世界各地でエコ反対論者はいる

山田玲司氏(以下、山田):(田中)優さんに聞きたいんですけど。よく聞く話ですけど、石油業界なるものがお金をいっぱい持ってると。彼らはこのまんまやっていきたい。そういった時に、「なにがCO2だ。うるさいよ」って思った。

それに対策費を何百億円かけてる、みたいな話も聞くじゃないですか。これでそのお金によって雇われてる人たちが、いろんなところで発信して。

田中優氏(以下、田中):とくにアメリカではね。

山田:という話聞きますけど、そうですかね?

田中:アメリカではそうです。ただ、日本には変な人がわりといる。

山田:どんな?

田中:だから、武田(邦彦)さんみたいな変な人が集って(笑)。

山田:(笑)。

田中:ボランティアで来てる、みたいな感じがするけどね。

山田:雇われてるんではなく。

田中:うん。アメリカでは雇われてるんですよ。

山田:日本では、That's 御用学者みたいな人はいるんですか?

田中:原子力とかダムとか、そういう業界ごとにはいるけどね、地球温暖化にはあんまりいないんじゃないかな。わりと変人が多い世界かもしれない。

山田:懐疑論者の中には。

田中:そうそうそう。

江守正多氏(以下、江守):僕、当時はやっぱり議論して、ちゃんと自分の正しいと思ってる科学を説明しなくちゃいけない立場だったんで、すごい熱くなってたし。

「そこは違うでしょ!」「違うでしょ!」と上から言ってたんですけど。今になってみると、広い意味で言うと、社会の多様性の一部かなっていう感じもしますね。

山田:あー、はあはあ。いろんなことを言う人がいる。

江守:社会にはいろんな人がいるので、いろんな問題のとらえ方をする人がいる。たまたまそれが、大学の先生や話がすごくうまい人だったりとかすると、影響力を持つことがある。

だから、そういうことはなくならない、ゼロにはならないので。だから、枝廣さん、武田さんとやったように対話をし続けていくみたいなことが大事なのかな、って感じがしますね。

山田:のけ者にしないことは大事だと思いますけどね。

江守:(笑)。

山田:そうですね。

環境派と経済派はだいたい分かれる

江守:あと1個いいですか?

山田:はい。

江守:さっきの武田さんとの、最後の対策に関する結論のところの話をしてて思い出したんですけど。温暖化の対策に関して話をする時、環境派と経済派ってだいたい分かれるんですよね、

山田:そうです。本当にそう。

江守:それで経済派は、強力な経済成長が必要で、それによって技術も開発されて、技術によって問題が解決されていく。環境派のほうは、いや、我々は大量生産・大量消費のね、物質的な豊かさを求める時代から……。

山田:『ナウシカ』的な感じになるね。

江守:もうそろそろそれは終わりにして、ライフスタイルを変えてとか、そういうことを言うわけですよ。

山田:うんうん、ロハス的な感じ。

江守。だいたい対立する、と。僕、最近思うのは、環境派の人たちっていうのは、今まで技術嫌いすぎた。

山田:あー。

江守。経済派の人たちっていうのは、今までそういう理念みたいなものを嫌いすぎた。最近それが融合してきてるような気がするんですね。

山田:おーっと!

江守:さっきもだって、新しい技術。例えば再生可能エネルギーにしても、電気自動車にしても、技術じゃないですか、イノベーションの話じゃないですか。イノベーション大事だって話をしたわけですよ。イノベーション大事だって話は、けっこう両側から乗れる話になってて。

今までライフスタイル変えるべきだっていう、例えば車の話で、「車こんなに一家に1台持ってたって無駄じゃないか」「もっと少なくていいじゃないか」と思ってる人がいくら叫んでても、みんなそうはしないわけですよ。言っててもライフスタイルは変わらない。

だけど、「便利なライドシェアアプリができました」「これからもっと自動運転ができるようになりました」と言うと、一気に「あっ、便利になったらそれでいいじゃん」というふうに、それを経由してライフスタイルが変わるわけですよね。

イノベーションが達成する両派の融合

江守:だから、環境派の人たちはイノベーションをかますことによって、今まで言ってただけでは実現しなかったライフスタイルの変化を実現することができる。そうなってきたと思うんですよね。

イノベーションの人たち、技術だって言ってた人たちも、今までの技術を単に効率を上げることでは、限界があると問題が解決できない。その技術の在り方をガラッと変える、みたいなことが始まった。

実はそれを、そのイノベーションを起こしてる人たちは理念があって。例えば、イーロン・マスクみたいな「社会に新しい価値を届けたい」という信念があって、やってる人たちが、すごいイノベーションを起こして。

技術も変わっちゃうし、ライフスタイルも変わっちゃうことが起きてるんじゃないかと思いますよね。それは両方にとって、いいことなんじゃないかなって思います。

乙君氏(以下、乙君):それって結果的に、武田さんの「科学が解決してくれる」っていうのと同じような(笑)。

江守:もしかしたら、ある部分近いかもしれないですよ。

乙君:それは言い方の違いかもしれないってこと?(笑)。

江守:うん、だから……。

乙君:「誰かがなんとかしてくれるさ」みたいな、無責任に聞こえるけど。

江守:言い方を強調すると、やっぱりこっち側の人は反発するわけですけど、なんかそのへんを絡めて話してみると、変わってくるかもわかんないですよね。

あと、パリ協定の前後で、すごく問題のとらえ方が変わってきてる。世界的にこれは変わってきてるって言われていて。今まではやっぱり環境問題対策って、基本的に我慢とか損するとか、負担をどうするって話だったんですよ。

山田:そうですね、そんな話ばっかりだった。

江守:とくに京都議定書っていうのがありましたけど、それは先進国の間で、どうやって負担を分配するか、負担を押し付け合うか、そういう議論をしてたんですけど、パリ協定っていうのはぜんぜん違って。

両派の構図は変わってきた

江守:もうCO2ゼロの世界を今世紀中に出すのをもうみんなで決めた。もう決めたんだったら、そこに移行する過程で、どうやってうちの国がチャンスを得ていくかみたいな、どうやってうちの国がリーダーシップを取って、うちの国の技術を売っていくかみたいな。

乙君:あー、今度はそのパイの奪い合いになってる、と。

江守:そういう競争に変わっちゃってて。

乙君:ほう。

江守:だから、負担の押し付け合いのゲームじゃなくなったと、すごい言うんですけどね。

乙君:それは京都議定書からはもうぜんぜん違うこと、っていうことですか?

江守:うん。物の考え方、いわゆるパラダイムが変わっちゃった感じですよね。

乙君:寒冷化がどうというのもあるけど、そういうのは置いといて、とにかく温暖化を防いで、CO2を限りなく少なくしようという方向で、今、各国は動いてるっていうのが現状ってことですね?

江守:だから、化石燃料文明から卒業するんですよ。

山田:寒冷化の話で言うと、世界中の科学者の中で、気候を研究している人の中で、「氷河期に向かってる」って言ってる人は何パーセントぐらいいるんですか?

江守:「温暖化が人間のせいじゃない」って言ってる、実際に出版された論文が3パーセントっていう、よく言われるのがあって。

山田:3パーセント。

江守。最近、「その3パーセントの論文を全部調べたら、全部間違ってました」っていう論文が出ました。

山田:これが実際のところで(笑)。

江守:だけどね、だけど、もちろん太陽活動に関しても、いろいろまだ我々、100パーセントは理解してないことがあるので、それを研究することはもちろん大事だし。

山田:これをちゃんと言うところがえらいよね(笑)。

江守:(笑)。今、我々が地球をすべてわかってるっていう態度を取ることは、やっぱりよくないと思います。

山田:それは危険だよね。そうだよね。

温暖化があぶり出した問題の本質

江守:だけど、今わかってる「人間活動のせいで温暖化してる」っていう説に、明らかにおかしいっていうところは、僕が知る限りないんですよ。

山田:うんうん。現場に何十年いて、見てきて、実際に国際会議行って、話聞いて。

江守:いっぱい論文読んで。

山田:いろんな人の、そう、いっぱい論文読んで、結果として、そういう結論っていうことだよね。

江守:だから、僕が言ってるのは、間違ってる可能性はゼロじゃないよ、と。だけど、今、間違ってるという、「ここが間違ってるじゃないか!」という、絶対そういうところっていうのは見つかってないですよ、っていう。

乙君:なるほどね。

山田:本当は温暖化なんか起きてなかったら、俺は最高だなと思ってるよ。

枝廣:うん。

山田:本当は。だけど、もし起こってたらどうすんの? そして、「あの時対策立てれば、死ななくてすんだ人がいたんじゃないの?」って話になった時に、後悔すんじゃないの? ここが俺、この問題のとらえ方の本質なんじゃないかと思うんだよね。

乙君:ただ、じゃあ、逆も考えられるじゃないですか。

山田:お願いします。

乙君:もし本当に寒冷化に向かってたら。

山田:うん(笑)。

乙君:寒冷化に向かってて温暖化を防いじゃったら、みんな死んじゃって不幸になっちゃうかもしれないでしょ?

山田:って言ってる科学者がいない、っていう話だよね。

(一同笑)

乙君:そうなんだけど(笑)。俺もまあそうなんだけど真偽の確かめようがないんですよ。だから結局、武田教授もそうだし、派手な人が目立って、わかりやすく言ってくれるから。

それをやっぱりイージーに、信じる・信じないっていうよりは、「そういう意見もあるんだ」と、今度はどっちが正しいかはリテラシーが取れなくなる。

それはこっちが判断しようがないから。肌身に感じてるのは「雨が多いな」とか、「秋が短くなったな」「記録的豪雨が……」っていうことしかなくて。

噴火がどうとかってちょっと調べたら、一発どっかボーンってなったら、火山ガスみたいなのでワーッてなって地球が寒冷化しちゃうとか。そんなの、俺らがいくらやったって……。

山田:もしそれが本当なんだったら、もっと気が楽だよ(笑)。

江守:いや、でも、本当に寒冷化したら怖いですよ(笑)。

(一同笑)

環境問題にもリテラシーは必要

江守:だけど、僕ら科学者が調べてる限りでは、火山の噴火も太陽活動の低下も、それから、いわゆる「ミランコビッチ・サイクル」(氷期-間氷期サイクル)といって、地球の太陽の周りを回る公転軌道や自転軸の変化も、少なくとも今後かなり長い間、そんな大した影響を及ぼさない。やっぱり人間活動によって温室効果ガスが増えてて気温が上がる効果のほうが、ずっと大きいということなんですよね。

だから、それは本当に、「自分で研究してないものをどうやって信じたらいいんだ?」っていう問題は残りますよ。それはみなさんのリテラシーの問題というか(笑)。

乙君:それはやっぱり最前線にいても、「このデータは正しいんだろうか?」といつも感じている。

江守:それはありますよね。僕は一時期すごく、懐疑論とか出てきた時に、いちいち反論してた頃っていうのは、なんかそういう説が出てきた。見ると、「もしかしてこれが本当に正しかったら……」と思いながら、毎回見てましたよ。

乙君:はいはいはい。

江守:だけど、いろいろ調べてると「やっぱりこれも大したことは言ってない」と、いちいち却下される。でも、それを続けていくことはすごく大事ですよね。