ばあちゃんの料理はクリエイティブだ
ある1人の女性が、世界中の人生の先輩のレシピ集めから学んだこと

なぜ世界中のおばあちゃんのレシピを集めるのか

第1回
に開催

料理にまつわるさまざまなサービスを展開するクックパッド株式会社が主催する、社内外向けワークショップ「クックパッド大学」。第1回となる今回は、「これからのローカルらしさが息づく食卓をつくる」をテーマに、地方に残るユニークな知識や食卓をどう伝承していくのか、参加者同士で意見を交換しながらアイデアを出し合います。本パートでは、台所研究家として各国を渡り歩く中村優氏が登場。世界中のおばあちゃんとの出会いから学んだ、地域の料理の可能性を語ります。

提供:クックパッド株式会社

編集×料理で世界各国を渡り歩く

中村優氏(以下、中村):こんにちは。中村優と申します。

今タイにいて、こちらは土砂降りです。タイに来て1年半ぐらいになるんですが、どんどん顔は黒くなり、髪はピンクになって、ちょっと日本人を忘れた感じが出ております。

今日は、友達も何人もそちらにいるようで、私も行きたかったんですけれども、遠隔でよろしくお願いします。

私は「40 creations」という団体を作っています。ざっと自己紹介をしますと、編集と料理をやっています。編集の方は1人の師匠についていろいろなところに行ったりしながら、企業と一緒に新しいコンテンツを考えたり、雑誌やWebで執筆しておりまして、先ほどの本も今年、出版されました。

料理の方は、恵比寿にある「わたりがらす」というお店で修行をさせてもらっています。ケータリングをやったり、こんな感じでいろいろな場所で料理を作ることをやってきてます。

4年ほど前、2013年の秋になりますけれども、福島県のいわきというところに行った時に高橋さんに出会いました(笑)。

高橋博之氏(以下、高橋):なんだよ。やめてくれよ(笑)。

中村:覚えてますか?(笑)。

(会場笑)

中村:その当時、彼が『東北食べる通信』をちょうど始めた頃だったと思うのですが、私もちょうどその頃にフリーランスとして活動を始めたことがあって話が盛り上がりました。

私のその頃のステータスはホームレスだったんです。いろいろな場所に行っては、人の家に泊めていただいてということを繰り返していて。私はけっこう抜けているので、「1つの家がないということは、1ヶ所に戻らなくてもいいんだ!」という超ポジティブマインドを発揮しまして、いろいろな場所に行くというようなことをやってました。

その時にできあがったのが「YOU BOX」です。いろいろな場所に行って……『東北食べる通信』の世界版、もっと小さい規模の個人版という感じですね。

例えばスペインのチーズ生産者のもとに行ってすごくおいしいゴートチーズに出会ったりとか。雑草がもこもこの土地で、フランスでワインを作っている自然派ワインの生産者に出会ったりとか。そんなことをしながら、その生産者のことを資料に書いて、リーフレットと物を一緒に入れて送る、ということをやってました。

あるきっかけではじめた「ばばハント」

そんなことをやって、私はたぶん35、36ヶ国ぐらいをまわっているんですけれども、その時にある問題にぶつかりました。それはなにかと言いますと、(スライドを指して)これは例えば今住んでいるタイですね。タイのカフェ。

これはオスロ。北欧のオスロのマーケット。

これはニューヨークですね。

「なんかこれってどこで見たかっこいい風景ばっかりじゃない?」って思い始めたんですね。とくに都市に行くと、あっちにもこっちにも無印良品、ユニクロ、ZARA、H&Mみたいな感じで、「どこかで知ってる風景ばっかりある。なんかぜんぜんつまんないじゃん!」って思い始めたんです。

その時に私が始めたこと、それが「ばばハント」です。ばばハントというのは、いろいろな場所に行ってはばあちゃんをハントしまくる行為なんですけれども、それがこんな感じです。

ばあちゃんから聞いていると、みんな「すごくいいことやってるね」って言ってくれて。結局……「そう、いいことやってるね」と言って、「それって失われゆくものの保存みたいなことをやってるよね」と言われるんですけど、私としてはそういうことをやろうとしていたわけではありませんでした。私はしわフェチなんです。しわが大好きなんです。

(会場笑)

とくに目尻のしわなんかが大好きなんですけれども。

人って歳をとればとるほど、顔に性格が出てくると思うんですね。それをやっぱり積んできたのがおばあちゃんで、「どんな生き方をしたらこんなに美しいしわができるんだろう?」と思ってやり始めました。

例えばこれは山形のおばあちゃんなんですけれども、この山形のおばあちゃんは山菜採りの名人で。お二人は姉妹なんですけど、山菜シスターズなんですね。

よろよろ歩いていくわけなんですよ。腰も曲がっているし、ちょっと歩くのが危なっかしくて、私は「大丈夫?」とか言いながらついていく。おばあちゃんは「話すことなんてなにもないよ」って言いながらいろいろ相手をしてくれました。

その時は根曲がり竹というタケノコを採りにいったんです。「大丈夫かな。重いものは私持つよ」とか言いながら山についていったら、山に入った途端スタスタスターって歩いていっちゃうんですね。めっちゃ速いんですよ、これが。私のほうがよろよろして。

しかも、どこにあるかがわからないんですね。雑草だらけだから。「ばあちゃんさ、これどこにあるかわからないよ」って言ったら、おばあちゃんは「いやーなんかさ、私たちのほうが腰曲がってるからね、地面に近くて見つけやすいんだよ」とか言うんですよ。

(会場笑)

ちょっと笑いにくいブラックジョークみたいなものをどんどん繰り出してくるわけなんですね。実は私が集めたのはこのほっこりしてそうに見えるばあちゃんのレシピなんですが、意外と食うか食われるかという戦場なんです。

地方にはユニークなものが眠っている

そんなばあちゃんのレシピ集めをやっていた時に、例えば先ほど地域色のあふれる祭事食だったりとか、おせちとか、そういうものってなんとなく地域の個性があってわかりやすいよね、というので、メーカーさんと一緒に地域のおせちを取材してみました。おばあちゃんのおせちを。

その時に1軒行ったところが(三重県の)尾鷲なんですけれども、尾鷲の早田町というところで旅館を営んでいるおばあちゃんがいました。

彼女のおせちを見にいったら、ここは漁師町なので、こんな感じで魚がたくさん獲れるわけなんですね。

この大量に獲れる魚たちをどうするかというと、こんな感じで鮨にします。

これはアジなんですが、アジの姿鮨という鮨になって。これはお葬式の時でも祝い事あってもどんなときでも作るという、ハレの日料理なんですが……。

実際よくよく見てください。これ、頭もついたままだし、その中にすし飯が詰まっているわけですよ。めっちゃグロくないですか? こんなお鮨の姿なんて私見たことなくて、ここで見た時はすごいおもしろいと思って「こんな鮨があるんだ!」って大興奮しました。

これを「じゃああげるよ」と言われて持って帰って、東京の私の家の冷蔵庫開けた時にこれがあった時のびっくり感。「なんだこりゃ!」というこの合わない感じがすごくおもしろくて。地方にはこんなユニークなものがすごくあるなと思いました。

ばあちゃんの料理にはコンテンツ力もある

これはポルトガルのローズマリーさんというおばあちゃんです。

彼女は田舎に育っていて、田舎町ではアルトリアというデザートを作るんですね。

それはなにかというと、パスタでできたデザートです。すごく貧しい土地だったので良い食材は使えないけれども、パスタぐらいならあったので、子どもを喜ばせようと生まれたのです。

パスタをレモンピールと砂糖と一緒に甘く煮て、それにシナモンかけていただくという、工夫の詰まったデザートができあがったわけなんですね。こんな感じでばあちゃんの食卓ではクリエイティビティも見られます。

そのあと行ったジョージア(注:旧グルジア)というロシアの近くにある国に行った時には、この左の下にある料理をおばあちゃんが作っていました。

この料理の名前を「謎の料理」って言うんですよ。なにが謎かというと、これを出すと、みんな「これってチキンなの?」「魚なの?」「きのこなの?」って、なにが入っているかわからないんですね。確かに私が日本で作った時も、誰も当てられなかった料理でした。

ジョージアはすごくワインが有名で、みんなで毎回宴会をするんですけれど、先ほどと一緒で、そうやって人が集まって来たときに出してあげられるような豪華な料理は少ない。毎回毎回チキンなどは使えない。そんな時に、「謎の料理」を出すんですね。実はこの料理の素材は卵で、卵に7種類ぐらいのスパイスを入れて、もはや卵とはわからないような作り方をしています。

みんなこれを出すだけで、その食卓に会話が生まれるんです。安い材料だけれども、話題が広がる。こういうコンテンツ力もあるのが、ばあちゃんのレシピ。

ばあちゃんの料理に魅了された理由

最後になりますが、このばあちゃんは岐阜の石徹白というすごく山の中のおばあちゃんです。

すごく雪が深くて、2メートルはざらに積もるような場所です。

ここでは山岳信仰がすごく盛んです。厳しい環境だけあってとても神様と近いような土地だったんですね。このおばあちゃんも信徒として、毎年毎年すごく、お正月などの行事も敬虔にやられているような方です。

このばあちゃんに見せてもらったのが、こちら。身欠きニシンという乾燥したニシンに米麹とお米を混ぜて、これを1ヶ月間発酵させるんですね。ここでしか絶対おいしくならないと言われている「ニシン鮨」というものができあがります。

このニシン鮨は、ちょっとでも山を下るだけで温度が変わるのでおいしくできないと言われています。1ヶ月かけて作られるとてもユニークなニシン鮨は、「ここでしかできない」という、そのランドスケープがすごく詰まっているなと感じます。

私が知恵だと言って集めようとしていたものは、確かにすごく知恵が詰まっているんですけれども、ただの田舎くさいおばあちゃんたちの料理という目線で見ていてはなにも見えてきません。実はばあちゃんたちは私たちよりも全然力も強いし、ユニークだし、クリエイティビティもあふれている。

私は、何もないところから何かを作り上げるというのが一番すごいなって思っているので、クリエイティビティ・コンテンツ力・それからランドスケープを守っていくということ、そんなことが全部詰まったばあちゃんの料理に魅了されています。その採集をどんどんこれからもやっていきたいと思っています。

今ちょうどまとめた本で一応、一区切りはつけてるんですけど、また今年もおせちの取材に行こうと思ってるので、もしみなさん、80歳以上のすごいばばがいたら紹介してください(笑)。

岡根谷:中村さん、ありがとうございます。

(会場拍手)

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