埋められる場所が穴だとすると…

芝垣亮介氏(以下、芝垣):ではいきます。金魚、金魚……。地面は書きませんが、(画面の下の方に)地面があると思ってください。地面に、まず金魚、口を下にして置きました。いいですか? まず金魚です、斜めを向いてます。無理やりぶちゅって地面に置いてます。

いいですか? まだ穴はないですよね。(尾びれのくぼみを指して)こことは言わんといてくださいね、ここは平らだと思ってください。この尾びれの部分ではないです。

そこに、石を今から置きます。積み重ねます。金魚に石をくっつけます。いいですか? 金魚の上に石を積み重ねます。金魚の上に、棒状の石を(斜めに)積み重ねました。

まだ、穴はないですよね。単なるまっすぐの、壁ができただけね。ここにもう一丁、石を積み重ねます。ぽんっと持ってきました。

穴はできましたか? どこが穴ですか? これはまあ、見るからにわかりやすいと思うんですけど、穴はおそらく……埋められる場所っていうのが定義なので、これが穴じゃないですか? そうですよね。おそらく埋めれる場所なんで、ここ(金魚の上の部分)が穴ですよね。

奥田太郎氏(以下、奥田):輪郭、境界というか。穴の輪郭線は、この金魚ちゃんの輪郭も含んでいると。

芝垣:そうです。穴の輪郭を上からなぞっていくと、この赤い線が見えますか? 金魚の上にまで水が入るんですもんね? これが、穴ですよね。

奥田:はい。さてさて。

金魚を入れる順番が穴であるかどうかに影響する?

芝垣:じゃあ、もう1つだけ。これで最後です。同じようにいきます。今度は、石を最初に置きます。

これは石です。いいですか? 単に石で穴状のものをつくってみました。この状態で穴ってどこですか? これ、一番単純なやつですよね。穴はここ(石と石の間)ですよね。これ大丈夫ですか? 穴はめっちゃ単純にへこんでるところ。ここが埋められるところ。

じゃあここに……やっぱり私、金魚を入れたくなってきました。金魚入れよ。金魚を同じように……ちょっとごめんなさい、絵が重なっちゃうんですけど。この底面に金魚を貼り付けました。穴はどこですか?

最初の図だと、穴がこの、赤い線だったわけですよね。この、底面に金魚を貼り付けてみました。穴は赤い線ですか? どうでしょう。

奥田:加地さんも考えてるけど、みなさんも意見があれば。

芝垣:だって、これ(最初の図)と一緒ですよね?

奥田:はい。

芝垣:例えばさっきまずかったのは、これを埋められるところって考えなかった。境界だと考えたり、金魚のこの輪郭が穴の壁の一部なんじゃないのって、そんなおかしなことあるかいなってなったと思いますけど。埋められるところって言うと、これ問題ないんですよ。実はこの4番、5番ともに、埋められるところって考えると、それは両方とも、金魚の上も全部斜線なんですよ。

奥田:金魚は後からいれてますからね。

芝垣:うん。金魚は後から埋めてるだけの物質だから。もともと穴がぽこってあって、埋められる場所が穴だから、そこに水やら金魚やらを埋めてみただけ。なにが埋まっててもいいですよね。だから、別に金魚を入れても穴の形は変わらないしね。だから埋められるところって言うと、この1番下のやつは赤いラインが穴で、ここに金魚を埋めても、別に赤いラインのままですよね。

でもね、これと、今の1個上のやつ。1個上のこれね。最初、金魚を置いてつくったやつ。例えばこれの一番下に、つくってから下にもう1個石を貼り付けてみました。そうすると、さっきのこれと同じ形になると思うんですけども。

今この2つってまったく一緒の形だと思うんですよ。最初のやつに金魚の下に石を貼り付けました。まったく一緒の形のはずなのに、片一方は、穴が赤い、この金魚の上のライン。片一方は、赤いライン、穴の部分が金魚より下にいきますよね。

これって、哲学で、人間が死のうがなにしようが滅びようが、「これはこうである」というものを捕まえにいってるはずなのに、その製法というか、つくる過程によって、捉え方が変わってしまうのは、哲学としてちょっと致命的なんじゃないかと思いまして。

そのものに至るまでの過程で、最初からその状態があった

奥田:加地さん、なんかすぱっときますか?

参加者15:じゃあ、ぜんぜんつくらない人、つくり方を誰も知らない人がぱっとこの2つ見たとき、まったく一緒なわけですよね?

芝垣:そう!

参加者15:そうしたら、やっぱり存在としては同じなんですよね。なにが違うかっていうと、つくった人の気持ちが違う。

芝垣:つくった人の気持ちが(笑)。

(会場笑)

参加者15:そう、どうつくられたかっていうのを知ってるから、最初これが穴だって、この人が見つけたっていう(笑)。

芝垣:ああ。だからやっぱり、人によって変わるってことですか?

参加者15:それは、その時点での、穴そのものについての違いじゃなくて。まあ、なんていうかなあ、これを表現するのは難しいですけど。そのものに至るまでの過程で、最初からその状態があった。結果的にそうなった場合との違い。   奥田:そうですね。私も同じような回答をもっております、はい。

(会場笑)

やっぱりそう考えるんですよ。あんまりやりすぎないようにと思ってたんですけど。僕が言ってたのは、穴というのは、常になんかの穴なんですよ。「なんかの穴」ってのがやっぱり大事で。上のほうは、これが要するに、穴のホストって言うんですけど、穴の本体なんですね。なんの穴かって言われたときに、金魚ちゃん込みで穴になってるんですけど。下のほうは、石がホストなんですね。石の穴なんですよ。そこにあとで、金魚ちゃんをここにくっつけたんで。実はこれ、埋めてるんです。

だから、厳密にはこれ……違うと言ってもいいのかもしれないですよね。ただ、このプロセスを見てない人が見たら、これは同じものなので、おそらくこっちをホストと受けとるんじゃないでしょうか。そうするとこれを見てる人は、そのホストの穴だとしてこれを見てるという、そういう回答。

「穴っていうのはモノとコトの間にいるニッチなやつじゃないの?」

芝垣:うん、でもだから結局充填の仕方みたいなのがあって、そこが「どこが穴であるか」っていうことに影響があるんじゃないかと思ってるんですけど。

奥田:ここはだから、私、加地さんほどこれ自体の研究をしてるわけじゃないので弱いかもしれませんが。充填可能性として埋めることができるという、要するに出来事を入れてしまってる段階で。時間的な幅というか……時間的な幅じゃなくてもいいんですけどね、イベントの系列っていうんですかね。

そういう要素を、穴という存在の定義の中に入れていることになるので、こういう問題が生じるんじゃないかっていうのが私の分析で。これはネガティブな特徴ではなくて、穴っていう存在のおもしろさを表してるんじゃないかと。

芝垣:もちろんそうです。

奥田:ということなんですね。だから単なる、こういう椅子とかっていうものではなくて、穴というものの存在っていうのが、単なるものじゃなくて事柄というか、そういうものにも関わってるような、そういう存在なのではないかと。(参加者に対して)なんか大丈夫ですか?(笑)。

芝垣:そう、増えるっていう出来事が、やっぱりどうしても関わってるっていう。まあ、加地さんはその著書の中で、「穴っていうのはモノとコトの間にいるニッチなやつじゃないの?」って言ってるんですけど、まさにそうしたのはこういうところからわかると思います。ものって、普通ものだけなんですけども、ものを調べるのに、その行動っていうか出来事っていうか。

奥田:出来事ですね、行動よりも。

芝垣:そう。そういうものが。

奥田:人がいなくても雨が降ったり、水が流れてきたら溜まるんですよね。それで埋まるので、出来事って考えたほうがいいと思うんですけども。

芝垣:そういうものが、なんかしっかり入ってるんじゃないのかなっていうのは感じまして。

奥田:実はこれ、今日はちょっと時間が過ぎてるんであれですけど、ここからおもしろい話になるのは、哲学的な定義でいくと、穴は埋まっているときに最高に穴であるっていうか。穴の機能が十全に果たされている。埋められても、穴は存在しないとだめなんですけど、言語学的見ると、穴を埋めたら穴はなくなっていくことになるそうなんですね。ここがまた……。

(会場笑)

ここから30分、たぶんいっちゃうので。

芝垣:3時間でしょ?

(会場笑)

『失われたドーナツの穴を求めて』は著者の詳しい情報付き

奥田:3時間、そうかもしれない。ので、今日はちょっと控えたいと思いますけども(笑)。はい。明日、B&Bでやるかもしれない。

芝垣:そうですね。

奥田:まだ、残席があるそうですね?

芝垣:はい。

奥田:ちょっとなんか、よそのイベントの宣伝で……(笑)。

(会場笑)

許可も得ずに言ってるんですけど。

芝垣:私はヒヤッとしてますけど(笑)。

奥田:というわけで、この『失われたドーナツの穴を求めて』、この本の中で、最初前半、ハグジーさんと芝垣さんとやってもらった、ドーナツのお話も入ってますし。

芝垣:そう、具体的なかたちね、最初は。

奥田:そう。後半のこの哲学的な議論も、まあここまでビビットに、書かれてるかどうかは見てのお楽しみですけれども。たぶん今日のお話を聞いて読んでいただけると、該当するのは第7穴、第8穴なんですけれども。あと第4穴も読んでほしいですね。

芝垣:はい。

奥田:物質文化論のやつ。この4つをあわせて読んでいただくと、すごく深い穴の哲学に潜っていけるんじゃないかなと思います。

芝垣:どれも専門知識なしで読めますね。

奥田:そうですね、私たちはそういうつもりで書きましたし、はい。大丈夫です。ぜんぜんハードルが高いと思わないで読んでいただけますし、読みたいところだけ読んでいただいてけっこうですし。我々、なんかこう……こんな感じで、著者の顔写真入りでどういう人が書いてるかっていう、プロフィールも書かれてますから。

芝垣:私の血液型も書いてるんです。

奥田:そうですね。僕なんか、書かんでもいいのに失恋のこととかも書いてますけど(笑)。そういうところだけ読んでる友達もいました。うちの母親なんか、「太郎、失恋してたんか」って。しまった、とか思いながら。

(会場笑)

そんなことも書かれています。松川さんの最高の笑顔の写真も入ってますから、元気がなくなったときこれを見て、お守りにもなるんじゃないかと。

(会場笑)

失われたドーナツの穴を求めて

2年間のすべてが2,000円の本につまっている

芝垣:そう。この松川さんが爆笑してるシーンが、ちゃんと納まってますんで。

奥田:帯の話はいいよね?

芝垣:はい。

奥田:まあいろいろ楽しめます。ですので、もう入手されてる方はぜひまた、お家に帰って読んでいただきたいですし、まだの方は後ろを見てください。私のあの……あれも宣伝させていただきましょうかね。

芝垣:いやまあ……(笑)。奥田さんの本も横に。

奥田:私の翻訳した、『今夜ヴァンパイアになる前に』っていう本もありますんで。それもおもしろい本なんで、ぜひ(笑)。

今夜ヴァンパイアになる前に―分析的実存哲学入門―

芝垣:今度、なんかどっかでやるんですか?

奥田:ひょっとしたら、蔦屋書店でイベントをやらしてもらうかもしれません。これ、自分のCMになっちゃうんでやめときます(笑)。(奥の本棚を指して)そこにまだ、『失われたドーナツの穴を求めて』がございますんで。なんと、これだけの内容で2,000円出して釣りがかえってくるという。

芝垣:そうです。

奥田:激安と言えば激安で。

芝垣:あのね、もうね。みなさん2,000円っていうとどういうイメージかわからないんですけど。我々の人生のすべてが、この2年間のすべてが詰まってるという、こんなものを時給2時間分で売ってしまっていいのかっていう、本当。

奥田:ねえ。本心を言えばそうなんですよ。

芝垣:そうですよ。

奥田:穴も開いてるし。

芝垣:そうです。

奥田:ということで(笑)。ぜひ、ご検討いただければと思います。今日、ハグジーの松川さんも来てくださってますから。まあ、なんかちょっと自分が言いにくいですけども。サイン会?

芝垣:はい、ハグジーさんのサイン会もここでやって。

奥田:うまく逃げたね(笑)。3人のサインが。

芝垣:いや、私たちは別にいいですけど(笑)。はい。あとハグジーさんの握手ももらえますので、ぜひ。

奥田:ちなみに、もう買って持ってきてくださった方もつけますので。

芝垣:もちろん。はい、握手もできますので。

奥田:そうですね、握手(笑)。はい、ということで。

芝垣:はい、そんな感じ……。

奥田:そうですね、10分オーバーしちゃいましたけども。そんな感じで終わりたいと思います。みなさん、ありがとうございました。

芝垣:ありがとうございました。

(会場拍手)