多くの人間が、お金の体重計に乗ったことがないだけ

北川拓也氏(以下、北川):そのまさにそのようなコンテキストで、僕、スライドを見せていただいた時に「マネーフォワードさんすごいな」と思ったのが、マネーフォワードユーザーが改善を実感した金額、平均1万円でしたっけ?

瀧俊雄氏(以下、瀧):19,090円。

北川:年間で?

:いや、月間。

北川:普通それだけの巨額な行動変容を起こすのって、めちゃくちゃ大変だと思うんですけれども、なんでそんなことができるんですかね?

:これは、機械学習の前の段階なんですけど、エルの言う3つの機械脳にできることの1つで、「可視化」だと思うんですよね。

可視化は、やっぱりダイエットするときのテーマだと思っていて。要は「入」と「出」。「出」のところをがんばるというと、たぶん日中のエルテスみたいに、すごい運動したり。

北川:そうなんですか?

加藤エルテス聡志氏(以下、加藤):今日はここに来る前にジムに行ってきまして、実は今ものすごい眠いですけれども(笑)。

:眠くてこの元気だからすごいですよね。

「多くの人間が、お金の体重計には乗ったことがないだけだ」というのが事実なんだと思います。我々、別に痩せる薬を発明しているわけでもないし、健康な食事習慣をつけましょうみたいな教育活動をしてるわけでもないんですが、体重計を提供し続けているみたいなところがあって。

ただ、人生で初めて体重計に乗って「おおっ」ってなる瞬間がある。

なので、「入」と「出」の計測によって、そういった瞬間を作り出して、その結果、ユーザーの貯蓄改善効果につながっています。

マーケティングとは「perception management」である

北川:機械が意図を持たずしても、人に対して行動変容を起こせる、意思決定を変えさせられるというのは、けっこうおもしろい示唆だなって僕は思ったんですね。

ダイエットにしかり。まあ、ダイエットは永遠にうまくいかない幻だと言われているんですけれども。節約も同じですよね、問題的には。

:たまたまあそこにコトラーの緑色の本があるなと思ってたんですけど。それこそ10年くらい前にエルテスに教わった言葉で、「マーケティングってなんですか?」「いや、それは簡単だよ。perception changeだよ」とか言われて。

加藤:perception managementだね(笑)。

:managementだ。失礼。

加藤:いや、10年前の話なのによく覚えてるよね。

:そうそう。見方というか、理解を変えるということだと。P&Gはすごいなと思って。自分のお金に対する態度のperceptionが、そういう意味では、見ることで変わるかなと思います。

加藤:可視化されることで見ることができる。お金を測る体重計に人がはじめて乗ってびっくりするという、その「お金を測る体重計」というのはすごくピンと来て。可視化されると、それだけで「わっ」ってショッキングな感情になったり、「あ、イケてじゃん」という感情になったり。可視化するところが第1ステップなんですよね。

『機械脳』では、「可視化ができてはじめて分類ができ、そこから予測ができる、というのがシステム開発の順序なんですよ」って話をしたんですけど。それっていろんなサービスでも一緒で、まず可視化してないと分類も予測もしようがない。

マネジメントの言葉では「計測できないものは改善できない」などと言われます。

可視化すると、コントロールできる

加藤:可視化するというところが第1。たまたま今、手元のアプリでストレスを可視化するというのがあります。心拍数をとるんですよ、こうやって。

北川:だいぶストレス高いですね。

加藤:いや、大丈夫。

北川:(笑)。

加藤:こうやって、今、見えますかね、心電図が見えているのがわかるんですけれども。裏にこうやって。

北川:へえ。

加藤:こうした測定方法はもともと医療で使われていたやり方です。交感神経と副交感神経のどっちが活性化しているかというのが拍動パターンに表れる。「心拍変動解析」っていうんですけど、ハートレート、つまり心拍数じゃなくて、どんなふうにそれが動くかということなんです。

「自分のストレスどのぐらいあるのか?」って数字化して見ることってないじゃないですか。だけど、これだと過去の毎日全部見えて、すると「あ、これって、俺なんか変えなきゃいけないんだな」ということがはじめてわかる。

特定の臓器の疾患と違って、ストレスって病気の具体名でないから正体がよく分からないんです。けれども、ある日突然死んだりする。サイレントキラーって言われてます。そういったものって可視化されなかったので、今まで戦いようがなかった。だけど、可視化するとコントロールできるし、対応できる。

その意味でマネーフォワードは、一番はじめの可視化の部分。可視化してこそいろんな管理が可能になるので、その第一歩をしている。あっちの銀行、こっちの信託、毎回全部見に行かなくてもそれが分かる。

可視化すると、不都合な真実を見るようになる

:たぶん生活口座1個紐付けるだけで、やっぱり不都合な真実をみんな見るようになると思います。同じような話をすると、「Sleep Cycle」ってアプリがあって。それって呼吸から、いびきとか、自分の……。

(いびきの録音が流れる)

北川:これ、瀧さん?

:これ僕のいびき。

(会場笑)

北川:聞かされてる(笑)。

加藤:聞かされてる(笑)。

:レム睡眠の度合いとかを呼吸で計測したあとに、「いびき34分」って書いてあるんです。これだけだと人間動かないんですけど、「いびきを聞く」というボタンがあって。聞くと、いろんなパターンの自分の音声ファイルが保存されていて。実際に聞くとやっぱ「やばい」という。

これに、「睡眠時無呼吸症候群の人の8年後の生存確率は何割でしょうか?」って話があって、6割らしいんですよ。

北川:本当ですか。

:それは無呼吸なのが問題なのか、ほかの理由があって無呼吸なのかは別として、かなりの割合の方が死んでしまうんですよ。というのを聞くと、「なんかしないといけない感」が出るじゃないですか?

北川:ちょっと心配ですね……。

:すいません、なんか……実は無呼吸?

北川:いやいや、あの、ちょっと知り合いがいまして(笑)。急に心配になりましたね。

:すいません。フランクにしていい話題じゃないと思いますけれども。

北川:いやいや、ぜんぜん。

:やっぱりそこまで見ると人間、「寝酒はやめよう」とか、いろいろ考えるんですよ。

北川:そうですね。ありがとうございます。

つくり手にとって「実現」というステップはどこに位置づけられるのか

北川:僕、これ(『機械脳の時代』)を読ましていただきました。僕も実は「分類」「予測」の話をするんですけれども、もう1個、僕は「実現」というのを下に入れるんですね。つまり予測するのも1つで、もう1つは、この人に対してどういうアクションを起こせばどういうリアクションを引き起こせるか、つまり行動変容を引き起こすことができるか。

エンジニアで言えば、ある物性の物質をつくったときに、どういう電圧をかければどういう電流が返ってくるかまでコントロールできてはじめて物はつくれるというふうに考えるので。予測の次に、response function、反応を引き起こすことができる「実現」というステップがあるかなと思ったんですけれども、どうでしょう?

加藤:どういう見方でやるのかによるのかなと思うんですけど、おっしゃるとおり、実現というのは大事なことですね。

可視化してすぐ実現できるというパターンもあれば、分類することで実現できることもあれば、「こういう電流を流したら、こうなるだろう」と予測することが「実現」に入っているのかなとも思います。

北川:そうですね。

加藤:例えば、最近、会社でどんなことやられてるんですか?

北川:さっきのマーケティングの話があったので、マネーフォワードさんがやられている、見せるだけで節約を実現することができるというのがすばらしい例だと思ったんですけれども。

そうですね、よく店舗様がやりたいこととしては、当然、商品をもっと売りたいと。売上の予測はできるんですけれども、じゃあどういう広告をして、どういうブランディングをして、どういうふうなお客様を寄せれば、もっともっと10倍になるかというのは、予測しただけじゃわからないことが多いんですよね。なので……まあ、そういったことを考えてますね。

加藤:実際のその、「こういうふうなバナーにしたら売れる」とか「こんな値札をつけたら売れるだろう」というのを、よくやられてますよね。

北川:そうですね。なかなかそれ、変数が多すぎてうまく予測できていないのも事実ですね。商材が違うとリアクションの仕方が違ったりするので。

なので、おっしゃるとおりですね。ある意味、仮説のあるアクションに対して予測をするということなのかもしれないですけれども、そこのアクションの変数がすごい多いので全部予測するわけにはいかず。むしろ実現することを目標において、「どのアクションが起こったらいいかな」を考えるというのが近しいですね。