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データサイエンスは何を変えるのか?(全8記事)

「海外でFinTechが栄えているのは、ATMのUXが悪いから」 日本でFinTechが流行らない意外な理由

2017年9月1日、BOOK LAB TOKYOにて、トークイベント「データサイエンスは何を変えるのか?」が開催されました。書籍『FinTech大全』の監修を担当し、株式会社マネーフォワードにて取締役兼Fintech研究所長として活躍する瀧俊雄氏をモデレーターに、『機械脳の時代』の著者である加藤エルテス聡志氏と、楽天株式会社の執行役員である北川拓也氏が、テクノロジーが変える暮らしや社会について語り尽くします。

「データサイエンス」=「破壊的なイノベーション」というわけではない

加藤エルテス聡志氏(以下、加藤):楽天ってめちゃくちゃいろいろやってるじゃない。そのなかで一番「実現」というところまでいっているものって何ですか? いわゆるデータサイエンスっぽい文脈で成功している、「これ、もう今はデータサイエンスないと考えられないね」というサービス、領域って、いろいろ見ててどう? それともけっこう似たり寄ったり?

北川拓也氏(以下、北川):いや、恥ずかしながら……よく言われるのが、データサイエンスの適用領域というのは、コスト削減をするための最適化問題を解くというのと。トップラインを上げるために、例えばレコメンドみたいな感じで、より売上を上げるためというのと、2つあると思うんです。

コスト削減が非常にやっぱり、うまくいくんですよね。見えているものを最適化するのは非常にうまくいくので。だから、そんなに派手な話じゃないですよね。「100億使ってたのが90億になりました」とか。

加藤:なるほどね。同じ広告効果を生むのに、100億じゃなくて90億円のアドワーズでいいと。

北川:そうです。超地味ですね(笑)。

加藤:でも、その結果が必ず来るってことはいい投資だよね。

北川:それはまあ、コンサルに聞いても同じこと言うんですけれども、まあうまくいく1つのやり方で。あんまりおもしろくないですよね、話聞いててもね。

瀧俊雄氏(以下、瀧):ビッグデータに破壊的イノベーションを求めているケースと、連続的イノベーションを求めているケースがあって。「とりあえずバズワード3つ並べたから破壊できるだろう」みたいな、そういう連鎖みたいなのを想定してることが多い気がするんですけど。

加藤:クラウド、ビッグデータ……。

:そうそう、それにブロックチェーンとかいろいろくっつけるとすごいことになりそうじゃないですか。でも、実際はそんなに簡単な話ではないと思っていて。

世の中は破壊的なものをそういうところで求めると思うんですけど。私の理解では、その改善で10億も削減できるわけですよね。そのための丁寧なデータをつくることとか、そういうところってもっと評価されてもいいのに、日本人は連続的なわりに、すぐに破壊的なイノベーションを求めますよね。

(クレイトン・)クリステンセン(注:『イノベーションのジレンマ』の著者)は「両方のイノベーションがある」って言ってるだけなのに、「破壊的じゃなきゃダメなんだ」みたいに捉えがちですよね。

金融リテラシーを壇上から教えるのは無理がある

北川:先ほどの行動変容の話で、瀧さんにお聞きしたいことが1個あって。たぶん、目指していらっしゃるのって、日本人の900兆円、1,000兆円と言われる現金予算の未来はどうなのかと。それはどう考えていらっしゃいますか?

:野村證券時代に、大学でお金の授業をやったことがあって。90分間授業やって、唯一出た質問が「プリントが汚い」みたいなところで。私その瞬間で、完全に金融教育ってものに対して自分の一生分のホープをなくしたんですよね。

(一同笑)

すごいがんばって準備したんですよ。すんごいがんばって……たぶん1週間ぐらいがんばって教材つくったのに、「プリントが薄い」みたいなことで「学事センター行ってください」みたいな。そういうやりとりをした時に、金融リテラシーを壇上から教えるというのは無謀だと思ったことがあって。

そうじゃなくて、先ほど話したように、2歳児がiPadの使い方を勝手に覚えるように、ツールでよくなる部分は絶対あるので、それは可視化の領域でやりましょうと。

全国民の現金預貯金を投資に回すだけで、日本のGDPは上がる

:もう1個が、「生活費を渡す旦那さん」と「お小遣いを渡す奥さん」の話をしたんですけど、この2つの発想って、社会的にはMECEだと思われているんですよね、「どっちかでしょ」って。

だけど、「両立」というのもあると思んです。真ん中におせっかいなお母さんみたいな人がいて。まず「給振り口座」のようなおせっかいAIがいて、それが生活費とお小遣いをそれぞれに渡して、よしなに残りを運用しておいてくれる。そういうモデルがあると思います。

ほとんどの人は、お金の管理自体も本当は誰かに任せたいんですよね。それをおせっかいな人が勝手にやったっていうと、なんかエクスキューズも生まれて、喧嘩しにくいみたいなところがあると思うんです。

昔の大企業って、そういうファンクションを果たしていたと思うんですよ。勝手に企業内貯蓄で貯めておいて、そのあと分厚い厚生年金を渡していたわけですので。大企業になりたいわけじゃないですけど、大企業みたいなそういうファンクションを、金融のなかでどうやったらアンバンドルして実現できるかというのが、私のなかでは今、ライフワークになっていますね。

北川:なるほど。念のため解説しておくと、日本人の現金預金というのが53パーセントぐらいになっておりまして。米国だと20……。

:そうですね。23〜24パーセントで。たぶん預貯金に保険とかを組み合わせると、まあ7割5分がほぼ現金資産みたいなものなんですよね。

北川:という状況で。つまり全国民の持っているお金の20~30パーセントは、利回りで増やすことのできていないお金で。かつ、インフレのリスクにも晒されているみたいな状況が日本はできているので。はっきり言って、これを単純に投資に回すだけで日本のGDPが上がっていくんですね。本来的には。

:そうですね。やっぱり人口が減る国でアセットを持っているというのが、今の日本人の構造なので。それは別に、資産は中国とかベトナムに置いててもいいわけなんですよね。だから、そういう投資をするのが本当に……手取りが増えるという発想になりますけども。

FinTechが一般に浸透するのはいつか

北川:基本的にお金というのは勝手に働いてくれるものなので、非常に損をしている社会が日本にはあると。その行動変容をなんとか起こせないかという話が、先ほどの瀧さんの話ですね。エルテスさん、なにか思うところあります?

加藤:この期に及んで、世界中のすべての資産のなかから日本円の一点買いというのは、ずいぶん思い切ったことだなと。

:愛国的。

加藤:まあ愛国的なのか、すごいリスクを取ってるのか。すごいなと思います。

北川:僕ももう1個、すごく問題意識持ってるのが、企業が現金で眠らせているお金が600兆円と言われております。個人はさもありなんですけれども、本来的にお金を活用する責任を持っている企業が600兆円眠らせているというのは、ちょっともったいないんじゃないかなと思ってる次第です。

加藤:あと25分ぐらいなので、せっかくなのでインタラクティブにいきたいと思うんですよ。おっ、なにか? 首をすごい振られました……違うか(笑)。

北川:(笑)。

加藤:こういうときにこそ聞きたいこと、みたいな。

北川:なんでもいいですよ。

加藤:ログミーさんはふだんログを録るだけですよね。

:質問させられるログミーさん。

(一同笑)

加藤:今日なんでこれに注目して来たんですか?

参加者5:今日ですか?

加藤:はい。

参加者5:今日は、紹介されたからです。

(一同笑)

加藤:紹介されたから来た。この分野で知りたいこととか、自分の好奇心が向かう先ってどんなことですか?

参加者5:そうですね、私どものメディアでも、最近はFinTechを。楽天さんのFinTech Conferenceとか北川さんも出られていて。文脈がすごくハイコンテクストで、一般の方に浸透するのはなかなか、今の業界のスピードとはかなり乖離があるんじゃないかなと思うのですが。

そういった動きに、今後みなさんがどういう役割を果たしていかれるのか。実際の生活に落とし込まれるまでの、そこの時間差が知りたいですね。

加藤:ああ、なるほどね。さっきの、通帳と印鑑とハンコを持って銀行へ行くという……アプリじゃなくて。そこはじゃあ、瀧さんどうですか?

:変容のなかでもキャッシュレスへの変容とか、デジタルへの変容って、シンプルな答えだったらたぶんもう実践はしてるんだろうなと思うものの、思っている以上に、人間はフィジカルなものを大事にしますよね。

それこそさっき愛国的って言いましたけど、やっぱり目の前に見えるからこそ、その会社の株を買えるというところがある。投資って本来すごくバーチャルな発想で、別にリヒテンシュタインの家とか買うことができるはずなのに、我々はそうはしないわけですよね。なので、まだ手触り感を超えるアプリUXがなかなか生み出せていない。

海外でFinTechが栄えているのは、ATMのUXが悪いから

加藤:それって日本だけなの? 例えばさ、直近までUSに行っておられたじゃないですか。

北川:ああ。

:それ、すごくありがたいご質問で。日本はUX(ユーザーエクスペリエンス)の観点でいうと、現金とかATMのUXがすごく高いんですよね。だから、ATMでお金を絶対引き出せるじゃないですか。時間内に行けばタダじゃないですか。出てくるお金、臭くないじゃないですか。

北川:ドルが臭かったことはあんまりない……。

加藤:ドル臭いよねぇ。

北川:臭いですか?

加藤:臭い!

:ドルは紙がもともと臭いやすい。

:あともう1個あるのは紙幣の回転率。日本だと7回ぐらい回転して、日銀の裁断機いって、新しい日銀券ができるんですね。

加藤:7回しかやらないんですね。

:みなさんのいろんなところにたまってる状態が長いんですね。他方アメリカだと2桁とか100回近いと言われていて。

日本は現金とATMのUXが異常に高いというのはたぶんあると思います。アメリカだとATM遠いし、ATM壊れてるし、カード取らないでしばらくいると逆に盗難防止でシュって戻るんですよね。それ取り戻すのに数時間かかるというすごいゲームなんですよ。

(一同笑)

北川:ちょっと運動神経悪いと、やられちゃいますね(笑)。

:そうです、そうです。ぼーっとしてるとやられるみたいなのがあって。やっぱりそのリアルのUXが悪いというのは、海外のFinTechが非常に栄えている理由だと思います。これは強烈な敵ですよね。

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