HUNTERXHUNTER休載について

乙君氏(以下、乙君):今日のメイン行きましょうか。『HUNTERxHUNTER』の件なんですけども、休載決定ということで、今週号からもう載ってなかったっけ。先週号で終わっているんですね。わけのわからないところで終わってて。

HUNTER×HUNTER 34 (ジャンプコミックス)

山田:そうなの。

乙君:読んでないでしょ?(笑)。

山田:冨樫がんばれー(笑)。俺、冨樫のファンだから。『HUNTERxHUNTER』のファンとか言ってないじゃん。

乙君:ほお−(笑)。

山田:ほお−(笑)。

乙君:ほお−、なるほどね(笑)。

山田:ジョジョのファンとは言ってないけど、荒木(飛呂彦)さんのファンだもん。俺、荒木さんの大好きだもん(笑)。

乙君:ああ、そういうのあるんだー(笑)。

山田:なんかあったらダメ?(笑)。

乙君:みんな、(水谷)豊のファンだもんみたいなことね。『相棒』のファンじゃないよみたいな。

山田:この番組見てるやつがみんな、俺の漫画読んでるか? ほら。そうじゃんかよ。

乙君:確かに。

山田:そういうのでもいいんだよ。

乙君:で、どうですか?

山田:いい、謝らなくていい。そんなのわかっているんだから(笑)。「ぐぬぬ」とかいいから(笑)。ごめんね。全部読んでいるやつもいるよな。ありがと。『HUNTERxHUNTER』やりましょう。

冨樫義博と山田玲司の共通点とは

乙君:玲司さん、Twitterでも予告してましたけど、冨樫メソッドを解明したということなんですけど、これはいったいどういう?

山田:あのさぁ、なぜ『HUNTERxHUNTER』がこれだけウケるか。もしくは冨樫義博という漫画家はなぜみんながこれだけ騒ぐか。俺があえて言えるならば、本当は嫌なんだよ。『HUNTERxHUNTER』の話とかしたくないんだよ。頼まれたからやるんだけど。

乙君:ツンデレですね(笑)。

山田:現役の漫画家さんだからちょっとわかることがあるんじゃないですかとか、休載の気持ちとか、そうかもしれないなと思っていろいろ見てたらさぁ、冨樫を弁護したい気持ちになっちゃったわけ。

乙君:同い年ですか?

山田:同い年なんだよ。

乙君:おおっ!

山田:しかもデビューも一緒なんだよ。同じ年なんだよ。

乙君:おおっ! 戦友じゃないですか!

山田:戦友です。井上雄彦も86年デビューだから。あいつもまたいろいろ言われてて、「ちょっと待ってよネット。お前ら大好きだったんじゃないのかよ」と(笑)。

その前提で井上の話するけど、とりあえず冨樫を弁護したいなと思って。『HUNTERxHUNTER』は、いわくつきの話もあって。うちのアシスタントのだろめおんがいるじゃないですか。

乙君:はいはい。

山田:俺が『ゼブラーマン』描いている時に、なんか知らないけど朝いなくなって、俺じゃないやつの漫画の単行本をうれしそうに持ってね(笑)。

(一同笑)

山田:「買えました!」って、知らねえーよ(笑)。それが『HUNTERxHUNTER』っていう漫画だったんですよ。

乙君:ほう。

山田:なんか蟻と戦ってたらしいじゃないですか。

乙君:ああ! キメラアント編の。

山田:そう。これをどんだけ楽しみにしてたか、どんだけ素晴らしいかというのを俺に言いやがってあいつ。

乙君:それ聞きたい。だろめおん君のそれ聞きたい。

山田:「なるほどそうか」と。「だけど、この絵はどうなんだ」と。「いいのか? こんなに荒れてて」って言って。(だろめおんが)「いいんです!」。だんだん、冨樫ってパンクなんじゃないかなと思って。

乙君:はいはい。

漫画家にとって一番幸せな場面

山田:俺、見方を変えたりなんかして、チラチラ見たり見なかったりして。それで今回、冨樫メソッドってこうなんじゃないかという、俺なりの分析をしていたんだが。

その前に、この放送でやる前に、あいつに聞かなきゃダメだと。だろめおんに電話しまして、「こんな感じで間違ってる? 俺」って聞かないと(笑)。

乙君:ああ、そこは岡田斗司夫ではなく?

山田:ああ、岡田さんは岡田さんがやってるラインがあって、あっちは俺の専門外なの。

乙君:はいはいはい。

山田:あのねぇ、漫画家じゃない人側から見てる。

乙君:ああ、なるほど、なるほど。

山田:俺とだろめおんは漫画家側から見てる冨樫なので、岡田さんのやり方は岡田さんのやり方でいいので、あっちはあっちで楽しみにしてもらいたいなと思って。

岡田さんには(批評を)続けて欲しいんだけど、俺たちは「漫画家ってなに?」っていうところからもういくわけよ。それでね、漫画家にとって一番幸せなのってなんだと思う?

乙君:いい絵が描けた時じゃないですか?

山田:いい線つくね(笑)。

乙君:いい線ついてますか?

山田:今日はいい線つくね(笑)。

(一同笑)

乙君:さも外しているみたいな(笑)。

山田:だいたい冨樫もそうなんだけど、漫画家にとって基本的にはなにかって言ったら、「次、どうなるんですか?」って聞かれるのが一番うれしい。

乙君:ああ! なるほど、なるほど。

山田:しかも、連載中だったらとくに(うれしい)。「次が楽しみでしょうがないです」というのが一番の賛辞なわけ。2番目が「あの漫画で僕人生変わりました」っていうのがうれしい。

乙君:ああー。

山田:それで、いい絵が描けるというのは、もう1つ別枠であるわけよ。それで実は冨樫っていう人は、そっちはないがしろに見えるんだけど、意外とそっち側の人間なのよ。

いい絵が描きたかったし、完成度の高いものを描きたかったけど、あの過酷な状況で描けなかったというのに、ずーっと苦しんでた人間なのね。調べれば調べるほど、その苦しみ方が半端じゃなくて、やっぱり辛いよね。

『幽☆遊☆白書』後期、冨樫のストレス

山田:それでやっぱりあの人が『幽☆遊☆白書』の後半でだいぶヤバイことになっていると(聞いた)。それで終わったあとに揉めてるっていう話も聞いてたの。それでその後にコミケに現れたっていう話は知ってる? 

幽☆遊☆白書―完全版 (1) (ジャンプ・コミックス)

乙君:知らない。

山田:コミケに現れて自分で同人誌を勝手に売って、また大騒ぎになったの。

乙君:へぇ。

山田:それでその時に自分のキャラクターを殺した殺さないみたいな(話を聞いた)。けっこう酷いんだよ。終わり方も「バン、バン、バン」って終わるんだけど、最後のほう。えっ、なんで? さっきまで盛り上げてたのに全部止めるの?

いきなり現実世界に帰って終わるんだけど、さっきまでのみたいな感じで終わるんだけど、そこで『幽☆遊☆白書』の最後です。

そこから自分がどんなに辛かったかという話を、同人誌の中でめっちゃ書くんだけど、ここにそれがあるんですが、こんなに細かく書いてあるんですよ。これがだから「連載を終えて」と書いてあるのに、そこに「振り返れば敗北宣言」と書いてある。

乙君:へぇ!

山田:それで、なかなか辛いんだけど、ここに「徹夜をすると心臓に痛みが走り出すようになり、徐々にその感覚が詰まってくるようになった」もう体は限界だったんだよ。要は一週間あるうちの半日ぐらいしか寝られなくて、あとは全部仮眠だったんだよ。

乙君:へぇ。

山田:それで、そうしないと自分の納得する絵が描けないんだけど、アシスタントも入っているしみたいな。結局、自分の納得する絵を描こうと思って、いいやと思って、寝る時間もちゃんととらないとダメだってやると、めっちゃ(日程が)押したんだって(笑)。

乙君:はぁ。

山田:迷惑かけまくって、だけど、「このまま仕事で過労死は嫌だ。ぽっくり逝くなら遊んでいる時か、遊びで原稿を書いている時がいい。カラー原稿怖い、読み切り怖い」って叫んでますから。絶叫ですよ。冨樫のことを誰が責めるんだよ。バカヤローっていう話じゃない?

『幽☆遊☆白書』の時に、原稿が満足にできないというのが1番のストレスで、それがそのストレスを解消することが、1人で原稿を仕上げることだったという。

乙君:はぁ……。

山田:もうね、漫画の苦しみを漫画で解消するというのはよくある話なの。

乙君:そうなんですか。

山田:こっちの漫画は辛いから、こっちの漫画で息抜きするっていうのは漫画家はよくやるんだよ。

乙君:はぁ。

冨樫はちゃんと描けなくなっていった理由

山田:でも、やってることはなにかって言ったら、ひたすら地味にデスクワークしてるの。腰も悪くするって。だから、ほふく前進しかできない時期があったらしいじゃん。ずっと腰を痛めてて寝て、うつ伏せで原稿書いてるという噂もあるわけ。

そういう状態の中でギリギリでやっているのが冨樫義博という男ですね。あの荒れた絵を見てて、俺ちょっと思ってたの。『少年ジャンプ』って、空のトーンをあまり貼らないんだよ。

乙君:ほうほう。

山田:(冨樫氏が)ある時期から空を表現する時に、トーンを貼ったりして雲を削るんだよ。俺は江川(達也)さんのところで、雲の削り方をさんざんやらされたの。

乙君:ほうほう。

山田:藤島康介と一緒に(笑)。スクリーントーンを削るというテクニック。ナイフを寝かして、刃の腹で削る。そうすると「モヤっ」とした感じになって、すげー大変なんだけど、決まるとうれしいわけ。

それで雲って「どういうのかなぁ」みたいな。だけど、鳥山明が登場して、『ドラゴンボール』描くことになると、トーンなんか貼りやしねぇ。

乙君:あー。

山田:細い線でサラサラサラっと描いちゃう。それで、この流れが太い線から細い線になるというのが80年代にブームになるんだけど、細くなるね。

『ドラゴンボール』以降、(雲が)さらに白くなるというブームがあるんだよ。その行き着く先はなにを言っているかというと、おもしろいネームだったら、絵なんかどうだっていいんだよっていう鳥山さんの叫びを、俺は『レベルE』見ながら冨樫が継いだと思ったの。

乙君:あー。

山田:それぐらい自信があるのかなと思ったの。だからパンクだと思ったし、カッコいいじゃねぇかと思ったら、本人は違ったんだよ。

乙君:本人は……。

山田:本人はちゃんと描きたかったんだよ。描けなかったから、(ペンを持って)こうなったまま「ブルブルブル」って震えながら描いたという状態。だから、不本意なの。

俺よくわかるんだけど、不本意な漫画の原稿を出す苦しみというのは漫画家しかわからないでしょ。本当は描きたかったんだよ。もっと時間があったらもっとちゃんと描きたかった。だけど描けなかったという苦しみとずっと戦ってた。

絵自慢の同業者たちの作品に苦悩する冨樫

山田:だから実を言うと、『BASTARD』の萩原一至さんいるじゃん。あの人の原稿を見せられたことがあるんだって。めっちゃ上手かったんだって。これは敵わねえなと思ったらしい。

(冨樫が)セーラームーンの武内(直子)さんと結婚するじゃん。あれは萩原さん繋がりらしいね。萩原さんあたりの繋がりから出会ってみたいな感じで。要するに萩原さんの周りって絵師ばっかりだからね。

乙君:ああ、なるほど。

山田:きたがわ(翔)もいるし、多分、上條(淳士)さんとかもいたと思うよ。だからスーパー絵師が、80年代のヒーローたちがいっぱいいる中に冨樫がいたんだよ。

乙君:ほおー。

山田:これは辛いよ。なのに自分の絵は荒れていくという苦しみの中でずっとやってたんだなということになってて。『編集王』っていう漫画読んだことある? 土田世紀の。

乙君:途中まで読みました。

山田:それで「もう描けなくて勘弁してケロ」っていう漫画が出てくるの知ってる? どうやら冨樫さん『編集王』の中のそのフレーズをパロディで同人誌で描いてたらしいんだよ。「もう『幽☆遊☆白書』は勘弁してケロ」というやつを同人誌の中で書いてたとか書いてなかったとかという話を聞いてますね。

それでもう1個、『HUNTERxHUNTER』の前に触れなきゃいけないのが、『幽☆遊☆白書』の暗黒武術会編というのがあってさ、そこで3人のキャラクターが出なきゃいけないことがあるんだよね。彼らに拒否権はなく、生き残るためには勝つしかない暗黒武術会に行くんだけど、もうこれ『少年ジャンプ』そのものでしょ。

乙君:そうですね。

山田:選択肢ないんだよ。行くしかないし勝つしかない。それが『少年ジャンプ』。もうこれが心象風景としか思えないね。それでこれぞあの頃のジャパン。今のジャパン。

死んだらおしまい。そこの気持ちとリンクする。読者のその気持ちと。っていうのもあったなという話ですね。それでね、そこから冨樫メソッドいきます。

乙君:はい。