組織がどうあるべきか、働きやすい環境を設計

久我温紀氏:ただ今ご紹介にあずかりました、ウイングアーク1st、営業・ソリューション本部の久我と申します、本日はよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

本日のセッションでは、ウイングアーク自身が取り組んだ営業組織マネジメントの変革、こちらをご紹介できればと考えております。ではさっそく中身に入りたいと思います。

まずはじめに、簡単に自己紹介をさせていただきます。ウイングアークは前身となる翼システムという会社があり私はそこに新卒入社をしています。そこで営業からキャリアをスタートして、営業企画部門や営業推進室を経て、現在に至ります。

業務としてはインサイドセールスの導入や、ワークスタイル変革の企画、営業組織ステートメントの設計など、そういったこともやっています。

趣味はランニングをやっていまして、2年で4,271キロ。土曜日に16キロ走って、次の日の日曜日に29キロ走って、というかたちで、バカみたいに走っています。

もう1つご紹介します。企画ものが大好きでして、例えば組織がどうあるべきか、こういった設計をしたり、あとロゴのデザインや、グッズを作ったり、それから社内のコミュニケーションスペースの設計をしたり、みんなの働きやすい環境を作る、そういったことをやらせていただいております。

営業マンは営業以外にけっこう時間を割いている

それではさっそく本題に入ります。少し大きな知見からお話ができればと思うんですけれども、もうみなさん「耳にタコ」だと思いますが、日本の労働人口は確実に減っていきます。生産性に関しては、先進国の中では少し下のほうの位置にいるという状況です。ですから、全体的に限られた資源を有効的に活用していく必要があると思います。

そのような時に「営業組織はどうか」と、営業組織に関するアンケートを取ってみると、非効率な部門ナンバーワンだったり、大学生が就きたくない職種の1番だったりするんです。

その営業職、見直すところはないかというと、こちらはセールスフォースさんが提供しているデータなんですけれども、この図を見ると、営業マンは営業活動以外にけっこう時間を割いてるということがよくわかります。事務作業をしていたり、移動時間だったり、あとは研修をしたり、社内のミーティングだったり、いろいろなことに時間を使っていると思います。

こういった実態を見ていくと、「営業組織はもっと業務効率を上げていけるんじゃないか」と感じられるのではないかと思います。実際に、我々はいろいろな取り組みをしてきたのですが本日はその一部をご紹介できればと考えています。

まず、活動の成果ですが、結論から言いますと、我々の上半期は3月1日から8月末までなんですけれども、そちらの実績が、パッケージ事業が132パーセント、クラウド事業が253パーセント前年対比で成長することができています。

こちらの会場にも我々のパートナー様、お客様がたくさん来ていただいていますので、みなさまのおかげだと思っております。本当にありがとうございます。このようにいい成績を残せているんですけれども、じゃあずっと順調だったかというと、そうではありません。

こちらは、2004年から2016年までの全社の売上の推移になっています。リーマンショックの時に下がっているんですけれども、その後の12年から14年あたりを見ていただくと、ほとんど成長していないのがわかるかと思います。

営業部門を改革する3つのポイント

全社の売上ですと、かろうじて成長しているんですけれども、これを営業部門の売上で見てみると、こういうかたちでした。右肩下がりですね。営業の部門というのは新規の販売を中心に行っていますので、この領域に関しては右肩下がり。このタイミングで我々は「営業改革をしていかないといけない!」ということで、取り組みをはじめました。

1つ目は、「Vision」と「Culture」を明確に定義していく。我々はどういう組織を目指すのか、ということを明文化しました。

2つ目は、営業の「Mission」、「KPI」と「KGI」を変更しました。実はその右肩下がりのときに、営業の人事上の評価がけっこう高かったんです。AとかA+だったりするんです。それはなぜかというと、活動自体の評価が付いてきたりするんですね。

ですが私は、営業のミッションはトップラインを作ることだけだと思っています。我々は、売上の達成率とパイプラインの見込みをどれだけ作れたか、シンプルに、この2つに評価軸を変更しました。

3つ目は、本日のメインになってくるんですけれども、データの活用と生産性を上げていく取り組み、そしてパフォーマンスを最大化していくということです。

具体的なその取り組みの話に入る前に、我々はSFAという営業支援ツールを導入しているんですけれども、この導入にも気づきがありましたので簡単にご紹介できればと思います。

入力されたデータを徹底的に使っていくことが重要

我々は2006年から、割と早い時期にもうSFAを入れていたんですね。ただ2011年、停滞期に陥るんですけれども、このときに「SFAのツールを入れ替えよう」と「そうすればなんとかなるんじゃないか」ということで入れ替えたんですが、先ほどの結果のとおり、あんまり伸びませんでした。

結局、SFAはツールなので、それを入れたからといって売上が上がるわけじゃないと、我々自身、実体験をしました。そして2014年に営業改革に着手して、SFAのツールに入れたデータを徹底的に使う、ということをやり始めまして、2016年には全部門が予算を達成できるようになりました。

このSFAについてもう少しお話をさせていただきますと、SFAの設計をするときには、例えば「どういった項目を入力させるか」といった設計をするんですけれども、我々がいちばん最初に「こういうデータがあったら、こういう分析ができるんじゃないか?」というかたちで、けっこういろいろな入力項目を作ってしまったんです。

そしたら何が起きたかというと、営業も入力するのが大変になりますし、入力しても入力されたデータも有効に使われない、入れたくなくなるということが起きて、失敗しました。ですが、今それがうまくいっています。

というのも、明確な目的を見つけて、その目的を達成するために本当に必然な項目だけにしたので、すごくシンプルなものになりました。それで入力してもらったあとに、そのデータを徹底的に使う、それを使ってマネジメントをしていくと、入力する側もそれを入れる意義を理解してもらえるので、入力自体がどんどん進んでいくという、良い循環が生まれてくることが我々の体験でわかりました。

改善をした3つの取り組み

あともう1つは「入れたら終わり」ではなくて、改善をし続けていかなければいけないということです。いろいろやったんですけれども、3つ挙げてみます。

1つ目は、今までExcelで数字の報告などを受け取っていたんですがこれを完全に廃止しました。ダッシュボード上にある数字、ダッシュボードというグラフ化された数値を見ながらオペレーションをしていく、もうこれ以外は見ない、ということに経営陣も含めて合意をしてもらいました。

2つ目は、美しいパイプライン。私の上司である影山(執行役員CSO 影山泰仁 氏)がスローガンにしたんですけれども、いい言葉だなと思っています。美しいパイプラインを作るためには、毎日のお手入れをしなければいけない。つまり毎日、リアルタイムに案件情報を更新していくということです。

そうでないとどうかというと、ダッシュボードがせっかくあって、経営の見える化ができたとしても、見ないんです。見にいっても、データがリアルじゃないと、それを見て何を判断すればいいんだということになってしまう。ですので、こういった美しいパイプラインを作っていくことを大事にしました。

3つ目は、我々は案件をAランク、Bランク、Cランクのようなかたちで、案件フェーズに応じてランクの管理をしているんですが、それだけではなくて、営業の「読み」というものをフラグとしてつけています。仮にD案件、案件フェーズとしては少し低めのランクで予算化前という状態なのですが、諸事情から確実に予算化されることを営業はけっこうわかっていたりします

それの運用をはじめてみたら、そのフラグがついたものは「リスク込み」というフラグなんですけれども、そのリスク込みがついたフラグに関しては99パーセント以上、受注するんですね。ですので、ランクだけでは読み解けないない「営業の読み」によって、より売上の予測がしやすくなったというのが我々の取り組みです。

Excelでは「ダメ」な5つの理由

また従来はExcelで数字をまとめていたんですけれども、そのExcelがなんでダメなのかといった点をご紹介します。Excelは非常に使い勝手はいいツールです。しかし営業組織の数字をまとめていくには課題があります。

1つ目は、個々の営業の数字を集計するのに時間がかかってしまうので、ぜんぜんリアルタイムに状況を把握できないということです。2つ目は、個々で作業をしていますので、すごく大変だということです。3つ目は、手作業なのでミスが出ます。

4つ目が、現場が上げた後に、係長、課長、部長、本部長と、みんな鉛筆をなめるんです。「だいたいこれぐらいだね」と。なので実際に現場が捉えている数字が変質して上に行ってしまうんです。つまり、事実ではなくなってしまうということです。

5つ目は、スマホ、パソコン、こういったもので見づらいということです。こういった点で、組織のマネジメントをしていくツールとしてはExcelはダメだと、我々は感じました。

では、実際に我々はどのようにデータの見える化と、データで駆動する組織を運営しているか、ということをお話ししたいと思います。まず、営業の課題、実際にはたくさんあるんですけれども、3つだけ挙げてみます。

1つ目は、営業の数字に対する認識率です。例えば、だいたい予算が1億円、見込みがだいたい9,000万円ということは誰でも言えるんですけれども、明確なもの、予算を1億とんで500万円、見込みは8,700万円です、というかたちで、デジタルに言える人間がほとんどいないということです。

今だけでも、数字に1,500万ぐらい歪みがあるんですね。これが営業組織60人になれば、とてつもなく大きな歪みになってしまう。ですので、デジタルに正確に状況を掴んでおくことが必要だと感じました。

また2つ目、我々が営業の業務時間分析をしたところ、およそ7,200時間、集計・分析・報告だけで使っているんです。これをなんとかしなければいけない、営業活動の時間を増やさなければいけない、ということです。

3つ目が、数字を把握するために、以前は1週間に一度、数字を整理して報告をするということをやっていました。が、しかしこれでは実際の状況から1週間ギャップが生まれてしまっているので、打ち手がどんどん遅くなるんですね。これが我々の現場の抱えていた課題になります。続いてそれを解決をしていこうという取り組みをご紹介していきたいと思います。

リアルタイムに現状を把握できるダッシュボード

1つは、営業が目標とのギャップを明確に認識して主体的に動けるようにする。2つ目は、業務作業を徹底的に効率化して、営業の活動時間を増やしていく。3つ目は、リアルタイムに現状を把握して、オペレーションしていく。この3つをやっていこうというかたちで、取り込みを始めました。実際にその画面をお見せしたいと思います。

(デモが流れる)

少し文字が小さいので、全体像だけ捉えていただければと思います。ここに絞り込み条件があります。ブランドや部署名、チーム名や人などですね。1クォーター・四半期別のグラフがあります。これを選んで(データを)抽出していきます。

グレーのラインが予算線になっていまして、後ろの背景色のグレーですね。手前の棒グラフの青い部分が受注しているところで、黄色が先ほどの「リスク込み」というもの、ランクにかかわらず営業が「取れる」と言っているものですね。そしてそれ以外のランク別のパイプライン、見込みが積み上がっている。

こちらはデイリーの変化です。毎日、日時のスナップショットデータを取っていまして、日時でどう推移していくのか。ですので、期末なんかだとけっこう大きく動きます。またこの下には、予算に対して、受注で今91パーセント、リスク込みで102パーセント入っている。「ということは、これは大丈夫だ」ということがわかります。

このリスク込みが本当にやれるかな」というときは、ここを見ます。ここで例えば案件の大きい順に並べて、この案件は4,000万という金額なんですけれども、「けっこう大きい数字だけど、これは大丈夫かな」といったかたちで詰めて見ていくと、しっかりと見込みの状況がお手入れされた美しい状態になっていて、これが現実であると確認できます。

そうすると、今年は達成しそうなので、次は来期に向けて何をやっていこうか、というように、先手先手に打ち手が打てるということになります。

グラフによって目標進捗の確認が容易に

 

今ご紹介したボードは営業が最も利用しているボードなんですけれども、続いてマネージャーが使っているボードもご紹介したいと思います。

背景に面積グラフがあるんですけれども、これが昨年の推移です。今度はウィークリーになっていまして、ウィークリーのスナップショットデータを並べています。手前にある棒グラフが今年のものです。そうすると、直感的に昨年よりも売上がいい、そしてパイプラインの推移もいいと、直感的に昨年対比の状況がわかってくるようになっています。

かつ、時期によっても、例えばスナップショットの推移に変化があると思うんですけれども、そういったものも捉えやすくなっています。

これを見ていくと、「なんか今年は達成できそうだな」ということになってくるかと思います。隣には1クォーター、2クォーター、3クォーター、4クォーター、クォーター別にデータが載っています。

もう少し下に行きますと、受注だけを切り出して推移を比較したもの、そしてそのトップ30案件を円グラフで表示したものですね。今年けっこう大きい案件がありました。あとは失注案件です。失注案件もけっこうあります。

こちらが今期の残っている見込みになっているんですけれども、その中にどういった案件があるか、すごくたくさんあるんですけれども、例えば実態として、このトップ30の円グラフを見てみると、すごく大きな案件が1件だけ入っています。そうすると見込みは多いが、その1案件が取れるか取れないかが大きく数字に影響します。そうした場合伸るか反るかといった戦いをしなければいけないので、そういうこともグラフの中で直感的に把握することができます。

データの分析によって来期を予測

あとは来期の見込みや、パートナー別、取引先別にどうかということも見ていくというようなかたちになります。もう1つ、いくつかグラフをご紹介できればと思います。

こちらのグラフもけっこう便利です。これは、上のほうは今までご紹介したものを、少し簡略化させて載せているんですけれども、下のほうにいくつかアイコンがあるかと思います。

ここは先週1週間の営業活動の成果が出てきます。先週1週間で受注したものが1,200万円、パイプライン・見込みとして生まれたものが4,000万円、失注したものが2,100万円、営業の活動件数が207件、前倒しされた案件が7件、後ろ倒しされた案件が25件、ランクが上がったもの0M、ランクが下がったものが5M、金額が上がったもの7件、金額が下がったものが4件、そして停滞している案件が21件というかたちです。これが我々の営業組織の1週間の活動成果となります。

これの中身を見ますと、何の案件がなくなって見込みが減ったのかということもすぐわかります。ですので、とくに人に聞く必要性がないんですね。ここを見ればすべてわかるという状態になっています。

もう1つ、こちらは先ほどのグラフとよく似ているんですけれども、違いがありまして、先ほどのグラフは今期の予算を見ていたんですけれども、こちらは来季の見込みがどう推移していくのかというのを見ています。見方は一緒です。後ろのもの(面積グラフ)が昨年のもの、手前のもの(棒グラフ)が今年のものです。見ていただくと、昨年よりも、来期のパイプライン・見込みが多く生み出せているということがわかっていただけるかと思います。そしてこれも今期の営業予算とは別に、我々営業の人事評価の評価項目としてセットされています。

あとは製品別にも見ていけますので、例えば帳票と呼ばれる我々の事業のブランドなんですけれども、帳票に関しても昨年対比でいいかたちであるといえます。あとトップ30の案件の比較ができますので、例えば大型案件が昨年と違ってどれぐらいあるのか、少ないのか多いのか、それによってどう判断していかなければいけないのか、というかたちで判断ができるようになっていきます。

ですので、現在の我々は、今期は予算の見通しがついているので、来期のパイプラインをいかに作るかということを重視しています。人事評価上も、そこにウエイトをシフトさせているかたちになります。

営業活動の成果より詳細に分析

また、もう少しご紹介できればと思うんですけれども、これがトップ画面です。少し見づらいんですけれども、下のほうにある「68日」というのが営業日です。1年って365日あると思い込みがちなんですが、実際に営業日にすると250日ぐらいしかありません。それが、実際の営業の活動日になるので、ここを意識してもらいたいということで、営業日の日数を出しています。

さらに、施策ごとのROIというのを見てみますと、例えばこれはファネルになっているんですけれども、一番上のリスト、1,144件のリストに対して営業活動をして、その活動の成果が最終的にどうなったかというものです。これは10月から開始したばかりのものなんですけれども、1,114件の電話をかけて、最終的に商談化しているのが28件というかたちになっています。ここから受注が生まれてくれば、「この活動は成果があった」ということになります。

また、機械学習を利用しているものもあります。

成果に関しては後ほど資料でご紹介するんですけれども、我々は常に受注しているデータをスコアリングしています。例えば、どういった業種に強いか、どういった従業員数の構成の会社さんに強いかといったデータです。

我々の得意領域や今伸びている領域はどこなのかというところをまずスコアリングして、そのデータを、帝国データバンクさんの企業リストとぶつけます。そうすると、我々の既存のお客様に、もっとクロスセルができるところがあるんじゃないか、また、まだ未導入のお客様、まだぜんぜん我々が活動できていないゾーンが出てくるので、ここを攻めていく必要があるのではないかという仮説が生まれます。

営業一人ひとりが主体的に数字を見る

また営業が2番目に見ているボードが、このランキングです。いちばん最初にランキングを作ったときには、「うげーっ」「こんなもん作ったのか」という感じだったんですが、意外に営業は見ていて、これにけっこう触発されているようです。

例えば、「今、自分の順位ってこれくらいなのか」「もう少ししたら抜けるな」といったように、けっこうこのランキングを見ながらやっています。

案件単価なども見ているみたいで、ここでは受注金額や件数、平均単価、保有している案件の金額はどれくらいか、あとは活動件数や、今期創出して今期受注できているものがどれくらいか、という項目が並んでいます。この中に、例えば平均単価が圧倒的に高い人が1人いるんですけれども、その下の人なんかもけっこう高いですね。

そうすると「この人はどうやって案件単価を上げる工夫をしているの?」といったかたちで、社内のコミュニケーションが生まれるんです。ですので、こういったデータをベースとしたコミュニケーションもある程度生まれるという、考えてもしなかったことが発生しました。少しうれしい誤算が出てきている状況になっています。

チャットツールの活用でデータへのアクセスを迅速化

このようにデータの活用を進めているんですけれども、もう1つ、こちらはチャットです。これはまだ試験的な運用なので全員は使えないんですけれども、我々の社内の営業が使っているチャットです。

ここに、例えば「予算の進捗を教えて」と打つと、先ほどのダッシュボードへ照会しに行って、データが帰ってきます。そうすると、今予算が55億4,000万に対して、実際に受注できているところが51億1,200万円、達成率が92パーセント、というかたちで出てきます。

ダッシュボードにはいろいろなメニューがあって、その中には使わないものもあります。アクセスするにしても、そのために抽出条件を仕掛けていかなければいけないので、けっこうステップ数と、時間がかかるんですね。

ですが、このチャット上であれば、ピンポイントで欲しい情報にアクセスができて。かつ、アプリケーションの難しい操作方法は一切いらないんですね。

言葉で聞くだけ、こんなこともできます。これは実際、私が欲しかったので作ってもらいました。もともとダッシュボードの機能にはなかったんですけれども、開発に相談をして、こういうことがやりたいということで作ってもらったものです。

また、先ほどのグラフを呼び出すこともできるので(「予算の推移を教えて」という文章をチャットに打つ)、これもルールエンジンという、本当に初期のAIの技術を使っていまして、いくつかのキーワードを組み合わせて返答が返ってきます。この後にハートマークをつけてもちゃんと返してくれるようになっています。

わざわざダッシュボードにアクセスしなくても、みんなが必要な情報を簡単な操作で使えるような環境にあります。私もけっこう便利に使っています。

予測機能もついていまして「予算を達成するの?」と聞くと、返してくれます。今、言葉が「実績」になってしまっているんですけれども、予算に対して、たぶん今期は達成しますよ、というかたちです。この自動化はロジックを組んでいまして、過去の受注率であったり、案件のサイズの構成比率であったり、いくつかのパラメータを用意して、自動的に算出するようにしています。

我々は未来を予言することはできないですが、ロジックに基づいた予測ができるようになっています。ここである程度、大まかな達成・未達成といったことが誰でもわかるようになっています。

チャットツールの多様な機能

(チャットの)チャンネルを変えまして、こちらでは例えば、マネージャーさんが追っかけていた大型案件がなくなってしまったというときに、このチャットの中で知らせてくれる。

これは今、別のコマンドを送ったんですが、本当はSFAのデータを見にいって、そこのデータに変動があると、そこに登録されてるデータの閾値にしたがって、何か変化があると知らせてくれるというような仕組みになっています。今出ているものは見込み案件のリマインドですね。今週受注予定の案件を忘れるといけないので、いちばん週の初め、月曜日の朝に全員に通達をする仕組みです。

さらに、これは私個人的にうれしい機能で、、予算を達成した瞬間に教えてくれるんです(笑)。期末になると「予算を達成したかな?」と、ダッシュボードをずっと見ているんですね。あれは少し大変だなと思って、そこで「教えてもらえばいいんだ」ということで、そのような仕組みも作っています。

試験的なものなので、うまく動いていないところもあるんですが、ダッシュボードでデータを単純に見える化するだけではなく、プッシュ通知してくれたり、欲しい情報だけをピンポイントに取りにいく、という取り組みもやっております。

営業組織を改革した仕組みの全体像

スライドに戻りまして、今の仕組みを簡単に絵にしたのがこちらです。

チャットのソフト、これは何でも別に構わないんですけれども、そのチャットと、我々のいろいろなダッシュボードやアプリケーション、その中間地点にBotがいて、そのBotが例えばAIやBI、あとは「SPA」という我々の製品で、資料を保管してくれる製品なんですけれども、そこにアクセスをして、自分の好きな資料を引き出すということもできます。あ、それを忘れていました。ちょっとご紹介しますね。

(チャットツールを開く)

私がアシスタントの人に、商談中いつも「価格表がないから送ってくれ」というメールやSMSを送っていたんですが、それをなくそうと思ったんです。

(「SPA SVF価格表」とチャットに打ち込む)

そうすると、今、文書を管理しているソフトがクラウド上にあって、その中から「SVF価格表」と含まれているものを引っ張ってきてくれました。

今までアシスタントに連絡をして「送ってください」と、アシスタントさんに申し訳ないなーと思いながらやっていたんですけれども、そういった悪気もなくロボットにお願いできるということをやっています。

このように、Botをうまく使いながら、業務のオートメーション化を進めています。

データ化によるメリットの数々

今までもデータの活用についてお話してきましたが、そこには基本的な考え方は2つ存在します。1つは効率を上げる、無駄を減らすということですね。不要な会議や打ち合わせを減らしていく。もともと数字の確認だけで週に3時間ぐらい使っていたんですけれども、今は15分で終わっています。

あとは活動の報告など、いわゆる週報は全部廃止しています。先ほどのSFAに入ったシステムから自動的にウィークリーレポートができあがるようになっています。集計・分析作業は、先ほどのとおり全部オートメーション化されているので、作る時間は一切必要ありません。

また、ROIがわかるようになっているので、あまり活動の成果が見込めないものに関してはやらない。こういった効率化により生み出された新しく動ける時間、これを今度は効果が出そうな活動へ投資していきます。例えば、今までアタックできなかった新しいお客様に訪問したり、「新しい製品をこういうかたちで販売できないか?」といったシナリオにチャレンジする時間に使ったり、そういったかたちです。

データ化によるいいことというのは、デジタルによって(実数値との)ギャップがわかってくるということもそうなんですけれども、会話における共通認識がデータになるので、すごくやりとりがスムーズになってきます。

「チームワークを活性化する」というのは、例えば、先ほどのダッシュボードは全社員に展開しているんですけれども、それによって何が起きたかというと、私も予期してなかったんですが、今までは、期末で見込みが減ったときにマネージャーが「他に見込み案件ないか?」「なんか助けてもらえる案件ないか?」という指示していたんです。

ですが今は、ダッシュボードをみんなが見ているので、「見込み減りましたよね? うちのチームで案件があって、たぶんこれは取れると思うので、なんとかなるかもしれません」というように、自発的に、指示がなくても動けるようになってきたんです。これはすごくいいことだなと、私も感動しました。

高確率で営業利益を予測できるようになった

もう1つ、これはよくコンサルの方が使う「空・雨・傘」ですね。状況認識をして、解釈をして、そして対策を練る。すべてがデータ化されていると、ファクトはもうある、つまり事実はある、そして過去の推移等の分析により、事実をベーツとした解釈によりある程度予測、つまり解釈が成り立つ、そうすると「ではその解釈にもとづいて推測される状況に対してどうするかという対策と判断」だけに会議が集中できるようになります。

ですから、今まで数字を確認して「ああでもないこうでもない」「結局いくらなんだ」ということで、なかなか対策に移らない会議だったものが、会話のスタート地点が変わって、こういった状況が予測される、「そこで我々はどうするのか」といったところからスタートできる。これはストレスがなくなるので、すごくいいなと思っております。

また、過去の蓄積されたデータを見ることによって、案件の受注率や単価、または見込み案件の品質、そして案件の規模などを見ていくと、変動率を設定することによって、来期の中期経営計画の営業に当てはめられている営業予算は決まっているので、この予算を逆算してどれぐらい見込みが必要なのかということを、高い精度で予想できるようになってきます。

これによって、予言はできないんですけれども、高確率で予測ができるようになりました。また、そのままMBO(目標管理)の評価として、先ほどのように、「営業の経営計画として見込みはこれだけ作りなさい」ということが、ロジックを持って、説得力を持って営業に伝えることができるようになっています。

我々は、期が3月1日からはじまっているんですけれども、私のチームは4月1日にもう、「今期の予算を達成します」と宣言をしています。それぐらい高い確率で予測ができるようになってきているということです。

ダッシュボードの効果とはこういうものかな、ということを1枚のページで伝えています。

例えば、遊園地にある子ども向けのゴーカートであれば、ゲージ類は動かないただの飾りですよね。ただ、スピードが求められて、競争も激しい環境であれば、そういった状況の中でデータを直感的に見て判断するということが必要になってくるのではないかと考えています。ですので、営業組織、過酷なチームも多いと思いますが、そういった環境でがんばっているメンバーにこそ、ダッシュボードが必要なのではないかと私は思います。

目指しているのはセルフマネジメント型の組織

目指している組織は、コマンドマネジメント型ではないです。「データを使う」というと、すごくネガティブな反応をされる方も多いんですけれども、データをうまく使った会社さんというのは、みんな前向きなんです。先ほどのように、空中戦みたいなバトルがなくなり本来集中すべきところに集中できるようになる。

ファクトがもうあるので、明確な数字をベースに会話ができるようになります。データで会話ができるようになっています。これによりストレスもすごく減ると思っています。私は、コマンドマネジメント型の組織マネジメントは、私自身が疲れるのでやりたくないです。ですので、セルフマネジメント型の組織というのを目指しています。

セルフマネジメント型の組織、これには利点がいくつかあるんですけれども、1つ目は、現場の営業のほうが案件のことをよくわかっていますので、現場が状況に応じてベストな判断ができるはずなんですね。ですから、自律して動いていってほしいということ

2つ目は、管理や指示が減るので、私が楽になります。 3つ目は、裁量が与えられやすいので、やりがいが生まれやすいのではないかと考えています。我々の営業メンバーには、もともとSFAの会社さんでやっていた方もジョインしてくれているんですけれども、細かい数字の管理がないので、一番そこにびっくりされています。

先ほどのダッシュボードを見ながら、予算がいきそうであれば「いいね」ということで、次を目指そうと、一方で予算がいかないということも予測できるので、「じゃあどうしよう」ということをマネージャーが一緒に考えられる。そういう組織が私の目指す組織です。

3年間で700ものダッシュボードを作った「MB女子」

この仕組みを回ししていくために必要だったのが、「MB女子」です。営業事務の方を雇って、その方がダッシュボードを作れるように育成をして、私の隣で作業してもらうという環境を作りました。なぜかと言うと、営業の環境というのは刻々と変わってしまうので、一度ダッシュボードができても、欲しい指標などが「こういう観点で見れない」ということがけっこうあるんです。

その時に情報システム部門にお願いすると、情報システム部門は忙しかったりするんですよ。「基幹システムの刷新をやっていてそれどころじゃないよ」と。できないんですね。なので、私の側にいてそれを実行してくれる方というのが欲しかったんです。

ただ、なかなかダッシュボードのプロを雇うわけにもいきません、まずそんなに市場にいないですから。そこで、自分たちでカリキュラムを作って、訓練をしていくということをやりました。

実際、先ほどのダッシュボードを作ってくれた方なんですけれども、ちょうど30歳ぐらいだと思うんですけれども、本当にもう、プログラミングの経験が一切ない方が作ってくれているんです。彼女が3年ぐらいで作ったダッシュボードが、700弱ぐらいあります。

そうすると、情報システム部門と現場の関係性も変わってきまして、情報システム部門は、ITの専門家なんですけれども、営業現場の要件を深くは知らないと思います。営業は現場で動いてるので、要件は当然持っているんですけれども、ITの専門家ではない。

今までは全部情報システム部門にお願いして作ってもらってたんですけれども、彼らが創ってくれたボードはほとんど使わなかったんです。ですので、役割を見直し先ほどのSFAという案件管理ツールがしっかりと動く環境や、ダッシュボードがしっかりと使える環境、ユーザーの管理やセキュリティ、そういったものを情報システム部門にやっていただいて、そのプラットフォームの上で、営業は自分たちが必要なものを自分たちで作るといったことをやっていきました。

自分たちが必要なものを自分たちで作るので、当然使うんですね。そしてより研ぎ澄まされたものができると考えています。

デジタルテクノロジーの活用で削減されたコスト

もう1つ、デジタルテクノロジーの活用と気づきについても簡単にお話ができればと思います。

まず、少しまとめのようになってしまうんですけれども、我々は週報・報告、集計作業、簡単な指示の通達から問い合わせ、こういったものは全部オートメーション化されています。数字の認識のための会議もなくなりました。効果の無い施策をやり続けるということもなくなりました。空中戦、無用な応酬戦もなくなりました。

SFAの入力システムはけっこうデータを入れるのが大変なので、「導入効果よりそっちのほうが大変なんじゃないですか?」と聞かれることがあるんですけれども、実際に、入力の手間について聞いてみますと、我々だいたい1週間に20~50件ぐらい、新規の案件と、メンテナンスをしていくんですけれども、測ってみると、これは30~40分ぐらいでした。

それで、減らせる業務というのは、マネージャーなどによっても違うんですが、集計分析・報告作業で、1週間に120~180分減らせる業務はある。つまり、入力コストよりもリターンのほうがぜんぜん大きいということがわかります。

また、私たちはSalesforceというSFAの製品を使っているんですけれども、案件登録をする場合、1案件ごとに1画面開くんです。そうすると、40案件メンテナンスするために40回、開くのはけっこう大変だと思うんです。

なんとかできないかなということで、開発にお願いをしてすべての案件を一気に、Excelの列で集計・修正ができるようにしました。それによって、入力のコストも究極まで削減するという取り組みをしています。

データ化されていないことでのビハインドは?

データ化されていないことでのビハインドについてもお話したいと思うんですけれども、我々のすべての活動はSFAに入っています。だから、AIやBI、Bot、そういったテクノロジーを有効に使えるんですけれども、そもそもデータ化されていないと、こういうことはできないですよね。

それはどういうことかというと、少し大きな話になってしまうんですけれども、私自身が感じていることをお話します。今、第4次産業革命と言われていますけれども、テクノロジーというのは、歴史を見ると、もう産業構造そのものを変えています。

例えば、手織りと機械で織っていくのでは、もうぜんぜん生産効率が桁違いに違いますよね。馬車と列車ではもう比べ物にならないですよね。テクノロジーは、それぐらいのインパクトを秘めている力だと思っています。

それを有効に使っている会社というのは、世界中のグローバルな企業です。それらの企業ではITというテクノロジーをもう先進的なものとして捉えていないと思います。ただの前提条件として、それを徹底的に使いこなしているということだと思っています。

私の好きなピーター・ティールという方がいるんですけれども、PayPalを創業した1人です。彼も言っているんですけれども、人間とコンピューターの関係というのは、補完的な、マクロ的なレベルのものではなくて、現実解でしかない、と言っています。ですから、このテクノロジーを有効に使っていくということは、私は営業組織においても現実解であり、必要なことだと私は考えています。

データの活用で、成果も、組織への愛着も上がる

結びに、我々の活動成果の総おさらいです。まず減ったモノは、施策のコスト。これは我々自身がびっくりしたんですけれども、もともとインサイドセールスで、外部に委託していた費用が90パーセント減っています。これは、ターゲットとするリストの選定を、機械学習によって高スコアなものにしたことによるものです。

これによって、施策コストが90パーセント減って、同じだけの売上が出ています。あとは、報告業務と会議がこれだけ減ります。

そして、増えたモノは、売上150パーセント、これはACVとTCVという、計算の仕方が少し違うんですけれども、先ほどのパッケージとクラウドを合算すると、だいたい150パーセントと捉えていただければと思います。

あとは見込みが135パーセント増えて、活動時間が9,542時間増えたというかたちです。

これだけではなくて、これもわかりやすいんですけれども、我々の営業組織の全体の人数を変えずに、今まではマーケティングとフィールドセールスという組織だけだったんですけれども、この中から生産性が上がったことによって、インサイドセールスの部隊、インダストリのチーム、あとはイネーブルメントチームという新しい組織ファンクションを追加することができています。生産性が上がることによって、新たに生まれた資源を新しい領域に投資ができるようになりました。

また、データの活用によって残業時間も、営業部は3年間で21パーセント減っています。これはもっとこれから減らすことができるのではないかと思っています。

あとは、組織サーベイ。従業員が組織に対する愛着がどれぐらいあるかといったことを、外部の調査機関に調べてもらっています。昔はすごく悪かったんです、まさにこれは売上が停滞していた頃です。あの時、実は営業全体の20パーセントぐらいは辞めています。組織サーベイもすこぶる悪かったです。

その状況からいろいろなことに取り組んでいって、今は大幅に伸びて、従業員の組織に対するエンゲージメントは高まっています。

データを上手く使っていくことで、組織がギクシャクするのではなく、きちんと成果も出て、残業時間も減らせて、かつ組織への愛着、従業員一人ひとりの愛着を上げていくこともできると考えています。

これからの営業組織がどのように機能していくか

これからの営業組織についても簡単に触れたいと思います。

これはあくまで私が思っていることなんですが、確実にマーケティングオートメーションの世界は進んでいると思います。また、集計分析作業、状況把握や未来予測、そういったものは、BIやAIやRPA、Bot、これらをうまく使っていけば、オートメーション化することが可能です。 ただ、AIはこれを動かすために、教師データが必要になってきます。刻々と変化する状況の中で、常に教師データ自体が変化します。よって営業活動がゼロになるということはないと思っています。また、これらの仕組みを設計して機能させていく、これも人間しかできないと思っています。プロセス自体が常に変化するため最適解を導き出すルーチンを作る前に新たなプロセスが生まれてしまうためです。

あと結局、新しいお客様を見たときに、我々がもともと想定していなかったような提供価値、「こういう提案ができるんじゃないかな」といったアイデアだったり、あとは「こういった事業領域に踏み込んでいってもいいんじゃないか」という閃きそのものは、まだまだ当分、人間にしかできないと思っています。

いわゆる機械的な作業、これはもう徹底的にテクノロジーに任せる。そして、本来人間がやらなければいけない領域、創造性が求められるところに、人間の資源を割いていく。それによって、組織のパフォーマンスを上げていくということができるのではないか、ということです。

最後に、今まさにご紹介させていただいた内容なんですが、デジタルテクノロジーとデータ、そういったテクノロジーは、ただのツールにしか過ぎないんです。、それをうまく活用していくことで機械的な作業はなくなって、営業が専門知識を高めて創造的な仕事に取り組んで、しかも楽しくやってくれたら一番いいなと思います。

それによって組織パフォーマンスが上がっていくということを、我々自身は自分達の経験を通じて確信を持っています。

以上でこちらのセッションは終わりになるんですけれども、我々の取り組みが、みなさまの営業組織の活動の中で、少しでもそのエッセンスになればと考えております。それでは、ご清聴いただきまして誠にありがとうございました。

(会場拍手)