長続きする幸せは「精神的・身体的・社会的に良好な状態」

一方で、長続きする幸せは、図の右側です。WHOが「精神的・身体的・社会的に良好な状態(Well-Being)である」ことが健康の定義だと述べています。精神の健康、身体の健康、社会的に安全で安心な良い環境にいること。そういう整った状態にあることが実は長続きする幸せに影響する。これらが、研究によってわかっています。

金や地位による幸せは長続きしない一方で、安全や利他性、つまり、みんなを幸せにしたいと思うことは長続きする幸せにつながるんです。なぜこっちは長続きするのか。

これは進化論的には、前者は個体維持の本能であり、後者は集団維持、遺伝子の維持という本能に基づいているからではないかと言われています。

自分がもしライオンに襲われそうになったらどうします? 必死に戦うか逃げるかして、とにかく生き延びようとしますね。つまり誰かと戦ったら、なんとかして勝ちたいと思うように私たちはできています。そして勝つとうれしいわけです。でも、その個体維持の喜びは、すぐに下がります。そうしないと、また外敵が襲ってきた時に危険ですからね。

ですから、現代人にとっての「お金が欲しい」は、他人と比べて勝つことの一例です。もともと人類が生まれた時にお金なんてありませんでした。本来は「敵と戦って勝ちたい」という個体維持本能だったものが、今では「お金や物を貯めたい」にすり替わっているんです。

貯蓄は本来、ライオンが襲ってきた時に生き延びることと同じです。自分が長く生き延びるためには、貯蓄しておかなければならない。物が欲しいのも同じです。自分の安全のために「これが欲しい」という本能があって、それによって「次に欲しい物」が次から次へと出てくるんです。でも本能によって、こちらは長続きしないようにできているんですね。

もう一方の非地位財型の幸せが長続きするのは、やはり利他性があるからだといえるでしょう。自分だけじゃなくて、自分の子どもたちを守りたい、あるいはコミュニティを守りたい、国家や人類をより良くしたい、あるいは地球環境を守りたい。

これらは私たち人類という種、あるいは地球生命圏を守りたいという本能があるからですね。そっちの本能が発動されるようになると、それは長続きする幸せだというわけです。

やらされ感で仕事をしていると幸せ度が下がる

私は、この長続きする幸せのうち、「心」の部分にフォーカスした研究を行ってきました。心の部分については、実はいろいろな研究結果があります。幸せの研究はもともと心理学だと言いましたけど、いろいろな心理学者によって、例えば親切な人は幸せ、利他的な人は幸せ、あるいは自己実現してる人は幸せ、自己肯定感が高い人は幸せなどなど、いろいろな心的要因と幸せの関係解析が行われてきました。

多くの幸せの心的要因をたくさんの人にアンケート調査し、その結果を因子分析にかけました。色は、無限にありますが、実は三原色の足し合わせで説明できるじゃないですか。同じように、幸せの三原色みたいなものを求めたのです。幸せの要因はたくさんあるんですが、それをまとめるとどうなるんだろう、というのをコンピューターで分析したのが「幸せの4つの因子」です。

この4つを満たしていると、どうも人々は幸せらしい。これが、私が因子分析によって求めた結果なんです。

1つ目は、先ほどから述べてきた「やってみよう」ですね。「よし、仕事にやりがいあるぞ、やってみよう!」。こう思う人は幸せです。みなさんはいかがでしょう。やらされ感のある人、あるいはやる気がない人、やる気がしない人……そういう人たちは、幸せじゃないですね。

「ライフワークバランス」といいますが、「ワーク」は重労働だけども、「ライフ」を充実させてバランスをとり、休日に家で生き生きと趣味に生きることができればいいんじゃないか、と考える人がおられます。

しかし、幸福学の観点から言わせていただきますと、違います。

1日の半分もある仕事がストレスでいっぱいだったら。これはやはりいろいろな病気になったり、幸福度が下がって寿命も短くなったりすると思います。だから、ライフとワークのバランスというよりも、ライフもワークも、どっちも幸せにする意味での心のバランスをとることが、これからは必要なんだと私は思います。

つまり、仕事でも私生活でも「やってみよう」。夢や目標を持って、やりたいことをたくさん持っている人は幸せですが、やらされ感でやっている人は幸せ度が低いのです。

8割の社員が「早く会社へ行きたい」と答えるホワイト企業

よく、事例としてお話しするんですけど、「ホワイト企業大賞」という、幸せな社員や社会を作っている会社を表彰する会があるんです。天外伺朗さんがやっていて、私も委員をしています。

2017年にホワイト企業大賞を受賞した西精工さんという、徳島の会社があります。従業員は250人ぐらい。西精工さんの社員のみなさんに、「月曜日に会社へ行きたいですか?」と聞いたんですね。そういうアンケートを取りました。

そうすると、なんと8割の社員が「月曜日に会社に行きたくて行きたくてたまらない」と答えたんです。いかがですか、みなさん。「月曜日に会社行きたくて行きたくてたまらない」という方はどれだけおられますか? 8割、おられますかね。

それくらい、仕事が「やりたくてたまらない」になっている人は幸せです。これが第1因子です。西(泰宏)社長に「家族みたいですね。本当に、みんな、そんなに会社に行きたいんですか?」と聞いたら、西社長は答えました。「いや、家族以上なんですよ」。

日曜日に、西精工に務めているお父さんが、家族と団らんして、サザエさんを見ながら晩ご飯を食べている頃に、「早く月曜にならないかなぁ、早くみんなに会いたいなぁ」と言いながらご飯を食べているんだそうです。

みなさんの会社はどうでしょうか? 金曜日になったら「早く土日になんないかなぁ、家族とキャンプに行きたいなぁ」と思うのと同じように、日曜日が終わる頃に「早く会社に行ってみんなと会いたいなぁ」と思えるなら、ライフもワークも幸せですよね。

社員同士の信頼関係・尊敬関係を築く会社は幸せ度が高い

2つ目は「ありがとう」因子です。人々との繋がりが密にあって、社員同士の信頼関係・尊敬関係がちゃんと築けている会社は、幸せ度が高いんです。西精工さんはなぜそんなに幸せ度が高いかというと、1つは朝にあります。朝礼を1時間以上やっているそうです。

朝礼を1時間以上ですよ。それこそ「働き方改革をしなきゃいけない」「無駄だから減らせ」と思われがちかもしれませんが、これこそがまさに必要なんです。1時間も朝礼をしていると、どうでしょう。

もし5分の朝礼だったら、部下に「今日やることをやっとけよ、できるか? よし、働け」みたいになりがちです。1時間も朝礼すると、「できます。とはいえ本当のことを言うと、ここはちょっと気になっててまだわかんないんですよね。本当は誰かの助けがほしいです」「いや今日は猫に子どもが生まれて、本当は早く帰りたいんですけど、でも仕事があるから帰れないんですよね」など。そういう細かいところ、プライベートなところも出てきますよね。

そうすると、「そこの仕事が難しいんなら、みんなで手伝おう」「よし、猫が子どもを産んだんなら、今日は俺が代わりに仕事しといてやるから早く帰れ」となる。ちゃんと深い会話をすると、もっと助け合えるわけです。信頼関係・尊敬関係が深くなるわけですね。

1時間対話をした後に仕事に入ると、幸せ度が高いわけです。特に西精工さんでは、理念やビジョンについてとことん話し合うそうです。みんなの目指す先を共有する。そうすると、「よし、みんなと一緒に働こう」と思いますよね。幸せです。その結果、創造性が3倍、生産性が1.3倍ですよ。結局、時短も達成でき、早く帰って猫の世話をできるわけです。

働き方改革は「効率化だ」という方がおられますけども、これは気をつけた方がいいポイントだと思います。働き方改革をしたかったら、無駄にも思えるような対話をして、人間関係や信頼関係、そしてやりがいを熟成するべきなんです。本当の無駄は省くべきですが、一見無駄のように見えるけれども実は大切なものは、決して排除してはいけないんです。

一人ひとりがやりがいをもって仕事をしていれば、先ほどから何度も言っていますように、生産性や創造性も上がるわけです。その結果として、時短になるんです。最初に申し上げたように「まず時短だ」から始めると、やらされ感になりますから幸せ度が下がって、ぜんぜん働き方改革にならないんです。

というか、「働き方改革」は「改革」ですよ? 「改革」というのは、レボリューションです。変革、つまり「全体を大きく変えましょう」というのが働き方改革なのに、多くの働き方改革は、「働き方改善提案」みたいになっていないでしょうか。改善は、部分です。

働き方「改善」では、部分しか直らないから改革にはなりません。「改革」にするためには、一見無駄に見えるような本質的な対話をとことん本気でしてみるべきなんです。深いところまで問題意識を共有し、わかりあい、全体としてみんなで変えようと合意するからこそ、創造性や生産性が高まり、真の改革が可能になるのです。疲弊している多くの日本企業は、もっとそういう活動をしなきゃいけないんです。

幸せな働き方は「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」

これを言っても、「前野さんの言うことはわかる。でも現実にはできないんだよ」とおっしゃる方も多いんです(笑)。特に大企業に多いですね。ここで必要なのは、経営者や人事の方の勇気です。無駄に思えることをやってみる。目の前の改良・改善は、すぐ効果が出ます。でも本当の改革は、やはり大きく変えるためですから、勇気が必要です。

私が推奨する幸せな働き方とは、「やってみよう」「ありがとう」、そしてこれからお話しする「なんとかなる」「ありのまま」という、かなり自由奔放な感じの働き方を推進するものです。これでは従業員を管理できなくなって、それこそ働き方改革どころか逆にぐちゃぐちゃになっちゃうんじゃないか。そう思われるかもしれません。

私と同世代、あるいは私より先輩の方はお気づきだと思いますけど、私が入社した1980年代ごろまでは、今みたいに労働規制も厳しくなかったし、家族運動会や社員家族旅行など、ごちゃごちゃしていたんですよ。その後、それでは公私混同的で良くない、欧米に勝てないと、どんどん効率化に向かいました。

ごちゃごちゃには、もちろん弊害もありました。でも、ごちゃごちゃしていた中から、イノベーションも生まれていたんです。

ごちゃごちゃしていると、なんだかみんな楽しい。楽しく働いてると、創造性が発揮できる。私がいたキヤノンでもそうでした。スポイトをいじっていたら、間違って半田ごてが当たった。液体が急に熱されて、ビュッと出てくる。汚れちゃった。それが発想のもとになってインクジェットプリンターを発明した……など。

戦後から1980年代くらいまでは、そういった武勇伝がいっぱいあったんですね。なんか変なことをやったらおもしろいアイデアを思いついたとか。そもそも松下(幸之助)さんの二股電球もそうですよね。本田(宗一郎)さんも盛田(昭夫)さんも、ごちゃごちゃした中で仕事をしてイノベーションを起こしていたわけです。

そういう中にこそ、創造性と幸せがあり、いい働き方があった。