鎌倉自宅葬儀社が葬儀に1週間かける理由

土屋敏男氏(以下、土屋):さっきの野球にしても、こちらからちゃんと提案ができる人材というのもあると思うんですけど、そのあたりの大事なポイントですかね。そこをみなさんで話をしたいと思うんですけども、いかがでしょう? このへんからはちょっとフリートークっぽくしていこうと思います。

馬場翔一郎氏(以下、馬場):まず、大事にしていることをお話しすると、その1週間かけた葬儀というのが、1日目はなにもしないで、2日目から打ち合わせをして。見積もりをしても、その2日目に見積もりをフィックスさせないで。何回も通っていくうちに、やりたいことが変わってくるんです。それを盛り込んで、最終的に葬儀の手前でフィックスさせるというかたちをしています。

まず、亡くなってから絶対にビジネスライクな話はしないですね。まず「どういう方だったんですか」「ご病気だったんですか」という、個人のパーソナリティの部分を聞き出す。

葬儀屋さんというと構えちゃうじゃないですか。亡くなって、初めてなので。構えられちゃうとどうしても聞き出すことができないので、別の話をして、お客さんから声を聞けるようにします。その段階でやりたいことを決めていきます。

土屋:2011年、さっきご紹介しましたとおり、妻のお父さんが亡くなりました。これはお風呂で倒れてたのが発見されて、すぐに連絡を受けて飛んでいって。女2人の兄妹だったから、「喪主をやってくれ」と言われて、僕がいわゆる喪主ということになりました。

行ったら葬儀屋さんが互助会みたいなものに入ってて、待ち構えていて、まず見せられたのはパンフレット。「これはどうしますか?」「遺灰はどうする?」「お花はどうする?」「戒名はどうする?」「何センチ、材質は○○」みたいなことを全部言われて。

これは確かに無理だなと思いました。全部すぐに「まあ、ここでいいか」って言って。最終的に戒名は、やっぱりナントカっていうのをつけるかつけないかで何十万か違うとか、ありますよね。

でも、まず亡くなった時に「だいたいうち、何宗だっけ?」から始まったというのが実はあります。それで戒名もわりとシンプルなものにしたら、実は親戚のおじさんにスッと耳元で「ケチったな」って言われたんですよね(笑)。

(会場笑)

いまだにちょっと時々思い出す、あの……。ということがあったので、今の「初日になにもしない」という。亡くなった方の気持ちに寄り添うというか、そのペースに合わせてあげるというのはすごくいい。でも、そうも言ってられない今までのフォーマットみたいなものがあるんだろうな、ということはちょっと思いますね。堀下さんいかがですか?

“お別れ会”のポイントは時間とフォーマット

堀下剛司氏(以下、堀下):お客さん、要は亡くなった方のことをたくさん聞きましょうというのはたぶんみなさんされていると思うんです。必ずお葬式のときには「どんな方でしたか?」というのは当然聞いてるでしょうし。

「その亡くなった方の思い出をなんとかして祭壇に入れたい」「空間にしたい」というのはたぶんみなさん思っていらっしゃるので、それができていない、それをやっていないとは絶対思わないです。みなさんやっていらっしゃると思うんです。

大きいなと思うのは、時間とフォーマットですね。さっきのお話じゃないですけど、「こうしないといけないんでしょ?」とか、例えば「宗教的なことはどうしないといけない」っていうところがあると、そこが基本に「どうしようか?」ってなります。

基本的にお葬式が終わったあとにやるものなので、フォーマットがないんです。だから、なにをやっていいかわからない=ある意味なにをやってもいいんです。そこでの自由度があるので、「どんな方でしたか」とか「どういうふうにしたいですか」の自由度がたぶん高いと思うんです。それは1つあるかなと思います。

それと、時間が経ってくるにしたがって、グリーフケアの観点があると思うんですよ。人が亡くなったときに、心の喪失感で、悲しみとパニックと怒りみたいなものでなにも考えられない状態の時に「どんな方でしたか」って聞いても、なかなか出てこない状況があるなって感じるんですよ。

例えば四十九日とか一周忌ぐらいのときに「どんなお父ちゃんだったの?」っていうのは、「そういえばねぇ」というのが出てくるんですよね。そこをいかに聞き出せるかというのがまず1つのポイントです。

聞き出したものを1つのキーワードというかコンセプトに落とし込んで、「こういうのどうでしょう?」というのを言うノウハウというかセンスというか。そういうものがピタッと合えば、「ああ、これでやって」みたいになるので、そこの2つはけっこうあると思いますね。

土屋:さっきの安曇野のケースは、亡くなってからどれぐらい経ってるんですか?

堀下:半年とかそれぐらい。最初にご家族でお葬式されて、主催者の方はあまりに辛いので引きこもっちゃったと。お葬式の相談もなにもせずに人に任せちゃって、ただ引っ張られて出たみたいなぐらいだった。

土屋:本来、喪主であるような?

堀下:喪主ではなく、お孫さんです。おばあさんと一緒に住んでいたこともあり、喪主に近い方がそういう状態で。その方が、そのあと一族であまりうまくなってないのを見て、「なんとかしたいな」って。

その時はある程度の時間が経っていたので、キーパーソンである喪主であったおじさんとかに「これやりたいんだけど、どう?」というのを、自分で率先してやれるような心情にまでなれた。たぶん時間が解決したんです。

土屋:さっきの映像の、あの女性の方ですよね。

堀下:この方が「やろう」って言ったんです。

土屋:それはいわゆる「お別れ会」、それこそ検索みたいな感じで、「Story」で?

堀下:そうでしょうね。

土屋:問い合わせが来ている。

堀下:はい、インターネットで。

「葬儀」で検索するといきなり値段が出てしまう

土屋:野球の方も……。

堀下:野球の方も完全にインターネットですね。さっきのお話どおり、「お別れ会したらいいんじゃない」ってお父ちゃんに言われて、もうわからないまま「お別れ会」って打ったらなんか出てきたので見てみた。

お問い合わせフォームがあって、やりたい人からメールが来るんですね。それに、いっぱい書いてあるんですよ。年齢がいくつで、どういう状況で、といったことを書くところがあるんです。

でも、その方はなんにも書いてなくて、「お別れがしたいんだけど、なにをしたらいいのかまったくわからない」。これだけです。そこから要は問い合わせをして、お話しして、あそこまで持っていったという感じです。

土屋:たぶん2社とも、インターネットをもちろんメインの事業にしていたり、インターネットをこの業界の中でうまく使ってる部分はあると思うんです。我々テレビの業界とか、動画コンテンツの業界もインターネットの影響はすごくあって。それに対する変化は感じてます。

やっぱり今、一般の人たちが例えば「葬儀」って検索すると、たぶん非常に直葬に近いかたちというか。もう要するにいきなり値段が出ちゃうみたいなことで。

たぶんうちの父親たちもそうだったんですけど、今のこれから高齢者の方たちがみなさん口を揃えてやっぱり二言目におっしゃるのが、「子どもたちに迷惑をかけたくない」ということをおっしゃる。

先ほどの自宅葬儀をされた方も、あのメモが、実は亡くなった、介抱されていたベッドの中から(見つかった)。渡してたんじゃなくて、亡くなったあとにあの手紙が発見されたんです。その「通夜・葬儀の必要なし」というかたちというのは、けっこうみなさんそういうふうに思われる。

「葬儀」で検索すると、いきなり5万円とか値段がバーっと出ちゃう。それで、直葬というかたちになる。そのあとに「本当にこれでよかったのかな?」と思ったりするんだと思うんです。

インターネットというものを我々が手に入れて、いいかたちになってるものもあるけれども、逆にいうと、葬儀というものに関して、本当に「偲び足りない」というか、「本当にこれでよかったのかな」って。

でも、その「お父さんもお母さんも『簡単でいいから。なしでいいから』って言ってるから、それにしました」というケースが、このままでいくとすごく増えていくような気がするんです。

だからそこをどうしていくのか? 先ほどの2社も自宅葬儀のお話をしたときに「やって本当にすごく喜んでもらった」。なんかこう「本当にいいかたちで送れてよかった」という。やっぱり「本人のものじゃなくて、遺された者のものなんだ」とおっしゃったのがすごく印象的でした。

だから、この2社、それからここにいる方たちのみなさんで、これからどういうアプローチで、どういうふうにしていけばいいのかということをお話ししていければと思うんですけど。柳澤さん。

柳澤大輔氏(以下、柳澤):そうですね、今のインターネットの話も絡めて話していくと、これはたぶんGoogleの構造的な問題なんでしょうけど、あらゆる業界の最安値を比較するのはインターネットってすごく便利じゃないですか。比較はしやすい。

例えば貸し会議室とかで一番安い金額にしたりすると、安い金額のサービスを出せば出すほど(検索結果の)上位に来るんですよ。構造上そうなっているというか。そこを見てる人が多いんでしょうね。だから、とにかく安いサービス。

比較サイトというのもありますけど、一方で最安値にした瞬間にSEO上は……SEOというのは専門用語ですけど、ホームページが検索上、なぜか上位に来るんですよ。それは見ている人の行動によって、Googleがそういう検索アルゴリズムにしているので。

だから、本当は金額だけじゃない探し方をしたい人もいるんだけれども、そういう人たちが探しにくい構造になっているというか、下のほうに出てきてしまう。そこのデジタル的なマーケティングの課題は、構造上、どの業界でも金額勝負していないところはインターネット上でけっこう厳しいというのがあって。

土屋:そうでしょうね。「葬儀(気持ち大切)みたいな」。

柳澤:そんな検索する人いないです(笑)。

(会場笑)

葬儀のデジタルマーケティングの難しさ

土屋:いないですよね(笑)。でも、本当は例えばそういうことじゃないですか。心から送りたいとか、偲びたいとか、そういうことなんだけど、それは今のインターネットの検索のなかではうまくフィットしないという。

柳澤:もともと価格勝負以外のものはインターネットと相性がよくないのもありますし、あとはそもそも、誤算というか、1年やってみて想像ほどいかなかったなというのは、やっぱりデジタルマーケットなんですよ。

もともとクリエイティブは、ある程度力を入れれば、ほかよりもいい雰囲気のものができるだろうと思ってましたけど。

例えば結婚式はやりたい人に対して、InstagramならInstagramとか、そういうもので情報発信することで、花嫁さんとか興味のある人を1人当たりいくらで獲得できるかというのは、比較的シンプルに構造が読めるんです。

でも葬儀の場合、やはり死んだ瞬間に探すという、本当にそのときだけですし、日頃から見ていない。目に止まらないと思うので、デジタル的なマーケティングが非常にしにくいですね。だから、どういう予算をかければどうなるかという構造がなかなか見えない。

馬場さんがさっき言われた、「ケアマネージャーと仲良くすれば入ってくる」とか、そういうアナログ的な手法がある。馬場さんは人柄もいいのですぐそうやって入ったというのはあるんですけど。なかなかそこは難しいなと思ってます。

でも一方で、それをやっているので、生前予約や自宅葬に特化してるところがほかにないのでいろんなメディアで取り上げてもらったりして、それで初めて知ったときは「こういうのいいね」ということになるという、ちょっと時間のかかる感じがあるというのが1つ課題ですね。

あとは、たぶん「Story」も一緒だと思うんですけど、毎回オーダーメイドになるので再現性がないというか、プランナーによってしまいます。そういうことをできる人をどう増やしていくかというのがやっぱり非常に難しいところです。そこをどんどんやっていこうとしています。ある程度仕組み化して、どこかと組んで、というかたちですけど。

そういう意味でいくと、僕らとしては「自宅葬」というブランド。まあ「鎌倉自宅葬」ってつけてますけど、鎌倉じゃなくていいと思うんです。エリアごとに。そういうところで1つ、共通のブランドに対する投資をして、個別の対応はきっとオーダーメイドになるでしょうから、いろんなところと組んでやっていくということでしかないのかなと思いますね。いろいろ試行錯誤した1年でした。

おもしろい話でいくと、馬場さんって人柄がいいので、もう思いっきり馬場さん押しのチラシとか広告を打ってみたんです。馬場さんしか出てこない、みたいな。「この人がやります」みたいな感じの(笑)。

(会場笑)

馬場さんの人柄出したらいけるんじゃないかということで。それが意外に効かなかったという結果が。意外に来なかったですね(笑)。

馬場:A/Bテストしたんです。

土屋:それなかなか伝わりづらいでしょ。知ってる人だったら……。

柳澤:いや、まあ、それでいけるんじゃないか、という話なので。

馬場:タクシーにもあったんですよ。「タクシーで見たよ」とか。

土屋:タクシーに貼ったんですか?(笑)。

柳澤:そういう試行錯誤をしました。