ROCK=未来につながっていく

田中浩也氏(以下、田中):(Apple Iの利点を話しながらも)ただ僕自身はAppleは使っていませんでした。

そこで、今日は僕が1977年に買ってもらったパソコンを持ってきました。35年前です。ブリキを切って自分で外装をつくったものです。

若林恵氏(以下、若林):すごいね、これ!

田中:物持ちがいいでしょ!

若林:いや、物持ちがめちゃくちゃいいことに驚きますよね!

田中:NECの機械なんですけど。(スライドを指して)これがマニュアルで、「マイクロコンピューターTK85」と書いてあります。これ(を買ってもらったのが)幼稚園のころなんですけど。このマニュアルの表紙写真の衝撃がやっぱりあって。なんで皿の上に乗ってるんだ? という。

(会場笑)

若林:なんでなの?(笑)

田中:これは「自分なりに料理してください」というメッセージなんです。なぜか知らないけどフォークをナイフとスプーンがあって、自分なりに食べろと。

だけど、こういう写真が、オライリーの「Cookbook」シリーズとか、ああいう名前につながっていくわけです。技術を料理のごとく自分の食べやすい大きさに切って食べろということなんです。素材なんだから。

こういうのがなんとなく「ROCK」という言葉から思いついたことで。ROCKは「未来につながっていく波」という感じなんです。1つではなく、振動が、空間的にも時間的にも広がっていく、そして集団の大きなうねりになっていく、というイメージです。

若林:なるほどね。今、料理の話はおもしろいなと思いました。「HACKってなんだっけ?」と思ったときに、料理って基本的に全部HACKなんです。

まず規格がないじゃないですか。「ラーメンは大体こういうもの」というのはあるけど、どうつくってもいいわけです。料理って、こうでなければいけないという正しい形式は基本的になくて、ひたすら分散じゃないですか。だから僕は、デジタルと料理は本当に相性がいいんだと思います。

つまり、うちのおかんがつくったハンバーグがうまいからネットにあげとく、みたいな話って、それ自体は価値になるので。

「生産する側/消費する側」の二者関係を超えた先に…

若林:あと、キッチンのおもしろいところは、消費の場でありつつ生産の場でもあって、それがぐるぐる回っているというところが、やっぱりおもしろいと思います。

だからさっきの、ものをつくって売るという話に紐づけて言うと、こっちに生産があって向こうに消費があってというのではなく、それが自分のなかに同居している可能性もあるんです。それがバサッと分断されていることに対して、「本当にそうなのか?」と僕は思っていて。

要するに、「ものづくり」という言い方が正しいかどうかはわからないですけど、ものを作っていくことって……。

田中:生産でも消費でもないっていうことがキーワードですもんね。

若林:そうそう。それは両方だなって思ったんです。

田中:まったくそうなんです。やっぱり今のビジネスモデルでビジネスをしようとすると、生産する側、消費する側っていううちのどちらかの立場に立たなければならなくされてしまう。

若林:そうそう、分断ということですよね。

田中:ものがこっちからあっちに渡ると、あっちからこっちにお金が渡る。要するにお金とものを交換しているということなんですけど。それはやっぱり分断のモデルなんです。

「そうでもない、生産と消費が混ざっているだろう」と言っても、それをそのままどうやってサステナブルにするかは、新しいビジネスモデルの発明が必要なのではないでしょうか。

若林:結局そうですよね。僕は、ビジネスモデルですらないかもしれない……という気もちょっとします。というか、ビジネスモデルとして考えようとすると、自動的に対立を発生させなければいけないという縛りになる気がして。僕もおぼろげにイメージはするんですが、どうするんだろうなみたいな……。

田中:もう1つの問題は「二者関係」という固着化された思考フレームではないかと思うのです。ものをつくる、ものを売るという「つくる側」と「買う側」。2項ですべてを考えてしまうのもそろそろやめなければいけない。

最近、サービスデザインなどの分野の人たちが議論しているのは、たくさんの関係者がいて、こっちからちょっとお金もらって、それがあっちに回っていったり、そっちから応援してもらってこっちが回っていったり。二者じゃなくてN人がいないと全体のエコシステムは回らないという話なんです。この「マルチステイクホルダー型」も1つのアプローチですよね。

若林:なるほどね。

ジミヘン、コルトレーン、マイルス、エリントン、ボブ・マーリー

岩岡孝太郎氏(以下、岩岡):若林さんのROCKも聞いてみたいですよね。

田中:聞いてみたい! (スライドを指して)ちなみに、「Network of Vibration(s)」が僕のROCKの意味なので、もはやROCKじゃなくてもいいです。振動が伝搬してつながっていけばいい、そういう意味。

岩岡:では若林さんのROCKをちょっと見てみましょうか。

若林:俺はそのまんまだよ。

岩岡:じゃあ、めくりますね。

若林:ROCKといったらジミヘンしかないですよね、という話です。僕はジミヘンの話で好きなのは、ジミヘンは世界を変えたと言えるわけじゃないですか。たぶん二十世紀代表のミュージシャンです。

ちなみに田中浩也先生は、20世紀の一番偉いミュージシャンって、ジョン・コルトレーンと答えるんですか?

田中:いや、厳しい質問だな、ちょっと待って(笑)。

若林:ちなみに誰って答えるんですか? 3人あげていいって言ったら誰ですか? 

田中:ちょっと待って。でもやっぱりジャズになるね~。

(会場笑)

若林:誰ですか、マイルスですか?

田中:もちろん、マイルスもそうですけど、コルトレーン好きですよ。

若林:それは、どこがですか? つまり、コルトレーンが20世紀で一番偉いというのは……。

田中:ちょっといい答えを思いついた。「人間を超越してる」んです。アルゴリズミックミュージックなので。

若林:あれなんて言うんでしたっけ? シーツ・オブ……。

田中:シーツ・オブ・サウンドです。

若林:シーツ・オブ・サウンドっていうやつか。なるほど。あと、コルトレーン……(会場に向かって)師匠があがってくるとみんなポカーンとしますね(笑)。コルトレーンで1枚上げるとしたら何がいいですか? みなさん家に帰ったら聴いてください。『至上の愛』でいいですか、何がいいですか? 

田中:『至上の愛』でいいかと。

若林:『至上の愛』からはじめろと。

田中:ちょっと待って。20世紀で一番……。難しいよそれ……。

若林:僕、エリントン入れたいんです。

田中:おお!! 対極きましたね。超エモーショナルじゃないですか。

若林:そう。僕は、エリントン、ジミヘン、ボブ・マーリーを入れるかな、影響力で言うと。この話、みなさん本当に興味なさそうな顔するのやめてもらっていいですか?

(会場笑)

若林:これ、永遠、居酒屋で話せる話です。

田中:いや、帰り道、みなさんスマホで聴きますよ。デューク・エリントンという人です。

ロックを変えたのはジミヘンなのか? エレキギターなのか?

若林:ジミヘンの問題系というのは、単純に、ロックを変えたフィードバックノイズとか、そういうもの自体を音楽にしたという意味で、非常にイノベーターだったと思うんですけど。僕のなかでのジミヘン問題というのがあるんです。何かというと、「ロックを変えたのはジミヘンなのか? エレキギターなのか?」という問題です。

エレキギターがなかったらジミヘンはいないんです。なので、(スライドを指して)これはフェンダーのストラトキャスターですけど、これ自体のイノベーションが世界を動かしたという言い方はもちろんできるわけです。

一方で、フェンダーのストラトキャスターってけっこう前からあるんです。それが世界を変えるためにジミヘンを必要としたということもある。それを「どっちだ?」と考えるのは、テクノロジーと人間の関係性というか、テクノロジーの進化と人ということを考えるうえで、僕はおもしろい問題だと思っています。

僕としては両方どっちであっても正解だとは思うけど、51対49でジミヘンに軍配をあげるという立場なんです。

(会場笑)

若林:これはわりと根源的な立ち位置なので、逆に言うとテクノロジーが世界を変えるというのは49パーセントしか信じていない。やっぱりどうしてもジミヘンじゃなきゃいけなかったっていうことがあるんです。

逆に言うと、エレキギターがこれほどまでに人間にとりつくためには、僕の世界観(を説明すると)……、ケヴィン・ケリーって、「テクニウム」という話してるじゃないですか。僕はひそかに「コムギウム」というのを提唱していて。要するに小麦が世界を支配してるんじゃないかというふうな。あ、ポカンとしている(笑)。

(会場笑)

若林:けっこうおもしろい話なんです。小麦の進化って、要するに水車の発明とか蒸気の発明とかって、一番最初に小麦で使われるわけです。それは逆に言うと、小麦が自分たちがより世界に広まるために人間を利用しているっていう。

(会場笑)

若林:やばい人に見えてきたでしょ(笑)。っていうのを半分冗談で言ってるんですけど。

「自分の!」がなければ、ファブのジミヘンは生まれない

若林:でもテクニウムの話って基本的にそうなんです。要するに、エレキギターが実は、テクノロジーとしてある種の欲望を持っていて、それが人間を利用するというか、人間に寄生して自分たちを世界に広めていく。一種の陰謀です。みたいな(笑)、そのためにジミヘンが選ばれたんです。

やばい。なんか、だんだん本当にやばい……(笑)。

(会場笑)

田中:いやいや全然……(笑)。僕はわかる。

若林:でもそういうことを僕は思っていて、その時「それはジミヘンじゃなきゃダメだった」っていう話です。

例えば、ミュージックビデオが世界にこれほど広まるためには、実はマイケルジャクソンじゃなきゃダメだったんです……みたいなこと。HACKとかROCKという話とは少しずれてますけど、それが僕の基本的な考え方としてあります。

そこでやっぱり、人というのはすごく重要で。PCだってアラン・ケイとかからずっとアイデアとしてはあったんだけど、それが世界化するためにはジョブズのビジョンを必要とした、という気はしています。

田中:よくわかります。この話からファブの話につなぐと、まだファブのジミー・ヘンドリックスは出てこれていないと思うんです。なぜならば、レーザーカッターが1人1台になっていないから。壊してもどう使ってもいいくらいに個人のものになっていないから。

ジミヘンは自分のストラトを、自分のものだから自分なりにいじり倒せるんです。そういう「私の!」っていうくらいのパーソナルな自由になる工作機械にならないと、いじり倒せない。ハック魂は発揮されない。だから、ファブ施設に通ってレーザーカッター使っている限りは、やはりジミヘンは出ないと思うんです。

若林:要するに、スタジオに行って、借りてるストラトで一生懸命やっても……っていう話なんですね。

田中:若林さんの言っている意味の凄いものは生まれにくいだろうと思います。ただ、今、近い位置になってきているのは3Dプリンタなんですよ。今、僕の研究室は半分くらいの学生が自宅に3Dプリンタを持っています。「1人1台持っていないとだめだ!」と僕が言うので。

「自分の!」というのがないと絶対におもしろいものはつくれない。それを学生もわかってくれている。あと、レーザーカッターも低価格のものが出てきていて、これからは「個人の工作機械を個人的にハックする」はもっと広がると思います。