「就職率」ではなく「就職質」へ

常見陽平氏(以下、常見):まずそもそも、「日本の大学はお金ないよね」っていう、まさに大いなる教育劣位社会だというね。濱中先生の研究で、そういうことを感じるというのがあると。

だから一方で僕が思うのは、大学ってやっぱり社会から、みなさんから、厳しく叩かれてしかるべきところはある。例えば、今教えている教え子たちで言うと、家族のなかで初めての大卒がうちの大学に来た子だったりするわけですよ。それは悪く言ってるわけじゃなくて、それはそれでいいことだと思うんだけれども。

僕はとにかくなんだかんだ言って民間出身だから、期待と払ってくれたお金に応えようとは思っているんですね。だから今は僕は、一応、学校の就職支援を推進する立場なんだけれど、ちゃんと奨学金を返せて使いつぶされない会社に行かせるということを大事にしています。

山口裕之氏(以下、山口):もっともですね。

常見:「就職率」の競争はもう終わりました。これからは「就職質」です。もちろん質というのは、単に企業のラベルだけで決まらないんだけれども、やっぱり奨学金を返せて、かつ、使いつぶされないということが大事だと思うんですね。かつ、その人が気持ちよく働けることが大事だと思っていて、そこに応えないといけないな、と。

山口:そうですね。けっこう学生たちって社会を知らないので。結局、自分たちの身近にいて目につきやすい人って、教師と公務員なんですよね。だから、教師、公務員志望が多い。でも、非正規率って、実は公務員がめっちゃ高いんですね。

常見:そうそう。公務員の非正規って、めっちゃ増えてる。

山口:教員もそうなんですよ。1年契約の産休の代用教員を非正規でやって、いつ果てるとも知れぬ更新を繰り返して、ようやくポストが空いたら採用されるかどうか、という感じなんで。最近、夢を追いかけるっていうのをめちゃめちゃ強調するでしょ。夢追いかけるよりも、やっぱり奨学金を返せることのほうが大事ですよね。

自己分析をするより、社会のことを詳しく知ろう

常見:いや、でもそれ、「同情するなら金をくれ」って二十数年前に安達祐実が叫んだんですけれど、極めて秀逸だと思いますよ、本当に。あと、夢という言葉ですけれど、「昔は夢があったのかよ?」と。法政の児美川(孝一郎)先生が『夢があふれる社会に希望はあるか』というキャリア教育の教科書みたいな新書で、極めて秀逸な本を書いていましたね。

夢があふれる社会に希望はあるか (ベスト新書)

山口:なるほど。「夢持ってないとアカン」みたいな感じになっていて、「おまえの夢何や?」と言われて、就職活動をすると自分の夢をこしらえていって答えるんですね。それを、言っているうちにだんだん「あぁ、俺の夢これや」って信じてしまう。

常見:それね、自己分析の講座みたいな。香川めいさんっていう、当時東大の院生だった人が、「『自己分析』を分析する」という秀逸な論文を書いてるんだけれども。まあ、自己分析の目的化みたいなことが起こっています。

ちなみに僕は一応、キャリア教育の実質責任者なんですけれど、僕のキャリア教育は自己分析はあまりやらないんですね。

山口:なるほど。

常見:やっても意味がないから。むしろ、「社会のことを詳しく知ろう」と。社会のことを詳しく知って、社会のことにだまされないようになってからのほうが、本質がわかる。ということで、ひたすら、楽しい現実と厳しい現実を突きつけ続けるんですよ。

山口:なるほど。

常見:うん。そういうのが、すごく大事だと思います。

労働基準法をちゃんと教えるべき

山口:あと、労働基準法をちゃんと教えるべきですね、キャリア教育で。

常見:ワークルールですね。土屋トカチさんという映像監督がつくった『ブラックバイトに負けない!』というDVD。それを必ず1年生に見せるんですね。それを見せたら見事に今のバイトを辞めてくれるんですよね。

山口:なるほど。

常見:「これはブラックだった」みたいな。余談ですけれど、一方で今、採用活動をする側のほうで流行っている手法があります。変な意味で今増えているのが、「学力は関係ない」と言いつつ、成績表を提出させる企業が増えているんですよ。

山口:はあ。……今まで提出させていなかったんですか?

常見:してなかった。成績表って別に卒業してなくても出るんですよね。一方で「じゃあ、学業重視か?」というと「そうじゃない」という。なかなか厳しくて、一応表向きは学業重視なんですけれど。あのね、どうやら今、「学生時代に力を入れたこと」という質問が減ってるんですね。

山口:あー、それ聞いたことあるな!

常見:「学生時代に力を入れたこと」というと、アルバイトのことを劇的に話すんですよ。「笑顔で接客して、そしたら、笑顔で帰ってもらえました。この笑顔を活かして、営業でがんばります」みたいなバカなこと言うじゃないですか。

山口:笑顔で帰れ、って感じですね。

(会場笑)

今のバイトは、モチベーションさえもコントロールされている

常見:そんな劇的な居酒屋あるのかよ、みたいなね。この前、バイトの専門家に取材に行ったんですけれど、今のバイトって本当に科学になっていて。学生ががんばっているようで、実は全部演出されているというか、設計されているんですね。

山口:なるほど。

常見:この前聞いておもしろかったのは、離職率を低下させるための取組で、面接で15分の法則というのがあって。ちゃんと調べてみたんですけれど、面接時間が15分以下のバイトと15分以上のバイトで、離職率がぜんぜん違うんですって。

山口:ほう。どっちが高いんですか?

常見:15分以上やったほうが離職しないんですって。

山口:あー、なるほど。

常見:15分ぐらいだと、「適当にさばかれた」みたいに思われちゃうらしくて。というのと、ちゃんとやる気があったかのように、モチベーションもすごくコントロールされているんですよ。

それで、これまた皮肉なことで、学業のことを聞いたほうが、やらざるを得ないことに対する行動特性がわかる、ということがあったりする。そこがおもしろいなと思いました。

大学教員の負担はどんどん増え続けるのか?

常見:さあ、そろそろ会場から質問タイムに。質問やご意見をぜひ、よろしければ。

質問者1:大学教員の負担って、教育をどんどん押し付けられることによって、今までに比べてすごく増えていると思うんです。学生が顧客みたいなかたちになってしまっていて。それはもう際限なく上がっていってしまうのでしょうか?

それとも、なにかスイッチしていかないといけないと思うのですが、そういう仕組みのようなものってこれからまたできてくるのでしょうか?

常見:そうか。要は、大学教員の負荷問題、とくに教育やアドミの負荷ということですね。(山口氏に)まずおうかがいしたいのは、2003年に就職されて、いわゆる専任教員としての大学教員歴は14、5年ぐらい?

山口:14、5年ですね。

常見:国立大学の教員でも、昔と今で、やっぱり忙しくなりましたか?

山口:人によりけりですね。だから、英語担当の人とかは増えてるんだけれど、哲学担当とかだと学生がどんどん減っていったりして(笑)、「もうおまえ用なしだ」みたいな。用なしとは言わんけれど、僕個人は、授業の数だけ見ればそんなには増えていない。一方ですごく増えている人もいます。数だけ見れば。

それで、学生の評価アンケートは必ずやりますよね。だから、学生が寝ているような授業をやっていると、まあ、心苦しい。

ただ、地方国立大学だと、学生の評価アンケートで「明らかにこの授業ひどい」と自由記述で書くやつもいるんだけれど、それで怒られるか? というと、そこまでは管理されてはいないので。授業の内容については、まあ、それぞれの先生方が自分ができる最大限の努力をしていますね。