「競争的資金」を獲得するための仕事も大変

山口裕之氏(以下、山口):あとは「競争的資金を獲得しろ」という圧力ですよね。これの書類関係はけっこう大変なので、事務方も巻き込んで、もう膨大な書類を書いて出す。

常見陽平氏(以下、常見):ありますね。これから「『科研費取るぞ』学内説明会」とか。余談ですけれど、大学関係者はもちろんご存じですけれど、科研費を取るためのコンサル会社みたいなものがあるんですよね。

山口:本当ですか?

常見:はい。要するに「科研費を申請する書類のアドバイスをしますよ」みたいなね。

山口:なるほど~。いろんなこと考えますね。

常見:あ、でもね、昔、実際に僕がそういうのを垣間見たのが、科研費じゃなくてGP(注:Good Practice:文部科学省が実施する、教育改革に関する優れた取組を支援する制度)ってあるじゃないですか。

山口:はい、ありますね。

常見:これもいろんな予算なんですけれど。ベンチャー企業に僕がいたとき、実はまさに僕がそういう仕事をやっていたんです。大学にキャリア教育プログラムを提案して「一緒にGPを取りにいきましょう」っていうふうに。

山口:なるほど!

常見:キャリア支援系、就職支援系のGPを取りにいきましょうと提案をして「取れたらその案件は僕らに受託させてね」みたいな。そういう仕事は、僕のいた会社だけじゃなくていろんな会社がやっているんですよ。さらにびっくりしたのが、成果報酬型で「GP代筆ビジネス」をやっている人がいました。それを取れたら相当の予算がうちに来る、みたいなね。

山口:なるほど。噂は聞いとったんですけれど、実在したんですね(笑)。

常見:実在しますよ。面倒くさい様式を埋めていかないといけないからね。

箱物を建てたあとの予算保証はない

山口:大変ですよねぇ。もともとの基本的な人件費とか光熱費とかは減らして、どんどん競争的資金に転換していく。だから競争的資金で一番何にかけやすいかと言ったら、箱物なんですね。組織を変えて、そのかわりに「箱物がいります」と。うちの大学でも、予算を取ったというので一時期、ニョキニョキ建物建ったんですよ。

建物が建ったら、そのあとどうなります? 電気とか水道とかいるでしょ? だいたい大学の建物1個建てると光熱水道費が年間3,000万から5,000万かかるんですよ。

常見:すごい! そうだ、そうだ!

山口:その予算は保証されていない(笑)。

常見:しかもあれですね、理系があるとまためちゃくちゃかかるんですよね。

山口:かかります。

常見:文系より理系。だって震災のあとで節電モードになったとき、「東大、(節電を)がんばれ」という圧力があって。東大ってヘタな大企業の工場並み、いやそれ以上に電気を使ってるっていう。

アクティブ・ラーニングがオフィス機器メーカーの商機になっている

常見:予算を取ってニョキニョキと「なんとかタワー」を建てる、と。しかも今、大学のアクティブ・ラーニング推しだとか、アクティブ・ラーニングの一種、同じカテゴリーのものでP2Pエデュケーションというのがあるんですけれど。オフィス機器のメーカーとかが、そういう学習施設をつくるというのをすごい商機にしています。

みなさんもオフィスで見たことあるかな、個人の勉強にも使えて、つなげてグループワークもしやすい机というのがあるんですよ。それから、ちょっといいホワイトボードとかね。そういうのを売る機会にしているんですよね。

山口:学用品がまたね、高い。こんな事務机が、1個10万とかするんですよ。

常見:ニトリで買えよと言いたくなるんですけれども、実際そういうわけにもいかないんですよね。

山口:いや、私はそう主張して、うちのコースの備品はけっこう安いのをいっぱい揃えたら、やっぱりガタが来るんですよ(笑)。それはそうなんですよね。

実績にとらわれて、2年先のことしか考えていない人たち

山口:あ、そうそう、光熱水道費が5,000万くらいかかるという話。組合で交渉に行くでしょ。そうすると、理事という肩書きの人と交渉するんですけれども。

あるとき、「今度、この建物を建てます」と言うので、「建てる予算はあるけれども、光熱水道費どうするんですか?」と聞いたら、「およそ3,000万から5,000万かかりますね」と。「どうするんですか?」と聞いたら、「産学連携がんばってください!」……だいたい2年くらいでいなくなりますね、文科省から来る理事さんって。

常見:あ~。

山口:「あとは野となれ山となれ」かって(笑)。そう言うと、「そういうわけじゃないですけれど、がんばってください」みたいな。本当に、事務方のトップが2年で大学からいなくなる。官僚でもそうですよね。だから2年先のことしか考えてない。あとは野となれ山となれで次の人がその尻拭いをする。

常見:これすごく大事なポイントで、大学に限らず民間企業に勤めてるみなさんにとっても今の話って大事だと思います。「今後の将来を考えると、今変わらないといけない」と言ってるやつに限って、2年後しか考えてないんですよ! ね! その2年間で何をしたかということしか考えていなくて。

山口:そうそう。この建物建てました! という実績をテコにしてステップアップを図るみたいな感じで。我々踏み台かい、みたいなところなんですよね。

「大学は社会的要請に応えていない」といえるのか?

山口:「そもそもなんで、日本の大学はこんなに叩かれてるんだろうか?」と考えると、言われてることは以下のようなことだと思うんですね。

先ほど言いましたけれど、「日本の教育は職業に役立たない」と。そんな戦後ずっと言ってきたことを、なんで今さらと思うんですけれど。まぁ今さらのように言ってるわけですね。

最近の言い方では、「大学は社会的要請に応えていない」と言うんですね。この「社会」ってだいたい「財界」と読み換えると、話が通じるんです。政府が「社会」って言うと、だいたい「財界」ですよね。

例えば、いろんな審議会の資料に出てきた話なんですけれど、「朝日新聞の世論調査では!」って言うんですね。普段、朝日新聞嫌いなくせにと思うんやけれど。

(会場笑)

「日本の大学は世界に通用する人材を育てることができているか?」という質問に対して、「そう思わない」という人が63パーセント、「できてる」という人が27パーセント。「大学は企業や社会が求める人材を育てることができているか?」という質問に対して、「できていない」と答えた人が64パーセント。「だから社会的要請に応えていない!」って断言するんですね。

常見:これ、凄まじい論理の飛躍だと思います。たとえば、雇用・労働に関連しては「日本は〇〇だ、だからダメだ」論が跋扈(ばっこ)するんです。

山口:まったく。

常見:結局、そのなかの社会システムとかを見ていないんですよね。「じゃあアメリカの大学はどうなのよ?」という話で、まさにこの本にも「機能分化の話の元ネタがアメリカの大学だ」とあるんです。例えば、よく「グローバル人材」って言いますけれど、アメリカ人ってぶっちゃけ20数パーセントしかパスポート持ってませんよね?

山口:そうなんですか?

常見:そういうことなんですよ。英語圏だからアメリカがグローバルだと勘違いされているけれど、結局、トランプ支持者層と重なるような内陸部にいる自分の州からすら出たことがない人たちもけっこういるでしょうが、という話なんです。「日本人のほうがパスポート持ってるわ!」ということも含めて、なにを今さらっていう話なんですよね。