。

私たちが動物の死骸を目にしない主な理由は、ほとんどの動物は自ら突然死することがないからです。食物連鎖の頂点に君臨するものでない限り、動物はほとんどの場合、他の動物の手にかかり、あるいは爪にかかり、といったほうがいいでしょうか、そのようにして命を失います。

例えばハトの場合、ワシ、フクロウ、野良猫といった捕食動物に捕まることなく5歳以上まで生きることのできるものは珍しいのです。

これらの捕食動物は自分で殺したものを食べてしまうので、犠牲となったものを我々が見る前に通常は食べられてなくなってしまいます。

もちろん、ときには捕食動物の手から免れ、ほかの理由によって死ぬ動物もいます。冬の嵐により凍え死ぬもの、飢え死にするもの、病死するものがいるかもしれません。

しかしそうだったとしても、彼らが道端で倒れて死ぬことはほとんどありません。彼らは自分が弱っているとわかると、ダクトや木の穴などの隠れられる場所に入っていきます。それゆえ、我々は彼らの死骸を目にすることが少ないのです。

しかしもし開けた場所で死んだとしても、ハゲタカやコヨーテなどの清掃動物、そして虫は死骸を見つけて食べる能力に長けています。それに菌やバクテリアなども死骸を分解する助けとなります。自然界の清掃係はたった数日の間に死骸を、目立たない小さな骨や羽にしてしまうのです。ですから、あなたの周りで動物が死なないのではなく、ただ気がつかないだけなのです。

時々、一度にたくさんの動物が死ぬことがあります。あまりに数が多いので、みんな気がついてしまいます。例えば2015年の春、バクテリア感染により、「サイガ」という動物の世界中の生息数の半数が死んでしまいました。「サイガ」とはカモシカの仲間で、木の幹のような、滑稽な鼻を持っています。

この病気はカザフスタンにいる群れを襲い、20万頭を超えるサイガが1ヶ月以内に死にました。

そして2015年から2016年にかけての冬の間、何万羽ものウミガラスと呼ばれる海鳥が北アメリカの海岸に打ち上げられました。

それは彼らが食べる魚の量が、異常なほど暖かな気候による影響を受けたからでした。

このような出来事は、死骸の処理をする自然界の力を上回ってしまいます。人々はブルドーザーを使って穴を掘り、サイガの死骸を埋めなければなりませんでした。

このようなニュースが多くなっているように思われるようでしたら、それは気のせいではありません。『PNAS』誌に載せられた2015年の論文によれば、このような出来事は増加しており、鳥、海洋無脊椎動物、そして魚にとくに大きな影響を与えています。

また、研究者はかなり厳しい集団死の定義を設けていて、少なくとも10億の動物、6.35億メートルトンの動物、または生存数の90パーセントを殺した出来事を対象としていました。結論として、最もありふれた集団死の原因には、病気、人間に起因する妨害、藻類の異常発生による毒素などが含まれるということです。

このような出来事は食物網を永久的に変えてしまい、人間の行う農業などの活動を危険に晒す可能性があります。例えば、もし主要な花粉媒介種の集団死が生じた場合などがそう言えます。

なぜこのようなことが増加しているのかは、はっきりしていませんが、きっと犯人は気候変動と環境悪化によるものと思われます。いずれにせよ、科学者たちは我々が集団死についてさらなる研究と追跡を行うべきであるとしています。

しかし、このような出来事はまだ珍しいと言えるでしょう。明日近所に死んだ鳥が降ってくるというようなことはまずないでしょう。もし次に、臭い、腐った動物の死骸を見かけることがあるなら、このことを覚えておいてください。捕食者と自然清掃係のおかげで死骸を見ることは少ないということです。

ハゲタカは気味が悪く見えるかもしれませんが、自然界の清掃において、重要な役割をしてくれているのです。