ドーナツの穴と浮き輪の穴は何が違う?
考えるほど奥が深い“穴の哲学”

ドーナツに穴のあいた夜 ~『失われたドーナツの穴を求めて』(さいはて社) 刊行記念トークイベント~ #6/8

さまざまな視点から“ドーナツの穴”にまつわる謎に迫る書籍『失われたドーナツの穴を求めて』の刊行記念トークイベントが、本屋titleにて開催。著者でありドーナツの穴制作委員会のメンバーでもある3人が、ドーナツの穴の奥深さを解き明かします。

日本で第1号の挑戦者からの質問

芝垣亮介氏(以下、芝垣):そのほか、どうですか。ドーナツの……はい。

参加者11:実は私……。

奥田太郎氏(以下、奥田):紹介していいですか?(笑)。

参加者11:この本に書かれていたレシピで実際につくった、おそらく日本で第1号の……。

松川寛紀氏(以下、松川):ありがとうございます。

芝垣:ありがとうございます、はい。

参加者11:つくってみて、1つは「2倍にふくらませる」というのは、直径が2倍なのか、容積が2倍なのかっていうこと。あと、「暖かいお部屋で」と書いてたのは、それがどれぐらいの暖かさなのかって……。

松川:すいません、そこらへんがなんか。

芝垣:バターは?

参加者11:ああ、それもあった。バター……。そうだ、無塩バターなのか、通常の……。

松川:ああ、すいません。今回初めてレシピっていうのを書かせてもらって。ハグジードーナツの秘伝のレシピっておっしゃっていただいたんですけど、それよりももうちょっと、家庭でもできやすいかたちで書かせていただいて。けっこうそのレシピに盲点があって、今回……。

参加者11:いや、基本的にはすごいわかりやすいんですよ。

松川:一応、あのレシピに書かれてるバターっていうのは、無塩です。なぜならば、塩は別に入れてるんですよ。レシピにも書いてあるんですけど、塩は別に書いてあるのが1つ。

参加者11:わかりました。

松川:はい。もう1つの、「暖かいところに」って書いたんですけど……30度ぐらいですね。人肌ぐらいの暖かいところに。30度から40度ぐらいのところに暖めておくと、ぷくーっとふくらむんですよ。それも、なんでそれをちゃんと表記できなかったかっていうと、その地域によって違うので。パンの生地、沖縄とかだと勝手にふくらんじゃうんですよ。別になにもしなくても、気温が暖かいので。というのもあって、ふくらめばいいっていうので。

2倍というのがなにに対してかってところなんですけど、それは容積です。容積が2倍にふくらむんですね。そうすると、それだけイーストがふくらましたよ、二酸化炭素を出してるよってことなので、いいよっていうことなんです。すいません。 

参加者11:いやいや。

松川:おいしかった? 食べました?

参加者11:食べました、それは(笑)。おいしかったです。ただ、今日食べたもの(松川氏のつくったドーナツ)と比較するとやっぱりね、私のつくり方が……。

松川:いえいえ。今度は行きます、お家のほうに。

(会場笑)

奥田:お家につくりに!? 出張(笑)。

参加者11:今日から弟子入りしようかな(笑)。

ドーナツの穴、浮き輪の穴

奥田:すごい熱いドーナツトークが繰り広げられておりますが(笑)。残り、30分弱となりました。ここらでちょっと、ドーナツの穴について語っておこうかなと思います。はい、まずはじゃあ……。

芝垣:これ(ドーナツの穴について語ろう)、最後のところですよね。

奥田:そうですね。

芝垣:まあ、この食べ物の話をしてきて、この中には、ちょっとややこしいことを考えるのが好きっていう人もいるって、信じているんですが。私たちが言語学やら哲学やらをやってるっていう話もこの本には載っております。で……(松川さん)どうぞ、ご休憩ください。

松川:ありがとうございます。

芝垣:まあ、どんなことをやってるのかっていう、(書籍の)中身の話を少しだけなんですけども。例えばこのドーナツ、私が見たとき不思議だったのは、みなさん輪ゴムってありますよね。輪ゴムの真ん中、(iPadを指して)この赤字のここっていうとこです。突然質問なんですけど、この輪ゴムの真ん中って、みなさんなんて呼びますか。輪ゴムのここの名前ってなんでしょう、なんて言います?

参加者12:真ん中? 

芝垣:真ん中(笑)。そう、これね、名前なんか困っちゃいますよね。これ、輪ゴムの穴っていう人いますか? いないですよね、やっぱり。でも、ドーナツの真ん中は? 穴ですよね。形もそっくりじゃないですか。なんで片っぽは穴って呼んで、もう片っぽは穴って呼ばないんですかね。私はそういうことを気になったわけなんですね。

こういうものの違いみたいなものがわかってきたら、こういう輪っかっぽいものを、どんなふうに見てるのっていうのをわかってきたら、世の中の見え方って、だいぶいろんなことわかるんじゃないのって。そんなことをやってます。

名刺を今日……もう配ったんですかね? これは奥田さんの名刺なんですけど、私も同じのを持ってるんですけど。

奥田:ドーナツの絵が描いてあるんですよ。

芝垣:これ、ドーナツの真ん中に実際に穴があいてるっていう、なんかファンキーな名刺で配りにくい名刺なんですけど(笑)。これ、裏を見ていただきたくて。ない人は言ってくださいね。裏、なんですか、これ。これがドーナツに見えた人は病気です、もう。

(会場笑)

私たちと一緒でドーナツのことを考えすぎです。では何ですか? これは。

参加者12:タイヤです。

芝垣:タイヤ!?(笑)。おしい!

奥田:横にあるアイテムを……。

芝垣:そう、横にビーチサンダルがあるってことは? 浮き輪なんですね、これ。あれはどこに穴があいてます?

あのね、2年前に私が、ビーチに行ったんですよ。そしたら、3歳の女の子が号泣してて、お母さんに「ママー!」って言って。「浮き輪に穴があいてるー!」って言ってるんですよ。浮き輪の穴ってどこですか?

これね、もし真ん中の空間を指して、「ママ、浮き輪に穴があいてる!」って泣いてたら、これやばいですよね。なんとか恐怖症のお子さんです。3歳にして穴恐怖症とか、これ生きていくの大変です、世の中穴だらけなので(笑)。

そうじゃないですよね。おそらくその子が訴えてるのは、浮き輪に穴があって、空気が抜けてて使いものにならないっていう。我々ずっと、この真ん中のことを「穴だ、穴だ」って今日さんざん言ってるので、先入観で見にくくなっちゃてるかもしれないですけど。浮き輪に穴って言って一般的にこの身の部分なんですよね。

でもドーナツに穴っていうと、この真ん中の部分ですよね。なんで? だって、形がそっくりじゃん。これだって別に、ドーナツって今ここに書いてありますけども、浮き輪って言っても別にそれでいけますよね。

奥田:ドーナツの柄になってる浮き輪もありますからね。ややこしいですよね。

我々がいなくても、ドーナツには穴が開いている

芝垣:そう。形がそっくりなのに、なんで穴って言ったときに違う場所になったり、真ん中が穴って呼べなかったりいろんなことがあるの? そんなことがわかったら世の中のことを……だって世の中って穴っぽいものが山ほどありますからね。見え方が変わるんじゃないの? そんなことがわかったら最後、じゃあドーナツの穴って何なの? これ、すごい不思議なものなんですよ、本当は。この本で読んでしまうと、みなさんもう次から、こう(笑)。

失われたドーナツの穴を求めて

奥田:普通に見られへん(笑)。

芝垣:そう。ミスドに行って、そこらへんになんかすごい物体があるようにしか見えなくて、世界の見え方が変わると思うんですけども。

奥田:そうですね。

芝垣:言語学者は、そんなことを気にしてやっております。

奥田:ただ、やっぱり哲学的にこう見ていくとき、もちろん哲学も言語って大事に見ますけど。やっぱり気になるのは、この浮き輪ですね。浮き輪のこの真ん中に開いてる部分と、この本体の部分っていうんですか? そこに開いてるこれ。両方とも、やっぱり穴じゃないかなって思うわけですよ。この形を見たときに、数えられますよね。こっちは1つ開いてるけど、こっちは2つですよね。どうもあるらしい。

ちょっと考えるとですね、一瞬、哲学は、たまにこういう変な思考実験というか、変な想定をするんですけど。一瞬にして、我々人類が、この世の中からシュンッていなくなったときに、ドーナツだけ……あ、もうみなさん食っちゃったからあれか、胃袋のドーナツ(笑)。ドーナツだけがここに残るときに、我々がいなくても、ドーナツはやっぱり穴が開いてるんじゃないですかね。やっぱりドーナツの穴は、その状態でも存在してるんじゃないかと思うわけです。

だから言葉で、それを穴って呼ぶ人がいなくなっても、おそらくドーナツの穴は存在しているだろう。この椅子も、みんながいなくなっても存在してますし、机も存在してると思います。

でも、机とか椅子とかっていうこの存在と、ドーナツの穴という存在は、たぶんちょっと違うんじゃないかと。じゃあどう違っていて、穴というのはどういう存在なのかっていうのを考えるのが、哲学の1つの仕事だったりするわけですね。

ドーナツの境界線に囲まれた中身とは?

いろんな考え方があります。そのいろんな考え方は、この(本の)中で扱っています。ここでちょっと紹介するのが一番いいのかもしれないので、簡単に紹介しちゃいますけど。そこの先ほどの、(ドーナツを)つくりましたっておっしゃってた彼(参加者)ですね。彼はこの本の中にも登場してるんですが、ドーナツの穴制作委員会の最高顧問で。

芝垣:日本の、穴の権威。

奥田:(笑)。穴で1冊本を書いちゃって、それはここの書棚にないですかね?

芝垣:穴だけで哲学をやっている唯一の日本人哲学者っていう。

奥田:穴の哲学をやったという方で。加地先生という方です。私もかなり加地さんの説を踏襲しながら書いておりますけれども、今日はその中の、いろんな説があるなかの1つ。わりとおもしろそうな、みなさんに説得力ありそうな説を紹介して、みなさんと一緒に、その説のおかしなところを暴いていきたいなと思います。

例えば、車。考えてください。車の車内を考えてください。ある駐車場に停まっています。駐車場に停まっていて、車の車内、空間がありますよね。我々はそこで生活する環境というか、そういう部屋みたいな感じのイメージがありますよね。そこで音楽を聞いたりとか、ドーナツを食べたりとかします。この空間を「サイト」と言います。場所というか。

それは、車にエンジンをかけてグーンって走ったら、ずっとこの中の人って一緒に着いてきますよね。空間中を移動します。

だけど、駐車場のその空間は移動しないですよね。というように、例えば、その車の中みたいに、ある境界に囲まれて、空気が入ってくる。それを場所、サイトと呼びます。穴っていうのは、そういう車の中のようなものではないかと考えるのが、サイト説って言われている穴の考え方です。つまり、ドーナツの場合でしたら、ドーナツの穴の境界線に囲まれて、境界線の中には普通なにが入っていますかね?

参加者13:空気?

奥田:空気が入っていますよね。だから。境界に囲まれた空気があって、そこのことを穴と呼ぶのだと。そうすると、椅子とか机に近い、確かな存在として私たちはイメージできます。わかりますかね。ぼやーんとしてるんじゃなくて、輪郭があって、そこに空気が詰まっている、ドーナツの真ん中。「ドーナツの穴とは何ですか?」と聞かれたら、そのドーナツの生地に囲まれた、空気が詰まっているそこを穴というんですという考え方なんです。

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ドーナツに穴のあいた夜 ~『失われたドーナツの穴を求めて』(さいはて社) 刊行記念トークイベント~

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