働き方改革の3つの目的

司会者:ただいまより「RMS Forum 2017 変化への適応を主導する人事」を開演いたします。それでは、第1部「『働き方改革』成功の舞台裏」を開催いたします。まずはイントロダクションとしまして、本セッションのモデレーター、弊社組織行動研究所所長、古野庸一よりお話しさせていただきます。それではお願いします。

古野庸一氏(以下、古野):今ご紹介がありました組織行動研究所、古野でございます。よろしくお願いいたします。本日はお忙しいところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。さっそくですが、「『働き方改革』成功の舞台裏」を始めたいと思います。

本日のプログラムですが、はじめに私の方からイントロダクションをさせていただき、そのあと味の素様、日本電産様、ヤフー様にご登壇いただきまして、パネルディスカッションを行いたいと思っています。

セッションの目的でございますけれども、事例をご紹介させていただきますので、各事例のなかから、みなさまが今後推進するにあたって参考にしていただくヒントを1つでも持って帰っていただくということを目的にしたいと思っています。

私の方から各社の、背景・目的、取り組みの内容、そしてその上での課題・障害、それをどうやって突破してきたのかを中心にお話をうかがいたいと思います。

はじめにイントロダクションです。人事の方に、働き方改革という観点でお話をうかがう、あるいは考えるときに、一応「それはなにを目的にしていて、どんな取り組みをしていて、それをする上でなにが障害になっているのか?」ということを中心にお聞きするんですが、そのときになんらかの頭を整理するフレームがあった方がいいかなと思っていて、3つほどスライドを用意しております。

1つ目は、目的に関することです。目的は大別すると「社会」「社員」「企業」の3つになると思っています。なにを目的にしているかという話です。

横に書いてある数字はなにかといいますと、我々が161社の企業人事の方に「なにを目的にしていますか」ということを複数回答ありで聞きました。見ていただくと分かるようにトータル100パーセントになりません。つまり、目的がわりと複合的であるということですね。別にそれを否定する話ではございません。

よくある話でいうと、要するに法対応しなければいけない、長時間労働を是正しなければいけないということから始まる。そして、社員にとって働きやすさや社員の満足度が上がるということがわかったり、そのことによって採用力が強化されることもあります。

要するに「社会」「社員」「企業」という3つの目的が歴史的につながっているということはよくある話です。ただ、複合的であるがゆえにそれが曖昧になるということがあると思っていまして、そこは気をつけなければいけないポイントだと思うんです。「なんのためにこれをやっているか」ということですね。

働き方改革の7大阻害要因

2つ目は、取り組みです。

これを見ていただくと分かるとおり、一応6つに便宜的に分けていますけれども、働き方改革って非常に幅広いですよね。A社さんとB社さんが話している内容が食い違うときは、よくこういう話があります。要するにぜんぜん違うテーマの話をされているということがあります。

あと、(スライドに)小さくパーセンテージが書かれていますけれども、これは企業でやっている導入率ですね。ここで見ると、「残業禁止」が85.7パーセントで、多くの会社でやっています。

一方で右下を見ていただくと、「副業・兼業の許可」という話になると8パーセントで、ほとんどの会社がやっていません。要するに、施策はいろいろあって、そのなかでもやっている内容や、普及率・実施率には非常にばらつきがあるということが分かると思います。

3つ目のフレームですけれども、そういうものを進めようとしたときにけっこう障害が出てきます。

一応 「7大阻害要因」と置いていますけれど、見ていただくと「あるある」みたいな話だと思っていて。上から言うと、先ほどの「目的がよく分からん」という話であったり、経営者がそこにコミットしないという話。

人事の立ち位置ってけっこう難しいですよね。働き方改革はやはり現場がやらないと動けなくて、そのときに人事としてどこまで介入するのかは難しい話かなというのが3つ目。

4つ目は、事業推進とのコンフリクト。「業績を上げなければいけない。でも、一方で時間を減らさなければいけない」というコンフリクトをどうやって乗り越えていくのかということ。

5つ目、これが一番パーセンテージが高かったです。この横の数字は「あるある」と言った会社の割合ですけれども、62.1パーセント。要するに「社外を含めて、商習慣を変えないともうどうにもならない」という話が一番多かった。

6つ目に、従業員のコンフリクト。働きたい、あるいは「業務がたくさんあるのに時間を短くできないときにどうするのか」という話。

最後に、これを推進しても従業員のためにならない。要するに「残業代が減るよ」みたいな話があるかなと思っています。

こういった阻害要因をどう取り除いていくのかといったところが、働き方改革を推進する上で非常に大事な問題になってくると思っています。

3社それぞれの働き方改革

一応こういうフレームを頭に置きながら3社の事例を紹介します。詳細は、お手元にお配りしている資料に載っています。これを少しかいつまんで、今から各社2分ぐらいで話をさせていただきたいと思います。まず、なにがポイントかという話をします。

1つ目は味の素様です。「日本で一番、女性も生き生きと働く会社」というところですね。主な取り組み内容としては、もっと前から取り組んでいましたが、本格的にやり始めたのは2013年からで、「Work@A」ということで味の素流「働き方改革」をやっておられます。

内容としては、テレワーク、どこでもオフィス、裁量労働制、時間単位の有給休暇にする、ということをやられています。とくにテレワークを一生懸命やっていまして、そうすると仕事を見える化しないと、そこにいない人と仕事をどうやってつなげていくかが大変になってきて、逆に仕事の見える化をどんどん推進していったというお話です。2020年には労働時間を7時間でやっていこうとしています。

成功の秘訣は、昔からやっていますけれども、変化はゆっくりであることです。ゆっくりやっているけど慎重にやっていて、トライ&エラーを重ねながら、メリットを重ねながら続けていくことで維持されているということが1つ。それから、基本的には社員を信頼しています。

それと、トップあるいは人事が生き生きと「なぜこれをやるのか」を語っているということが成功の秘訣としてあるかなと思っています。

次に日本電産様です。永守会長が2015年に「2030年までに売上10兆円」と宣言しています。それにふさわしい働き方を目指すんだと話されておりました。そのために2015年から残業削減ということで一気に取り組んで、1年弱で残業が半分になっています。

更に残業ゼロにしようとしていますけれども、そこからは一生懸命やるだけではなくてやはり構造的にやらなければいけないということで、委員会を立ち上げ、そのあと7つの分科会を立ち上げて、一つひとつやっています。

そのなかで、例えばマネジメント教育やマネジメント改革を行い、英語がネックになっているという話があれば英語をどうやって教育するかというようなことを行っています。更に、そのために1000億円の投資をする予定です。

成功の秘訣としては、トップが旗を振って何回も繰り返し語っているということであり、一方で現場に対して丁寧にヒアリングをしていたり、あるいは「なんでやるのか」「どういう施策だったらいいのか」という社員の当事者意識を醸成することもやられていると思っています。

3つ目はヤフー様です。ヤフー様は、そもそも働き方改革をやっているわけではなくて、「社員の才能と情熱をどうやって解き放つのか」という話をしています。

ですが、単に解き放つだけではなくて、当たり前ですけれども、ちゃんと収益も上げようという話をしています。

実際の取り組みはなにをやられているかというと、一人ひとりが輝くためにはその上司がちゃんと見ていないとダメだということで、その上司を評価する360度評価を取り入れたりしています。上司そのものは短期間で個別のマネジメントができるようにしていて、一人ひとりの働き方や幸せづくりにコミットしています。

制度的には、「えらべる勤務制度」ということで週に3日休むこともできたり、新幹線通勤、あるいはテレワーク、どこでもオフィス、コワーキングスペースといった施策をやられています。

成功の秘訣は、目指している方向性と一緒ですけれども、どうしたら一人ひとりが最も力を発揮できるかを軸に施策を考えているということと、幸せづくりに会社がコミットメントしているということが大きな動きかなと思っています。

このあと、これについて議論していきたい、あるいは深く掘り下げていきたいと思っております。私の方からは以上でございます。どうもありがとうございました。

(会場拍手)