『「大学改革」という病』を執筆しようと思ったわけ

常見陽平氏(以下、常見):みなさん、こんばんは。お休みのところ、たくさんの方に来ていただきましてありがとうございます。

山口裕之先生の『「大学改革」という病』という最新作を、もう手に取ったという方はどれくらいいらっしゃいますか?

「大学改革」という病――学問の自由・財政基盤・競争主義から検証する

(会場挙手)

お! ありがとうございます。3~4割くらい。逆に言うと、まだまだ莫大な市場があるということですね。

(会場笑)

今日、こちらで売っておりまして、必ずサインをすると先生も言っていますので。ね?

山口裕之氏(以下、山口):ちゃんとサインペンを持って来ました。

常見:ぜひ手に取っていただきたいと思います。ちょっと聞いてみましょうか。先ほども楽屋で話をしていたんですけれども、このなかで大学教職員の方、大学関係者はどれくらいいますか?

(会場挙手)

お~! いっぱいいますね! ありがとうございます。だいたい3割くらいですね。非常に刺激的な話もたくさんしたいと思いますので、よろしくお願いします。

山口:お願いします。

常見:今日は私が司会進行役として、レジュメをもとに進めていきたいと思います。最後、質疑応答の時間もたっぷり取ります。大学関係者にたくさん聞いてほしいと思います。

山口先生、そもそも哲学者の山口先生がこの本を書こうと思ったきっかけは何だったんですか?

山口:7年か8年くらい、大学の組合の書記長をやっていまして。そうすると、例えば交渉に行って「賃金をもうちょっとなんとかならんか?」と言うと、「お金がない」と答える。「なんでお金がないんだ?」と聞くと、「交付金が削減されている」という話になるんです。じゃあどうすればいいんだろうかということで、いろいろ調べていたんです。そのうち、これだけ調べたんだから、本でも書いたほうがいいんじゃないかと思いました。

私は、哲学というのは基本的に何でもアリの学問だと思っています。今までも、私は、けっこういろんなところに手を広げて書いているんですけれど、そのなかで大学についても書いてみようかなと思いました。

哲学をやっていると、どんなテーマで書いても「〇〇の哲学」というかたちで本を書かせてもらえる(笑)。そういうメリットを活用して、今回この本を書くことになりました。

『「大学改革」という病』の反響

常見:なるほど。この本の反響はどうですか?

山口:反響は、2、3日前の朝(注:9月初旬)、Amazonの高等教育部門で第1位。

常見:そうそう。朝日新聞に広告が出て朝日砲が炸裂したあのときですね。

山口:ええ。7月に本が出たんですけれど、それからしばらくの間、明石書店の「本の紹介ホームページ」でずっと1位だったそうです。今回、Amazonの高等教育部門でも1位になったんですけれど……明石書店部門だと、出版から今までずっと1位です(笑)。

常見:お~すごい。2,500円プラス税で2,700円という値段の割に、非常に売れているなぁという印象があります。

今日はすごい振れ幅なんですよ。地方国立大学の准教授をされているガチな人文哲学者の山口先生と、僕みたいなノンエリート大学教員と。

山口:いや、ノンエリート大学教員という点では私も負けていませんよ。

常見:僕はサラリーマンを15年やって、38歳で大学院に入り直しました。

山口:おぉ。

常見:サラリーマンをしていた2010年くらいから大学の非常勤講師のキャリアがはじまって、2015年から千葉商科大学国際教養学部の専任講師として着任しました。博士課程は行っていないですし、当然、博士号も持っていないんですけれど。

今日は、国立と私立、地方と首都圏という振れ幅でお届けしたいと思います。千葉が首都圏なのかどうかというと、実は深~い問題がありますけれども。

先に僕から、本の感想を言っていいですか?

山口:あ、どうぞ。

世間には「怪しい大学ネタ」がたくさん出回っている

常見:僕のFacebookでも紹介したんですけれども、大学関係者、高校関係者及び企業の人事担当者、文科省関連の政策に関わっている政治家は、必ず読むべき本だと思いましたね。

山口:ありがとうございます。

常見:本当に必読書だなと思っています。大学ネタってみなさんもご存知の通り、必ず炎上するんですよ。炎上するから、ネットニュースは、かなり意図的に大学ネタを仕掛けにいくんですね。

例えば、東洋経済オンラインは、会社自体が『四季報』という膨大なデータを持っている。それをもとに「社長輩出率が高い大学」はどこだとか、「年収が高い大学」はどこだとか。

山口:どこなんですか?

常見:年収が高い大学は、身も蓋もないけれど、プレジデントの方のデータでは東大でしたね。やや怪しいデータですけど。

世の中全体の平均年収って、400万円代前半くらいで行ったり来たりしているじゃないですか。でもそれは、本当に世の中全体なんですよね。調べ方が怪しいんですけれど、「東大の人はこういう企業に行っていて、そこの平均金額はこのくらい」というのを当てはめていったデータです。その論理で言うと、確か東大が850万円くらいで1位でした。

山口:えぇ~! 僕も東大出てるのに……。

常見:それは余談でした、ごめんなさい。今みたいな下世話な話を含めて、さらに『SPA!』によく載っているFランク大学問題みたいなものがあります。いわゆるボーダーフリー大学と言うこともあります。

日本の大学は「学問の危機」なのか?

常見:ちなみに、学術用語でFランク大学ってなんて言うと思います?

山口:なんて言うんですか?

常見:「マージナル大学」って言うんです! そういう言い方があって(笑)。「大学なのかどうかわからない大学」ということにふれた論文がありまして。

Fランク大学の学生は漢字が書けないとか、地下格闘場があって学生が戦ってるとか、いろんな都市伝説があります。よくあるのが、意識高い系の議論で、日本の大学はこれでいいのかといった問いかけです。G型L型論とかそういう改革案だとか。

世界のなかの大学ランキングで、東大は30位前後くらい(注:イベント開催時)で、日本の大学はどうなのかと言われています。『「大学改革」という病』では、そういう俗説に対して、「いや、そもそもそれってね……」と、俗説の嘘だとか「それおかしいよね」という話が一通り書かれています。

例えば、「日本の学問の危機だ」と言うけれど、「いやいや日本ってノーベル賞受賞者数2位だぜ」とかね。

山口:はい。2000年以降アメリカに次いで2位で、17人います。(注:イベント開催時)

常見:しかも2000年以降2位だというときに、評価されている論文って70年代〜90年くらいの研究で、つまり、「大学改革だ」と騒ぐ前のものです。そういうことが整理されています。

僕の問題意識でもあるんですけれど、経済団体というのは、大学に対して非常に多くの改革の要求を突きつけるんですね。飯吉(弘子)先生の「戦後日本社会の経済団体の大学への要求」というすごく膨大な研究があって(注:飯吉弘子氏は、2017年現在、大阪市立大学教授。)、経団連はもちろん地域の商工会議所まで一部含んでたかな、24の経済団体が戦後の日本でどれだけ大学に要求を出してきたかといった話があります。

山口:どれくらい出したんですか?

常見:膨大な量で、しかもだんだん量も項目も増えてるんです。要するに「グローバル人材を育てろ」「使える人を育てろ」という方向になっていっているんです。

大学の顧客とは「次の社会」である

常見:僕の問題意識でもあり、そもそも論で、今日の結論のようなことを言うんですけれど、僕が非常に山口先生の本に共感したのは「大学の顧客とは誰か」という問いなんですよ。山口先生はそういう書き方はしていないとは思いますが。

「大学の顧客とは何か」ということで、突き詰めるといろんな意味で「次の社会だ」というのが僕の答えなんですね。

次の社会をちゃんと機能させるため。もっと言うと、次の社会の民主主義や今で言うと資本主義のようなものを機能させるために、ちゃんと善悪を判断できる教養を持った人間を排出する。そのために大学はあるんじゃないかというのが、僕なりの答えです。

今、難しいのは、過度に学生や保護者に寄っているという……(笑)。それともう1つ、過度に今の国の政策に寄っているというのがあります。

確かに、国立大学だけでも運営交付金は約1兆円でしたかね。それだけの予算が注入されてるから、大学はかなり国に支配されているという現状があります。しかも、今や大学進学率が5割という時代に、大変失礼ですけれど、経済的に豊かでない人も奨学金という名の借金を借りてまで大学に行く。「それだけの価値があるのか」「就職できるのか」ということが、大学側に突きつけられているんです。

けれども、僕はそこに過度に寄りすぎているからおかしくなっていると思います。大学は、次の社会を機能させるためにある。ただしそこがこの25、26年くらいで失われていった。

だから、すべてをそこで片付けるつもりはないけれども、最近のヘイトの問題や歴史認識などのさまざまな問題及びポピュリズムといったことに、大学改革の悪しき部分がかなり出ているんじゃないかと思っています。そういったところを問い直すうえで、この本は秀逸だと思いましたね。すみません、長くなりました。